第百六十七話 禁断の聖地へ
今回からパーティにニールが参加します!
使う武器はもちろん弓!
これで盾、格闘(足技のみ)、魔法職二人、弓使い とパーティバランスが整ってきました!
後は盾役が攻撃も得意になれば、理想的パーティの出来上がりですね!
時刻は昼過ぎ、長老たちのご好意に甘え休息を取った俺たちは、ニールを仲間に加えて『禁断の森』へ向かう。
メンバーは俺、影山、ティアーヌ、ベル、ニール、そしてベルの護衛の二人、計七人。
護衛はまだ四人いたのだが、森の中を大人数でぞろぞろ歩くと魔物を刺激する、ということで残ってもらった。
護衛二人はドリアードとエルフ。
ドリアードの人は魔法、エルフの人は剣が得意だそうだ。
前衛三人、後衛四人、パーティーバランスはいいんじゃないかな。
「それじゃあ、鍵を開けます」
森の入り口を塞ぐ木製の扉に付けられた南京錠をニールが開錠する。
軋んだ音を立てながら扉が開け放たれ、不気味な森へと続く道が目の前に広がった。
暗い森の奥から流れる風が肌を撫でる。
それは生暖かくはあるが、殺気立った魔物たちの気配を一緒に運んできたかのように不快で、思わず全身の毛が逆立つ。
思い出されるのは最初にこの森に足を踏み入れた時のこと。
いきなり蜘蛛の魔物たちに襲われ、繭に閉じ込められて巣に持ち帰られてしまった恐怖。
「クロ君……?大丈夫ですか?」
身震いしているのを悟られたか、ベルに心配されてしまう。
心の奥に沸き立つ過去の恐怖を払う。
「大丈夫。ちょっと昔のこと思い出しただけ」
「彼は昔、勝手に森入ってはいけないって禁を破って侵入したことがあるんですよ。ティンカーベル様」
「それ言わなくてもいいでしょ兄さん!?」
「なんだ、坊主は一度来たことがあるのか」
「ありますけど……その時は友達が取り残されて、大人たちがいないからしょうがなくなんです!まぁ、バカなことしたと反省してますけど……」
誤解されそうだから弁明しておく。
当時は森があんなに危険だとわかっていれば、単身突入しようだなんて思わなかった。
結果的に無事ではあったけど、下手したらあの時にもう一つの魂に肉体奪われて、「俺」が消えていたかもしれない。
そう考えると、本当に無謀なことをしたと反省している。
「あら、じゃあバルメルド君は聖地がどこにあるか知っているの?」
「知らないです。その時は魔物の巣に連れ込まれて、脱出するだけで精一杯でしたから……あの時のことはあんまり思い出したくないほど」
できれば森の中で蜘蛛にも会いたくない。
森は奴らのテリトリー。
以前のように森に入ってから突然糸で絡め取られるなんてのは嫌だ。
「とにかく、案内は俺がするのでみなさんは後ろからついて来てください。クロノス君、隣で守備役頼めるかな?」
「了解。任せてください」
俺、ニールが先頭に立ち、残りはベルを中心に輪に広がり進むこととなる。
案内役のニールが魔物に襲われた際は、盾を持ってる俺が防御役に回る。
扉を通り禁断の森へと進んでいくが、俺は正面から森に入るのは初めてだと気づいた。
前の時は抜け穴から忍び込んだからな。
足を進めれば進める程、肌にねっとりとまとわりつく殺気が強くなっていく。
しばらく進むと狭かった視界が開け、昔見たのと同じ禁断の森の風景が目に飛び込んで来た。
巨大な木々が何本も立ち聳え、生い茂った葉が空を覆い、一筋の光さえも遮り暗闇に包まれた世界。
『禁断の森』──まさか再び、ここに来ることになろうとは。
「相変わらず不気味な森だ」
十年経ってもこの森はどこも変わっていないように見える。
当時と比べ背丈は伸びているが、異常に成長した樹々のせいで昔と重なる。
不気味さも、木々の立ち並びも、時間の流れ方さえも……
「なんだか、恐ろしい場所ですね。草や木の声が全然しない」
この森の異常さをベルも感じ取ったのか、表情が険しい。
「目的地は森の奥ですが、真っ直ぐ進むと魔物たちの狩場に踏み入ってしまうので、外回りで向かいます。でも、餌を求めて巡回する魔物もおりますので、各個周囲の警戒は怠らぬようお願いします」
ニールは全員に振り返り念を押すようにお願いする。
全員それに頷き、ニールの案内の元、禁断の森の進行が始まった。
しかし、少し疑問が湧いてくる。
「あの、ニールさん。少しよろしいでしょうか?」
大きく迂回しながら森を進んでいるとベルが恐る恐る手を挙げる。
チラリと一瞥しながら返事をする。
「何でしょう、ティンカーベル様?」
「この森は、勇者の剣を封印した土地なのですよね?なのに何故、森の中は魔物が溢れているのでしょう?」
ベルが俺の代わりに質問してくれる。
俺もそれが気になっていたのだ。
普通勇者の剣が封印された土地って、魔物が近寄らないものじゃないだろうか。
それにニールたち集落のエルフが立ち入りを管理していたのなら、魔物がいるのもおかしいのでは?
「随分昔の話ですが……魔王が勇者に討たれ魔王軍の残党がまだ闊歩していた頃、ここに勇者の剣が封印されていると知り、攻めて来た幹部がいたそうです。当時はまだ終戦したばかりで人手も少なく、わずか物資で戦ったそうですが、守りを突破されこの森に侵入されたと長老から聞いております。
その後幹部がどうなったかはわかっておりませんが、配下として連れていた魔物たちは今でも森を彷徨い、剣が封印された聖地を探しているのではないかと言われてます」
「ではここの魔物たちは、千年近く経った今でも、聖地を探し回っているのですか……?」
声色が驚きを隠せていないベル。
だが、代変わりもしているのだろうに千年もかつての主人の命令に従い、この森を彷徨い続けていると聞くと、何だが魔物たちに同情に近い感情が湧いて……いや、やっぱ湧かないわ。
「ニール兄さん、アレ」
声を低くし足を止めさせ、前方を指差す。
茂みで姿が隠れているが、進行方向に魔物の姿が見える。
それも二体。
ニールは手で姿勢を低くするようジェスチャーをし、ついて来いと俺を指名する。
屈んだまま地面を這うように移動しニールについて行く。
先程指差した方向に移動し、茂みに身を隠しながら、そっと向こう側を覗く。
視界に見えたのは二体の魔物。
一体は見慣れた蜘蛛だ。
だが死んでいる。
地面にひっくり返り痙攣を起こしていた。
しかしもう一体は、この森では初めて見るタイプ。
胴長で四足歩行、短くも鋭い爪を持ち、長い尾を揺らしている。
ザラついた褐色肌のソレは細長い舌を伸ばし、倒れた蜘蛛を舐めている。
あれは蜥蜴だ、蜥蜴の魔物だ。
大きさは蜘蛛と大差はないが、人一人ぐらいならペロリと平らげてしまいそうなど大きな口をしている。
蜘蛛を殺したのは蜥蜴なのだろうか?
蜥蜴は痙攣を起こしている蜘蛛に近づき、死んでいるのを確認するとその大口を開け、六本ある脚の一本に噛み付き──引き千切った。
「うっ……!」
蜘蛛の脚を千切り、蜥蜴は丸呑みしてしまう。
その光景に思わず口元を抑える。
一本呑み込んだらもう一本、と蜥蜴は次々も脚を引き千切っては丸呑みしてしまう。
何とおぞましい光景だろう。
禁断の森には蜘蛛型しか魔物はいないと思っていたのだが、蜥蜴型の魔物もいるとは知らなかった。
蜥蜴が蜘蛛を食べるのも……
「どうやら食事中らしいね。刺激しない方がよさそうだ。迂回しながら進もう」
「ニール兄さん、よく平気ですね……」
「警備していたから慣れた」
嫌な慣れだ。
蜥蜴の食事を見ても動揺を見せないニール。
こちらに気づかないよう、俺たちは踵を返し慎重にみんなの元へ戻ることに。
身を屈めて固まっていたベルたちの姿が見えてくる。
今のところ魔物には一度も見つかっていない。
なんとかこのまま、魔物を見つけたら迂回をしてを繰り返し、目的地の聖地まで行け──ドサリ、と背後で何かが落ちた音が突然耳に届く。
「……え?」
何が落ちてきたのかと思いニールと同時に振り向くと、眼前に見えたのは赤い八つの目と、そこに映る俺とニールの姿で……
「うおおおおおおおお!?」
『シュウウウウゥゥゥゥ!!』
蜘蛛だ!!
上から降ってきたのは蜘蛛だった!!
突然のことに動揺し情けない声を上げてしまうと、蜘蛛は威嚇音を発しながら白い牙を剥き出しにし飛びかかってきた!
俺はニールに寄りかかるようにして前に出ると蜘蛛の牙を盾で受け止める。
「ぐっ……!」
衝突の勢いはそれでも止まらず、ニールと一緒に後方へと吹き飛ばされた。
「ぐえっ!」
「平気かい!?助かったよ、ありがとう!」
受け身を取れず転んだ俺をニールが起こしてくれる。
蜘蛛は再び『シュウー!』と威嚇音を出しながら突進を仕掛けてくる!
「《アイスニードル》!!」
「《ロックブラスト》!!」
背後から氷塊と岩砲が放たれ、突進してきた蜘蛛に直撃し転倒する。
ティアーヌとベルが援護してくれたのだ。
「二人とも早くこっちに!」
ティアーヌが次の魔法を準備しながら戻るよう促す。
立ち上がりニールと一緒に全速力でベルたちの元へ走り出す!
しかし──
「囲まれてるぞ!構えろ!」
影山の声が響くと同時に木々の上から蜘蛛たちが群れを為して降りてくる。
その数およそ十体、一体が注意を引いてる内に他の個体が周囲を取り囲んだのか!?
「巫女様はお下がりください!」
「我らがお守りします!」
護衛二人がベルの壁になるように蜘蛛に立ち塞がる。
やばいぞこれ、完全に十年前と同じパターンだ!!
糸で絡め取られたら、全員もれなく巣にお持ち帰りされてしまう!
先程魔法攻撃で転倒した蜘蛛も立ち直ると再び俺たちを背後から追いかけてくる!
「ちょっとニール兄さん!?どうするんですかこれ!?どうすればいいんですかコレェ!?」
「とにかく逃げるんだ!すぐに来る!」
「来るって何が!?」
全速力で走り逃げながら訊き返す。
だが蜘蛛の方が走る速度は速く、追いつかれてしまうと背後から飛びかかってきた!
のしかかられる!
腹を広げ頭上から落ちて来る蜘蛛を前にし、逃げる為にマナを込め始め──
『シィィィィッ!!』
突如別の生物の咆哮が聞こえてくる。
俺たちに飛びかかろうとした蜘蛛の右側面を高速で何がぶつかった。
激突された蜘蛛は簡単に吹き飛び、大樹に叩きつけられる。
俺たちを助けてくれたのは、さっきまで茂みの向こうで蜘蛛を捕食していた蜥蜴の魔物だ。
鳴き声をあげた蜥蜴は、大樹に叩きつけられ動きの鈍った蜘蛛に襲いかかる。
前足に生えた短くも鋭い爪で蜘蛛の息の根を止めると別の蜘蛛に狙いを変えた。
「今だ!走って!」
蜥蜴が餌となる蜘蛛を襲う間にニールに腕を引かれ走り出す。
俺たちには目もくれず、蜥蜴は新たな蜘蛛へと突進を仕掛ける。
天敵の登場に他の蜘蛛たちは逃げようとするが、逃げ道を塞ぐように別の蜥蜴が三匹現れた。
もしかしてこれ、俺たちは蜥蜴共の狩りに巻き込まれる形になるのでは!?
『シィィィィッ!!』
蜥蜴の一匹が逃げようとする蜘蛛の脚に喰らいつく。
首を振って振り回すと、こちらに向かって蜘蛛を放り投げた!
「やっぱりィィィィ!?」
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いつも読んでいただきありがとうございます!
次回投稿は来週日曜日22時といつも通りです!




