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第百五十八話 魔道具と魔石

もう8月も中旬。

そろそろ連続投稿の準備をしなければ……


蠍となった盗賊たちを退け、三分間の休息を取ることとなる。

俺は心を落ち着け水分補給を済ませると、亡くなったテルマたちに手を合わせていた。

本当は埋葬してあげられるといいのだが、妖精族式の葬いの方法を知らないので、それぐらしいか思いつかなかった。


「坊主」


荷物を確認していた影山に呼ばれるが……さっきは「クロノス」って名前で呼んでくれていたのに、いつの間にか「坊主」に呼び方が戻っていた。

そのことに少し寂しさを覚えていると胸元に何か飛び込んできた。

慌てて受け取ると、それは革で出来たグローブだった。

少し古いが手入れはしていたのだろうか、ヨレてはいても比較的綺麗に見える。

なぜグローブを?と疑問を口にしかけたが、渡されたのが何かすぐに分かる。

このグローブは、手首の少し下に窪みがあったのだ。

形状からして薄く長方形型の物体を挿入する為の窪み──そう、影山が魔道具のブーツに使っている魔石と同じぐらいの物が。


「影山さん、これ……」

「俺が昔使っていた古いので悪いが、問題なく使える。今のお前なら使えるだろう。魔石はこれを使え」


また道具袋から何かを投げ渡される。

それは影山が腰に装着しているツールポーチよりも一回り小さい革のポーチ。

開けて中身を確認すると、六色の魔石がびっちりと収まっていた。

しかしその数はバラバラで、赤い魔石が二個、青い魔石は二個、緑の魔石は三個、黄の魔石は二個、紫の魔石は一個、白の魔石は八個だ。

今まで影山の戦いを見てたからそれぞれの色がどの属性かは大体わかるが、緑と白の魔石は初めて目にする。

緑は風属性だろうけど、白はなんだろう……氷属性か?


「それは予備の魔石だ。くれぐれも無くすなよ」

「え……でも、影山さんが使った方がいいんじゃ?」

「俺は手を使った戦いができん。剣を使うお前なら、そのグローブは相性がいいはずだ」

「……わかりました。ありがとうございます」


左腕に装着してた盾を一度外し、グローブに手を通してみる。

肘の少し手前までをすっぽりと覆われるが、やはり影山の使っていた物だからか少しぶかぶかだ。

ずり落ちないように紐をキツく縛ると、ようやくぴったり合う。


「ちょっと大きいけど……大丈夫そうです」

「よし。魔女の所まで急ぐぞ。合流したら、もう一度族長の家に行くぞ」


休憩を終え、装備を整えると移動を始める。

ティアーヌが監禁されている場所は里の端、湖が見える小屋だ。

場所は覚えていないが、あんなボロ小屋見ればすぐに分かるし見つけやすい。


「上のツリーを伝って行くぞ。地上にいるよりかは囲まれにくいし、周りもよく見える」


提案に従い、梯子を上ってツリーハウス同士を繋ぐ吊り橋を使って移動することに。

だがツリーハウスにも盗賊たちはいる。

隣の家に移ろうとする先には盗賊が二人、こちらに気づく。


「おい、まだいたぞ!あそこだ!」


吊り橋を渡りこっちに近づいてくる。

橋の幅はギリギリ人が二人並んですれ違える程度しかない。

橋の上で戦うより、足場のしっかりしているツリーハウスで戦った方が良さそうだ。

それに盗賊は魔物化する……その前にケリをつけないと!!

橋を渡る盗賊たちに向かって、マナを溜めて剣技による斬撃を


「……坊主!そいつらは殺すな!」

「えっ、えぇ!?」


斬撃を撃とうとした矢先に待ったをかけられ戸惑う。

そのせいで溜めていたマナのコントロールが不安定になり、斬撃のイメージが消えて撃てなくなる。

吊り橋を渡りきった盗賊の一人は俺に短剣を振るい、もう一人も影山に短剣で斬りかかる。

俺が盾で短剣を防ぐ中、影山は軽快な足さばきで上手く躱していた。


「って、影山さん!殺すなって、どうするんですか!?拘束するつもりで!?」

「地面に落とすんだ!こいつらは殺す必要はない!」


言ってる意味が理解できない!

殺す必要がないけど拘束する訳でもなく地面に落とせって……どんな意図があるんだ!?

混乱している間に影山は攻撃を躱しながら柵へと後退していく。

そして手すりギリギリまで下がり、


「ちょこまかしやがって!」


盗賊が短剣を突き出した瞬間、素早く背中に回り込んだ!

背後から蹴りを決め、柵から突き落としてしまったのだ。

何が壊れる騒音と共に盗賊は悲鳴を上げ落ちていった。

なんで突き落とすのか理由はわからないが、俺も影山も同じようにするしかない!


「当たりどころ悪くても、恨まないで下さいよ!」


断りを入れ、盗賊の突き出したナイフを盾で弾き、続けざまに盾で相手の顔面を横断する。

短い悲鳴が聞こえ、盾がぶつかった衝撃を感じながら、今度は顔面ではなく胴体めがけて突進を仕掛ける。


「うおおおお!!」

「ぎゃっ!」


盾を突き出し、押し出す形で相手を柵まで突き飛ばす。

最後にもう一度脚を踏ん張らせ、弾けるように突進を仕掛けると相手は柵を越えて下に落ちて行く。

落ちた先は民家のようで、屋根を破壊して中に落下したのを確認できた。

それでもまだ生きて入るようで呻き声が聞こえる。


「もういい、行くぞ」

「は、はい。でも、どうして突然殺すなって?」

「あいつらは、魔物に変身はできない奴らだと思ったからだ」


魔物に変身できない奴ら?

俺にはさっき蠍に変身したのと同じ奴らに見えたけど……影山は何を見てそう判断したのだろう。

疑問を口にするよりも早く「行くぞ」と影山は先に走り出してしまう。

問いかける間も無く俺はそれにただつき従うだけだ。

途中、何度か家屋の中や木の上から盗賊に強襲されるが、先程同様下に落として対処する。

ようやくティアーヌが監禁されている小屋に到着する。

しかし──見張りをしていたはずの妖精族の二人がいない。

もちろん盗賊の姿も。

ボロ小屋だから無視されたのか、それとももう中にティアーヌさんはいないのか?


「ティアーヌさん!クロノスです!まだ中にいますか!?」

「バルメルド君!?ええ、いるわよ!外はどうなっているの!?」

「ええと……前に襲ってきたゲイル盗賊団が来てて、それで

「説明は後にしろ坊主!扉から離れろ、蹴破るぞ!!」


状況説明をしようとするも止められ、影山の言葉で俺もティアーヌも扉から離れた。

少し離れたところから影山は助走をつけ、右足で小屋の扉に蹴りを叩き込む。

元々整備もされておらず脆かったからか、はたまた影山の脚力が異常だったからか、蹴りを受けた扉は簡単に壊れ吹き飛んだ──木っ端微塵に。

俺、この人の蹴りだけは何があっても喰らわないようにしよ……


「魔女!」「ティアーヌさん!」


扉を蹴破ると中に飛び込む。

小屋の中を見た俺は唖然とする。

内部の壁には用途の分からない魔法陣やら、動物の頭蓋骨やらがそこかしこに見えたのだ。

監禁小屋と言うより、悪霊を呼ぶ儀式部屋に俺の目には映っている。

こんな気色悪い小屋にずっと閉じ込められていたのかティアーヌさんは……


「二人とも、来てくれてありがとう!私の荷物は?」

「俺が持ってます」

「準備ができたら族長宅に急ぐぞ。奴らの狙いは大地の巫女らしい」

「……どうして盗賊が巫女を?」

「その説明は向かいながらします」


ティアーヌに道具袋と愛用の杖を渡す。

袋をローブの中にしまうだけで準備は十分らしく、俺たちはようやく三人揃うことができた。

監禁小屋を後にし族長宅へ向かう……はずだったのだが、


『見ツケタゾ』


二足歩行で歩く人型の蠍がこの前で俺たちを待ち構えていた。

しかし、全身を覆う甲殻の一部が砕け筋肉が露出している。

もしかして、さっき影山が相手していた時の後退した盗賊か?

しかし一人ではない、背後にはモンロープス一体と、盗賊二人を連れていた。

連れの二人は人間の姿をしているが。


「モンロープスと、蠍の魔物!?どうして魔物が人族と一緒に!?」


初めて人型の蠍の魔物を目にしティアーヌが驚きの声を上げる。

当然の反応だと思うが、あの蠍が元は人間だと知っている俺は剣と盾を構え、いつでも毒針の尾が飛んで来ても叩き落とせるようにする。


「影山さん、あの二人も突き落として対処するんですか?」

「いや、おそらくあいつらも……」


警戒を露わにする影山。

それを証明するかのように人間であった盗賊二人も黒い瘴気に包まれ、蠍の姿をした魔物へと変身を遂げた。


「またかよ!」

「人が……魔物に!?」


悪態を吐くと魔物に変身をした盗賊を目撃したティアーヌが驚愕の声を漏らす。

悪魔族のティアーヌが知らないということは、人が魔物に変異する芸当は魔王にしかできないのだろう。


「あいつらは、魔王に忠誠を誓って人間を辞めたそうですよ。自分たちが助かる為に」

「なんてことを……二度と人としては生きられないかもしれないのに!」


蠍の魔物となった盗賊たちは鋏をカチカチと鳴らし、


『雇イ主カラハ、妖精族以外ハ殺セトノ指示ダ。全員殺セ』


先頭の盗賊は指示を出すと共に毒針の尾をティアーヌに向かって飛ばしてくる!

真っ先に来るだろうと構えていた俺は、いち早くティアーヌの前に立ち盾を振るい弾き飛ばすことに成功する。

だがまだ二人盗賊がおり、両者は同時に飛び出し向かって来るが、片方に影山が立ち塞がった。


「坊主!」

「わかってます!」


言われるまでもなくもう片方の盗賊の前には俺が立つ。

駆けてくる盗賊の正面に立ち、剣の刀身にマナを込めて迎撃を!


『ソイツノ剣ハ受ケルナ!』


剣を突き出した瞬間、魔物となった盗賊の叫び声が響く。

その声に突撃して来た相手は飛び退き、距離を取られてしまった。


『ソノ二人ハ、甲殻ヲ破壊デキル力ヲ持ッテイル。迂闊二触レルナ』


くそっ、初見だったら、油断している相手に今の攻撃絶対当たってたのに。

手の内を知っている相手が一人いると厄介だけど、今助言したやつは甲殻が壊されているから決して近づいて来ない。

確実に俺たちを仕留める為に尾の毒針を使った攻撃を狙っている。

それに奴らにはモンロープスも従えているから……あれ、そう言えばモンロープスはどこに行ったんだ?

さっきまで盗賊の後ろに控えていたモンロープスの姿がいつのまにか消えている。

周囲を見回しても、姿を見つけることができない。

一体どこに……


『キュルキュルキュル!』


モンロープスの鳴き声が降って来る!

しかも俺の真上からだ!


『キュル!!』


里の天井を覆う大樹の木々からモンロープスが葉を散らせながら現れる!

降ってくるソイツは、ムササビみたいに全身を広げて俺を押し潰そうとし、


「《ロックブラスト》!!」


ティアーヌの放った砲岩の雨を受けて吹き飛ぶ。

俺の真上ではなく尾を揺らめかせている盗賊の背後まで吹き飛ばされた。


「びっくりしたぁ……ありがとうございます、ティアーヌさん!」

「余所見をしない!前向いて!」


振り返って礼を言うと怒られてしまい慌てて正面を向く。

完全に油断してた。

こいつら、二人が前衛をし、中衛で毒針による援護をしながら、モンロープスに奇襲をかけさせてきた。

こっちは三人しかいないのに、相手は三人プラス一匹。

数的にはこちらが不利なのに、モンロープスの動きに注意を払いながら戦わないといけないなんて……しかも相手は近づいて来る気配がない。

どうやって戦えばいいんだ?


「坊主、魔石を使うぞ」


ツールポーチから黄土色の魔石を取り出し影山は俺に見せて来る。

そうだ、魔石……さっき影山に渡されたのと同じのを魔道具と一緒に渡されたんだ。

影山の持っているのより一回り小さいポーチ。

腰の後ろに装着しているのを思い出し、左手を伸ばして中から一つを取り出す。

黄土色で薄い長方形の魔石で、指先から角ばった石に触れているような、そんな感覚が伝わったきた。


『ッ!ソノ石ヲ使ワセルナ!』


魔石を見た瞬間に指示を出している盗賊の声色が変わる。

甲殻に覆われているせいで表情は変わらないが、かなり焦っているのだけは声でわかった。

この魔石に自分たちにとって危険な物だと認知しているのだ。

俺たちを妨害しようと蠍の盗賊たちが動き出す。


「魔女、足止めを頼む!坊主、一歩下がれ!」


言われた通りに一歩後ろに後退する。


「《スプラッシュ》!」


それと同時にティアーヌが水属性の魔法を唱え、俺たちと盗賊の間を遮るように水の壁が噴出した。

その勢いは凄まじく、盗賊たちは突破しようとしても阻まれ、毒針を持つ尾を飛ばしても水圧で押し上げられて攻撃は届いてこない。


「坊主、魔石を手首の下にあるスロットに装填しろ!右腕の方だ!装填すれば、後は自動で発動する!」


指示に頷き、手首を返して窪みのスロットを確認する。

左手に持つ黄土色の魔石をそのスロットに挿し込んだ。

スロットに挿し込まれた瞬間、魔石が淡く光を帯びる。

腕に装着していたグローブから何かの刺激を感じる……指先から腕にかけて岩に覆われたみたいな錯覚が起きた。

だけど不快な感じはしない。

むしろ、何かに覆われている安心感を得られる。

それに……今なら普段よりも重い物を持ち上げたり、硬い物を軽々と壊せそうな気がしてきた!!


「気分はどうだ?坊主」

「はい……なんか、今ならあの堅い甲殻でも壊せそうな気がします!!」

「そうか。成功したようだな」


こちらの準備が終わると盗賊たちを遮っていた水の壁が消滅する。

だが、先程脅威も焦りも感じない。

いつもより落ち着いて戦えそうな感じがする!


「しゃあっ!行くぞ!!」

外部バッテリーを得て戦いの幅が広がるクロノス君。

ちなみに、クロノスのグローブと影山のブーツ、元々はワンセットで使いますが四章中はセットで使うことはないかも?

いや、やっぱりあるかも?


次回投稿は来週日曜日です!

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