第百五十九話 スリーマンセル
本日分の放送で仮面ライダービルドが終わってしまいましたね……一年間ありがとうビルド!
来週から一年間よろしく、ジオウ!
「しゃあっ!行くぞ!!」
魔道具であるグローブから伝わる土属性の魔力を感じ気合いを入れ直す。
ティアーヌの魔法による水の壁が消えると蠍の魔物となった盗賊三人とモンロープスが突撃してくる。
「坊主、いつも通りの陣形だ!」
指示を出しながら影山が盗賊二人の前に立ち塞がる。
その脇を抜けた三人目がティアーヌへ向かおうとするのを俺が阻止した。
三人で旅を始めてから決めた陣形。
影山が前衛として敵を引きつけ、盾を持つ俺が中衛としてあぶれた敵を足止めし、後衛のティアーヌが魔法で援護する。
これが俺たちの基本の戦闘スタイルだ。
大抵の相手ならこれで対応できるのだが、今回は──
「ティアーヌさん、上だ!」
左眼の能力を発動させ視界を巡らせ、僅かに木々が揺れ動くのを見逃さない。
警告すると同時にティアーヌの真上の木からモンロープスが落ちて来る。
後ろに飛び退き避け、
「《雷の精よ。敵を撃ち貫け!サンダーアロー!!》」
着地したモンロープスに雷の矢を撃ち放つ。
だがモンロープスは獲物を逃したと即座に判断したのか、淀みない動きで跳躍し躱すと再び木々に忍び姿を消す。
そう今回はどこから出現するかわからないモンロープスがいるせいで厄介だ。
俺の右眼なら能力を発動している間なら姿を捉えられるが、同時に蠍盗賊の相手もしながら探さなければならない。
しかも相手は、俺の剣が届かない範囲で立ち回りながら、毒針を持つ尾を振り回して来る。
たぶん掠っただけでも即死するであろう毒針を避けながらモンロープスの姿を探すのは正直言って辛い。
かと言って、影山かティアーヌに援護を求めるのも今は無理だ。
せめて、モンロープスだけでも先に処理できればいいのに!
「坊主、相手の力を使え!利用するんだ!」
この状況に憤りを感じていると影山の何か助言をくれる。
相手の力を使え?
力と言ったって、蠍には鋏と毒針の付いた尾しかない。
魔法を使うわけでもないし、利用できるものなんて……あっ、あるじゃないか!
「ティアーヌさん!俺が合図したら、氷属性の魔法を!次左です!」
「わかったわ!」
蠍の攻撃を避けながらモンロープスの位置を教える。
モンロープスの動き早くて、一撃で仕留めるとなると俺たちじゃ難しい。
だから、俺たち三人以外の力を使えばいい。
『シッ!』
「はあっ!」
毒針を突き刺そうと尾が伸ばされ盾で受け流す。
グローブに土属性が付与されいるからか、受け流した時の衝撃は微々たるものだ。
だが尾はすぐに引っ込められ剣は届かない。
弾いてから反撃するのじゃ間に合わない。
狙うなら、攻撃してきた瞬間……そして相手が尾で攻撃して来るタイミングは決まってる!
対峙する蠍から眼を離し、周囲の木々に視線を巡らせる。
そして僅かに揺らめく木々の葉、ティアーヌを狙うモンロープスの影が見え、
「ティアーヌさん!」
振り返り危険を知らせようとする──このタイミング!
俺が視線を完全に外してから相手は尾を突き出してくる。
それを逆手に取って敵の攻撃を誘う。
俺が警戒を自分からモンロープスへと変えたと認識したのか、予想通り蠍は毒針の尾を突き飛ばしてくる。
予測通りの攻撃、動きを見切るのに時間はいらない。
姿勢を低くし、蠍の尾節を剣で切り上げた!
グローブの魔法付与のおかげか、蠍の甲殻に阻まれることなく尾節を切断させることができた。
切り口から青い血が流れ、蠍盗賊は俺から逃れようと身を引きながら尾を戻そうとし、
「逃すか!」
それを追い詰めようともう一度地面を蹴る。
もっとも、俺と盗賊の間にはまだ距離があり剣先が届く距離ではない。
だが俺の目的は本体ではなく、切断され引き戻そうとしている尾の方だ!
本体へと戻ろうとする尾の側面から剣を突き刺す。
刀身が甲殻を貫き、落下防止用の柵に叩きつけられる。
剣は反対側の甲殻まで突き抜け、柵に貫通し蠍の尾をその場に固定させる。
これでこいつはしばらく一定範囲にしか動けない。
「ティアーヌさん!今度は後ろから来ます!足場を氷漬けにしながら避けて!」
「わかったわ!」
指示を出しながら先程斬り落とした蠍の尾節を鷲掴みにする。
毒針に触れないよう注意しながら手に持つとティアーヌへと駆け寄る。
頭上背後から飛び出すモンロープス、予測されていた場所から現れティアーヌは飛び退き避け、そして杖を振るい、
「氷なさい!!」
事前に準備していた氷属性の魔法を杖の先端から放つ。
対象はモンロープスにではなく、先程まで自分が立っていた地点に。
魔法を受けツリーハウスの床の一部が凍りつき氷の床と化した。
その上に飛来したモンロープスが着地する。
今まで通り攻撃を外したらすぐに離脱しようとするのだが、
『キュル、キュッ!?』
氷の床に足を滑らせ盛大に転んだのだ。
体勢が崩れ転ぶモンロープス、この瞬間を待っていたんだ!
「いっけぇぇぇぇ!!」
蠍から斬り落とし右手に掴んでいた尾節を投げつける。
土属性の魔法付与で投げ飛ばした尾節が、魔法で砲岩を放つ時のように威力を増して真っ直ぐに飛んでいく。
そしてバランスを崩し倒れているモンロープスの右腕に毒針が突き刺さった。
『ギュル!?ギュヴヴヴヴ!!』
腕に毒針が刺さりモンロープスが驚き、一つ目が赤く充血し半狂乱になって暴れ出す。
「《氷の精よ。凍てつく氷の槍となりて、敵を貫け!アイスランス!!》」
ティアーヌが半狂乱となったモンロープスへ無数の氷の槍を放つ。
それらは氷の床の上で悶え暴れるモンロープスの体に次々と突き刺さった。
連続で身に受ける氷の槍に驚き、暴れ回ると柵を壊し地面に落下する。
残りは盗賊三人!
先程、剣で尾を柵に固定させていた蠍の盗賊が剣を引き抜いて自由になっていた。
自分を固定させていた剣を投げ捨てると一直線で走ってくる!
『ガキィ!』
毒針を持つ尾を無くし、鋏を使った攻撃に変えてくる。
接近戦になり近づけるのはいいが、今俺の手元には剣がない。
それに影山と同じ魔石を使った魔道具を使っているとは言え、彼みたいに甲殻を壊せるほどの腕力は俺にはない。
何とかして剣を拾うか、別の方法を考えないと!
どう対処するか考えていると足払いを受けてしまう。
鋏を防ぐ為に正面に注意を払っていたせいで気付けなかった。
足を払われ倒れてしまう。
顔面に向かって鋏を鈍器のように振り下ろされ、咄嗟に腕を交差させ盾で受け止めた……が、防いだ瞬間にある違和感を覚える。
グローブに土属性の魔石を装填してからどんなに盾で攻撃を防いでも衝撃を感じなかったのに、今の防いだ攻撃は腕に衝撃を感じた。
気のせいかと思ったが……違う!
交差して左腕を支えている右腕のスロット部、そこに挿されている魔石が濁り始めている!
もしかして、もう魔石の効力が切れるのか!?
「《アイスランス!!》」
鋏を受け止めているせいで身動き取れない俺を、ティアーヌが再び氷の槍を放ち援護してくれる。
しかし盗賊は氷の槍に気づくと飛び退いてしまい避けられてしまった。
だがおかげで俺は立ち上がることができ感謝する。
「ティアーヌさん、ありがとうございます!」
「いいから早く剣を拾って!」
そうだ、剣!と思った時にはもう遅い。
開かれた鋏が俺の身体を断ち切ろうと襲いかかってくる。
盾で受け止めるとまた衝撃を感じる。
さっきよりも強く。
もう魔石の効力が切れているんだ。
新しいのに取り替えないと!
防いだ鋏を振り払い、腰の革ポーチに手を伸ばし中の魔石に触れ、
「冷たっ!」
指でなぞると氷に触れたみたいな感触を指先に感じ反射的に驚いてしまう。
取り出した魔石は半透明で、白い輝きを内に秘め冷気を帯びていた。
氷属性の魔石──影山が使っている姿は一度見ていない……だが、
「っ、そうだ!ティアーヌさん、水属性の魔法をお願いします!」
属性を指定し要請をするとティアーヌは頷いてくれる。
そうはさせまいと盗賊が邪魔に向かおうとするのをタックルして阻止しながら、グローブのスロットに装填されていた土属性の魔石を抜き取る。
濁り効力を失った魔石を捨て、新たに氷属性の魔石をスロットに装填し直した。
「行くわよ、バルメルド君!《アクアボール!!》」
ティアーヌの杖から放たれたのは水弾。
人の胴体を軽く包めるほどの大きさで、放たれた速度も速く威力としては十分あるだろう。
だが盗賊は避ける必要無しと判断したのか、鋏となった右手で上から水弾を叩きつけたのだ。
殴打された水弾は足元の床に落ちると破裂し水飛沫となって散らばる。
床は勿論、甲殻に覆われている蠍の太ももにもたっぷりと。
『デ……コレガドウシタ?』
「こうするんだよ!」
水飛沫を浴びて小馬鹿にしたように笑う蠍盗賊。
その足元を中心に飛び散った水飛沫の近くまで近寄ると、俺は右手を広げて体内のマナを掌に練りこみ水溜りに叩きつけた。
効果はすぐに現れる。
手に触れた水が急速に冷え、水滴から氷へと変化していく。
それはあっという間に広がっていき、水溜りは氷の岩へと変貌を遂げ、水飛沫を受けていた盗賊の膝下までを包み込む。
『ナッ、脚ガ!?』
脚が凍りつき固定されてしまい盗賊は焦りを見せる。
移動することができなくなった盗賊を尻目に自分の剣の下まで駆け寄り拾い上げる。
剣に付属された無属性の魔石に溜めていたマナを流し込み、刀身がマナを帯びたのを確認すると、接近するのではなくその場で剣を斬り払う!
「いっけェェェェ!!」
払われた剣から斬撃が放たれ、脚が固定されていない盗賊に直撃する。
斬撃を受けた盗賊の体は上半身が二つに分かれ、ドサリと上半身が崩れ落ちた。
その光景を目にし、鳥肌が立ち全身の震えを感じる。
嫌悪感と罪悪感による脳の痺れと嘔吐に歯を食いしばり耐えると、すぐに脳を切り替え影山の状況を確認する。
ずっと一人で二体の蠍を相手にしていた影山だが、さすがと言うか全く苦戦をしていない。
むしろ相手とダンスを踊るように立ち回り、攻撃を空振らせ反撃の一撃を決めている。
振りかぶった鋏による攻撃を掻い潜ると相手を蹴り飛ばし、もう一人にぶつけて転ばせることに成功していた。
「影山さん、俺が片方をやります!」
「いいだろう。合わせるぞ」
「はい!」
立ち上がろうと苦戦する蠍の盗賊相手に俺は剣を、影山は右足を引いて身構える。
「はあッ!」
先に動いたのは俺だ。
今度は少ない量のマナで斬撃を放つ。
迫る斬撃に蠍たちは身の危険を感じ左右に分かれ、躱そうと飛び避け、それと同時に俺と影山は飛び出す。
左には影山が、右には俺が向かっていく。
斬撃を躱し体勢の整わない盗賊は、向かってくる俺たちを目にすると尾を伸ばそうと構え、
「《土の精よ、礫の雨となって降り注げ!ストーンエッジ!!》」
ティアーヌの魔法による石の雨が降り注いだ。
容赦無く降り注ぐ礫に蠍の盗賊たちは一瞬たじろぎ動きが止まった。
その一瞬を逃さず、飛び込む……相手の懐に!
そして振り上げる、渾身の一閃を!
「ぜやァァァァ!!」
刃先が甲殻に喰い込み阻まれそうになる。
腕に力を込め、更に刃先にマナを込め、甲殻を割り肉を貫く。
剣を握り締めた手に伝わる……魔物を、元人間を切り裂く感触に、後悔と覚悟を同時に心刻みつける。
一方影山は──
「はあッ!」
駆け寄った勢いのまま蹴りを突き出し、盗賊の胸部を蹴りつけた。
魔道具の効力により強化された脚力により、蹴りを受けた盗賊は身を守る甲殻を粉砕されながら近くの家屋へと吹き飛んだ。
壁を壊し、内部の家具に埋もれるともう立ち上がってくることはなかった。
終わった……と大きく息を吐いて呼吸を落ち着かせる。
全身を駆け巡る熱と興奮が下がっていき、五度目の呼吸でようやく頭に上っていた血が下がる。
「ふぅ……ふぅ……」
「バルメルド君、大丈夫?」
「はい。援護ありがとうございました」
心配してくれるティアーヌにお礼を言うと右腕のグローブに目を向ける。
装填されていた氷の魔石はまだ効力を失ってはいない。
まだまだ使えそうだ。
「二人とも、行けるか?」
「問題ないです」
「私も大丈夫よ」
「なら急ぐぞ。族長宅はもう少しだ」
息を整え終わりその場を後にする。
自分が手にかけた二人の盗賊のことを、忘れないようにもう一度目に焼き付けながら。
✳︎
族長宅に着くと、既に戦闘が行われたのか惨状が広がっていた。
散乱した調度品に、割られたテーブル、血を流し倒れた妖精族の兵士たち。
盗賊の死体も何人か見受けられるが、ゲイルとカーネの姿はそこにはない……もちろんベルの姿も。
「影山さん。直前までここで族長と話しをしていたんですよね?ベルがどこに隠れているかと、別の場所に避難したかわかりませんか?」
「襲撃の報を聞いた時、俺は武器を取りに倉庫の場所を聞き出し飛び出した。だから王女たちがどこに身を潜めたのかは知らない。だが、これだけ大きな家屋だ。しかも里の重鎮が住んでいるんだ。
こういった有事の際に備えて、当然造られているはずだ」
「「隠し通路」」
影山と意見が一致する。
そうと決まれば後は早い。
「上階を探すぞ」と二階へと続く階段を全員で駆け上がる。
二階はベルや族長たちの寝室があったはずだ。
ここでも戦闘があったらしく、廊下にはエルフと盗賊が何人か倒れていた。
「三階は俺が行く。坊主と魔女はこの階を見て回れ」
二人で頷くと影山は三階へと赴き、俺とティアーヌは二階の捜索を始める。
来客用の部屋もある為、部屋数は多いが二人で見て回るには十分だ。
一部屋ずつ開けて調べ、隠し通路を開けるスイッチがないかとか、箪笥やクローゼットの裏に隠されていないかと探すが見当たらない。
そうして部屋を総当たりしていき、
「ここは、族長の部屋か」
古い書物や歴代の族長の肖像画が飾られている部屋に着く。
他の部屋よりも一回り広い部屋には、ベッドと机、カーペットなど、どの部屋よりも上質な物が揃えられている。
だがカーペットには誰かが何往復したのか、泥の足跡がべったりと付いていた。
「ちょっと、あそこを見て」
部屋を見回しているとティアーヌが何かを見つけたようで指で示す。
示す先にあるのは一見変哲のない木質の壁だ。
唯一おかしな点があると言えば、示した場所にだけ小さな血痕が付着していることだが……
「なんでこんなところに血が?」
この部屋は至って綺麗だ。
荒らされた痕跡はないし、何かを持ち出したという感じもない。
普段から掃除も行き届いているのだろうから目立った埃もない。
だからこそ不自然なのだ。
壁に付着している血が、何の為に付けられたのかが。
血痕の大きさは大きく、目を凝らしてみると指紋が残っている。
「バルメルド君、少し離れて」
突然ティアーヌに下がるように言われる。
何かに気づいたのだろうと思い、言われた通りに三歩ほど後退すると、ティアーヌは血が付着している壁にゆっくりと左手で触れる。
すると──触れている壁の一角が沈み、ガコン!と何かがハマる音が聞こえてきた。
続けてガタガタと大きな音を立てながらすぐそばの壁が上にズレ始め、二人並んでも優に通れる大きさの隠し通路が目の前に姿を現わすのだった。
「見つけた!こんな仕掛けだったのか……」
「カゲヤマさんを呼びにいきましょう。なるべく急いで……もしかしたら、もう盗賊たちはこの奥に進んでるかもしれないわ」
頷いて上階にいる影山を呼びに戻る。
隠し通路を開く為の仕込み壁に血が付いていた。
もしかしたらそれは、里の兵士たちを殺した奴に付いていた返り血かもしれない。
のんびりはしていられない。
ベル……まだ無事でいてくれよ!
一年と言えば、この第四章の連載を始めて一年経つんですよね……
終わりまでの構想はもうできているのに、後何話で終わるのかさえ書いてる自分でもわからねえ
でも、年内には絶対終わらせますから!
終わりをどうするかはもう決めてますから!
次回投稿はいつもと違います。
8月ももう終わりますで、次回は29日から31日までの三日間連続投稿となります!
時間はいつも通り22時から!
皆さんよろしくお願いします!




