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第百三十五話 魔女と帽子とオカマ


 淫魔である故になった魅惑の体を隠していたローブをはだけさせ、帽子を脱ぎ捨て悪魔族の象徴である角を露わにしたティアーヌ。

 当然のことを知るはずもないフロウと影山は驚愕の表情を見せていた。


「ティアーヌさん……あなた、悪魔族だったんですか!?」

「黙っていたことについては謝るわ。でも、その説明は後でするわ」


 しかしフロウはそんか言葉では納得できない。

 今自分たちを苦しめている魔王軍と同じ悪魔族と今まで一緒に行動していたことに嫌悪感が込み上げる。

 だが──


「落ち着け村長。魔女、お前が悪魔族だってことは坊主は知ってたのか?」

「ええ、知った上で一緒に旅をしていたわ」

「そうか……なら坊主のことは任せるぞ」


 影山の言葉に「悪魔族を信用するんですか!?」と抗議の声を上げるが、


「坊主がこの魔女を信用して行動を共にしていたのなら、俺たちが今口を挟むことはない。坊主を助けたいってのは村長も同じだろう?違うか?」


 一瞥もすることなく諭される。

 三人の都合は御構い無しに、邪悪な魂に肉体を操られるクロノスの攻撃が猛威を振るう。

 フロウが盾で受け止め、影山が飛び蹴りで吹き飛ばすが、やはり効果が無いのかクロノスが倒れることはない。


「それで、魔女はここからどうするつもりなんだ!?」

「バルメルド君が抵抗できないようにもっと弱らせて!そうすれば、元に戻せるチャンスがあるかもしれない!」

「了解だ、やってみよう……!」

「それと、私は淫魔(サキュバス)だからあまり私の肢体を目視しないで!」


 最後の爆弾発言にフロウが「はぁ!?」と素っ頓狂な声を出し、影山は僅かに眉を上げるがすぐに目の前の相手に集中する。

 淫魔(サキュバス)だと聞いてティアーヌに視線を向けないようにしながら、


「待って、余計に理解できない!どうしてサキュバスがクロくんと!?え、もしかしてクロくんは契約奴隷ってこと!?」

「切り替えろ村長!また来るぞ!」


 一度に訳の分からないことが多すぎて「あぁもう!!」と声を荒げながらもフロウは盾を構え直す。

 クロノスが再びマナを込め始めた。

 だが舌打ち音(タンギング)はしておらず、炎攻撃ではないと予測する三人。

 マナが込められたのは右腕、拳を振るい地面を叩きつけた瞬間、土属性の魔法により大地が隆起し影山たちの周囲を囲うようにし閉じ込められてしまった。


「閉じ込められた!?クロくんは!?」


 直角に突き出した岩山を飛び交う黒い影。

 フロウか目で追おうとしてもその動きは早く、常に死角となる方向に飛んでいる。


「まるで蜥蜴だな。俺たちに姿を捉えさせないつもりか」

「二人とも、私の側に!魔法で岩ごと周囲を……うぐっ!」


 視界を外した瞬間、背中に叩きつけられたかのような痛みと衝撃を受けティアーヌは倒れる。

 その光景にフロウと影山もクロノスから視界を外した途端に背後から強襲を受けた。

 影山は尾を叩きつけられ、フロウは爪で軽鎧を削られるが肉体にまでは届かなかった。

 攻撃した後もクロノスは岩壁を蹴り上げ三人の死角を縫うように飛び交う。

 俊敏な相手の動きに影山は不利的状況を打開する方法を考えるが……


(よく知恵が回るやつだ!本能任せかと思えば俺たちの死角を位置取るように動き回る、意識を外せば攻撃され、岩場は壁が高く簡単には抜け出せない……どうする!?どうやってこの場を切り抜ける!?)


 飛び回るクロノスが再び襲いかかるのをフロウが盾で防ぐ。

 しかしそれもいつまでも保つ訳がない。

 かと言って、今のクロノスの動きを捉えるのは影山には難しいだろう。

 ならば、と影山は一つの提案を出す。


「背中合わせになれ!坊主は俺たちが意識を逸らした瞬間を狙って来る!互いの背中を守って迎え撃つぞ!」


 影山の提案にティアーヌとフロウは頷き、三人は背中を向け合い壁を移動するクロノスを迎え撃つ態勢となる。

 もちろん近づき過ぎるとティアーヌの『チャーム』が発動するので少し間隔は空くが、クロノスを近づけないのには十分であった。

 背中を見せずこちらを警戒する三人を目にクロノスは手足の爪を壁に食い込ませ動きを止めた……のだが、


「いたわ!あそこに……」

『「グルゥゥゥゥ!!」』


 ティアーヌが見つけるや否や今度は三人の頭上を高く跳び上がり、今度は両腕にマナを凝縮させる。


(あれだけの威力の火、土と続きながらもまだ別の属性魔法を使うつもり!?バルメルド君の体はどれだけのマナ容量を持ち合わせているの!?)


 世界樹ユグドラシルを失ったこの世界ではマナは貴重。

 完全に回復するのにかなりの時間を要するが、あのクロノスは平原を焼き払う炎と大地を隆起させ閉じ込める程のマナを使用してもマナ切れを起こしていない。


(やっぱり彼は──)

「また魔法が来るぞ!」


 影山がクロノスの挙動で次の行動を予測し、ティアーヌは再び地面に小さな魔法陣を刻む。

 今度はどの属性の魔法が来るか分からないので顔を上げ出方を伺う。

 圧縮されたマナを水属性の魔法に変換しクロノスは水柱を落とした。

 四方を岩によって退路を塞がれた三人に襲い来る。


「《風の精よ。暴虐の嵐を噴かせ、荒れ狂う水流を受け流せ!》」


 落ちる水柱を防ぐのではなく、流れを変えるイメージを描き風の魔法を発動させる。

 描かれた魔法陣から竜巻が発生し、三人を守るようにしながら水柱を押し上げ岩場の外へと噴出させる。

 それでも全ての水を押し返すことはできず、大量の水飛沫が岩に弾き返され微量だが衣服に付着し足元を濡らす。

 水柱と竜巻、両者が収まりを見せ始めクロノスは再び手足の爪を用い岩壁に張り付いていた。

 だがまたしてもその黒い体の一部が剥がれかけ、元の人として姿が見え隠れしているのをティアーヌは見逃さなかった。

 クロノスを覆う黒い正体に確信を持ち始めたのだが……


「あ、これ……まずいかも……」


 水に濡れた自分と足元を見て不安な声を漏らす。

 子供の頃からクロノスの戦い方を近くで見ていたフロウには次の攻撃が容易に想像できる。

 水属性の魔法ときたら、クロノスの十八番の──


「雷属性の魔法を使うはず!!」

 

 フロウの嫌な予感は的中した。

 再びクロノスの身体が黒く覆われ、続けざまに雷属性の魔法が放たれた。

 迫る落雷に対し魔法陣を描く余裕はないと判断し、ティアーヌは杖の先端を周囲を囲む岩壁に突き立てた。

 間に合わなければクロノスの魔法を利用すればいい。

 自分たちを囲む岩を己のマナで上書きし形を変化させ天井を作り出す。

 土の天井は落雷から三人を守りクロノスの視界を遮らせる。

 身を隠す天井を破壊しようとクロノスは降り立ち、拳を振り上げ──


「うおおおおオオオオ!!」

 

 天井ごと蹴り砕き、飛び上がる影山の一撃を胸部に叩きつけられた。

 跳び蹴りの勢いにより宙に舞うクロノスは無防備、そのチャンスに影山は攻撃を止めることはない。

 魔導具であるブーツには風属性の魔法石がスロットに差し込まれている。

 その能力を使い、空気を足場にし飛跳ねると今度は膝蹴りを叩き込む。

 もう一度飛跳ね岩壁を足場にし、再び蹴りを叩き込み体勢を整える隙を与えさせない。

 何度も、何度も何度も何度も攻撃を叩き込む。

 すると次第に、魔導具であるブーツに装填されていた風属性の魔石が徐々に光を失い始め灰色に変色が見られる。

 蓄積されていたマナが切れ、効力を失いただの石ころになり始めているのだ。

 風の効力が弱まり始めたのに気づき、影山は最後に回転蹴りを喰らわせる。

 突風を纏った一撃にクロノスは吹き飛ばされ、岩壁から外の焼け野原へと放り出され転がる。


『「グッ……グゥゴァァァァ!!」』


 影山に蹴り打たれた箇所に残る痛みにクロノスは怒り吼える。

 今己を足蹴りにした男を殺せ!殺セ!コロセ!

 そんな意味が込められているかの如く重く殺意に満ちた咆哮。

 しかし──


『「グゥオオオオオオオオ──オ?」』


 背中に軽い衝撃を受け咆哮が途切れる。

 それは衝撃と呼ぶのは間違いではあった。

 押されるような形で自らの背に手を当てている人物に振り返り、悪魔の巻角と紫の髪が眼に映る。

 衝動のままに暴れ狂う獣のような魂でも、その者の瞳を眼にすれば心を惑わすだろう。

 背後には、影山がクロノスを止めている間に脱出をしていたティアーヌの姿が。

 現に一瞬、クロノスの動きが止まり、ティアーヌに必要なだけの隙が生じたのだから。

 僅かだがティアーヌの顔に戸惑いが垣間見える。

 何故なら、これから自分がするのは自分が一番忌み嫌っていた行為の一つだからだ。

 だがすぐに迷いを断ち切り、クロノスの背に触れた自分の左手にマナを込める。

 淫魔としての能力を発動させる為に。


「──《エナジードレイン》!」

深夜アニメの新作が次々始まりましたけど、見る時間がががががが


次回投稿は来週日曜日の22時です

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