第百六十六話 禁断の森の真実
最近話数が160越えた辺りから、自分がどこまで投稿したか思い出せない時があります
ベルを連れ訪れたエルフの集落。
突然頭を垂れ、ベルが来るのを待っていたと告げる長老たち。
何がなんだか分からず説明もないまま、俺たちは長老の自宅に通され、シヤの実のジュースをご馳走になっていた。
話し合いの席にはベルを含め俺たち全員が参加。
集落側からは長老とニール、それと十人程の男女が同席している。
「さて、ではどこからお話をしましょうか」
「それでは……勇者についてお聞かせ願います。私たちは、ギルニウス様から『禁断の森』で勇者が誕生すると聞いたのですが」
「確かに『禁断の森』へ行けば、勇者誕生に立ち会えるやもしれませぬ。と言うのも、あの森の奥……我々が聖地と呼ぶ場所、そこには納められているのです。初代勇者が、魔王ベルゼネウスを討ち倒した剣──破魔の剣が」
破魔の剣。
こっちの世界に転生してから文字や言葉を覚える為に読んだ絵本で見たことがある。
名の通り、悪魔を破壊する力を持ち、初代勇者は剣の力で悪魔たちを滅ぼし、魔王を倒した。
その後魔王は封印され、勇者は姿を消したと描かれている。
絵本や伝承ではそこまでしか記されておらず、勇者に関する情報は一切なかったのだが、その破魔の剣が禁断の森にあると言うのか。
その事実に護衛たちも騒めく。
ティアーヌも驚きながらも、どこか呆れて首を振っていた。
大方、探していた勇者の武器が一度訪れた場所にあるとは思ってもみなかったってとこか。
「小僧、以前お前に質問されたな。森の奥には何があるのかと。あの時は何も無いと答えたが、事情故に嘘をついたのだ。すまないな」
「別に気にしてませんよ。十年も前の話だし」
と言うか、長老に謝られるまで忘れたぞ、その話。
「初代勇者が魔王との戦いののち、あの森に剣を封印しました。また魔王が復活した時、新たな勇者に剣を引き継がせる為に。そして魔王軍の残党や悪しき心の持ち主に破魔の剣が渡らぬよう、森に特殊な結界を施したのです。
次の勇者としての素質を持つ者にしか通れぬ結界。我々一族は、新たな勇者が現れた時、その者の案内を。そして時が来るまで森を守り、剣を狙う者の立ち入りを禁じる。
それが我ら一族の使命なのです」
勇者以外の立ち入りを禁ずる森。
だから禁断の森ってことなのか。
この時代の長老たちが、どうしてジェイクたち村の人たちと避難しなかったのかもわかった。
勇者の剣を守る一族として、この地を離れなれなかったのだ。
いつ勇者が現れてもいいように、自分たちが案内する為に残る必要があったからだったのか。
「ですが、魔王が現れてから数年経った今でも勇者となりえる者は未だ現れておりませぬ。私が前長老から受け継がれている話では、勇者となる素質を持つのは、慈愛の神ギルニウスに見定められた者だと聞いております」
「ギルニウス様に……」
「見定められた……」
長老の言葉にベルと影山がこちらに振り向き、俺の顔をじっと見つめて……
「いやいやいやいや!!なんで二人とも俺を見るの!?」
「十年前にお父様から聞いたのですが、クロ君はギルニウス様のお気に入りだと。もしかしてクロ君には、勇者の素質が?」
「ないないないない!!そもそも、俺二度も魔王に殺されかけたんだぞ!?そんな奴が勇者になるだなんて、そんなまさか……」
「坊主、今までの人生を思い返せ。お前は、本当に慈愛の神から特別な恩恵を受けてないと言えるのか?」
「今までの」と言う部分を強調しながら問われる。
影山は唯一俺が異世界人で、ギルニウスにより転生させられた存在だと知っている。
だからって俺が勇者ってのは……ないない。
絶対ないぞ。
「ん?小僧は慈愛の神のお気に入りなのか?」
「違いますよ!あいつにとって俺は……都合の良い駒です」
「だとしても、だ。坊主を連れて、一度『破魔の剣』とやらが封印されている聖地とやらに行くべきだろう」
「賛成よ。バルメルド君が本当に勇者の素質を持つものなら良し。違っても、どのみち勇者となる者を待たなければならないのだから、一度下見をしておいた方がいいわ」
長老はティアーヌの提案に無言で頷くとニールに目配せする。
ニールは頷き返すと席を立った。
「では、皆さんのご案内は私が致します。皆さん旅の疲れもあるでしょう。しばし休息の後に聖地までの案内を致します」
それを最後に解散となり、ベルは護衛と仮眠を。
影山とティアーヌは、長老と禁断の森内部の詳細を記した地図を広げ確認をしている。
本当は俺も参加したかったのだが、「休め」と二人から言われてしまい、渋々集落を一人で歩く。
目的も無く歩いている訳ではない。
歩き馴染んだ道を進み、樹木内部を繰り抜き造られた家にお邪魔する。
ニールと、レイリスの家だ。
「お邪魔します。ニール兄さん、いますか?」
「クロノス君?」
久しぶりに訪れた兄妹の家。
十年経っても変わらない木の内装。
ニールは森に入る準備中なのか、弓矢と革リュックをテーブルに広げていた。
「どうかしたかい?今、荷物を準備しているところなんだ」
「森に入る前に、一度お願いしたいことがあるんです。弓についてなんですけど。ちょっと、指導してもらいことがあって」
そう、ニールの元を訪れたのは一度俺の弓の腕前を見て欲しかったからだ。
自分で言うと悲しくなるが、俺は弓が下手くそだ。
なんせ射った矢が真っ直ぐ飛ばない。
そのせいで、何度か仕留められる相手を仕留められなかった時があった。
いい加減、矢が左に逸れる癖を直しておかないと、いざという時ヘマをして迷惑をかけてしまう。
そうならない為にも、弓矢の基礎を教えてくれたニールに修正指導を受けた方がいい。
矢が逸れる件について述べるとニールは快く了承してくれた。
ニールの身支度が終わってから練習場まで行き、木で造られた的に試しに一度矢を射って見せる。
矢は見事に的から左に逸れて落ちた。
「うーん……確かに逸れてるね」
「何度やっても左にズレるんですよ。だから、射る時は少し右に構えるようにしてるんです」
「もう何回かやってみてくれるかい?的に当てるつもりじゃなくていいから」
わかりました、と頷き三回程矢を射る。
当てなくてもいいと言われたので、的に対して真っ直ぐ弓を構え放つと、明後日の方向へと飛んで行く矢。
繰り返し矢を放つ俺のフォームを見て、ニールは何度か頷き、
「原因がわかった。君、矢から手を離した時に、弓を持つ手が左に動いているんだよ。それで狙った箇所から左に逸れてるんだ」
もう一度と、的に向け弓矢を構えた。
足は真っ直ぐ、顎は引いて、腕をもっと上げて、等細かく姿勢を正される。
「矢から手を離しても左腕は動かさずに!」と言われながら、再び矢を放つ。
だが、やっぱり矢は的から左に逸れてしまい地面に落ちてしまう。
「染み付いた癖は、すぐには直らないか」
「すいません……」
「いや、君が謝ることじゃないよ。旅をしていてもちゃんと練習していたってのは、構えや矢の飛距離を見ればわかる」
「実戦ではほとんど使えてませんけどね。どこ飛ぶか不安で」
ちゃんと真っ直ぐ飛んでくれたら、バンバン使うんだけどなぁ。
今のままだと、味方に当ててしまいそうで怖い。
「癖さえ直せばできるさ。当面は、指摘した箇所を意識して練習すれば実戦でも使えるはずだ。投げ出さずに頑張ればね」
「うっす」
せっかく覚えた技術なのだから、俺だってモノにしたい。
魔道具のグローブを手に入れたけど、これだって結局は接近戦特化だ。
下手くそでも、せめて弓で狙った箇所に当てられるぐらいにはなりたいからな。
「よし、じゃあここまでにしておこう。そろそろ時間だ」
「はい。ありがとうございました」
付き合ってくれたことに感謝し弓を片付ける。
いよいよ『禁断の森』へ向かう時間。
またあの森に入るのは気が滅入るが、行かなくてはならない。
だが、本当に──そこで勇者の誕生に立ち会えるのだろうか?
一体誰が、勇者になるのだろう?
次回投稿は来週日曜日22時からです!
勇者誕生までもうすこし!




