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第百五十一話 本当に見るべきモノ

梅雨明けして一層暑くなりましたね!

夜も暑くて麦茶が手放せない季節になってきました!


 妖精族の族長宅を後にし、半ば閉じ込められる形でエルフのテルマに仮宅に送られる。


「夜は基本外出禁止だ。もし何かあれば見張りが対応する。私に用があれば見張りを通じて申すように」


 それだけ伝えるとテルマは扉を閉め、部屋には俺と影山だけが残った。

 仮宅には仕切りも小部屋もなく、寝床となる草のベッドが二人分あるぐらいで他には何もない。

 明かりはカンテラの代わりに光属性の魔石を一つだけ渡されていた。

 魔石は拳サイズの大きさで、軽く叩くと内部が発光し照明として使えるらしい。

 里全体を照らしている光も、これと同じ光属性の魔石だそうだ。

 植物の肉体を持つ種族なので、陽の光の代わりとして木々の上に設置して里中に光を注いでいると影山は教えてくれた。

 魔石の明かりを点けて部屋の中央に置く。

 光が強く暗闇に包まれていた部屋を照らしてくれる。


「また暗い顔をしているな」


 冷たい床に座り込むと話しかけられる。

 影山も壁に寄りかかりながら座ると、帽子を脱ぎ俺の目を見る。

 鋭くて、俺の全てを見透かすような、そんな目で。

 それが嫌で視線を逸らし、ベルとの会話を話す。


「ベルは、本当はもっと自由に生きたいはずなのに、巫女だからかと自分を押し殺してまで、巫女であることを演じようとしてました。それが国民の為になるならと……そんなベルに聞いてしまったんです。辛くはないのか?逃げたくはないのか……って、馬鹿な質問ですよね」

「ま、そうだな」


 自虐的な笑うと影山に短く肯定される。

 本当にあの時の俺はどうかしていた。

 ああ言えば、ベルが俺に助けを求めてくるとでも思いがっていたのかもしれない。


「だけどベルは辛くないって、逃げても逃げ場なんてない。自分は、ティンカーベル・ゼヌスだからって……そう答えたんです。それを聞いた時、無性に悔しくて不安になりました。ベルは、それは仕方のないことだって受け入れているのが、友人として、すごく……」


 目の前にいるはずなのに、どこか遠くに消えてしまいそうなベルを見ているのが辛かった。

 もし、俺にもっと力があれば、守れるはずなのに──もっと、チカラガアレバ……!


「そう聞こえたのか?」

「……え?」

「お前には、王女殿下の言葉はそう聞こえたのか?」


 影山の問いの意味が分からず聞き返すと、もう一度同じ問いかけをされてしまう。


「俺には違う意味に聞こえる。王女は、お前の言うように諦めて現状を受け入れている人の言葉には聞こえないな」

「じゃあ……影山さんには、どう聞こえるんですか?」

「抗う為の、言葉だろう」


 抗う、為?


「本人から直接聞いた訳ではないから推測でしかないが、少なくとも王女は自分が巫女であることを不幸とも、仕方のないことであるとも思ってはいないだろう」

「なんで、そんなことを……」

「お前は過去から来たから知らんだろうが、ライゼヌス城が陥落した時、魔王から王城を取り戻そうと最初に立ち上がり軍を率いたのはティンカーベル自身だ」

「えっ!?」


 その話は初耳だぞ!?

 ベルが軍を先導して戦ったと聞いて、思わず声を上げ身を乗り出す。

 影山は淡々と「失敗に終わったがな」と続ける。


「お前は彼女を、『可哀想な宿命』を背負っているなどと思っているのだろう。だが王女はおそらく、そんなことを考えてはいない」

「……どうして、そんなことがわかるんですか?」

「目を見れば、その人物の大体の人となりを知ることができる。あれは諦めや死に怯える目じゃなかった。もっとも、笑顔でも目は笑っていなかったがな」


 そこまで察することができるのか、この人は……


「その点、お前は普段通りに振る舞おうとはしているが、まだ答えを出せずに悩んでいる。王女殿下は逃げずに抗っているのに、自分の情けなさに落胆している点……そんなところだろうな」

「やめて下さい……人の目を見て見透かそうとするのは」

「なら、そんな捨て犬みたいな目をやめて、もっとマシな面構えになることだな」


 肩を竦め小さく笑う影山。

 捨て犬みたいな目……俺は今、そんな顔をしいるのだろうか。

 長いこと自分の顔を見ていないからどんな表情かはわからない。

 でも、以前の自分が見ればきっと……本当に情けない面をしているのだろう。


「坊主、お前がお前の事情で悩むのも生きていれば当然のことだ。だからその答えは自分で出せ。それが今できないのなら、おそらくお前はこの世界では生きていけない」

「わかってますよ……でも、考え続けても、答えなんて……」

「お前がもう一つ魂とやらに囚われる条件と理由は、もうわかっているはずだ。それでも答えが出せないのは、それを認めたくないからだろう?違うか?」


 影山の言葉が胸に突き刺さり、抉りたててくる。

 この人は本当に、どこまで俺のことを見透かしているのだろう。

 俺がもう一つの魂に飲み込まれそうになるのは、俺の精神が不安定になる時……その時は、いつも……


「悩める内は大いに悩んでおけ。人は物分かりが良くなると、悩むことができなくなるからな」


 意味深な言葉を呟くと、影山は「もう寝るぞ」と草のベッドに横たわり背を向ける。

 俺も草のベッドに横たわり、部屋を照らす魔石に背を向け、寝心地の悪さに体が痛くなりそうだ。

 魔石はマナが無くなると勝手に暗くなるので、そのまま放って置いて、眠りにつこうと目を閉じ、


「坊主」


 眠ろうとした矢先、影山に呼ばれた。

 相手がこちらを見ていないので、こちらも背を向けたまま返事をする。


「なんですか?」

「俺は坂田に、ティンカーベル王女を難民キャンプへの同行許可を族長から得る為に派遣された。だが、坂田が族長へと宛てた手紙はあまりにもお粗末なものだった。とても相手を説得できるものの内容ではなかった」

「……?」


 何が言いたいのだろう、影山は?

 坂田の書いた手紙はお粗末なもの……と言うのはおかしな話だとは思う。

 ベルを迎える為に俺たちは来たのに、その手紙が意味を成さないのならば来た意味が無くなってしまう。


「もしかすると、俺が相手をするべきは別なのかもしれないな」

「許可をもらう相手は、族長じゃないかもしれないってことですか?」

「かもな。何を見るべきか、本当に見るべきなのは何なのか……考えないとな」


 そう答え、身動ぎをする音が聞こえると影やはもうそれ以上話しかけてこない。

 本当に、見るべきもの……か。

 最後の言葉を頭の中で繰り返しながら俺も眠りにつく。

 外に聞こえる動物の鳴き声を耳にしながら。

次回投稿はいつも通り日曜22時です!

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