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第百六十四話 再び亡き故郷へ

もうすぐ勇者誕生です!

いやーやっぱ魔王戦の主人公と言えば勇者がいなきゃですからね!



「パンパカパーン!おめでとうございまーす!」


 開口一番にルディヴァがクラッカーを鳴らして祝福してくる。

 現在俺が立っているのはルディヴァの作り上げた空間。

 あいも変わらず、地面は時計盤、周囲には大小様々な時計が浮かび時を刻んでいる。


「なんですか、これ……」

「いえ、この時間軸に取り残されたクロノス・バルメルドはほぼ高確率で死ぬか闇堕ちし、歴史から抹消される可能性があるのにも関わらず、意外にも生き残り闇堕ちを回避した上に立ち直る希望もほぼ無いに等しいはずで、平行世界ではもう既に私の手によって抹消されているのに対し、あなたは逃れえぬ死と破滅の運命から脱却し新たな運命を──」

「長い長い!もうちょっと簡潔にお願いします!」

「アナタ、イキル。ワタシ、オドロク」

「ありがとうございます……」


 要するに、俺が生き残ったのが余程意外だったらしい。

 わざわざクラッカーまで用意して……この人は俺を消したいのか生かしておきたいのか、どっちなんだ。


「ちなみに……俺って、どのくらいの確率で死ぬんですか?」

「十中八九、死にます」

「そんな高いの!?そんなに死んじゃうの!?」


 別時間軸の俺は、ルディヴァの口ぶりからしてもう死んでいるのだろう。

 つまり俺は、一割か二割の確率で生き残れたかなり幸運な方だってことだ。

 というか、俺の生存確率低すぎだろ……


「まぁ、別にあなたは眼が光る以外特別な能力を持ってる訳でもなんでもない、ただの人族ですからね。死ぬ時は割とあっさり死ぬのでそこは諦めて」

「人の心勝手に読まんで下さい」

 「それについては、先輩に言った方が早いかと思いますよ」


 先輩ってギルニウスのことだよなぁ……俺をこの世界に転生させたのはアイツだけど、言っても絶対能力なんかくれないぞ。

 そうだ、ギルニウス!

 すっかり忘れてたけど、ルディヴァがまた接触したらギルニウスのこと聞くつもりだったんだ!


「ルディヴァ様、ギルニウスがベルにお告げをしたって話なんだけど、本当にそれはギルニウスからだったんですか?」

「さぁ?先輩なんじゃないですか、たぶん」


 て、適当ぉ〜……。

 そこまで教える義理はないってか?


「ティンカーベルの普段の行動と先輩に対する信仰度によっては偽物の罠だったりする未来もあるんですけど、なんやかんやアレだったんでおそらく本物ですよ。信じて大丈夫です」


 全く信用できねぇ。

 この人の場合、俺がギルニウスからのお告げを本物か偽物かを疑ぐる姿さえ楽しいのだろう。

 でも、本物であろうと偽物であろうと行くしかないだろう。

 お告げを聞いたベルは行く気満々だったし、ティアーヌも同行するつもりだった。

 ならば俺と影山も行くしかないだろう。

 元々ベルを連れ出すつもりで妖精族の里を訪れたのだから、これはこれで都合がいい。

 もしお告げの通り、本当に勇者が現れたのならば、そのままベルと勇者を難民キャンプに連れて行くこともできるのだから。

 何より、もしかしたら勇者が誕生する『禁断の森』に行けば、ギルニウスにも会えるかもしれない。

 もし会えたのなら、俺は……アイツの顔を本気でぶん殴っておきたい。

 今までのこと諸々含めて。


「先輩に会えるかどうはわかりませんけどぉ。勇者が誕生するのは、本当かもしれませんよ?」

「……わかりましたよ。本物かどうかは、自分で足を運んで確かめに行きます」

「うんうん。それがいいですね。頑張って下さいねー!」


 大変楽しそうに手を振るルディヴァ。

 その姿が徐々に遠ざかって行く。

 愉快な笑みを浮かべる表情を見て俺は、「あぁ、まあ何か厄介ごとが起きるんだろうなぁ」と半ば諦めながら現実へ意識を覚醒させるのだった。


✳︎


 ルディヴァ空間から現実に引き戻され眼を覚ます。

 馬車に揺られながら寝ていたせいか、少し体の節々に痛みを感じた。


「おはよう、気持ち良さそうに寝てたわね」


 欠伸をしながら腕を伸ばしているとティアーヌの皮肉めいた挨拶をされる。

 目を擦りながら膝元に視線を落とすと、手入れ中だった魔道具の革グローブが綺麗に磨かれ置かれていた。

 

「暇だったから、代わりに手入れしておいたわよ」

「え……あぁ、すいません。途中で眠っちゃったんですね、俺」

「昨日は朝方から見張り番だったんでしょう?眠りこけてしまうのは仕方ないけど、道具はちゃんと仕舞っておかなきゃ駄目よ」


 「ありがとうございます」と礼を言ってからグローブを手に装着し直す。

 影山から貰った時は少しよれてたグローブも、磨いたら大分綺麗になったな。うん。

 今俺たちはゼヌス平原を移動している。

 目的地は俺の故郷、旧ニケロース領。

 ニールたちが住むエルフの集落近くにある、『禁断の森』へ向かう為、妖精族の里を出て既に三日が過ぎていた。

 もちろん、俺たち三人だけではない。

 ギルニウスから勇者が誕生すると聞いたベルと、ベルの護衛の妖精族六名も一緒だ。

 ベルが乗る馬車は、ヨハナが引く俺たちの馬車の後ろをついて来ている。

 ヨハナは妖精族の里にいる間、エルフたちが世話している馬と一緒だったらしいので元気に馬車を引いてくれている。


「俺、どのくらい寝てました?」

「ほんの一時間ちょっとよ」


 ありゃ、結構寝てたんだな。

 もう交代の時間を過ぎてしまっている。

 四つん這いになりながら、不安定に揺れるワゴンを移動し御者席に顔を出し、手綱を握る影山に声をかける。


「師匠、交代の時間です。代わりますよ」

「……」


 しかし影山に無視されてしまう。

 彼はずっと前を見据えており俺に見向きもしない。


「あの、師匠?」

「…………」

「師匠ってば。おーい、師匠〜?」

「………………」


 全く、この人は……


「影山さん、手綱持つの代わります」

「わかった」


 苗字で呼ぶとようやく反応が返ってきた。

 弟子入りを断れてから俺は何度も志願をしているのだが、一度も影山は首を縦に振ってくれていない。

 師匠と呼び続ければいつか折れて弟子入りを認めてくれると思ったのだが、さすがにしつこいと思われたのか、次第に影山は俺が師匠と呼ぶと無視するようになってきた。


「そんなに俺を弟子にするの嫌なんですか?」

「何度も言ったはずだ、俺は弟子は取らん」


 手綱を受け取り御者席に座る。

 入れ替わりで影山が馬車内部に移りながら一蹴される。

 しかし、なぜ影山はこんなに弟子入りを嫌がるのだろうか?


「影山さん、昔弟子とかいたんですか?その弟子と何かあったから弟子を取らないとか……」

「いや、弟子を取ったことは一度もない」

「じゃあ、どうして俺を弟子にしてくれないんですか?いいじゃないですか、俺を弟子にしてくれても」

「お前を弟子にしたいとは思わん」

「そうですか……」


 まさかそこまで否定されるとは、ガックリする。

 こりゃ、弟子として認められるのは難しそうだ……


「そもそも、なぜ坊主はそこまで俺に弟子入りしようとする。お前にはもう剣の師匠がいるのだろう?」

「そりゃぁ、いますけども……。こっちの父さんは、もう、いませんし……」


 俺に剣を教えてくれていたジェイクは亡くなってしまった。

 もちろん、元の時代に戻ればジェイクは生きている。

 だけど、この時代にはもういないんだ……。

 しかし、だからと言って影山を師として仰ごうと言う訳ではない。


「もちろん、俺にとっての剣の師匠はこれからも父さんだけです。でも影山さんには、剣とか魔法とかの戦闘面じゃなくて、心を鍛える為の師匠と仰ぎたいんです」

「心を鍛えるのなら、別に俺である必要はないだろう」

「ありますよ!俺は、影山さんのおかげで自分の心の弱さに気づけたんですから」


 俺の中に眠る、もう一つの魂。

 ソレが目覚めた時、俺の魂は飲み込まれ、クロノス・バルメルドは完全に消える。

 そしてもう一つの魂が表に出てくる条件は俺の精神が不安定になった時らしい。

 つまり、俺が恐怖に怯えたり等の状態になると支配権を奪おうとしてくる。

 もう一つの魂を表に出さず、なおかつ俺がクロノス・バルメルドとして存続する為には心を強く保ち続けなければならない。

 今まではそれができなかったせいで、もう一つの魂に侵される幻覚や幻聴に見舞われていたけど、影山のおかげでそれから逃げず、気づくことができた。

 俺の中の恐怖心と向き合うきっかけをくれたのは影山だった。

 なら、その影山を師として自分の心を鍛えようとするのが俺にとっては一番望ましいのだ。

 しかし、影山はその話を聞いても首を横に降るだけだ。


「お前が俺のことをどう思おうとは構わんが、一度お前に手を伸ばしたからと言って師匠にまでなるつもりはない」

「えぇー……」


 頑なに師匠となることを拒む影山に不満の声を漏らす。

 俺は別に、影山になら師匠をやってもらたいと思っているのではなく、本気で影山に憧れ弟子入りを志願しているのに。


「心を鍛えたいのなら自分一人でもできるだろう。わざわざ俺に弟子入り必要は皆無だと思うが?」

「……でも、人は強くないと生きていけないって言うじゃないですか。実際、俺は弱いと思います……心も力も……でも、どこまで強くなればいいかなんて分からない。力はこれから強くなるかもしれませんけど、心の方はどうすればいいかなんて、分からないですよ。俺」

「そうだな……。どこまで強くなればいいか、なんて明確な線引きはない。生きてれば何度も傷つき、転びもする。だがそんな時、心だけは強くなければ負けてしまうだろう。自分に」

「じゃあ、俺を弟子に……」

「断る」


 キッパリと断れ、切なさから「くぅ〜ん」と情けない声が漏れてしまう。

 流れでいけると思ったんだけどなぁ。


「お前には、俺の持っていた魔道具をやっただろう。それで我慢しろ」

「魔石を装填すると魔法効果を得られるグローブ──これって何なんですか?影山さんのお手製で?」

「いいや。それは本来、ライゼヌスが戦争での使用を予定していた──兵器になるはず(・・・・・・・)だった物だ」


 戦争に使う、とは穏やかではない。

 しかし口ぶりからして、実用化には至らなかったのだろう。


「本来は(グローブ)(ブーツ)のセットで使用する。が、俺は足技の方が得意だ。剣や槍の武器はどうも手に馴染まない。だからブーツだけを使っている。魔石を装填することで装着者に魔法効果を付与し、身体能力を強化することもできる。製造途中で計画は中止になったがな」

「どうしてですか?使ったから分かります。これかなり性能いいじゃないですか」


 腕と脚に装着するだけでかなり能力が強化されていた実感はある。

 実際、これを着けていたおかげで魔物化したカーネの硬い皮膚を斬り落とすことができた。

 この魔道具の良いところは、自分のマナを一切使わないところだ。

 大樹ユグドラシルを失って、マナの濃度が薄くなったこの時代では、まさに神器のようなアイテムだろうに。


「問題がいくつかある。

 一つは製造コスト。グローブとブーツ自体は造るのに時間はかからないが、魔法効果を付与させる為に使用する魔石の供給が間に合わなかった。魔石は希少価値が高い為に揃えるのにも時間がかかる上、両道具の装填部に合わせた大きさに削るのにかなりの技量がいる。魔石の代金に職人を雇う賃金、それだけでも当時は豪邸が立つのに十分だったらしい。

 二つ目は魔道具の効果時間。こいつは未完成品、しかも燃費が悪い。当初の予定では長時間による運用が想定されていたが、実際には連続使用すると魔石に蓄積されているマナが三分と保たずに消費され石ころになる。魔道具に施された魔法陣の効力が強すぎるせいらしい。戦闘中三分置きに、残量を無視すれば一分保たずに魔石を交換しなければならない。しかもその間は無防備な状態になってしまう。

 三つ目は磨耗の早さ。この世界の革製品は消耗が早い。いくら手入れをしていても、必ずくたびれてしまう。そうなると魔道具としての効果が薄まって取り替えも早くなる。

 この三つの問題のせいで製造は中止され工場も閉鎖されたと言う訳だ」


 影山の挙げた問題点を聞くと、確かに製造中止になったのも頷ける。

 俺の持っている剣だって、魔石が埋め込まれている。

 十年前に王都で俺の剣を造るってなった時、無属性の魔石は高いから予算についてジェイクと店主が相談していたのを思い出す。

 子供の俺には金の心配はするなとジェイクは教えてくれなかったが、きっとこの剣を造るのにもかなり資金を使ったはず。

 そんな物を戦争で使う為に大量生産するとなると、財政難に陥りそうな話だな……


「でもそうなると、なんで影山さんはこの魔道具を持っているんですか?」

「破棄されそうになったのを回収したんだ。コイツの試作品の運用テストに参加していた時期があったからな。捨てるぐらいならと貰った。魔石の加工も知り合いに頼んで揃えたんだ」


 話を聞いて「へぇー」と納得しながらツールポーチの魔石を一つ取り出す。

 取り出したのは赤い魔石、触れた指から感じる僅かな熱。

 内側を覗くと魔石内部で微かな火の揺らめきが見える気がする。


「この魔石って、蓄積されたマナを使い切ったら石ころになるんですよね?もう一度マナを蓄積させることってできないんですか?」

「残念だけど無理よ」


 思いつきを言葉にするも、それを否定したのはティアーヌだった。

 『魅了(チャーム)』を馬車を引くヨハナにかけない為、少し離れた位置から会話に混ざってくる。


「魔石は──何十年、何百年と長い時間をかけて、魔石の素となる鉱石が空気中に漂うマナを吸収して出来上がるのよ。だけど魔石を使用すると、マナを蓄積する効力も一緒にマナと一緒に排出されて消えてしまう。だから、一度使い切って効力の無くなった魔石を、もう一度元の状態に戻すのは無理」


 使い切り電池みたいなもんなのだろうか。

 でも、魔石の使い回しは無理ってことかぁ……ストックが余り無いから補充したかったんだけどなぁ。

 前回、カーネたちとの戦いで四つ魔石を消費した。

 その時に一本しかなかった雷属性の魔石を使用してしまったのだ。

 火、水、風は各二本残ってるが、土属性は一本しか残ってない。

 一番ストックに余裕があるのは七本残ってる氷属性だけだ。


「影山さん、雷属性の魔石ってまだストックあります?」

「ない。氷属性だけなら、まだ十本近く残ってる」

「なんで氷属性だけ余ってるんですか……」

「相性が悪いらしくてな。氷属性だけは、何故か威力が出ないんだ」

「意外ですね。氷属性、苦手なんですか?」

「と言うより、魔法自体が不得手なのさ。俺は元々……魔法が使えないからな」


 魔法が使えない。

 その発言に「え?」と思わず振り返り、その意味を問おうとする。


「バルメルド君、見えてきたわよ」


 しかしそれは、ティアーヌによって遮られてしまう。

 彼女が指差す先、茂った葉に隠れ長らく放置されていた案内看板が見えた。

 『この先 ニケロース領の村』消えかけでそう書かれた看板と暗闇に包まれ、手入れのされていない砂利道。

 魔物に占領され無くなってしまった故郷に、俺は再び帰ってきたのだった。

次回投稿は来週日曜日22時からです!

面白いと感じていただけたら、ブクマか評価を是非お願いします!創作力に繋がります!喜びます!泣いて喜びます!

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