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第百七十七話 死の山へ

冒頭は三人称視点となります!



 クロノスたちがワイバーンの襲撃を受けた馬車の援護に入った同時刻──


「火山岩や火の手の回った家屋には近づかないで!倉庫に保管されている物を出す時は火が出ている場所は放棄して、火の手の無い倉庫に!運び出すのは食糧を優先して!」


 イトナ村村長ニケロこと、フロウ・ニケロースは大声を張り上げ指示を出しながら村中を駆け回っていた。

 今は夜中だと言うのに、噴火した火山や火事のせいで村中が赤く照らされている。

 光源を持たずに走れるのはいいがそれは即ち、松明を必要としないほど周囲が炎に包まれているということ。

 馬車の少なさ故、先に足の不自由な者と幼い子供を優先して難民キャンプに送らせた。

 今村に残されているのは資源を運ぶ為の男たちと、馬車に乗り切らなかった年上の子供たち。

 フロウは馬車がキャンプ地から仲間が救助の応援を呼びに戻ってくるまでの間に、倉庫に保管されている食料や武器を外に運び出すように指示を出した。

 村長である彼の指示に男たちは従い、火の手の回っていない倉庫を優先に武器や食料を外に運び出す。


「村長!無事な倉庫から食糧の回収は全て終えました!」

「わかったわ!そしたら次は、馬車が戻って来た時にすぐ積み込めるように準備を……」


 次の指示を出そうとするフロウ。

 だがその指示を遮るように周囲から悲鳴が上がった。

 武器を保管していた倉庫近くの木が火山岩がぶつかり倒れ始め、炎上しながら倉庫に向かって倒れ始めたのだ。


「木が倒れてくるぞ!離れろおおおお!!」


 倒れ来る木を前に作業をしていた村人が悲鳴のように叫び避難する。

 倉庫内で作業をしていた者たちも叫び声を聞き外に飛び出す。

 他の者に急かされ出入り口から離れるが、一人の少年が足をもつれさせ転んでしまう。


「危ないッ!!」


 少年がこのままでは木の下敷きになってしまう。

 そう思った瞬間、既にフロウはその場から走り出していた。

 転んでしまい倒れ迫る木を前に動けなくなった少年の元に駆け寄り、庇うように抱き締める。

 二人とも潰される!

 周囲の誰もが最悪の光景が目に浮かび、助けに戻ろうとするがもう間に合わない。

 誰もが心の中で諦めを抱き、フロウは少年だけは守らなければと強く抱き締め、そして──


「水よ!大蛇となって炎を呑み込め!!」


 フロウの耳に、懐かしい友の声が聞こえる。

 次の瞬間、大蛇の姿を模した水が噛み付くように燃え盛り倒れようとする木に激突した。

 衝撃で大蛇はただの水となり弾け飛び、勢いに押された木は軌道が逸れ、フロウたちを押し潰すことなく地面に倒れた。

 水で構成された大蛇が激突したおかげで、木を覆っていた炎も鎮火され燃え広がる心配もない。


「た、助かった?」


 自らの側に倒れた木を前に、自分も少年も無事なことに安堵するフロウ。

 誰が助けてくれたのか?

 それは確認までもなく、誰であるかは明白。

 子供の頃に何度も見て、水を大蛇にするなどと言う芸当をする人物には一人しか心当たりがないのだから。


「フロウ、無事か!?怪我してないか!?」

「……ええ。最高のタイミングよ、クロくん!」


 仲間を引き連れてクロノスが目の前に現れる。

 自分を心配して駆け寄る彼の姿に、フロウは少年時代のことを思い出すのだった。


───────────────────


 俺たちはイトナ村に残っていたフロウたちと合流し、危機一髪で助けることができた。

 フロウにも少年にも怪我は無く、俺たちが乗ってきた馬車に食料や武器の入った木箱を詰め込む作業がすぐに始められる。

 その間に俺やティアーヌさんは水魔法で村内部の火災を鎮火させておく。

 規模が大きくはないもののマナを無駄には使えないので、水属性の魔石を一本使うだけで済ませておいた。

 その傍ら、俺とニール、フロウの三人は久々の再会を喜ぶ。


「お久しぶりです、ニールさん」

「六年ぶり、かな?フロウちゃんは凄く成長?したね」


 体つきがよくなり体格もニールより大きく、ドレスを着こなすフロウに対し、成長の一言で済ますニール。

 一瞬困惑してたがもうその色は全く見せない。


「あのニールさん、クロくんも……その後レイリスちゃんとは?」

「それが、レイリスは──」


  レイリスのことを説明しようとするニールに手で制される。

 彼は小さく首を横に振り、


「まだ、見つかってないんだ。似た人を見たって話はあるんだけど」

「そっか……どこにいるのかしらね、レイリスちゃんは……」


 未だ行方知れずのレイリスの身を案じるフロウ。

 しかしそんな間もなく、馬車に荷物を積み込んでいた人にフロウが呼ばれる。

 「いいよ。いってこい」と促し、指示を出す為に去るフロウの背をニールと二人で見送る。


「いいんですか?フロウに教えてあげなくて?あいつだって、レイリスのことを心配してくれているのだから、無事だったことだけでも教えてあげた方が……」

「できればそうしてあげたいけど、今フロウちゃんはこの村の村長だ。色んな人から信頼されて頼りにされてる。こんな非常時に伝えれば、彼を不安にさせることになる。これから村人全員を避難誘導させる人物に、余計な考えを持たせたくない」


 そう言ってフロウをじっと見つめるニール。

 確かに今、避難する人たちにはリーダーとしてフロウが必要だ。

 だからこそ、教えることができない。

 なんとももどかしくて、後ろめたさを感じてしまう。


「さぁ、皆さん慌てずに馬車に乗ってください!」


 木箱を積み終え、今度は老人と子供が馬車に乗り込む順番となる。

 しかし俺たちが乗ってきた馬車は三つだけ。

 俺や影山、ニール、ティアーヌが使う一台。

 ベル専用の小さな馬車一台。

 ベルの護衛たちが自分たちで使う為の一台。

 食料などを詰めた木箱を載せ、更に人まで乗るとなるとどう考えても数が足りない。

 なので今回は先に老人たちを乗せ、歩ける者たちは徒歩で移動するらしい。

 既に難民キャンプに向かったグループが救助を求める為に先行している。

 彼らがキャンプ地に辿り着き救助と合流できれば問題は解消されるとの見通しだ。

 老人たちが列をなし馬車に乗り込む中、俺の目の前に腰の曲がった老婆がやってくる。

 いつか俺とティアーヌを占ってくれた老婆だ。


「おやおや、久しぶりだねぇ。元気にしてたかい」

「久しぶりお婆ちゃん。おかげさまで元気だよ」

「そうかい、そうかい。そいつは残念だよ」

「残念なのかよ」


 相変わらず失礼な婆さんだ。

 おっと、顔に出すとまた考えを読まれてしまうから笑顔を作って


「なんじゃ小僧、そんなニヤニヤして、気持ち悪いわい」

「あんた、ほんっと失礼だな!」


 なんでかわからないけど、この人の相手をしているとギルニウスやルディヴァとやり取りしている時みたいな雰囲気になる。


「クロノス君、このお婆さんは?」

「前来た時、勝手に俺のことを占ってくれたお婆さんです」

「へぇ、随分親しげに見えるけど、前の村の知り合いかい?」

「いえ全然」


 一応ニールに紹介だけはしておく。

 そういや、この人にレイリスと勇者の存在について占ってもらったことがあるけど、あれ結果的には当たってたな。


「そういやお婆ちゃん。この前の占い当たってたよ。探してた子には会えたよ。俺もティアーヌさんも」

「そうだろう、そうだろう。ワシの占いは絶対に外れないからね」

「まぁ、また姿を眩ましちゃったけどね。今どこにいるのやら……」

「ホッホッホッ、安心せい。またすぐに会える。すぐにな」


 一切の迷いなくそう言い切ってみせる老婆。

 この人が言うと、本当にすぐその言葉が現実になりそうで少し期待もするが、恐ろしくもある。

 何者なんだこの老婆は?


「お婆ちゃん、それってどういう」

「そうじゃ。再会の記念に占ってやろうか?」

「いや、俺の話遮らないで?それよりお婆ちゃん、避難するんだから早く馬車に」

「安心せい。水晶はいつも持ち歩いておる」

「いや、その前にお願いだから俺の話聞いて?懐から水晶取り出すよりも避難する為に馬車に」

「むむむむ!!」

「だから聞けやァ!!ほんっとあんた何なんだよ!?」


 むむむむ!!じゃねーよ!?

 求めてもいないのに何でいつも突然占い始めるんだこの婆さん!?

 懐から水晶を出して唐突に占いを始めた老婆。

 するのは構わないが、またいつ火山が噴火するかもわからないし、村に広がってた炎だって鎮火させたとは言え、外の森林はまだ火災が続いているのだ。

 さっさと馬車に乗ってくれないと困る。

 もうこうなったら、無理矢理引きずってでも馬車に連れ込んで!


「小僧、お前さんは一つの選択を迫られる」


 占いの結果なのか、馬車に乗り込ませようと老婆の肩に手をかけようとした瞬間、そう告げられ手が止まる。


「選択……?」

「そうじゃ。その選択で小僧の運命が決定する。ほれ、これを見ろ」


 老婆は手にしていた水晶を見るよう差し出してくる。

 ニールと二人で覗き込んでみると、水晶の中には煌びやかな大小さまざまな光を放つ星々が映し出されていた。

 どうなってんだこの水晶……


「水晶に映る星、それはどれも輝き方が異なる。その星々の中心、小さく光る星が見えるじゃろう。それがお前さんじゃ」


 老婆が指差す水晶の中心部、そこには確かに小さな星の光が見える。

 その周囲にも当然星はあるのだが、他の星々はとても大きな光を放っているのに対し、俺だと言われた星の光はあまりにも小さすぎた。

 周りの星の光に呑まれ、消えてしまいそうな程に。


「俺の星ちっちゃ」

「まぁ、それだけ小僧の存在がちっぽけで目立たないと言うことじゃな」

「これ、そろそろ怒ってもいいですよね?キレてもいいですよね?」

「まぁまぁ、クロノス君落ち着いて」

「ちなみにエルフの小僧の星はこれじゃ」

「あ、結構大きい」

「ちょっとニール兄さん!?」

「ごめんて」


 自分の星が周囲の星に比べて若干大きく光っているのが嬉しかったのか、ポロリと出た言葉に反応する。

 でも水晶の中心で小さな光を放つ星が俺で、俺よりも大きく光を放つ星がニールの星なのならば、水晶に映る全ての星は俺の身の回りにいる人たちの星ということではないだろうか?

 だとしたらちょっと泣きそうなんだけど……俺の星はめっちゃか細くて消えそうな程なのに、周囲の星は燦然と輝いている。

 その光の前には俺の星の光なんて霞んでしまう。


「しかし、お前さんの星の輝きを何倍にも大きくすることはできる。周囲の星よりも大きくな」

「もしかして、それが選択ってやつ?」

「そうじゃ。自らの星を巨大にするか、それともこのまま小さなままでいるか。そしてその選択は、すぐにやってくる」

「すぐにって……」

「クロくん!!」


 老婆と話しているとフロウが深刻そうな面持ちで駆け寄ってくる。

 その声に反応し視線を外した瞬間、いつのまにか老婆の姿が消えていた。


「クロくん、大変なのよ!」

「え、ああ?大変って何がだ?馬車が重量オーバーしたのか?」

「そうじゃなくて……数十分前に旅人がここに来て、見張りの制止を振り切って火山に向かったらしいの!」

「火山に!?」


 なんて無謀な奴もいるのだと呆れる。

 まだ火山はいつ噴火するかもわからない状態。

 そんなところにわざわざ向かうだなんて、死にに行くようなものだぞ?

 一体どこの馬鹿なんだ?


「連れ戻すにしても、今から追いかけても追いつけるかどうか……フロウちゃん、その人の特徴は?」

「フードを被ってて、見張りは顔を見てないのよ。だからどの種族かも性別もわからないのだけど……あ、でも、肩にフェレットを乗せてたって」

「「フェレット!?」」


 ニールと共にフェレットと言う単語に驚き動揺する。

 同時に声を上げ、互いに顔を見合わせると火山の頂上を見上げる。

 まだ日の明けぬ夜空を赤々と照らす炎が噴き出す山。

 そこに、レイリスが向かったって言うのか!?

最近話数が180近くなったからか、前回何話を投稿したか忘れちゃうんですよね

次回でクロノスの現在装備を後書きに載せます!


また色々持ち込み始めるので整理しとかないと


次回投稿は来週日曜日22時からです!

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