表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/253

第百五十四話 一方的な因縁

ちょっと外に買い物行くだけで汗だくになるの控えめに言って危険すぎる……熱中症だけはなりたくなぁい!


「教えてもらおうか。大地の巫女の居場所を」


 妖精族の里を襲いに来たのはゲイル盗賊団を率いたカーネ・モーチィだった。

 しかもカーネは大地の巫女であるベルを探している。

 頭が混乱して来た。

 なんでカーネが大地の巫女を探しているんだ!?


「何故貴様が巫女様であるティンカーベル様を探している?もっとも、知っていたとしても里を魔物を率い侵略するような輩に教えるつもりはないがな」


 カーネの質問にテルマが聞き返す。

 確かに教える必要はないが、カーネが巫女を狙う理由を聞き出そうとしている。


「理由?そうだな、ぼくらが生き残る為だ」

「生き残る?巫女様を見つけることがか?」

「あぁ。今世界は魔王ベルゼネウスが率いる魔王軍に侵略され、壊滅の危機に瀕している。しかも八人いる巫女の内七人は既に魔王の手中。ぼくらにはもう勝てる見込みはほぼない。負けているんだよ、ぼくらは。

だから、最後の巫女を差し出すんだよ!魔王ベルゼネウス様に!!」

「なっ!?」


 ベルを差し出す!?

 何言ってんだこいつ!?

 それに今、ベルゼネウスのことを様って……


「おいカーネ!巫女を差し出せば、魔王を封印できる人は全員いなくなる!そしたら、俺たちはもう魔王に勝つことはできないんだぞ!?分かって言っているのか!?」

「だから言ったろ。もう七人が囚われ、生贄となってる時点でぼくらは負けてるんだよ。魔王を倒す勇者も未だ現れない。このままだと、ぼくらは確実に魔王によって滅ぼされる。ならさぁ、手土産として巫女を差し出しちゃえばいいんだよ。

 それで降伏してもう歯向かう力を持つ者が一人もいなくなれば、ベルゼネウス様だってぼくらを滅ぼしたりなんてしないさ」

「随分と頭の良い坊やだな。が、滅ぼされなければ、自分たちがどういった処遇を受けるか想像できないわけではあるまい」


 そう、テルマの言うように例え滅ぼされずに生かされたとしても、悪魔族に支配されるだけにしかすぎない。

 人の負の感情を好む悪魔にとって、人類は格好の餌だ。

 降伏すれば一緒飼い殺しにされてしまうに違いない。


「まぁ、未だにこんな森の奥に隠れて暮らしてる妖精族にはわからないだろうね。他の種族がどれだけ惨めな思いをしながら暮らしているかなんて。魔王ベルゼネウス様が、どれだけ素晴らしい力を持ってるかもね!」


 こいつ、完全にベルゼネウスに魅せられてやがる。

 俺は二度も殺されかけて、あいつの恐ろしさは身に染みているのに!

 ベルゼネウスと遭遇した時の記憶は今でも俺の体を恐怖で震わせる。

 あんな相手に降伏をするなんて絶対に御免だ。


「お前、悪魔に魂を売るつもりなのか……!?」

「そうしなきゃ、生き残れないことだってある。例え、悪魔になったとしても」


 悪魔と口にした瞬間、カーネの瞳が黄色く光ったように見えた。

  何故か分からず、全身の毛が逆立つの感じる。

 すると突然、どこからか矢が飛来し、カーネの左肩に深く突き刺さった。

 矢を受けカーネの体が少しよろめく。

 誰が射ったのかと矢の飛んできた方角を確認すると、カーネの背後に並び立つ木の上部に枝に乗り弓を構えていたエルフの姿を見つけた。

 俺たちが話している間に木に登って準備してたのか!


「ぐっ、う、うぅっ……!」


 肩に矢を受け、カーネの苦しそうな呻き声が聞こえる。

 でも、雇い主が倒れれば盗賊たちは全員撤退するはず……


「ぐふっ、ふははは……あはははは!!すごいな!全然痛くないぞ!」


 どうしたんだ突然!?

 さっきまで痛がって呻いていたはずのカーネが笑い始めたぞ!?

 笑いながら右手で左肩を貫いていた矢を引き抜くカーネ。

 その表情は苦痛なんてものを微塵も感じさせない笑みを浮かべている。

 引き抜いた矢を見て「くひっ」と笑うと、射抜かれ動かせないはずの左腕を木の上にいるエルフへと向ける。


「プレゼントのお返しだ!受け取れええええ!!」


 カーネの左手に黒い瘴気が集まる!

 あれはまさか、ベルゼネウスと同じ力!?

 掌に収束された瘴気が放たれ、矢を射ったエルフの元へと一直線で向かっていく。

 木に登っていたエルフは瘴気の塊を避けようと飛び降りるが、それはあまりにも遅すぎ、瘴気はエルフのすぐ近くで爆発し木の枝ごと全てを吹き飛ばし、悲鳴とともにエルフの姿は消えしまった。


「ふふふ、あはははは!すごい、すごいぞこの力はぁ!!」

「カーネ……お前、その力は!?」


 黒い瘴気の力を前に誰もが唖然としている。

 もちろん俺だって……魔王ベルゼネウスの力を二度しか見てない俺でさえ、それが同じものだと理解できてしまう。

 唖然とする俺たちを前にカーネは瞳を黄色く光らせ歪んだ笑みを見せる。


「この力かぁ?知りたいか?見たいか?なら見せて上げるよぉ!もっと面白いものをさぁ!!」


 「らぁっ!」と声を上げると共にカーネの全身が黒い瘴気に包まれる!

 もはや何が起きているのか理解できず、ただ勢い行く噴出する黒い瘴気の衝撃に耐えるしかない。

 だけど、俺は黒い瘴気に包まれるカーネの姿が変貌していくのを確かに見た。

 人の皮が変色し黒く、丸みを帯びた後頭部が長く、頭部に二本の角が生え、無いはずの尾が伸び、手足の短い爪が鋭い爪へと変化し、肉を破り背に羽が生えるのを……


『アァ……アッハッハッハッハ!!成レタ!成れタゾ!ぼくハ、悪魔に成レたゾオオオオオオ!!』


 瘴気を振り払い、人の姿から悪魔へと変身したカーネが歓喜の声を上げた。

 でもその姿はベルゼネウスのような人に近い姿ではなく、どちらかと言えば……


「人族が、魔物に変わっただと!?」


 テルマが全員が心に感じたであろう驚愕を口にする。

 そう、カーネが──人間が魔物へとその姿を変化させたのだ。

 そんな話俺はこっちの世界に来てから聞いたことないし、俺以外で人の姿から逸脱するような現象は初めて見た。

 もっともカーネの姿は、俺の時のような現象とはかけ離れている。

 もし、俺の姿があの黒いミミズに覆われて変身するのが不完全なものならば、カーネのは完全なる魔物への変身。

 まさに、人として姿を捨てたと言えるものだろう。

 人ならざる者へと変身したカーネは自らの姿にずっと喜びを零している。


『はぁ……っ!馴染んできたぁ!やっぱり最高だぁ!』


 魔物に変わり果てた自らの姿にカーネは恍惚の声を漏らすと、右手を俺に向けて伸ばし、手の平にあの黒い瘴気が収束していく!

 今度は俺狙いか!


『バン』


 呟きと共に瘴気が高速で放たれる。

 その速度は俺の目には追いかけるのがやっとで避ける間も無い。

 咄嗟に左腕の盾を構え受け止めようとするが、盾で受けた瞬間に強烈な衝撃と痛みに襲われ、弾かれるように俺の体は地面から離れた。


「ぐああああ!!ぐっ……!」


 瘴気に吹き飛ばされ地面を転がる。

 口の中に土の味がし吐き捨てた。

 なんて威力だ……ッ!

 直撃してたら、無事では済まなかったかもしない。

 受けた左腕にまだ痛みと痺れを感じる。

 これが、人から魔物に変貌した者の力なのか?


『アハハハハ!!いいざまだなクロノス・バルメルド!お前のせいでぼくたち一家は領土から追放された……そのお前をボロ雑巾にできる。こんなに嬉しいことはない!』

「追放、されたのは……お前の行動のせいだろうが!逆恨みだろ!」


 俺の反論にカーネは鼻を鳴らす。

 だがずっと待機していた盗賊たちに、


『ぼくは巫女を探す。一人を残して後は殺せ』


 と指示し、踵を返しこの場を去るつもりだ。


「待て、カーネ!」

『じゃあねクロノス・バルメルド。もし生きてたら、また相手してあげるよ。まぁ無理だろうけどね!』


 高笑いしがならカーネは去っていく。

 その後ろをテルマたちが追おうとするが、残った盗賊六人とモンロープス五体が立ち塞がる。

 そして、盗賊たちの身体が黒い瘴気に包まれる。

 カーネの時と同じ、黒い瘴気に。

 誰もがまさかと思った次の瞬間には、盗賊たちの姿は人ならざる者へと変貌を遂げていた。

 皮膚は甲殻に変わり、手は蟹に酷似した鋏状へ、生えた尾の先端は鋭く毒々しい色の液体が先端から垂れる。

 垂れた液体が芝生に付着すると、煙を上げながら草が枯れて果てた。

 尾の毒に腕の鋏に甲殻に包まれた体は蠍を彷彿とさせる。

 

『殺セ』


 蠍の魔物となった盗賊の一人が呟く。

 それを合図に、蠍の盗賊たちとモンロープスが一斉に襲いかかってきた。

オルタナティブガールズ始めました


次回投稿は来週日曜日の22時からです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ