第十四話 神のお知らせ
魔法を学んだ次の日の朝。
俺は庭で剣術の稽古をした後、魔法の訓練もすることにしていた。
「水よ。噴き出ろ」
水の塊を出す要領で、水を噴水のように出せないかと思い試しにやってみた。
結果は成功。
手の平から水が止めどなく溢れ出てきた。
針みたいに細い水柱一本だけど……
「これ宴会芸で使えるな」
一体何年後に役立つのか分からない技を作ってしまった。
その後も繰り返し挑戦して、手の平から勢いよく水が溢れだせるようになった。
やってみて分かったのだが、魔法と言うのは使用者のイメージの強さで効力が変わるらしい。
「水よ」
水の塊の大きさも、今出している水柱も、頭の中でイメージした強さ、大きさが元となり出来上がるようだ。
その気になれば、手の平から大噴水並みの水柱を出すこともできる。
しかし面白いな、この世界の魔法は。
使い方は人のイメージによって変わるし、使用に必要なマナは外部供給だし、もっと魔法のことを知れば色々できるかもしれない。
今はまだ水属性の魔法しか使えないけど、それ以外の属性の魔法も使えるようになりたいな。
魔法の可能性に夢見ていると、近くの木の枝に一匹の小鳥が止まった。
この辺じゃよくいる小鳥だ。餌でも探しに来たのだろう。
ま、気にせず魔法の練習でもし
「おぉ、もうそこまで気がついたんだ。君頭良いねぇ」
なんか小鳥の口から変な声が聞こえたぞ。
幻聴かな〜?
「そこまで出来たんなら、他の魔法もすぐに覚えられそうだね。いや〜、君の人生が充実しているみたいで僕は嬉しいよ」
やっぱ幻聴じゃねーなこれ。
それならやることは決まってる。
俺は手の平から噴き出る水を止めると、木の枝に止まる小鳥に手の平を向ける。
「水よ!撃て!」
手の平に水の塊が生成され、それを小鳥目掛けて射出する。
勢いよく射出された水弾は小鳥の止まる枝を折ることはできたが、目標である小鳥に直撃させることができなかった。
まだまだ射出してから的に当てるまでのコントロールが不安定だな。
「あっぶないなぁ!君なんで毎回僕に罰当たりなことするのかなぁ!?」
「それが俺なりのあんたへの挨拶だ」
「もうちょっと頭を垂れて祈りを捧げるとか……」
「ねーな!」
第一それ毎朝お前の絵に対してやってるわ。
どうやらギルニウス神様は今回、小鳥の体を借りて地上にご降臨されたらしい。
的当てには丁度いいので、訓練に付き合ってもらおうか。
「とゆーか、どうしたんだよ神様。忙しくてしばらくは来られなかったんじゃないのか?」
「いやまぁ、今も忙しいんだけどね?息抜きに君の様子を見に来たんだ」
「暇なこって。他に観に行く相手いないのかよ」
「一応、他の信徒の様子は天界からは見てるよ?でも君は僕にとって、普通の信徒とは違って特別だからね」
「そりゃどーも」
他の信徒と違って特別と言われると、悪い気はしないでもないけど、俺はそこまでギルニウス教に熱心と言う程でもないので、そんなに嬉しくない。
「バルメルド家の人たちとは上手くやっているようだね。ジェイクが僕に凄い感謝して祈りを捧げてたよ」
「そりゃ、ここで上手くやって行かないと居場所が無くなっちまうしな。ここの人たちは、みんないい人たちだから居心地もいいし」
「結構結構。それなら君をこの家に導いた甲斐があると言うものさ」
「やっぱり、最初から仕組んでたんだな。俺が人攫いの檻の中に転生してたのも、ジェイクが助けにきたのも全部」
「まぁね。最初に言ったはずだよ?考え無しに動いてる訳じゃないって」
そういや、そんな事言っていた様な気がする。
いつだったっけ?牢屋にいた時か?
そう思うと、最初から全部この神様の手の平で踊らされていた気がして腹が立つ。
腹が立つが……今の生活は一応こいつおかげなので、水弾を撃ち込むのは止めておこう。
「んで、もしかしてそれだけ言いに来たのか?」
「まさか、もう一つ用事があるんだよ。一応警告にね」
「警告?」
「もうすぐ、冬が来る」
急に神様の声音が変わる。
いつもの戯けた雰囲気の声ではない。
とても真剣で、とても大切な事だとわかる。
しかし、冬が来ると言われてもピンと来ない。
寒波でも来るんだろうか。
「冬が来ると何かマズイのか?」
「君にとってはこの世界で初めての冬だろうけど、ここは君がいた世界より冬の季節は厄介なんだよ」
「おいおい、まさかまた何か起きるんじゃないだろうな?」
もしや冬になると目覚める魔物がいるとか、盗賊が村を襲いに来るとかか?
一応村には騎士団があるし、その時期はジェイクもいるだろうから危険は少ないだろうけど。
「いやいや、冬は基本的に何もないよ。むしろこの世界では冬が一番平和だよ」
「脅かすなよ!じゃあ冬が来ると何なんだ!?」
「気をつけてほしいのは冬本番じゃなくて、冬に入る前の期間なんだ」
「冬に入る前……?」
「この世界の魔物の行動は、おおよそ普通の動物と同じだ。春に目覚め、夏に繁殖し、秋に食糧を貯め、冬になると──」
「冬眠か!」
なるほど、冬の前に食糧を求めて人里を襲いに来るのか。
そりゃ確かに注意が必要だわ。
「この世界に動物型の魔物ってどれくらいいるんだ?」
「僕も正確な数までは知らないけど、数十種はいるよ。下手したらもっといるかもね」
「ちなみにこの村の付近だと?」
「ここら辺はジェイク率いる騎士団のおかげで、ほとんど冬前に活動する魔物はいないよ」
さすがだぜジェイクお義父様!
俺はできる男だと最初から思ってたぜ!
「むしろ怖いのは、村の外じゃなくて中何だけどね」
「……どういう意味だそれ?この村の中に魔物なんていないぞ?」
「禁断の森」
神様の言葉にビクッとする。
禁断の森って、この村の山に住むエルフが入り口を守ってるあの森のことじゃないか。
「え、あそこって……魔物棲んでるの?」
「そりゃもちろんいるよ。君が戦ったあの大蛇より、さらにタチが悪いのがね」
「マジかよ……」
「魔物って言うのは、人が寄り付かない場所に巣を作るんだ。あの森は普段から人の出入りを禁止しているから、絶好の繁殖地なのさ」
勘弁してくれよ〜、俺は静かに暮らしたいのに。
でもそう言うのって、騎士団が事前に退治なり対策立てているもんじゃないのか?
先程のジェイクの功績を考えると、そんな危険な魔物が棲む森に何もしていないはずがない。
「あの森に棲んでるの魔物はね、ちょっと特殊なんだ」
「一応聞いておきたいんだけど、どんな魔物?」
「知らない方がいいよ。聞いたら夢に見るだろうし」
「それなら確かに聞きたくねーな」
前から禁断の森に関しては近づかないように心がけてたけど、今の話を聞いて絶対に近づかないと心に固く誓う。
あの時戦った大蛇よりタチが悪いと来たら、もう絶対に遭遇したくない。
「わざわざそれを伝える為に来たのか?」
「見た目の通り、信仰してくれる信徒には、とっても優しいんだよ僕は?毎日欠かさず祈りを捧げてる君には特にね」
見てやがったのか……天界すげぇわ。
プライバシーとかないのかよ。
「あ、俺からも聞きたい事があったんだけど」
「悪いけど、そろそろこの小鳥さんが巣に戻らないといけないんだ。一つだけなら聞いてあげるよ」
またそのパターンか!
えーと、じゃあどうしよう。
「俺の左眼!何が仕込んであるんだ?」
俺の質問に神様小鳥が「ニハハハ!」と笑い声を上げる。
それと同時に羽ばたき始め、神様小鳥は木の枝から飛び立とうとする。
「悪い物じゃないよ。じゃあそろそろい行くから!あんまり厄介ごとに首突っ込んじゃダメだからね!」
「いや、悪い物じゃないって何!?やっぱりなんか仕込んであるの!?」
「あ、後水属性だけじゃなくて、火属性の魔法も使えた方がいいよ!じゃあねぇ!」
神様小鳥は翼を羽ばたかせ飛び去ってしまった。
あの野郎……本当に質問一個受けたら帰りやがった。
しかし、水属性だけじゃなくて火属性も使えた方がいいって何だ?
助言なんだろうけど、まぁとりあえず火属性も使えるように練習してみよう。
「悪い物じゃない……ね」
一応、左眼にマナを込めて見る。
左眼を使う時と同じように熱を持ち、能力を確認して見るが、
「…………何も変わんねぇな」
いつもと変わらない屋敷の庭の風景がよく見えてるだけだった。
今日もいい天気だなぁ、ぐらいにしか感じず、俺は左眼にマナを込めるのを止める。
結論、左眼の能力は視界がよくなる能力らしい。
「やっぱ地味じゃねーか!」




