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第十五話 無知な美少年?


 ギルニウスの警告を受けて数週間が経った。

 心配していた魔物の襲来も今のところ無く、平和な日々が続いている。

 俺とレイリスはあれからもユリーネの魔法の勉強を受けており、光と闇以外の全属性を発動するところまではできていた。

 と言っても、火を起こしたり、風を起こしたり、土を出して遊んだりする程度のことしかまだできないのだが。

 それでも、今俺とレイリスの中では一つの遊びが一大旋風を巻き起こすブームとなっていた。

 それは──


「来い!レイリス!」

「行くよ!クロ!」


 バルメド邸の庭で俺とレイリスは対峙している。

 お互いに土属性の魔法で自分の身長と同じぐらいの高さの壁をいくつか作る。

 そして右手にマナを込め、


「「水よ!撃て!」」


 お互いの手から拳程の大きさの水弾が放たれる。

 それを見てほぼ同時に土壁の後ろに隠れると、水弾は魔法でできた土壁にぶつかり弾け飛んだ。

 俺はレイリスが動くのを待つ。

 しばらく土壁に隠れたまま、相手の出方を窺っていたが、


「水よ!跳ねろ!」


 呪文詠唱が聞こえ身構える。

 今レイリス、跳ねろ!って言って、つまり水弾は──上か!

 頭上を見上げると、案の定水の塊が影を落としながら落ちてくる。

 俺はそれを避ける為に土壁から飛び出さざるおえない。

 だが俺が飛びしたのを待ち構えていたレイリスが、こちらに手を向けている!

 くっ、間に合うか!?


「水よ!」

「弾けろ!」


 レイリスの手から水弾が、俺の手からは水しぶきが放たれる。

 俺が出したのは言わば散弾の様なものだ。

 俺の手から放たれた水はレイリスの服を、レイリスの放った水弾は俺の頭を水浸しにした。


「ぷはははは!引き分けだな!」

「おしいなぁ、勝ったと思ったのに」

「そう簡単に負けるかよ」

「ねぇ、もう一回やろうよ!」

「よっしゃ来い!今度は勝つぞ!」


 俺たちが今ハマってる遊びは、雪合戦の水弾の撃ち合い版、水合戦である。

 まず土属性の魔法で壁をいくつか作り、その後ろに隠れながら水弾を撃ち合い、先に相手に水を浴びせた方が勝ちという遊びだ。

 一応これもマナをコントロールする訓練の一環である。

 まぁ今はまだ夏だし、暑いから水浴びを遊びにしてみたってだけなんだけどね。

 この遊びを思いついたのは俺なんだが、レイリスは覚えるのが早いからか、俺に思いつかないような方法で俺に勝つ時がある。

 勝率は俺の方が多いけど、ほとんど引き分けで終わってしまう。

 本当油断してるとレイリスに追いつかれてしまいそうで、俺も訓練に気を抜けない。

 それ以上にこうしてレイリスと何かを競うのは、とても楽しかった。


 でも、こんな日常にも否応なしに変化は訪れる。

 俺とレイリスが共に日々を過ごし、もうすぐ秋になる頃、事件は起きた。

 夏も終わりにさしかかり、水合戦をしても肌寒さを感じるようになった頃。


「二人共、風邪引かないようにお風呂に入りなさい」

「はーい。じゃあレイリス、先に入りなよ」

「え、いいの?先に入っちゃって」

「俺は着替えを取ってから入るよ」


 ここは俺の家だし、お客様であるレイリスを先に通すのがいいだろう。

 脱衣所の場所を教え、俺はメイドさんたちにレイリスと自分の着替えをお願いする。

 その間に俺は庭に作った土壁を地面に戻して、いつも通りの庭に直しておいた。

 着替えを持ってきて貰うと、そのまま脱衣所に向かう。

 家の浴場はそこそこ広い。

 さすがに大勢は無理だが、大人四人ぐらいまでなら普通に入れる程の広さはある。

 こんなに広くてどうすんだ?と最初は思ったが、見慣れて来るとあんまり浴場の広さも気にならなくなる。

 まぁそれでも子供が入るには大きすぎるんだけどね。

 脱衣所には既にレイリスの服が綺麗に畳まれた状態で籠に入っていた。

 几帳面だな〜と感心しながら、俺も濡れた服を脱いで他の籠に入れると、浴場への戸を勢いよく開ける。


「お待たせレイリス!今度は風呂場で水弾使って遊ぼうぜ!」


 何て呑気な提案をしながら浴場に入ると、裸になったレイリスが俺の侵入に驚き固まっていた。

 やっぱ美少年だけあって肌白いなぁ。

 なんて思ってたいのは、ほんの数秒の間だけだった。

 しかし、俺は──気づいてしまった。

 レイリスの頭からつま先を眺めた時、無かったのだ。

 股に、アレが……


「……え?」

「クロ?」


 裸を見て完全に頭が思考停止してしまう。

 え、ちょっと待って?

 あれこれ、もしかして、あのあれ……レイリスって、まさか──女の、子?

 やがて顔が真っ赤に染まり始める。


「キッ──」


唇がワナワナと震えそして、


「キャアアアアアアアアアア?!」


 屋敷全体に甲高い悲鳴が響き渡る。

 突然上がる悲鳴に誰もが驚き、あちこちからバタバタと音が聞こえる。

 大声で悲鳴を上げた俺は、タオルで身体を隠し、急いで脱衣所の戸を閉めた!


「なになに、どうしたの!?」

「坊っちゃま、どうかなさいましたか!?」


 屋敷にいたユリーネとメイドたちが異常事態に脱衣所までやってくる。

 俺は顔面蒼白になりながら、浴場を指差す。


「お、お、お母様!浴場に女の子が!」


 俺の言葉に全員が不思議そうな顔をする。

 脱衣所にある籠を見て、全てを理解してくれたのか、未だに混乱する俺の肩に手を置き。


「クロちゃん。もしかして、レイリスちゃんが女の子だって知らなかったの?」

「えええええええええええ!?」


 母親の口から告げられた真実に本日二度目の絶叫を上げた。


                 ✳︎


 それからしばらくして、俺は脱衣所の外でレイリスが出てくるのを正座して待っていた。

 脱衣所の扉が開き、いつもの服とは違い女の子らしいスカートを穿いたレイリスが現れる。

 それを見て、あぁやっぱ女の子なんだなぁ、とか思いつつ、俺は土下座した。


「すいませんでしたァァァァ!」

「え、クロ?どうしたの?」

「さっきはレイリスがまだいたのに、突然入ってしまって申し訳あ」

「どうして謝るの?ボク、怒ってないよ?」


 その言葉にガバッと顔を上げる。

 怒ってない!?

 裸を見られたのに怒っていらっしゃらない!?

 つまり許してくれるのか!

 俺の愚行を!?

 て、天使だ!

 この子は何て心の広い天使なん


「ボク、クロと一緒にお風呂入ろうと思ってたのに、さっきはどうかしたの?」

「……は?」


 今この子何て言った?

 え、一緒にお風呂に入る?


「ちょっと待ってくれレイリス……え、俺と一緒にお風呂?」

「うん。こんなに広いから、一緒に入ったら楽しいだろうなって楽しみにしてたんだけど」

「いや、俺とレイリスがお風呂に入るのはちょっと……」

「ボクと一緒にお風呂に入るの……嫌なの?」

「いや全然!むしろ一緒に入りたいです!」


 いや何言ってんだ俺!?

 違うだろそうじゃないだろ!

 え、と言うか、もしかしてレイリスって……貞操観念がない?


「良かった。ボク、クロに嫌われちゃったのかと思った」

「そ、そんなことはないよ?でもねレイリス。男の子と女の子が一緒にお風呂に入るのは、良くないことなんだよ?」

「……?どうして?」

「え、いや、どうしてって」

「クロとボクが一緒にお風呂に入るのはいけないことなの?何で?」

「いや、あの……何でと言われましても」


 く、苦しい!

 レイリスの無垢な瞳が苦しい!

 だ、駄目だ!

 これは俺の手に負える案件ではない!


「ヘェェェルプ!お母様とメイドさんヘェェェルプ!」


 廊下の影に隠れて成り行きを見守っていたユリーネとメイドたちに助けを求める。

 四人は突然の助けを乞う声に驚き、お互いに顔を見合わせてオロオロとしている。

 やがてユリーネがぎこちない笑顔で来てくれた。


「な、何かしらクロちゃん?」

「後はよろしくお願いします」


 俺は後の事を任すと脱衣所に逃げ込む。

 「え、私に任せるの!?」と廊下から声が聞こえた気がしたが知らん聞こえん!

 俺は風呂に入るんだ!

 冷えた身体を温める為に湯船に直行する。

 頭まで湯船に浸かりながら、俺はレイリスと今後どう接したらいいのか悩んでいた。


 俺が風呂から出ると、リビングでは重い沈黙に包まれていた。

 ユリーネもメイドたちもぐったりとした顔をしているが、ただ一人レイリスだけはいつも通りの顔で椅子に座っている。

 なんて酷い状態なんだ……とか眺めていると、俺に気づいたレイリスが椅子から降りて申し訳なさそうに俺に近づいてきた。


「あの、クロ……ごめんね。ユリーネお母さんから聞いたんだけど、人に裸を見られるのはとても恥ずかしいことなんだって聞いたんだ」

「お、おう……」

「これからは気をつけるね!ごめんなさい!」

「いや、気にしなくていいよ。俺もごめんな」

「じゃあ、これからも一緒に遊んでくれる?」

「もちろん」


 俺の答えにレイリスは満開の笑顔で「よかった!」と喜んでいる。

 俺はレイリスへの説明に相当苦労したであろうユリーネたちの元に歩み寄り、心からの感謝を込めてその肩を叩いた。


「お疲れ様でした」

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