第百三十四話 Extreme Measures
4月1日ですね!
また新規アニメ始まりますけど、今回は何を見よかな…?
『「グオオオオォォォォ!!」』
曇天の空へかつてクロノスだったモノが吼える。
その姿はもはや人としての面影がほぼ残っていない。
右腕と左足だけのはずであった侵蝕部が既に全身が覆い尽くしており、濁った光を放つオッドアイが無ければ、それがクロノスだとは認識さえできない。
身体を覆う邪悪な魂が頭部に三本の角のような物を、下半身には尾を形作っており、両手足にも鋭い爪が見え、その姿はまごう事なき魔物である。
「あれが、クロくんなの……!?」
「見た目が完全に化け物だな」
変わり果てた親友の姿に唖然とするフロウと動揺を抑える影山。
同じくティアーヌも人としての姿を無くしたクロノスを前に言葉を失う。
吼えるのを止めクロノスは戦闘態勢に入り、三人はそれぞれの武器を構える。
「魔女、ここからどうするつもりだ!?」
「まずは攻撃をして戦意を削ぐわ!」
「シンプルだな。やり易い!」
単純明快な作戦に影山は納得すると腰ベルトの革のツールケースから風属性の魔石を取り出し、ブーツのスロットに装填する。
魔導具であるブーツに風属性の魔法が常時発動した状態となり、足元に風が吹き始めた。
作戦を聞いたフロウは背負っていた盾を左腕に装着しながら、
「でも手加減をしていたら、ワタシたちがやられるんじゃ!?」
「死なない程度に痛めつければいいわ!動きを封じれば、私が何とかするわ!」
ティアーヌには秘策があった。
クロノスを元に戻せるかはわからないが試す価値はあると考えている。
不本意な秘策だが、それが失敗したのなら他の策を使えばいい。
もっとも最初の策だけで済めばそれに越した事はないのだが……
姿勢を低くし駆け出そうとするクロノスの動きに「来るぞ!」と影山。
地面が抉れる程に大地を踏みしめるクロノスにフロウはいつでも対処できるよう盾を構
「……え?」
瞬きした瞬間、視界からクロノスの姿が消える。
行方を探そうと構えを解きかけた矢先──突然眼前に姿勢を低くしたままのクロノスが現れる。
「なっ……!?」
『「グルァァァァ!!」』
突如現れたのに驚くも、耳をつんざく咆哮と共に拳による突き上げられ、不十分な体勢ながらもフロウは盾でそれを防ぐ。
しかし強烈な一撃に勢いを押し殺すことができず、衝撃により身体が宙に浮いた。
その僅かな瞬間にクロノスが身体を捻り、尾を振り払いフロウに叩きつける。
空中で盾を構え直す間も無く、フロウは右上半身に衝撃を受け吹き飛ばされた。
「がはっ!」と小さな声を漏らしながら吹き飛ばされたフロウは地面を転がりゴブリンの死骸に激突する。
「ニケロ村長!」
フロウの安否を気遣おうとするティアーヌの声にクロノスが反応する。
次の目標をティアーヌに移し、また襲いかかろうと……
「坊主、こっちだ!!」
声に反応しクロノスが振り抜くと同時に右脇腹に影山の蹴りが決まる。
風属性の魔力を帯びた蹴りは疾風の如く叩き込まれクロノスは吹き飛ばされた。
もちろん手加減など一切ない本気の蹴りなのだが、あまり効いていないのか、吹き飛ばされながらも空中で一回転し体勢を崩すことなく着地し唸る。
「効いてない……ってことはないだろうが、平気そうなところを見るに随分とタフだな」
『「グルァ……
「ロックブラスト!」
自らに危害を加えた影山に反撃をしようとするクロノスの側面に土属性の攻撃が与えられる。
魔法を放ったのはティアーヌで、なるべく頭部を避けて左胴体目掛け放たれた砲岩は直撃するがこれも効果はいまひとつで転倒までには至らず仰け反るだけだ。
だが攻撃されたことに怒りを露わにしており、今度こそティアーヌへ駆け出し黒い右腕を振るう。
その一撃を、間に割り込む形で入り込んだフロウが盾で防いで見せた。
鈍い衝撃音に遅れてフロウの左腕に痛みが走る。
その痛みに耐えながらもフロウはクロノスを押し返しティアーヌを攻撃から守った。
「クロくん、正気に戻って!おば様があなたを心配しているわ!ジェイクおじ様が亡くなって、もうおば様にはクロくんしかいないの!」
『「ウオオオオ!!」』
フロウの呼びかけに応じることなくクロノスは攻撃を繰り出す。
両爪と尾による連続攻撃を防ぎながら叫ぶが、それは主導権を握る邪悪な魂にとってはどうでも良いことだ。
攻撃を防ぐフロウを援護しようとティアーヌが杖を構えるが、気配を察知したクロノスは大きく跳び退き距離を離す。
その後を追う形で影山が距離を詰め回し蹴りをするが、姿勢を屈み躱し空へと跳躍する。
空を仰ぐように顔を上げたクロノスが歯をカチカチと鳴らす姿がティアーヌの目に映る。
(舌打ち音!?どうしてそんな行為を……)
人間であるはずのクロノスが舌打ち音をしても竜のように炎の息を吐ける訳ではない……はずだが、歯を打ち鳴らすクロノスの口元に僅かな火花が見え、
「……っ!二人とも私の側まで戻って!」
そんなことができるはずないと思いながらも、フロウと影山を自分の元へと呼び戻す。
手にした杖で地面に魔法陣を描きながら精霊に語りかける。
「《水と氷の精よ。あらゆる灼熱から身を守る為の加護を授けたまえ!!》」
呼びかけに応え地面に描かれた魔法陣にマナが宿り始める。
二人がティアーヌの側に駆け寄るのとクロノスが頭を振り下ろしのはほぼ同時。
クロノスの口から翼竜が放つのと同じ骨まで溶かす炎が放たれた。
空中から放たれた炎は、平原に転がる魔王軍の死体を飲み込み三人に迫る。
炎が襲いかかるよりも前にティアーヌが魔法陣の中心を杖の先端を突き立てると、水と氷の魔法により生成された半透明半球の魔法の結界に包まれる。
炎は勢いが衰えることなく半球の結界ごと三人を飲み込むが、結界は壊れることなく炎からティアーヌたちを守り、肉を焦がす高温を冷気が緩和する。
「こんなの浴びたら骨も残らないな」
「ティアーヌさん、どうしてクロくんがブレスをしてくるってわかったんですか?」
「勘もあるけど、前に同じ行動をする魔物をバルメルド君と見たのよ……できれば外れて欲しかったけどね」
結界の外側を包む爆炎に目を向け、クロノスの行動が魔物ソレと酷似していることに複雑な心境を抱く。
やがて炎が途切れ、ティアーヌたちを包んでいた結界の外の景色が露わとなった。
先程まで草が広がっていた平原は焼け野原と化し、転がっていた魔物たちの死体も灰となり骨一つ無い。
ティアーヌが結界を解き、焼け野原にした張本人は肩で大きく息をしながら唸っていた。
だが余程炎を吐き出すのに力を使ったのか、侵蝕されていた体から元の人間の姿が垣間見える。
左腕と右足、左上半身の一部だ。
頭部も左半分が顔を覗かせ、人としてクロノスの表情が初めて伺えた。
「クロくん!!」
人としての姿が見えフロウが名を叫ぶ。
その声に人としてのクロノスの濃褐色の左眼が親友の身を案じるフロウを映す。
「帰りましょう!そんな不気味な物脱ぎ捨てて、ユリーネおば様のところへ!」
『「ユリ……ネ……?」』
ピクリとクロノスが反応を示す。
光を失っていた左眼に微かに光が戻る。
それでも、弱々しい声音のクロノスはしっかりとフロウの姿を視認していた。
『「フロ、ウ……」』
「そうよ、フロウよ!キャンプに戻りましょう?おば様がずっとクロくんの帰りを待っているのよ?」
母親であるユリーネが自分を待っている。
その言葉にクロノスの表情が一瞬だけ和らぐ。
が──、母親という言葉に対し、必然的に父親のことを思い出してしまう。
自分を庇い魔王に殺され、体温を失っていく父の最期を。
『「アぐっ……!ぐ、ぐおおおおオオオオ!!」』
人に戻りかけたクロノスを再び邪悪な魂が黒く覆い潰す。
その光景にフロウは落胆するが、影山とティアーヌは違った。
「村長、まだ諦めるには早いぞ。一瞬自我が戻ったということは、まだ坊主は完全に化け物になってはいないと言うことだ」
「ですけど、どうすれば……」
「私に任せて」
少しの間だけ人としての姿を取り戻したクロノスを目にし、ティアーヌは見せたくはない隠し球を使うことを決める。
色褪せくたびれたとんがり帽子が脱ぎ捨てられ、紫のショートヘアと悪魔族の証である二本の巻角がフロウと影山は目撃する。
ティアーヌが悪魔族であることに驚く二人を余所に、決して人前で脱ぐことを嫌っていた身を隠す為のローブの前をはだけさせた。
ローブの下に微かに見える、淫魔として自らがもっとも嫌う艶麗な肉体を。
「バルメルド君、どんな手を使っても……貴方を連れ帰る!」
フォロワーでエタってる人結構多くなってきてて、割と危機感感じてます
次回投稿は来週日曜日の22時、いつも通りです!




