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第百三十二話 オレジャナイ

この前ようやく新作のSAOゲーム買いました!

まぁ、モンハンばっかやってて全然ストーリー進んでないんですけどね…


前半は三人称視点になります


 暴走したクロノスが姿を消してから数時間が経過した。

 難民キャンプでは魔王ベルゼネウスにより意識不明となった者と、気を失っている間にクロノスの暴走により木の下敷きになった者たちの重傷者で溢れ返っていた。

 魔王による脅威は去ったものの被害は大きく、未だ難民キャンプでは混乱が続いていた。

 重傷者が運ばれるテントでは大勢の苦痛の声が聞こえてくる。


「足が!足がぁぁぁぁ!」「来る!魔王が!魔王が!ひぃぃぃぃ!」「嫌だ!もう戦うのは嫌だぁぁぁぁ!!」


 皆各々に悲鳴を上げており、まともに会話ができる者は一人もいない。

 唯一魔王と戦い正気のまま帰還したのは影山真一ただ一人だけであった。

 その影山はと言うと、難民キャンプの責任者である坂田と会話を聞かれないように離れのテントで対面している。

 数少ない日本語で話が通じる者同士だ。


「クロノス君の暴走状態?」

「ああ。あんたも坊主とは知り合って長いんだろ?何か知らないか?」


 クロノスの異常な状態について尋ねていた。

 影山の知る限り、この世界で失った手足を黒いミミズが補填する現象など聞いたことも見たこともない。

 いくら自分のいる世界がファンタジーだとしても、あそこまで不気味な現象が普通のことだとは思えない。

 しかし坂田は、影山の問いに静かに首を横に振る。


「すまないが私も知らない。彼からそのような話は一度も」

「そうか……」

「だがもしかしたら、ギルニウス様なら何か知っているかもしれない」

「例の神様か」


 クロノスと坂田、セシールの三人はギルニウスによってこの世界に導かれた転移転生者だ。

 しかし影山だけは違う。

 彼はこの世界に迷い込む形でやってきた。

 しかも無宗教派なので神聖的な類いのものには殆ど縁遠く、信仰もしていないのでギルニウスにも会ったことがない。


「だが、そのギルニウス教とやらはもはや衰退しているのだろ?会おうと思って会えるのか?」

「難しいでしょうね。私もここ数年一度も姿を見てませんし」

「ならアテにはできないな」


 そうなってしまうと、ますますクロノスの状態異常の判別ができない。

 今後同じ症状の者が現れた時対処できるように正体を知りたかったが、目論見が外れテントを後にすることに。


「手間を取らせて悪かったな」

「いえ……あの、おやっさん。クロノス君は、正気に戻せるのでしょうか?」

「分からない。だがもし坊主がこれ以上被害を拡大させるようならば……始末するしかないだろう」


 「始末」という言葉に坂田は暗い影を落とす。

 暴走しているとは言え、数少ない同郷の友人を失うことになるのだ。


「坂田、気持ちは分かるが情に流されるなよ。死ぬぞ」


 顔を見ずに言葉を交わし、影山はテントを後にする。

 相変わらずキャンプ内では悲痛な声が聞こえ続けており、誰も彼も疲れ切った表情をしている。

 負傷者の声に混じり涙声が耳に届く。

 患者を運んだキャンプとは反対方向から聞こえるその声は、魔王との戦いで命を落とした兵士たちの墓場である。

 墓場と言っても上等な物ではない。

 ただ地面を掘り返し、死者を葬り木材の十字架を立て遺品を添えてあるだけのお粗末なものだ。

 木材の十字架には埋葬されている人物の名前が刻まれており、その中にはクロノスの父親であるジェイク・バルメルドの名が刻まれた墓もある。

 墓の前ではユリーネが泣き崩れており、彼と親しかった者たちも皆一様に涙を流している。

 当然、そこに息子であるクロノスの姿はない。


「ああっ……うっ、あなたぁ!どうして、どうしてぇ!!」


  夫の眠る墓の前で泣きじゃくるユリーネの姿に、誰もがいたたまれない気持ちとなる。

 離れた場所にはティアーヌの姿もあるが、自分の能力の為に近づけずにいる。


「あなたがいなくなって、クロちゃんもいなくなったら、私はどうすればいいのよ!?うあぁぁぁ!!」


 泣きじゃくるユリーネを見つめ、ティアーヌは踵を返すとその場を離れ森へと向かっていく。

 その方角は、最後にクロノスの姿を見た場所である。


(あの黒いミミズに酷似したものはバルメルド君の傷を塞ぐように密着していた。でもあれだけの出血、完全に塞げる訳じゃない。地面を観察すれば血痕から後を追えるかも……)


 家族の元にクロノスを連れ戻す。

 一瞬だけ自我に戻ったのだから、助けることもできるはずだとティアーヌは考える。

 その為に何をすればいいのかも……


「待ちな魔女様」


 クロノスを追おうとするティアーヌを影山は呼び止めた。


「カゲヤマ……さん」

「坊主を追うつもりか?止めとけ、あれはもう正常な人間の状態とは呼べない。化け物だ。会えば殺されるかもしれないぞ」

「それでも……助けに行くわ。短い付き合いだけど、私にはまだ彼が必要なのよ」


 自らの意思を影山に答えるとティアーヌは荷物を片付ける為にテントへと向かう。

 その背中を見送る影山の手に、一滴の雫が打つ。


「雨か……」


 帽子を抑えながら顔を上げると頬にも水滴が流れる。

 六年以上一度も晴れたことのない空からは、いつもよりも暗雲が流れのが早く感じるのだった。


✳︎


 時を同じくして、難民キャンプより南東数キロ離れた森の中──


「ぐぅっ……!はぁ……がああああ……!!」


 苦しげな声を漏らしながらクロノスが地面を這うように移動していた。

 四肢を満足に動かすことができず、這いずる様は哀れにも思える。

 失った右腕と左脚にはまだあの黒いミミズが密集し形を成している。

 しかし、もはやクロノスにその黒い四肢を操ることはできない。

 時間が経つにつれ命令を効かなくなり、今では完全にクロノスの意思を離れ好き勝手に暴れている。

 クロノス自身、南東に向かっている理由はない。

 ただ暴れ狂う自分をティアーヌやフロウの元から離れなければとひたすら移動してきただけだ。

 どれ程の距離を移動したのかもさえ本人にはわかっていない。

 ただただ難民キャンプから遠ざかるという意思だけで這いずり続けている。


「ひぐっ……なんなんだよこれ、なんなんだよぉ!」


 訳のわからない自らの現状に嘆きながらひたすら移動する。

 手足を落とされ、目の前で父親を殺され、自分ではない何かが全身を支配しようと荒れ狂っている。

 黒いミミズは切断された箇所から徐々にクロノスの肉体を包もうと侵蝕を続け、光を失い黒く濁る左眼も本人の意思とは関係なく動き回っている。

 己が己ではなくなっていく刻限が迫るのを感じながら、少しでも人のいない場所を目指し這いずり続けるしか今のクロノスにはできない。

 地面から盛り上がる木の根をよじ登りながら進み続けていると、誰かが眼前に立っているのに気づく。

 顔を上げるとそこに立っていたのは、時の女神ルディヴァであった。


「ルディ、ヴァ……ッ!」

「随分と憐れな姿ですね。大丈夫ですか?」


 ルディヴァは中腰になりながらクロノスを見下ろす。

 もっとも助けようだなどとは一切思っていない。

 自分を見下ろすルディヴァにクロノスは怒りを露わにしながら黒い右手を伸ばす。


「ルディヴァァァァ……ッ!俺に、何をしたぁ……!?」

「勘違いしないで下さいよ。私がそんな趣味の悪いことするような女神に見えますか?それは最初からあなたの中に仕込まれていたものですよ」

「どうっ、いう……!」

「正確に言えば、ギルニウス先輩があなたに黙っていたことの正体です。ぜぇーんぶ、その症状を抑える為だったんですよ」


 言葉の趣旨が理解できず、クロノスは自らを蝕む痛みに顔を歪める。

 そんなことはお構い無しにルディヴァは立ち上がり、クロノスの周りを歩き出しながら話を続ける。


「とある時代に一人の少年が産まれました。しかし慈悲深い神様は、その少年の魂が邪悪に満ち、いつか己を殺しに来る存在となると──そう確信したのです。そこで神様は、綺麗で可愛い女神様に尋ねました。その少年の未来を……。

 そして慈悲深い神様は己の破滅を回避する為、邪悪な魂を持つ少年の肉体に別の魂を秘密裏に植え付けて封印したのです。異世界で死んだ、全く無関係の人間の魂を」


 ルディヴァの話を聞いている内にクロノスの顔が青ざめていく。

  それ以上聞くのが恐ろしいと感じながらも、耳を塞がずに失意の瞳でルディヴァを見つめる。


「上手く他人の魂を定着させることは出来ましたが、慈悲深い神様は不安で仕方ありませんでした。なんせ封印した邪悪な魂は、上書きした魂が不安定になると表に出てきてしまうからです。

 しかし安定させる為に不用意に転生させた魂に力を持たせすぎてしまうと、邪悪な魂が蘇った際に強大な力を持ちすぎてしまう──ならば、いっそ自分の目の届く範囲に置いておけばいい!

 そして転生させた魂がより強く肉体に定着するように前世の記憶を消して知識だけを残し、困難の中に放り込み影から手助けすればいいんだ!と」


 話を聞く度にクロノスの中の邪悪な魂が、主人格を取り戻そうと暴れ狂う。

 黒いミミズの姿をした邪悪な魂が肉体を飲み込もうと侵蝕を加速させ、クロノスは激痛と恐怖に苦しみのたうち回る。


「そして慈悲深い神様は転生した少年に家と環境を与え、邪悪が出てこないように逐一監視を続けました。しかしなんと!転生した少年は思ったよりも生への執着心が強く、ある程度の状況では邪悪な魂が表に出てこないと気づいたのです!もっとも、執着心が強かったのは生じゃなくて性の方でしたけど。

 封印が上手くいっている事にルンルン気分の神様でしたが、容姿端麗な女神様がそれに気付いてしまい、計画が狂ってしまったのでしたとさ。めでたしめでたし」

「ぐ、がぁぁぁぁ……!!つ、つまり、それがぁ……!」

「そ、あなたなんですよ、クロノス・バルメルド。あなたを蝕むその黒いのは、あなたの中に封印された肉体の元の持ち主なんですよ。魔王に殺されかけ、目の前で義父が死んだことで精神状態が不安定になった今、主導権を取り戻そうとしているってワケワケです」


 右腕から肩、左太腿から腹部までが飲み込まれる。

 飲み込まれた箇所から感覚が消えていき、クロノスの精神が不安定になっているのを物語っている。

 そんなクロノスにルディヴァは更に追い討ちをかけた。


「ギルニウス先輩があなたに優しくしてたのはあなたの為?とんでもない!あなたにとって都合のいいことは、ぜーんぶ先輩にとって都合のいいことなんですよ。

 あなたは今の自分の生活が自分で手に入れたものだと思っているかもしれませんけど、孤児のあなたが騎士の名家の養子になる瞬間から、その生活全てが偽りだったんですよ!」

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!『嘘だァァァァア゛ア゛ア゛ア゛!!」』


 叫びと共に更に侵蝕部が増し、体の大部分が覆われる。

 もうクロノスに所有権が残されているのは左腕と右足、顔の右半分だけだ。

 そんなクロノスを見て、ルディヴァは少し可哀想だなと感じる。


「確かに、そんなこと信じられないでしょうね。自分が先輩にとってただの封印をする為だけの道具だなんて……仕方ありません。一度だけチャンスをあげましょう」

『チャ、チャン……ス?」


 持っていた杖で地面に突くと何もない空間から紙と羽ペンがルディヴァの手元に出現する。

 それをクロノスの目の前に落とすとにこやかな笑みを浮かべた。


「私も鬼じゃありません。女神として慈悲を与えましょう。その紙に過去の自分に向けてメッセージを書いてください。私の時を渡る力で、そのメッセージを過去のあなたに届けてあげましょう」

『メッ、セー……ジ、ぐぅっ!」

「私があなたを見つけたのは、王都ライゼヌスから帰還した時間軸だったので──そうですねぇ、王都に行く前のあなたに送ってあげましょう!上手くメッセージを伝えられれば、この未来を回避できるかもしれませんよ?」


 ルディヴァや魔王に出会う未来を回避できる。

 その言葉にクロノスの中に僅かな希望の光が見えた。

 未来に飛ばされる事件さえ起きなければ、自分はまた何も知らないままの平穏な日常を送れるのだと……

 しかし今のクロノスは主導権の奪い合いによる肉体の激痛で正常な判断ができない。

 そうなれば簡潔な文章で伝えるしかないと思い至る。

 ルディヴァは王都ライゼヌスから帰還した時間軸で自分を見つけたと言っていたのを思い出し、ならば過去の自分が王都に行かないように警告すればいい。

 まだ主導権を握る慣れない左手で羽ペンを握り、殴り書きで文字を連ねていく。

 必ず自分自身の手元に届き、絶対に自分が読み疑問を抱くように──

 書き終えるとルディヴァがそれを拾い上げ目を通す……が、


「ぷっ……うふふふふ!あはははははははははは!!」


 突然大笑いし始めたのだ。

 何がそんなに可笑しいのか理解できないクロノスに、ルディヴァは自らが書いたメッセージを見せてくる。


「この手紙、見覚えありませんか?」


 ひらひらと手紙を見せられ、激痛に耐えながらクロノスは自分が書いた手紙の文字を読む。

 過去の自分が絶対にわかるように、手元に届くように、日本人である自分が理解できるようにと書いた手紙。

 そこには……こう書かれている。


『オウトニハイクナ』


 と──、


『あ……あ、ああ……ああああああ!!」


 そのメッセージにクロノスは見覚えがあった。

 王都に行く前日、屋敷に届いた差出人不明の一通の手紙。

 それをバルメルド家のメイドたちが、封筒に入れられた手紙を確認して欲しいと見せた殴り書きの手紙と全く同じ物であることに。

 クロノスは全てを悟る。

 その手紙を見ても自分が警告を無視し王都を訪れるからだ。

 

「進み始めた針は戻らない。決められた運命を変えることはできないんですよ」


 手に持った紙をヒラヒラと揺らしながらルディヴァは立ち上がり、時空の波へ手紙を離す。

 手紙は時空の波に消え、過去のクロノスの元へと届くのだ。

 しかし、また歴史は繰り返される。

 過去のクロノスは警告を無視し王都へ向かうだろう。

 結果ルディヴァに未来に送られ、邪悪な魂が目覚めて飲み込まれる。

 無様に地面を這い蹲る今のクロノスと同じ運命を辿る。

 何をしても未来を変えられないと絶望し、クロノスの体が完全に侵蝕され、身も心も邪悪な魂に飲み込まれ、クロノスと呼ばれていた魂が消えていく。


「それじゃあ、さようなら……クロノス・バルメルド」


 完全に魂が堕ちるのを見届けその場を去るルディヴァ。

 かつてクロノス・バルメルドが宿っていた肉体は──空へと咆哮を上げるのだった。


もうすぐ春アニメの時期ですが、注目してる作品はいくつかあるけど見れるかどうか分かんないです

なるべくなら全部見たいんですけどねぇ


次回投稿は来週日曜日22時です!

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