第百六十九話 悪魔(自称)最強の戦士
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視界が鮮血に染まる。
何も言葉を発せず、何の苦しみを訴えられず、気づく間も無く袈裟斬りを受け、護衛のドリアードは地面に倒れた。
「アドリーさん!!」
傷口から血を流し倒れる護衛の名をベルが呼ぶ。
一瞬の出来事で俺には何が起きたのか分からず、俺はただ呆然と立っていることしかできなかった。
何度もドリアードの名を呼ぶベル。
しかし彼からは何の返事も返って来ることはない。
ニールが駆け寄り首の脈を確認するが、残念そうに、ただ黙って首を振るだけだった。
「そ、そんな……そんな……っ!」
ベルの頰から一筋の涙が溢れ落ちる。
涙は地面に広がる血に波を打つだけで、混じり消えてしまう。
また俺は目の前で、ただ黙って人の死を見ているしかできなかったのか……?
「我は、戦士しか殺めぬ」
護衛のドリアードを殺めた悪魔が呟く。
フェリュム=ゲーデが……!!
「その者は戦士に対し、もっともしてはならぬ侮辱を行った。それ故に斬り捨てさせてもらった」
「名乗りを邪魔した……たった、それだけのことでかッ!?」
声を荒げ、俺はフェリュム=ゲーデに叫ぶ。
手を握る剣に徐々に力がこもる。
今すぐにでも奴に斬りかかりたい……!
奴を殺して仇を取りたい……!
その衝動を抑えながら。
「当然だ。戦士にとって、名を名乗るのは礼儀であり、作法であり、弔いの意である」
「弔い……ッ!?」
「命と言うのは脆く儚く、一瞬だ。ほんの一太刀浴びただけでも消えてしまう。しかし死んだのちに、一体誰が自分を殺したのか?誰に自分は殺されたのか?それを知る権利は誰にでもある。
故に我は対峙する全ての者に対し名乗りを上げる。これから我が殺める者、我を殺めようとする者に名を刻ませる為に。
そして勝利した者は、自らが殺めた者の名と顔を覚え、永遠に忘れてはならぬ。だからこそ我は名乗るのだ。我を倒した者に、我が斬り捨てた者に、一生名を刻ませる為に」
「だけどお前は、この人の名前を知らないじゃないか!」
「そうだな。名を聞く前に斬り捨ててしまったが……泣いている御嬢さん。彼の名前を教えていただけるか?」
護衛の側に膝をつき、彼の死に涙を流しているベルにフェリュム=ゲーデが尋ねる。
極めて優しい声色で。
「……アドリーさん。妖精族の里出身、ドリアードの、アドリーさんです」
「ありがとう。これで我は、彼の名と顔を知れた。生涯、彼のことを忘れないとここで誓おう」
ベルに礼を述べると頭を垂れる。
その姿を見てベルは涙を拭うと、立ち上がりフェリュム=ゲーデを見据える。
「さすがは大地の巫女、それでこそだ。そして──白髪の青年よ。貴殿も戦士なら理解できるであろう。剣を持つ以上、自らの手で殺めた者を忘れることが、死者に対してどれだけの侮辱なのか。自らがどれだけ愚かな行いをしているかも」
その言葉に息が詰まる。
俺はほんの数日前まで、自分が殺してしまった人たちの事実から目を背けていた。
肯定することができず目を伏せてしまう。
「それにその男とて、いつか戦いで死ぬと覚悟はできていたはずだ。覚悟のない者に、戦場に立つ資格はない!!ならばこそ、我は戦場に立つ者全てに敬意を払う。そして名を名乗る!それが、我の考える戦士としての礼儀であり、作法であり、弔いなのだ」
自らの考えを述べ終わり、フェリュム=ゲーデは長剣を地面に突き刺し仁王立ちする。
そして、
「ではもう一度やり直そう!我が名は……!」
「そこはもう結構よ。全員知ってるわ」
「む?そうか?アドリー殿以外は何の反応も示さぬので、全員聞こえていないのかと思ったのだが?」
名乗りからやり直そうとするフェリュム=ゲーデをティアーヌが止める。
さっき話した通り、名乗ることにかなりのこだわりがあるところを見ると、根は真面目な悪魔なのだろう。
「コホン」、と咳払いを一つ挟むとフェリュム=ゲーデは話を始める。
「まず一つ、我は魔王の命で大地の巫女ティンカーベル殿を襲いに来たのではない。もっとも、そちらが相手をすると言うのであれば我は喜んで戦うが」
「ならば何の目的でここへ来た?意味もなくこの森に落ちたのではないのだろう」
「良い質問だな、帽子の者。剣士ではないのが勿体ない。我は、魔王ベルゼネウス様が『勇者が現れるかもしれぬ』と意味深な言葉を耳に挟み、是非剣を交えたいと思い至り参上したのだ」
魔王が勇者の誕生を察知していた?
その発言に俺たちは顔を見合わせる。
ベルがギルニウスからのお告げを聞いたのと同時期に、魔王ベルゼネウスも勇者が現れるのを予感したって言うのか。
こちらの疑問も御構い無しにフェリュム=ゲーデは話を続ける。
「剣士としては是非勇者の力を受け継いだ者と刃を交えてみたくてな!!それで、勇者の剣が封印されているこの地に赴いた次第だ。して、勇者は何処に?」
「まだここにはいません。私たちも勇者を探してここに来たんです」
「そうであったか……それは残念だ」
ガックリと肩を落とすフェリュム=ゲーデ。
勇者と戦うことを心底楽しみにしていたようだ。
だが、勇者がこの場にいないと判れば、衝突せず、このまますんなりと通してくれるのではず。
「では貴殿らと戦うとしようッ!」
ならなかった。
くそっ、戦闘せずに済むと思ったのに!
全員武器を構え、フェリュム=ゲーデが剣を手に取るのを待ち、
「そう逸るな。先にも述べたが、我は戦士しか斬らぬ。故に死合うのも戦士一人だけだ。巫女や魔術師とは戦わない」
「……なら、一体誰とやるつもりだ?」
ニールの疑問にフェリュム=ゲーデは不敵に笑い始める。
腕を上げ、人差し指で空を示すと、
「我が所望する戦士、それは──オマエだッ!白髪の男ォ!」
バッ!と腕を下ろし、白髪の男とやらを指差した。
指は俺に向けられているが、振り返っても白髪の男なんて背後にはいない。
「……?え、もしかして俺!?」
「そうだ!この中に白髪の男はオマエしかいないだろう?我はオマエに、一対一の決闘を申し込むッ!」
「いやいやいや、なんで俺なんだ!?」
「魔王から聞いているぞ。オマエを殺そうとしたところ、突然分身との意識が途切れたとな。部下に確認させてたところ、分身の胴体は真っ二つに裂かれていたとな。
以来ベルゼネウス様は、配下の魔物たちにオマエを探させている。オマエの近くに、勇者の力を持つ者がいるのではないかとな」
魔王が、俺を探してる?
あいつの身体を引き裂いたのは、死に際に暴走して、乗っ取られた時にやったこと。
つまり、俺の中のもう一つの魂がしたことだ。
あの時のことで、俺の側に勇者の資質を持つ者がいると勘違いしてるのか?
「だが我の見解は違う。オマエが、勇者となる男だな!?」
「なんで……そう思うんだ?」
「ベルゼネウス様は、腕と脚が片方ずつ無い、左眼を潰された白髪の男を探せと言われたが、オマエには腕も足もある。 潰されたはずの左眼もしっかりと開いているではないか。それも傷一つ無く」
「っ、これは……」
確かに俺は魔王に右腕と左脚、左眼をやられた。
だけど、ティアーヌたちが助けた時にはもう腕も脚も治っていたと聞いている。
もう一つの魂が修復したのだろうけど、やり方も原理も俺は知らない。
俺の知らない技術を持っているのだろうけど、それを知る術はない。
「無くした腕と脚、しかも眼までも傷一つ残さず治癒する術など、人にも悪魔にもできはしない。だが古の勇者は、どんな傷をも無かったことにできる力を持っていたと言い伝えられている。まさにオマエではないか!」
「俺に、そんな力はない。お前の思い過ごしだ」
「そうだとしても構わんさ。魔王の分身を退けたオマエの力、是非手合わせを願いたい!!」
地面に突き立てていた剣を引き抜き、剣先を真っ直ぐに向けてくる。
まるでその顔は、待ちわびた遊び相手を見つけた少年のように笑顔で満ちており、瞳はキラキラと輝いていた。
戦うしかないのか……この先に勇者の剣が封印されている聖地があるのに!
「……」
「クロ君っ」
どうするべきか返答に悩んでいると、名前を呼ばれた。
振り返るとベルやニールたちが心配そうに俺を見つめている。
影山の意見を聞こうとするが、俺が何を言うとしているか判っていたのか、
「お前自身で決めろ」
ただ一言、それだけだ。
そうだ、俺が自分で決めなければならない。
ここで足止めを喰う時間はない。
ならば、答えは一つ──
「……わかった。その決闘、受けるぞ」
「そうこなくては!」
「ただし!条件がある!」
「条件だと?」
「俺が戦うんだ。俺以外の人には手を出すな。もちろん巫女のティンカーベルにもだ」
「そんなことか……もちろんだとも。言ったはずだ。我は戦士だ。剣を持たぬ無抵抗な者を襲いはしない。だが我からも条件だ。静観する者たちは、何があっても決して邪魔はしないで欲しい。
声援や助言は構わない。どんどんしてやってくれ。だが戦士の戦いに水を差すような無粋をすれば、アドリー殿と同じように剣を向ける。例え、戦士でなくともな」
あくまで、完全なる一対一を望むのが奴のスタイルか。
どこまでも戦士気質な悪魔だ。
「悪魔は契約は守る!それが、我から提示する条件だ」
「いいだろう。全員それでいいな?」
フェリュム=ゲーデの条件を飲むのを影山が頷き、他のメンバーに確認する。
誰からも異論はない。
と言うより、異論はあるが挟むことができないと言った方が正しいのだろう。
ベルが一番なにかを言いたそうだが、ただ黙って他の人たちと同じように頷いていた。
「よろしい、では準備をしろ!」
意気揚々とフェリュム=ゲーデは長剣を構える。
左腕と足を前に出し、右腕を上げ剣を水平に保つ変わった構え。
俺は腰のツールポーチから土の属性の魔石を取り出し、右グローブのスロット部に魔石を装填する。
そして左腕の盾を前に、剣を持つ右腕を下げるいつもの構えを取る。
土属性の魔石を使えば、防御力が上がるから、相手がどんな初撃を繰り出しても防げるはず。
準備を済ませている間に皆は俺から離れ、焼け朽ちた大樹の側まで移動し、そこで観戦するようだ。
「バルメルド君、相手は本物の悪魔。妖精族の里で戦った相手とは格段に力は上よ」
「わかってます」
悪魔の相手は一度している。
魔物化したカーネは、人間だった頃より数倍能力が向上していた。
それでも俺が勝てたのは、カーネが元々戦闘が得意な奴じゃなかったからだと思っている。
でも目の前の悪魔はおそらく、生粋の戦闘タイプ。
気を引き締めろ、油断は絶対にするな。
「始める前に名を聞こう。名乗るといい」
「クロノスだ。クロノス・バルメルド」
「クロノスか……うむ!覚えたぞ!では……始めるぞ!」
名を名乗るといよいよ戦いが始まる。
初手は俺から攻撃しない。
盾で防いでから反撃をするカウンター戦法で行く!
お互いに睨み合い、相手の出方を伺う。
目を離すな、奴は一瞬で距離を縮めて来るはず。
しばし睨み合いが続き、沈黙が流れる。
誰かが息を飲む音すら聞こえそうな静寂の中で──フェリュム=ゲーデが動いた。
「こちらから行くぞォ!」
姿勢を屈めると地面を蹴り弾け飛ぶ。
最短で、一直線で俺目掛け直進してくる!
右手に持つ剣で突きを繰り出してきた!
だけど、俺とて飾りで盾を持っている訳ではない。
「そんなのっ!」
素直な突き攻撃を受け止めて見せる。
装着している魔道具のグローブのおかげで、微動だにすることなく防ぐことができた。
このまま長剣を弾き返して、反撃に
「クロノス君、後ろだ!!」
「えっ」
ニールの叫ぶ声が聞こえると同時に、長剣を受け止めていた盾がふっと軽くなる。
まるで支えとなっていた物が無くなったかのように。
反射的に後ろへ振り向くと、俺の正面にいたはずのフェリュム=ゲーデの姿が、いつの間にか背後に……!?
「なっ!?はやっ……!」
「遅いぞ!!」
空を穿っていた長剣が振り下ろされる。
まるでそれは断頭台のギロチンのように俺の頭部に迫る!
「くそっ!」
盾で防ぐのじゃ間に合わない!
脳で考えるよりも先に身体が動く。
左の盾ではなく右腕を上げ、振り下ろされた長剣を剣で受け止める。
まるで巨大な岩石に押し潰されるかのような衝撃が全身に駆け巡る。
「ぐぅっ……!?」
「ハァッ!!」
長剣の振り下ろしを受け止め動きが鈍った瞬間、フェリュム=ゲーデが右足で俺の脇腹を蹴り上げる。
押し潰された感覚のせいで反応が遅れ、蹴りをまともに受けた俺は悲鳴を上げるまもく吹き飛ばされた。
地面を転がりながらもすぐさま起き上がるが、脇腹に受けた蹴りの痛みにバランスを崩し片膝を着く。
「うっ……ゲホッ!」
「どうした!?その程度か!?」
「ぐあぁっ!?」
咳払いをした瞬間にもフェリュム=ゲーデはまた迫り突きを繰り出してくる!
盾でそれをもう一度受け止めようと試みるが、体勢が不安定なせいで勢いを殺しきれず、俺はいとも簡単に後方に吹き飛ばされてしまう!
吹き飛ばされた俺に、フェリュム=ゲーデの猛攻が襲いかかる。
「さぁ、我をもっと楽しませてくれ!クロノス・バルメルド!!」
新キャラのフェリュム=ゲーデさん、基本ハイテンションなので動かしてて楽しいです
次回投稿は来週日曜日の22時からです。




