第百七十四話 知らないことだらけ
ハッピーバースデー!!
祝って!異世界に転生して童貞を捨てたいと願うも、過去から未来に飛ばされ、何度も死にかける二色の眼を持つ主人公!
その名もクロノス・バルメルド!!
二色眼の転生者が連載二周年目を迎える瞬間である!!(某魔王大ファン風)
と、言うわけで、来週でまもなく連載二周年目です!
ここまで続けられているのも読んで下さる読者の方々のおかげです!
初連載でエタらず二年目を迎えることができて感激です!
これからもどうか、よろしくお願いします!!
レイリスが勇者だと発覚してから数日が過ぎた。
俺たちが休んでいる間にエルフの集落では自身の村から勇者が誕生したことで話題は持ちきりとなった。
まさか身内から勇者が生まれるとは誰も思っておらず、集落を出る時に兄のニールが代表として俺たちに同行することに。
俺たちの目的は勇者レイリスを見つけ、魔王討伐の協力を得る説得となり、またゼヌス平原に出てレイリスの足取りを追うのと同時に一度難民キャンプへ立ち寄ることとする。
そしてその道中──俺は今、影山と一対一で戦っている。
「はぁッ!」
「うぐっ!」
影山の蹴りを盾で受け止める。
魔道具のブーツで強化いないはずなのに、生身の人間が放つ蹴りとは思えぬ一撃を影山は繰り出してくる。
勢を殺しきれずに少しよろけてしまう。
「どうした、腰が引けているぞ!もっと盾を有効に使え!それは飾りか!?」
「ハ、ハイ!」
「行動する時の動作が大きい!もっと素早く!」
「ハイ!!」
「盾で視界を塞ぐな!相手から目を離すな!!」
「ハイ!!!」
俺は影山に戦闘指南を受けていた。
別に弟子入りを許可されたわけではない。
またあのフェリュム=ゲーデが襲ってきた時、何もできずに殺されたくはないので、一番戦闘経験がある影山に指導をお願いしたのだ。
断られるかもと思ったが、なぜかこれだけは何も言わずに引き受けてくれた。
受けてくれたのだが……
「足が無防備だぞ!」
「ハイ……
「背後にも気を回せ!」
「ハ
「盾を構える時に剣を下ろすな!」
「ちょっと待って!!頭が追いつかないんですけど!?」
この人はジェイクのように戦闘訓練が終わってから指摘タイプではなく、むしろ逆で戦闘中に細かく修正箇所を指摘してくる。
おかげで理解が追いつかず、言われたことを修正する前に次の指摘が飛び交って目眩を感じる。
というか、やっぱりこの人強い!
お互い魔道具で身体強化されていないのに、影山の動きに全く身体が追いつけない!
視界で捉えていても、動きで振り切られて後手に回される!
「今度は手がお留守だ!」
「ッ!」
右手を蹴り上げられる。
正確には右手に持った剣のグリップを蹴り上げられ、手をすり抜けて剣が宙を舞ってしまう。
「あっ!?」
気付いた時には遥か頭上で剣が回転していた。
キャッチしようと頭上を見上げ、落ちてくる剣の落下地点に移動し、
「敵から目を離すな」
「ぐえっ」
腹に軽い蹴りを受け、ひっくり返るようにして倒れる。
俺代わりに影山は落下する剣を左手で受け止め、手首で回すと地面に突き立てた。
「どんな時でも敵から目を離すな。例え一瞬でもそれが隙となる。わかったか?」
「ハァ……ハァ……わかり、ましたけど!影山さん、次々と指摘を出しすぎて頭が追いつかなくなるんですけど!?」
「お前戦闘中に同じことを敵に言うつもりか?」
起き上がり肩で息しながら答えると、反論できない言葉を言われしまい押し黙ってしまう。
「戦っている時、乱れや間違いを指摘してくれる者はいない。自分で気づき直すしかない。少なくとも、今の模擬戦でそれができないのなら、本気の殺し合いの中でできやしない」
「……わかりました」
「覚えておけ、思考を止めた奴が戦いに負ける。どんな状況でも考えを止めるな。対応されたら対応しろ。一手考えたら次は三手考えろ。三手の次は六手、次は九手。それができるようになれば、お前は今よりマシな戦士になれる」
最後に影山は小さく口元に笑みを浮かべると、踵を返し馬車へ戻ろうとする。
「少し休んだら狩人を手伝ってやれ。今夜の食糧を得る為に罠を張っているらしいからな」
訓練はそれでお開きになる。
影山に言われた箇所を頭の中で反復しながら數十分休憩した後、言われた通りニールの狩の手伝いをする。
野営地から離れた森の中に罠を張り、数時間してから罠を張った箇所を確認に周るらしい。
その回収に付き合い、ニールと一緒に森の中を歩き回っていた。
なるべく気配を消して、茂みに隠れ獲物を驚かせないように。
「それで、今日のカゲヤマさんの訓練はどうだったんだい?」
「いつも通り、かなりハードでした」
「毎回手加減してないからね、あの人」
姿勢を低くし、茂みで身体を隠しながら移動する。
雑談しながら進んでいると仕掛けていた罠の地点に近づいてくる。
ニールに止まるよう手で示され、動き止めて茂みの向こう側を伺う。
その先では、一匹の兎が木の枝から垂れる縄に脚を絡め取られ宙にぶら下がっていた。
「よし、かかってた。今日は兎鍋かな」
「兎……ですか」
「なんだい、まだ慣れないのかい?」
「まだ抵抗が」
ニールがパーティに加わってから、食事に動物の肉が追加されることが多くなった。
鳥とかリスとか、小動物を捕らえる罠を作る知識を持っていたのだ。
おかげで木のみと昆虫がメインの食事から脱却できたのたが、どうしても食べるのに抵抗を感じてしまう。
食事に出る肉は美味いには美味いのだが、これが元は鳥だとか、リスだったと考えてしまうと罪悪感を感じてしまうのだ。
目の前で捌くのを見てしまうと余計に。
「虫なら戸惑いも無く食べられるんですけどね」
「食べ過ぎで感性麻痺してるんじゃないのかな?それ」
兎の脚を縛る縄を手に持ち替えながら苦笑いされる。
しかし、ニールは本当にサバイバル力に長けている。
長らく森に囲まれて暮らしていただけあって、動物を捕まえる時の習性利用や罠の製作から設置までが手慣れていた。
「俺、ニール兄さんがこんなに狩りが得意だなんて知りませんでしたよ」
「君やフロウちゃんが集落に遊びに来てある時は狩りを既に終えているか、別の班が担当の日付だったからね。村に降りてレイリスを預けた時は参加していたことが多いけど」
「そういう狩りの知識って、誰が教えてくれたんですか?」
「集落の先輩や長老様からさ。君が知らないだけで、集落では定期的に獲物を狩る為に大人たちで遠くの森に遠征に赴く時もあったんだよ」
「へぇ……」
遠征までしているのは知らなかった。
よくよく考えれば、俺がバルメルド家で食べていた料理にも肉料理は当然あった。
何の疑問も思わず食べていたけど、もしかしたら食卓に出ていた肉の全ては、エルフの集落で暮らす人たちが狩りで得た獲物を分けて貰っていたのかもしれない。
俺が知らなかっただけ……いや、知ろうとしなかっただけなんだ。
ニールは普段何をしていたとか、どうやって兄妹二人で暮らしていたとか、そういう大事なことを。
ティアーヌや影山にだって、きっと俺が知らない一面がある。
ベルにだって、俺が知らない十年分の戦いがあったはずだ。
でも俺はそのほんの一部だけでしか知らない。
この十年で何をして、何を思い、何故今魔王と戦う側にいるのかを知らない。
「俺、知らなきゃいけないことを知ろうとしなかったのかもしれない……知らないことだらけだ」
「?」
独り言のつもりだったんだが、ニールの耳には聞こえていたらしく不思議そうな顔を向けられる。
でも、移動に時間のかかる今だからこそ、いいタイミングなのかもしれない。
「ニール兄さん。今日の食事の時にでも教えてください。ニールさんのこと、十年でどんな暮らしをしてきたのかを」
✳︎
「と言うわけで!第一回 もっとみんなのこと教えて親睦会を始めたいと思いまーす。わーパチパチパチ」
「わー!」「わー?」
夕飯時、ベルの護衛として同行した妖精族の方たちに見張りを任せ、俺とベルに影山、ニールとティアーヌの五人で焚き火を囲んで食事をする最中、高らかに親睦会開始を宣言する。
手を叩いて盛り上げようとすると、ベルはノリノリで、ニールはよくわかってないけど合わせて手を叩いてくれた。
ちなみに今日の夕食はニールが獲った兎肉の鍋だ。
木製の食器茶碗には何度も刻みた兎の肉団子、よく知らない草とか木の実がスープの中で浮かんでいる。
「ではまず初めに、聞くも涙、語るも涙の俺の身の上話から」
「ちょ、ちょっと待って?すごく自然な流れで始まったけど、親睦会って何のこと?」
「いや……もっとお互いのことをよく知ろうと、言葉通りの意味ですが?」
さも当然のように答える。
ちなみに親睦会を開くことは誰にも話していなかった。
話せば影山もティアーヌも席を外そうとするだろうから。
「なんで急に……」
「ニール兄さんがパーティに加わって人数も増えてきたし、まだ出会って日の浅いニール兄さんにこのメンバーの状況と人となりを少しでも理解してもらおうと思って」
「そうしてもらえると有難い。俺は新参で、まだみなさんのことをよく知りませんから」
「私も、皆さんのことをもっと知りたいです!」
俺の意図を汲んでニールとベルがフォローしてくれる。
ティアーヌは淫魔の特性が及ぶのを恐れて、ニールとは全然話そうしないし、何なら同性のベルにさえ近づこうともしない。
影山も決して口数が多い方ではないので、戦闘以外で話す機会といったら食事の時ぐらいしかないから、逃げられないようにサプライズとして開いた次第だ。
「このメンバーの中でそれぞれと付き合い長いのって俺しかいないんですよね。それに影山さんとティアーヌさんが戦闘以外で話してるとこ、俺ほとんど見たことありませんよ。二人ともお互いの出身地とか知ってます?ここに来るまでに何をしてたとか?」
「「…………」」
俺の質問に二人ともスッと目を細めてしまう。
これ知らないパターンだよ。
「ね?いい機会ですし、この親睦会でお互いのこと少しは知りましょう?全部を話して欲しいとは言いませんけど、少しぐらいは教えてください」
俺のお願いにティアーヌは困った風に被っていたとんがり帽子で目線を隠してしまう。
やっぱりこの状況を作っても難しいだろうか。
これだと影山も……
「いいんじゃないか?」
影山、以外にも賛同する。
スープを口に運びながら目配せし、
「坊主の言うことにも一理ある。俺たちは互いを知らなすぎだ。今まで旅の道連れとして行動をしてきたが、勇者を探すのにこのまま共に旅をするのなら理解しあって損はないだろう。もちろん、話せる範囲であるならな」
話せる範囲、つまり|地球(別世界)にいた時のことは話す必要はないと遠回しに俺に訪ねているのだ。
当然俺は頷く。
そもそもそこまで話す必要はないだろうし、今言っても混乱するだけだろう。
もちろん、俺が過去から来ていることも含めだ。
「……わかったわ。少しだけならね」
ティアーヌも影山の説得もあってか、渋々了承してくれる。
心の中で小さくガッツポーズすると、親睦会を再開することに。
「では、聞くも涙語るも涙の俺の身の上話から」
「先手は絶対譲らないのね」
「え、こういうのって言い出しっぺが始めた方が後の人も話しやすいと思って」
「まぁ、坊主の身の上話を聞いて俺たちが涙するかは怪しいがな」
「失礼ですね!涙しますよ!……たぶん、低い確率で」
「どのくらいの確率なんですか、クロ君?」
「うーん……全体の一割?くらい?」
「薄っぺらいな君の人生!!」
「しょうがないでしょ!?寝てた時間の方が長くて、俺まだ語って他人を泣かせるほどの人生起きて暮らしてないんですから!!」
現在俺は十九歳ぐらいだが、この世界で生きた時間はほんの四年ぐらいしかない。
五歳の姿で転生し、九歳でこっちに連れてこられたので薄っぺらいと言われても仕方ないのだ。
でも、今のやりとりで少し笑いが生まれる。
雰囲気が良くなってきたところで、俺は話を再開する。
「では聞いてください。クロノス・バルメルド、今までのお話を」
次回に続きますが、クロノスの身の上話は省きます。
本編読んでいれば大体の流れ知っているでしょうし、無慈悲に全カットします
次回投稿はいつも通り日曜22時からです!




