第百六十一話 クロノスvsカーネ&影山vsゲイル
連続投稿二日目!
カーネ戦二話目です!
族長の部屋で見つけた隠し通路を抜けると、そこは不自然な空間だった。
木の中なのに天井から光が降り注いでおり明るく、まるで何かに優しく包み込まれるような感覚を覚える。
だが状況は優しくはない。
ゲイルとカーネに追い詰められたベルたち。
今俺は、そのベルたちを守ろうと間に入り剣を向けている。
もしこのままゲイルたちが俺を押し退けベルを捕まえようとすれば、背後から影山たちが攻撃を。
撤退しようとすれば、俺が背後から攻撃できる位置取り。
影山の指示通りの陣形には持ち込めたものの、まだ安心はできない。
「悪いベル、道が混んでで遅れた」
「ク、クロ君……どうしてここが?」
「あぁ、隠し通路?仕掛け壁に血が付いてて、すぐに見つけたよ。気づいたのは俺じゃなくてティアーヌさんだったけど」
背を向けたまま会話をし、目の前のゲイルとカーネから視線を離さないように努める。
俺の言葉に思い当たる節があったのか、ゲイルが利き手である右手の指を確認している。
あの血はゲイルが指で触れた時のだったらしく、チッと舌打ちが聞こえた。
「ったく、テメェといいそこの帽子野郎といい、肝心な場面で邪魔しに出て来やがる。俺のファンかお前らは!?」
「かもな。お前の現れる所ならどこへでも行ってやる」
影山の返しにゲイルはハッ!と鼻で笑う。
俺は向けていた剣を降ろすとゲイルにカーネの正体を告げることにした。
「ゲイル、あんた知ってるのか?隣にいる男の正体を……そいつはな」
「魔王ベルゼネウスの手下……だろ?」
「知ってたのか!?」
「あぁ、最初に取引を持ちかけられた時からな。俺たちにモンロープスを売ったのもこの男さ」
「知ってて……協力してるのか!?ベルは最後の巫女、その彼女が魔王の手に堕ちれば、この国は滅ぶかもしれないんだぞ!?」
「なに言ってんだ。もうとっくに滅びてんだろ……この国はよ」
聞き取れるのがやっとの声量でゲイルは呟く。
だが次の瞬間、もっていた棍棒を勢いよく振り下ろし、樹木の床に小さな亀裂が入る。
「伝説の魔王を封印する巫女は七人が捕まって、魔王を倒せるって噂の勇者も未だに現れねぇ!魔王に支配されるのも時間の問題……だったら、今の内に恩を売って、取り入るのが賢いってもんよ」
「悪魔に魂を売って、化け物に変えられてもか……?」
「それで生き残れるなら、化け物にだってなるさ」
「……あんたに、プライドってものはないのか?」
「プライドじゃ、腹は満たせないんだよ」
話し合うだけ無駄のようだ。
俺とゲイルじゃ、根本的に考え方が違う。
隣で話を聞いていたカーネは退屈そうに欠伸をし、
「もういいだろ。ぼくらがお前と話す必要なんかない。邪魔をするなら、殺す方が遥かに早い」
「ヘッ、それもそうだな」
カーネの提案にゲイルが賛同すると二人が左右に別れ歩き出す。
俺と影山に挟撃をさせない為か。
別れて広がるに合わせ俺と影山も移動し、俺がカーネと、影山がゲイルと対峙する形となる。
その間にティアーヌはベルたちの元へと駆けつけ、俺の代わりに三人を守ろうと前に立つ。
「皆さん、私より前に出ないで下さいね。じゃないと守りきれないんで」
その言葉にベルと護衛が頷くのが見える。
ティアーヌが守りを固めるのなら、安心して戦えそうだ。
対峙していたカーネの全身が黒い瘴気に包まれる。
二本の角を生やし、背に翼が生え、鋭い尾と爪が生え、皮膚が黒く変色し、悪魔へと変貌を遂げてみせた。
『さァ、クロノスゥ!あの時の恨みィ、存分に味あわせやるぞォ……!』
「逆恨みもいいとこだな、オイ」
苦笑いしながら右手首をチラ見し、スロットに装填されている魔石の状態を確認する。
今装填されているのは氷属性の魔石。
色に濁りはない……まだ使い続けても大丈夫だろう。
緊迫した状況に鼓動が早くなり息が詰まりそうだ。
一度深く呼吸をしていると、背中越しに影山が声をかけてくる。
「どうした、怖くなったか坊主?」
「……まぁ、正直言うと」
この人の前で強がってもすぐに見透かされてしまうだろうから、正直に答えておく。
俺は魔王以外で悪魔族との戦闘はこれが初めてだ。
悪魔族の力が強力なのは、魔王と戦って死ぬ程身に沁みてる。
しかもカーネはその魔王から直に力を分け与えられたらしく、使う能力も同じ黒い瘴気。
アレを見るだけでも俺の中の弱い心が悲鳴を上げている。
また同じ目に遭う前に逃げた方がいいんじゃないかと囁いている。
でも……逃げないと決めた以上、後退はありえない。
戦う以外の選択肢は、今の俺にはないのだから。
少し情けないと内心思っていたのだが、
「それでもいい」
「え?」
「人間、多少臆病な方が長生きできる」
「そう、かもしれませんね」
小さく笑って答えると、少しだけ緊張がほぐれた気がした。
やっぱ、この人はすごいな……
「行くぞ、坊主」
「はい……!」
覚悟を決めて剣と盾を構え直す。
絶対に死なない……絶対に負けない……俺は勝つ!!
目の前のカーネだけに集中する。
右腕のグローブを通して剣にマナが込められ、刀身が冷気を帯びる。
初撃は突きにすると決め、睨み合う互いの視線がぶつかり──弾けた。
「うおおおお!!」
『だああああ!!』
地面を蹴り飛び出す。
咆哮を上げながら突撃し俺は剣を、カーネは右手で爪による突きを繰り出す。
互いの攻撃が交差し、俺は爪による突きを盾で受け流した。
だがカーネは俺の剣を防ごうとはせず、剣先は吸い込まれるようにカーネの左肩を──貫くことなく止まる。
剣で岩を打ち鳴らした時のような音が聞こえ、繰り出した突きは皮膚によって止められてしまっていたのだ。
『どうした、効かないぞ?』
皮膚が──硬い!
悪魔がニヤリと笑い、左手で剣を掴もうとするので急いで離れる。
だが距離を詰めようと、カーネはゆらりと前に歩み出た。
「土よ!壁となれ!」
後退しながら地面にマナを流して飛び退く。
しかしそれだけでは足止めにもならず、生成した壁を爪で破壊しながらカーネは懐に飛び込み、鋭い爪を突き出してくる!
眼前に迫る鋭利な爪、近距離まで接近されれば盾で防ぐことはできない。
咄嗟に顔を逸らして避け、飛び退いて距離を離す。
頬に何かが伝う感触に気づいて右腕で拭うと、革のグローブに僅かに血が付いていた。
避けきれずに掠めてしまったみたいだ。
拭われた血を見てニヤニヤと笑うカーネ。
それを見て、今度は俺から攻める。
正面から接近し、カーネが反応し左腕で払い退けようとするのをしゃがんで躱し、左側に回り込む。
剣を逆さに持ち直し、剣先をカーネの左脇腹を突く。
が、刃が通らない!
黒い皮膚にまたしても阻まれてしまい、剣は脇腹を貫くことなく弾かれてしまう!
「くそっ!だったらこれで!」
振り向かれる前に更に背後に回り込み、今度は更にマナをふんだんに流しんだ剣を、首目掛けて振り下ろす!
だが……その一撃すらも、カーネは左腕一本で受け止めてしまった。
『どうしたクロノス……もう終わりか?』
剣を受け止めながらカーネが目を細める。
その視線に身の危険を察知し、慌てて距離を離す。
俺が飛び退くと同時に、先程まで立っていた場所に黒い瘴気の塊が出現した。
数は一つや二つではない。
カーネを中心とし、三十以上の瘴気の塊が突如として出現したのだ。
アレの威力は一度目で見ている。
絶対にまともに喰らっちゃダメなやつだ!
『消し飛べ、クロノスゥ!!』
カーネが腕を振るうと、瘴気の塊が一斉に俺の元へと飛び込んでくる。
触れたらどうなるか予想できない攻撃を盾で防ぐ訳にもいかず、ひとまず避けるしかない。
飛来する瘴気を躱す為、風魔法を脚に纏わせて右へと跳び避ける。
風魔法のおかげで跳躍力が増して瘴気を避けることはできたが、後方にティアーヌたちがいるのに気づかず、何発か四人の元へ飛来する!
「しまった……!」
既に通り過ぎてしまった瘴気を止める方法がない!
瘴気は勢いを落とすことなく、ベルたちを守る為に前に立つティアーヌに迫り、
「全員、頭を下げてて!はあっ!」
警告を促し、接近する瘴気を前にティアーヌは両手で握った杖で空を薙ぐ。
すると不思議なことに瘴気の動きにブレが見えると、直進していたはずが突然軌道を変え、ティアーヌたちを避けて、離れた壁や天井に衝突した。
何をしたのか俺にはいまいち分からなかった。
分からなかったけど、とりあえず!
「すいませんティアーヌさん!ありがとうございます!」
「いいから!後ろ!」
瘴気を通してしまったことと防いでもらったことに礼を言うと背後を指差される。
振り返ると同時に懐近くまで踏み込み、喉目掛け爪を立ててくるカーネが目前に!
右足を軸に一回転しながら避けて対応するとカーネの背後に回り込む。
そして隙だらけの背中、翼を斬り払う──が、それをカーネの尾に受け止められ阻止されてしまう!
しかも剣を受け止めた尾は傷一つついてない。
どこもかしも頑丈過ぎだろコイツ!
『ぬうッ!』
振り向きながら今度は左手の爪を振るうカーネ。
それも盾で防ごうとしたが、反応が間に合わずに左腕に鋭い痛みが走る。
カーネの爪が俺の左腕の肉を斬り裂いたのだ。
だけど傷は浅い。
爪先が僅かに腕を掠めた程度で動かすのに問題はない。
剣を振るうには距離が近過ぎ、もう一度離れようとするが、それを見てまたしてもカーネは瘴気の塊を発生させぶつけようとしてくる!
距離が近ければ爪攻撃をされ、しかもこちらの攻撃は硬い皮膚のせいで通らない。
逆に距離を離せば瘴気による遠距離攻撃をされる。
厄介すぎるだろコイツ!
『逃がさないぞぉ!』
避けるのが間に合わない!
そう判断して瘴気を盾で受け止めると強い衝撃に左腕全体が襲われる。
まるで大型の獣に正面から激突されたかのように。
勢いを殺しきれず足が地面から浮き、踏ん張りが効かなくなる。
続けざまに瘴気が撃ち込まれ盾で受けるも足が浮いているせいで吹き飛ばされてしまう。
「うわぁっ!?」
吹き飛ばされると背中を硬い物に叩きつけられた。
だけど叩きつけられた瞬間、「うおっ!?」と人の声がする。
影山さんとぶつかった!?と思い後ろを振り向くと、俺がぶつかったのは影山ではなく──ゲイルだった。
「「え?」」
二人して顔を合わせ疑問符を浮かべると、
『ゲイル、そいつを捕まえておけ!』
俺の動きが止まった瞬間を狙って再びカーネが瘴気を放つ。
そこにゲイルがいるのも御構い無しに。
「「うおおおお!?」」
二人分の悲鳴が響くと同時に瘴気が爆発し、俺とゲイルは爆発に巻き込まれてしまうのだった。
クロノス視点だと影山戦まで意識が回らないので描写がないですが、後々他人の戦闘にまで気が回るようにさせて多人数戦描写もやってみたいです。
次回投稿は明日22時から!
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