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第百六十話 それぞれの因縁

8月もあと三日で終わるので連続投稿です!



 クロノスたちが合流し、隠し通路を見つける数十分前──


「巫女様、族長様、こちらです!」


 ゲイル盗賊団の襲撃の報告を受けた妖精族の里は混乱に陥っていた。

 長である族長と巫女のティンカーベルは、自警団であるエルフやドリアードたちに先導され、屋敷の隠し通路を進んでいた。

 人が二人並んでも優に通れる通路内でドリアードの男に先導してもらい、ティンカーベルは歳老いた族長を支えながら急ぎ足で歩いている。

 本来ならば護衛に若干名いたが、皆ティンカーベルたちを逃がす為に押し入った盗賊たちの足止めを買って出た。

 結果、護衛は彼一人だけとなってしまったのだ。

 自分たちを逃がす為に残った護衛たちの安否に後ろ髪引かれる思いで、ティンカーベルは暗闇に包まれた通路を進む。

 光源は先導するドリアードの松明のみ、見えない背後からは、いつ盗賊たちが襲ってくるかもわからない不安を煽る。

 だが、ティンカーベルに支えられながら歩いていた族長の足が止まってしまった。

 大きく肩で息をし、胸を押さえ額には汗が滲んでいた。


「族長様、大丈夫ですか?」

「ハァ……ハァ……老体には堪えます」

「少し休みますか?」

「いえ、このまま参りましょう……もうすぐですから」


 首を振り族長は再び支えられながらも歩き出す。

 先の見えない暗闇で出口を求め数十分後、ようやくティンカーベルたちは隠し通路を出ることができた。

 そこは『妖精族の里』の中心に聳え立つもっとも巨大な木の内部、巨大な空間が広がり、天井から光属性の魔石による光が降り注ぐ、里でもっとも神聖であり、一部の者だけしか立ち入ることの許されない──妖精族の神殿である。

 神殿と言っても妖精族の祠が祀られているだけだが、妖精族の始まりの地と崇められている場所である。

 元々は神殿としての建造物があったのだが、この地に植えた木々が年月を経て成長し、神殿を取り込み、祠が祀られていた一室だけがこうして内部に残っているのだ。

 それが偶然なのか、神殿による力なのか……知る者はいない。

 以来歴代の族長たちはこの祠を護り、存在を隠す為に妖精族以外の里への立ち入りを禁ずるようになった。

 元々多種族との交流を好まない妖精族にとって、交流を断つことも祠の存在を隠すことも差異はなかったのだが。


「もっと奥へ行きましょう。反対から族長様を支えてください」


 護衛のドリアードはティンカーベルの言葉に従い、松明を消し族長に肩を貸す。

 左右で支えてもらいながら、族長は祀られている祠の近くまで行って歩ききり、ようやく腰を下ろすことができた。


「巫女様、申し訳ありません……このような婆にも気を遣っていただいて」

「いえ、族長様には返しきれない恩がありますから。でも、外の方たちは大丈夫でしょうか?」

「外はテルマ隊長が指揮を執っているはずでから問題ないかと思います。族長様と巫女様を任された以上、お二人のことは私がしっかりとお守りします」


 里の人たちを心配するティンカーベルに護衛のドリアードは胸を張り、安心させようと強がって見せた。

 クロノスの監視をする為に自分の代わりにと護衛を指名された護衛たち。

 今となってはドリアードの彼一人となってしまったが、人と戦うことを避けてきたティンカーベルにとって、彼の言葉はとても頼もしいものだ。


「それに大丈夫ですよ!ここは一部の者しか入り方を知らない神聖な場所。いくら盗賊と言えど、ここの存在を里の者が喋ることなど絶対に

「おぉーおぉー、すげーなこりゃ!」

 

 突如、粗暴な男の大声が響き渡る。

 驚きティンカーベルたちが声の主の姿を確認すると、隠し通路から現れたのはスキンヘッドで肩パッドに身の丈程の棍棒を背負ったゲイルが、その背後から悪魔の姿ではなく人の姿をしたカーネ・モーチィが現れた。

 二人は隠し通路に続いていた大樹内部を見渡し驚嘆の声を漏らしている。


「こいつは驚いたぜ。こりゃ木の中か?」

「何だか、身の毛がよだつ場所だな」

「そうかい?俺ァ、気持ちのいい場所だと思うぜ?」


 嫌悪感を隠す気もないカーネに対し、ゲイルは目一杯空気を吸い込み深呼吸をする。

 そして奥にいるティンカーベルたちを見つけ、


「んで、あのお嬢ちゃんが噂の巫女様って奴か?」

「ああ。右側頭部に桃色の花を咲かせる女。間違いない、あれが大地の巫女ティンカーベルだ」


 ティンカーベルを捕らえに現れた二人の人族。

 その登場にドリアードの護衛が驚き、腰の剣を引き抜く。

 剣先を二人に向け、ティンカーベルと族長を守ろうと前に出る。


「お、お前たち、どうしてここが!?」

「あぁん?もしかして隠し通路のことか?言っとくが、俺は盗賊だぜ?あんな仕掛け、俺にしてみれば見つけてくださいって言ってるようなもんだぜ。次からはもっと上手く隠す努力をするんだな」


 隠し通路を開けるには族長の寝室の仕掛け壁を押せばいい。

 と言っても、壁の仕掛けに気づかれないように工夫はされていた。

 沈むことを悟られないよう、壁と仕掛けの溝は自然に見えるように隙間がないよう設計され、押し込む時も力が均一で無ければ壁が沈まないよう細工もされていた。

 しかし長年盗賊として様々な洞窟や貴族の家に押し入り強奪を繰り返していたゲイルにとって、そんなものは子供の浅知恵程度でしかなかったのだ。

 仕掛けについてゲイルが言及するとカーネが一歩前に出る。

 そして護衛の後ろで族長を守ろうとしているティンカーベルに声をかけた。


「大地の巫女ティンカーベル。ぼくたちと一緒に来てもらおうか」

「一緒に……?一体、私をどこに連れて行くと言うのですか?」

「魔王城──魔王ベルゼネウスが住まう、君の古巣だ」


 魔王城、その言葉にティンカーベルは目を大きく見開く。


(魔王城!?じゃあ、この人たちは魔王の手先?でも悪魔でも魔物でもなく、人族の人たちがどうして!?)


 魔王と敵対しているはず人族が何故妖精族の里を襲い、何故自分を魔王の元へ連れて行こうとしているのか意図がわからない。

 ティンカーベルからしてみれば当然の疑問だろう。

 魔物化するカーネ・モーチィが魔王ベルゼネウスと繋がりを持っていると知らなければ、彼の発言は支離滅裂としか思えないのだから。


「さぁ巫女様?ぼくたちのところへ」

「お断りします!」


 手を差し伸べたカーネに対し、はっきりと拒絶を口にするティンカーベル。

 族長を庇う為に座り込んでいたが、立ち上がると毅然とした態度でカーネの目を見つめる。


「私は、この世で八人いる巫女の最後の生き残り。私までもが魔王の手中に堕ちれば、地上は魔王によって支配され、二度と悪魔たちを封印することは叶わなくなる。それだけは……絶対に避けなければならないのです!」


 堂々とした立ち振る舞いと言葉にカーネは一瞬たじろぐ。

 だがカーネとてそれで引き下がる訳がなく、ニヤリと笑う。


「いいのかなぁ?この里の命運は今ぼくたちが握っていると言っても過言じゃない。君が素直にぼくらに従ってくれるのなら、里からは手を引こう。それでどうかな?」

「それもお断りします。あなた方は私が見てきた人たちと同じ、嘘をつく目をしてます。そんな人たちの言葉、信用はできません!」


 はっきりとした拒絶にカーネは舌打ちする。

 横で聞いていたゲイルは予想通りの返答だと苦笑し、背負っていた棍棒を下ろして前に歩み出た。


「さすが巫女様だ。面構えがそこらの奴と違う」

「殺すなよ。生きていなければ、魔王様の元に連れて行く意味がない」

「わぁってるって……手足の骨が折れてても生きてりゃいいんだろ?」


 舌で唇を舐めながらゲイルは棍棒を構える。

 鋭い眼光で獲物を見る目、それを向けられているのは護衛のドリアードだった。

 彼はゲイルの放つ威圧感に気圧され、体が震えてしまっている。

 元々妖精族は争いを好まない上に魔王が復活して以来、里の外に出ることすらなかった。

 そんな世代の彼にしてみれば戦闘すること事態が初めてであり、その初実戦が殺し合い、しかも自分が死ねば巫女が連れ去られたら、世界が終焉を迎えるかもしれないという重圧がよりドリアードを恐怖で支配するのだ。


「さぁ、行くぞおおおお!!」


 咆哮を上げるゲイルにドリアードは目を閉じ縮こまる。

 そんなドリアードを見てゲイルは相手にもならない、と口元に笑みを浮かべ突進しようとしたその時──


「ゲイルゥ!カーネェ!」


 彼らの背後、族長宅に続く隠し通路から大声量で自分たちを呼ぶ声が聞こえてきた。

 その大声に誰もが暗闇に包まれた通路へ視線を向ける。

 明かりのないはずの通路から光源がぼんやりと見え、やがて三人のシルエットが浮かび上がった。

 暗闇の中で揺れる二つの眼、農褐色と青色の眼が光を放ちながら近づいてくる。

 通路を抜け姿を現したのはクロノス、影山、ティアーヌの三人。

 先頭を走るクロノスは文字通り眼を光らせながら、既に右手に剣を握っており、一直線でゲイルとカーネに走り寄っていく。


「クロ君!!」

「クロノス!?生きていたのか!」

 

 現れたクロノスにティンカーベルもカーネも驚き声を上げる。

 猛進するクロノス。

 カーネとゲイルに接近し、そして──


「今だ!」


 影山の合図が出た。


「土よ!!」

「《ロックブラスト!!》」


 その合図にクロノスとティアーヌの二人は同時に土属性の魔法を発動させた。

 だが発動速度はクロノスの方が早い。

 得意の身体のマナを足に、そして地面へと流し込む技術でカーネとゲイルの前に岩壁を生成して見せた。

 高さは丁度ゲイルの背丈とほぼ同じぐらい。

 遅れてティアーヌの杖から放たれたのは岩の塊。

 それが放たれる対象は、クロノスの生成した岩壁である。

 砲岩は岩壁に直撃すると砕け散り、また壁も粉々に砕け、ゲイルとカーネを砂煙と岩の破片が顔面に降り注いだ。


「わっぷ!なんだ!?」

「目潰しか!?小僧ォ!」


 思いもよらぬ攻撃に二人が一瞬目を細めた瞬間、クロノスは砲岩が直撃し半壊した岩壁を足場にし跳躍した。

 目眩し後に攻撃が来ると予想していたゲイルだったが、攻撃ではなく頭上を飛び越えるクロノスに意表を突かれ、自分の背後を取られるのを許してしまう。

 跳躍し二人の頭上を飛び越えたクロノスは、着地の際に体を捻り前転をし立ち上がると剣先を向ける。


「来てやったぞ……決着をつけに!!」

 

 ティンカーベルたちを守るようにゲイルとカーネに立ち塞がるクロノス。

 その背後には影山とティアーヌ。

 ゲイルたち盗賊団が現れ始まった襲撃戦も、最後の戦いが始まろうとしていた。

次回投稿は明日の22時となります!

後二日、よろしくお願いします!


面白いと思っていただけたら、ブクマ評価をお願いします!

いただけたらテンション上がってめっちゃ執筆します!

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