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第十三話 魔法を覚えよう(後編)


「水よ」


 目を閉じ、静かな呼吸でレイリスが呟く。

 伸ばされたその右手にマナが集まり、手の平には指先程の大きさの水の塊がでてきた。


「……やった!できた!」

「できたじゃない!いいわよレイリスちゃん!じゃあ次は、もう少し大きなのを作ってみましょうね!」

「うん!」


 レイリスは飲み込みが早いのか、あんな抽象的なユリーネの説明でもすぐに水を作れるようなっていた。

 最初は一滴の水しか出てこなかったのに、数回で大きさがどんどん増している。

 さすがエルフと言ったところなのだろうか、レイリスには魔法のセンスがあるようだ。

 一方俺はと言うと、


「水よォォォォ!」


 あれから何回も繰り返し、手の平に水を生成しようと試みているが、一滴どころか何にも手の平に出せていなかった。

 そもそもマナを右手に送れているのかどうかすら怪しい。


「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 必死に力んで右手にマナを送っている(ような気がするだけ)のだが、全く水が出現する気配がない。

 次第に力んでいるのも息が続かず、大口を開けて呼吸する。


「ぶはぁ!」

「クロちゃんはまだまだね〜。何でできないのかしら」

「あんな抽象的な説明だけで出来るほど、俺は頭良くないんです!」


 半ば逆ギレ気味に答える。

 何がグッ!としてズイッ!だよ!

 全然分からんわ!

 完璧な説明だったと不満そうな顔をするユリーネに俺は溜息を吐く。

 ここはユリーネに教えを請うより、数回でできたレイリスに聞いた方が良さそうだ。


「レイリス、どうやったらできたのか教えてくれないか?」

「えーと、ボクもよく分からないんだせど、右手に水を出そうって集中したら、出せるようになったよ」

「そっか……」


 レイリスの説明で分かったが、俺とレイリスの考え方に然程差はないらしい。

 俺もさっきから右手に水を出そうと意識してやってるができていない。

 つまり、俺とレイリスで微妙な意識の違いがあるのだ。

 それが分からなければ、俺に水を生成するのは無理かもしれない。


「ふぅ。先生、ちょっと疲れたので、魔法に関する話しをもう少し聞かせて下さい」

「いいわよ〜。気分転換も必要だものね〜。それで、何が聞きたい?」


 何でも答えるわよ〜?とユリーネが笑顔で質問を待っている。

 そうだな……聞きたいことは色々あるけども、


「魔法についてもっと教えて下さい。種類とか」

「じゃあ、魔法の属性について教えてあげる。今あなたたちに教えたのは、水属性の魔法なんだけど、魔法には火、風、土、水、氷、雷、光、闇の合計八種類があるの」

「八個も?ボク、そんなに覚えられない」

「全部覚えてる人は、そんなにいないと思うわ。覚えていたとしても、八属性全てを操れるとは限らないし」

「それはどうしてですか?」

「魔法って言うのはね、人によっては得手不得手があるのよ。火属性の魔法は得意だけど、水属性が苦手な人もいる。土属性が得意だけど、雷属性が苦手な人もいる。場合によっては、どの属性も苦手って人もいるのよ」

「へぇ、じゃあ俺は水属性が苦手なんでしょうか?水出せないし」

「それは関係ないと思うわ。ただ単にまだマナのコントロールができてないだけよ」


 やっぱりそうなのか。

 でもコントロールって言われても、教え方が抽象的すぎてまだよくわかってないし。


「ボクにも得意な魔法あるのかな?」

「あると思うわよ〜?それが何かまでは、私にも分からないけどね」

「もしかして、お義母さんにも得意な魔法と苦手なのあるんですか?」

「もちろんあるわよ。私は光属性の魔法が得意で、闇属性の魔法が苦手よ」

「へぇ、そりゃまた何ともわかりやすい」


 ユリーネの性格上、確かに闇属性はあんまり得意ってイメージがないな。

 逆に光属性が得意って言われてるとしっくりくる。


「じゃあもう一つ。火とか水はまぁ何となく魔法でできることが想像できるんですけど、光属性と闇属性ってどんな魔法なんですか?」

「簡単よ。光属性は闇を払う魔法、逆に闇属性は光を遮る魔法よ」

「うーん?つまり、お互いに相反する能力ってことですか?」

「正解よ!やっぱりクロちゃんは頭いいわね〜!」

「たぶんお義母さんには負けます」


 とすると、光属性も闇属性もお互いの効力を打ち消すのだろう。

 とても心くすぐられる属性だが、使い道があんまり無さそう。

 ふと、俺はそこで思い出したことがある。

 使い道がないと言えば、俺の右眼の夜目が利く能力。

 もしかして、これも魔法ではないのだろうか?


「お義母さん、最後に一つ。暗闇の中でも眼がよくなる……みたいな魔法ってあります?」

「あら、それは闇属性の魔法よ。両眼にマナを溜めて使うんだけど、使い勝手が悪いからあんまり人気ないのよ」


 やっぱりか!

 どうやらあのクソ神様が俺に贈り物としてくれたこの右眼の能力は魔法だったのだ!


「ちなみに、その能力を片方の眼にだけ発動させるのとかってできます?」

「うーん……できるとは思うけど、マナのコントロールがすっごく難しいわよ。両眼ならともかく、片方の眼にだけとなるとすごく集中力がいるし、目の負担にもなるわ。もし片方の眼だけにその魔法を使うのなら、瞳に夜目が利く魔法の 構築を刻み込んでおくとかだけど……あんまり現実的じゃないわね。失明するかもしれないし、それができる人がいたとしたら、きっとそれは神のみわざね」

「そうですか」


 神のみわざ……ね。

 まぁギルニウスは神様だから、間違っちゃいないか。

 でもあの神様、そんな危険なことをこの体に仕込んでいたのか。

 夜目が利く能力は右眼だけにしか発動しなかったから、こりゃきっと左眼にも何か仕込まれてるな。

 怖いから左眼に無闇にマナ込めないようにしよう。

 でも、今の話でマナをコントロールする方法が何となくわかったぞ。

 目を閉じ、深呼吸する。

 右手を伸ばし手を広げ、頭の中で水の塊をイメージする。

 ここからだ。俺はさっきまで、マナを一気に水に変換するのをイメージしていたのだが、おそらくそれがいけなかったのだろう。

 初めて右眼の能力を使った時のことを思い出しながら、意識を少しずつ右手に集中させる。

 やがて右手が少しずつ熱を持つのを感じる。

 やはりあの時と同じ感覚。でも、悪くない感じだ。


「水よ」


 水を呼ぶと、手の平の上でマナが渦を巻いていくのがわかる。

 マナは水へと変換され、俺の拳よりも大きな水の塊ができあがった。


「……よし!でき、あっ」


 できた!と思った瞬間、水の塊は形が崩れ、ただの液体となり手から落ちてしまう。

 手足が水浸しになってしまったができた!

 俺にも魔法が使えた!


「クロちゃん……今の水」

「あぁ、形を維持するの失敗しちゃいました」

「そうじゃなくて、今の大きさ!凄いじゃない!いきなりあんなに大きな水を出せるなんて!」


 そんなに大きかったか?

 確かに俺の拳よりかは大きかった気がしたけど。

 見るとレイリスも唖然とした表情で、今自分が作った水の塊と俺を交互に見ていた。

 結局今日はそこでお開きとなり、レイリスを兄のニールの元まで送り届ける。

 明日もまた会うことを約束したが、別れ際に、


「ボク!クロに負けないぐらいの水の魔法を作る!」


 と、なんだか凄い意気込んでいた。

 あの目は憧れの目だ。

 俺に追いつこうと努力する目だよ。

 今日は水属性の魔法を覚え、俺は自分の拳よりも大きな水の塊を、レイリスは自分の拳と同じぐらいの水の塊を作れるまでになったのだった。

 けれども、あのレイリスの目。

 うかうかしてると俺をあっという間に追い抜きそうなので、俺も剣術だけではなく魔法の訓練も頑張らなければ。

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