第百六十五話 待ちわびた訪問者
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おかげで様で連載2年経たずして20万PVを超えました!
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旧ニケロース領、ここは俺の故郷で既に無くなってしまった村。
数年しか住んでいないが、それなりに思い出はある。
ジェイクやユリーネ、メイドのメアリーたちにレイリスやフロウ。
他にも同じ初等部に通う同級生たち。
皆との思い出があるこの土地には、今は蜘蛛や蝙蝠の魔物しか生息していない。
入ればたちまち、彼らの巣と化した廃村の中を逃げ回る羽目になるだろう。
日暮れを前にして、俺たちは村から少し離れた場所で一夜を過ごすこととする。
村の中でひしめく蜘蛛たちを相手に強行突破する訳にはいかないし、夕刻を過ぎれば蝙蝠型一つ目魔物のバッドアイの群れも活発となる。
その全てを相手にするのは危険と判断され、魔物たちが動き出す日の出と共に行動することとなった。
また蜘蛛とバッドアイの群れに追われるのはこりごりなので異論はしない。
巫女であるベルを危険の中に連れ込むことはできないから、俺以外から反論が出ることもなかった。
夕飯と言う名の木の実と虫の丸焼きを食べ終え、ティアーヌは先に就寝した。
淫魔のティアーヌと同時に眠ってしまうと、無意識で発動される淫夢を見せられてしまうらしいので、ティアーヌだけ先に休息を取らせて、明け方まで火の番をしてもらう。
と言うのが決まっていたのだ。
俺と影山、ベルの護衛で付いてきている六人はティアーヌが起きるまで周囲の警戒と火の番だ。
「故郷……か」
キャンプ地から遠くに見える村の入り口を眺める。
両眼の能力を発動させていると村の様子がよく見える。
村を覆う木々からはバッドアイが飛び回り、村周辺には蜘蛛たちが獲物がいないか周回している。
仕方ないとは言え、またあの中を進まなければいけないと思うと溜息しか出てこない。
「クロ君?どうかしましたか?」
故郷を我が物顔で闊歩する魔物たちを眺めているとベルが現れる。
魔王に存在を気取られない為、マント代わりに布一枚で全身を覆う彼女は、手にしていた木のコップを尋ねながら差し出して来る。
それを受け取りながら故郷を見つめる。
「あそこは……俺の故郷だ。でも、俺の知ってる村はもうない。今は、占領された魔物の巣だ」
「……私の家も、そうです。今は魔王に占拠されたまま、取り戻すことさえできない」
ベルの住んでいたライゼヌス城は、ベルゼネウスが構える現魔王城。
俺の知らない歴史では、ベルは一度王城を取り戻そうとしたが失敗している。
「『禁断の森』は、クロ君の故郷の近くにあるのですよね?」
「ああ、俺が住んでた村とエルフの集落のちょうど中間だ。昔一度だけ入ったけど……二度と入りたくはねぇ、ってとこだよ」
あの時のことは今思い出しても身の毛がよだつ。
よくよく思い返すと、転生して大蛇に襲われた時と蜘蛛に襲われた時、よくもう一つの魂が覚醒しなかったなと思う。
それらしい傾向はあった気がするけど、やはり目覚めたきっかけは、最初に魔王に殺されかけたが原因だろう。
だけど、ルディヴァに見つかろうと見つからまいと、結局いつかはもう一つの魂は目覚めていた気がする。
この時代に来るまでの俺は、今の自分に満足してしまっていたから……
「クロ君?」
十年前の自分に苦笑いしていると、ベルに心配そうな顔で覗き込まれた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、いや、ごめん。ちょっと昔のこと思い出してて……でも、まさかこんな形で約束を果たすなんてな」
「約束……?」
「ほら、十年に約束したじゃないか。いつか村を案内して、友達も紹介するって。まさか十年越しの約束が、滅んだ村への案内だと考えてたら、色々とな」
誤魔化そうと思い過去の約束を持ち出す。
しかし、その約束を聞いたベルは何故だか驚いた顔を見せた。
約束のことを忘れてしまっていたのだろうか?
「え……?」
「忘れちまったのか?いつか約束したろ、村に遊びにおいでって」
「ちょ、ちょっと待ってください。その約束は──」
「巫女様、こちらでしたか」
ベルの護衛の一人が現れた。
そうか、もう交代の時間なのか。
「巫女様はもうお休みになってください。明日は早いのですから。君も休みたまえ、交代だ」
「わかりました。よろしくお願いします。ベル、行こうぜ」
次の交代までにしっかり休んでおかなければ!
ベルとの会話を中断し、休息を取る為に焚き火の近くへと向かう。
結局その日は魔物に襲われることなく無事に夜を明かすことができたのだった。
✳︎
明朝、日が昇る少し前に俺たちは馬車で移動していた。
もっとも蜘蛛の魔物たちが巣を張る村の内部ではなく、村を大きく囲う森林の外側を迂回する形でだ。
前回村を駆け回った時は、俺の実家に立ち寄るのが目的だった為にティアーヌと入った。
しかし今回は村ではなく『エルフの集落』へ向かうのが目的なので、わざわざ巣の中を突っ切ることは避けたいのだ。
「坊主、この地点か?」
「えーっと、もう少し先だと思います」
森林を眺め、入り口からここまで馬車で外側から周るように移動しながら距離を測る。
三、四年とは言えずっと住んでいた村だ。
自宅から集落までの道は何度も歩いたり馬車で移動したし、鍛錬の為に村を走り回りもした。
長年培った土地勘を利用すれば、内部が見えなくても村を経由せずとも直接集落へと入れる道を見つけられる……はずだと思う。
しかし、これは俺の土地勘にかかっている。
自分を信じろ、足げなく通って培った記憶と感覚を信じるんだ。
ビリーヴェ……
「──あそこです!」
自分の中の何かが「そこだ!」と脳に告げる。
直感で指示した地点まで馬車で赴く。
目の前に聳えるは森、どこまでも深く深く続く、暗闇の森。
禁断の森と同じ蜘蛛たちがこの森の中にもいると考えると、入った瞬間に襲われる危険もある。
「本当にここで合ってるの?」
「絶対的自信はないですけど……俺のエヌティー的直感がこの場所がだと言っているんです。だから、きっとここです」
ティアーヌの問いに答えながら右眼の能力を発動させる。
暗闇でもしっかりと見渡せる脳褐色の目には、見える範囲では蜘蛛たちの姿は見当たらない。
「でも、ここから先は足場が悪いわ。馬車を引き連れては無理ね」
地面を確認しティアーヌは馬車の同行は不可と判断する。
確かに森の真ん中を突っ切るとなると馬車は無理だ。
妖精族の里の時のように馬車だけ置いて行くしかないだろう。
「どうします、影山さん?」
「坊主の直感的方角を信じるにしても、今回馬車を置いて行くのはあまり得策ではない。妖精族の里の時は隠す場所があったが、ここは丘も崖もない平坦な土地だ。馬車だけ置いて行くと魔物に壊される可能性がある」
「見渡す限り平原ですからね。ここ」
ニケロース領周辺には起伏した土地がない。
前みたいに落ち葉で隠して──みたいなのでは逆に目立ちすぎてしまう。
しかも森の中には魔物がいるのは確定しているから、そのまま蜘蛛に持っていかれてしまうかもしれないし、獲物を捕まえる為の罠として利用されることもある。
できれば馬車ごと持って行くのが理想だけど、無理だよなぁ。
木の根が地面に這ってて足場悪いし……
「……ちょっと待ってて下さい」
「ベル?」
会話を聞いていたベルが突然馬車から降りて森に近づく。
立ち入る訳ではなく、野花を見つけ、屈んで花をじっと見つめると、
「────」
花に向かって、何か言葉を発し始めた。
何か、と言うのは、俺が彼女の発音を聞き取れなかったからだ。
それは確かに言葉のように聞こえる。
だけど、どんな言葉なのか、どんな発音なのかが理解できないのだ。
ノイズがかかったみたいで、呪文のような発音を花に向かって繰り返すベル。
多分だけど、花と会話をしているのだろう。
アラウネは花の声が聞こるって言われてるし、こちらからコンタクトを取ることだってできるのかもしれない。
ただ、何を言っているのか人族の俺には全く理解できないけど。
「皆さん、花たちが馬車でも通れる道を教えてくれるそうです」
「本当か?アラウネってやっぱすごいな」
「ならば、巫女の誘導に従って移動しよう。坊主、俺がヨハナの手綱を引く。お前は護衛と一緒に巫女を守れ」
「坊主了解」
了承し、万が一馬車を捨て置く場合も考え自分の荷物を背負っておく。
花の声が聞こえるベルを乗せた馬車を先頭にし、俺たちは森の奥へと進み始めた。
✳︎
そして、森に入ってから一時間程過ぎて──
「ようやく抜けたー!」
深い森から見覚えのある坂道へと出て、ようやくといった思い出一息つける。
結局一度も魔物に出くわすことなく森を抜けることができ、全員心なしかホッとしていた。
しかし、思ったよりも苦労した。
ベルが花たちに頼んだ道案内、馬車でも通れる道を教えてもらいながら移動していたのだが、右に行ったら後ろに下がって、今度は前に進んで左に進んでとかなりややこしいもの。
おかげで時間がかかってしまったが、無事にここまで来れて森の花たちには感謝しかない。
やっぱり大地の巫女でアラウネの特性を持ってるベルは凄いな。
自然さえも味方にしてしまうのだから。
「ふぅ、巫女様のおかげで魔物に合わずに済んだわね」
「魔女は一度、ここを訪れたと言っていたな」
「ええ。この坂を進むと禁断の森、更に奥に進めばこの土地に住む『エルフの集落』があるわ。集落にはバルメルド君の知り合いがいて、以前はそこでお世話になったの」
「なら、一度立ち寄ろう。禁断の森について詳しく聞けるかもしれない。それでよろしいか、王女殿下」
影山の問いにベルは黙って頷く。
まだ周囲を警戒しているのか、近くの花に向かって話しかけていた。
「よし、全員警戒を続けたまま進むぞ。坊主、先導を任せた」
「わかりました。じゃあ、ついて来てください」
今度は俺が先頭となって移動を始める。
さすがに行き慣れた道の分、移動も早い。
緩やかな上り坂を行き、禁断の森に通ずる門の前を通り、何週間ぶりのエルフの集落へと到着した。
集落入口には武装したエルフが二人見張りの姿が。
よく知った顔の人たちだったので手を振ると、向こうも俺に気づいたのか一人が手を振り返してくれる。
だが、もう一人は俺たちの姿を見ると集落へと姿を消してしまった。
どうしたと言うのだろう?
「お久しぶりです」
「何週間ぶりだ?元気そうだね」
「おかげさまで……あの、今日は前回尋ねた時よりも人が多くてですね」
「わかってる。ちゃんと聞いてるよ」
はて、聞いてる……とは?
見張りと会話を交わしていると、集落からぞろぞろとエルフたちがやってくる。
先頭を歩くのは集落の長老、後ろにはニールの姿もあった。
と言うか、どんだけ来るんだ?
もしかして、集落にいる人全員出てきてるんじゃないのかこれ!?
「な、なんだ一体?巫女様を守れ!」
護衛の一人が異様な光景にベルを囲むように立ち回る。
長老たちは近づいて来ると俺たち全員の顔を見回す。
「また随分と、以前訪れた時よりも大所帯になっているな。小僧」
「ご無沙汰しております。長老」
「ふん!相変わらずの面で……いや、少しだけ、以前とは違うな。背が伸びたか?」
「伸びてませんよ」
苦笑いしながら否定する。
集落の人たちは変わらず元気のようで安心した。
すると長老は護衛に囲まれ守られているベルに向き直る。
「そちらの方は、アラウネの姫様か?」
「はい。友達のティンカーベル・ゼヌス王女です。実は、今日訪れたのはですね……」
訪問の目的を告げようとした矢先、突然長老がベルに対して片膝を着き頭を垂れた!
いや、長老だけじゃない。
この場にいるエルフ全員がベルに膝を着き頭を垂れ始める!
突然のことに動揺し、「え、なにこれ?え!?」と慌てふためいてしまう。
ティアーヌやベル、護衛も当然、いきなり集団で頭を垂れる彼らに驚いていた。
「お待ちしておりました。ティンカーベル・ゼヌス王女様。貴女様が訪れるのを、我ら一族永くお待ちしておりました」
「えっと……わ、私をですか?」
「はい。大地の巫女である、貴女様を」
全く状況が飲み込めない中、長老はベルを待っていたと言う。
いや、長老だけではなく彼ら全員がだ。
「この地に赴いた理由は既に存じております。お探しの勇者について、私よりお話があります」
勇者──その言葉に誰もが反応を示す。
いよいよ、勇者との対面が近づいてきた。
最近ツイッターでフォローしてるなろう作家の方々が次々と改名してましたが、自分はここでやってる限りずっとこの名前のままだと思います
次回投稿は来週日曜日の22時からです!




