第百三十一話 クろノす
ようやく主人公を壊すことができました!
今回からしばらく三人称視点となります!
VideoHelper の Extreme Measures って曲が好きなんですけど、今回執筆中の時は永遠リピートしながら書いてました
「安心しろ、貴様もすぐに父親の元へ行ける。あの世でな!」
「バルメルド君ッ!」
死にかけのクロノスに魔王ベルゼネウスは手にした剣を心臓目掛け突き立てる。
クロノスたちを助けに来たティアーヌとフロウはその場面に遭遇した。
しかし助けに入るにはあまりにも遅すぎる。
悲痛なティアーヌの叫びが響き、フロウは親友の死を前に思わず目を覆い隠しそうとしていた。
次の瞬間、肉体が吹き飛び黒い血が噴き出て周囲を染め上げた。
魔王ベルゼネウスの血が……
「ぐっ、がはっ!」
上半身が吹き飛ばされる痛みを、魔王ベルゼネウスは難民キャンプ地よりも遥か遠方に聳える自らの城、魔王城の玉座で体感することとなる。
かつてライゼヌス城と呼ばれ、このゼヌス大陸を統治する王の居住地であったここは、今や魔王ベルゼネウス率いる魔王軍に奪われ悪魔たちの根城となっていた。
自分らの王が突然玉座の上で吐血するのを目撃し、控えていた幹部たちは驚愕する。
「ま、魔王様!?どうされました!?」
側近たちは自分たちの王の吐血に動揺し困惑する。
魔王が復活してから初めて血を流すことに驚いているのだ。
肉体を引き裂かれるかのような痛みにベルゼネウスは鎧の上から胸を抑え苦しんでいる。
「な、何がっ……起こった!?」
突然人形の見ていた視界が暗転し、身体が引き裂かれるかのような痛みに襲われたかと思うと、ベルゼネウスの意識は魔王城に返還されていた。
難民キャンプに現れたのは、暇を持て余した魔王が余興で部下に造らせ、退屈を紛らわす為に使用していた人形だったのだ。
人形に自らの意思を分け与え、意のままに操る闇属性の魔法。
本人よりも能力がかなり劣りはするが、魔王にとっては些細な問題である。
現在地上に魔王が務まる相手はいないからである。
しかし魔王の意思を分け与えた人形が何者かによって破壊された。
魔王も気付かぬ内に、たった一瞬、たった一撃でだ。
ベルゼネウスにとって一番危惧すべきは勇者の存在、もし奴が現れたのならば早々に排除しなければならない。
「城にいる者どもを集めろ!地上人共のキャンプへ襲撃をかけるのだ!!」
玉座から立ち上がり、下僕の悪魔たちに指示を出すが、悪魔たちはその指示に困惑している。
それもそのはず、その難民キャンプは魔王が人形を使い暇潰しの狩場にする為手を出すなと先程言われたばかりだったのだ。
にも関わらず突然真逆の命令を言い渡されだから無理もない。
「し、しかし魔王様……地上人共のキャンプで狩りをするから誰も近寄らせるなと、先程魔王様自らが
意見しようと口を開いた悪魔の身体に魔王の拳より宙を舞い、壁に激突し絶命する。
血を噴出しがら地面に横たわる仲間の姿に周囲の悪魔たちは怯え震えあがる。
王である自分に口答えをした悪魔に苛立ちぶつけても尚、ベルゼネウスの機嫌は直ることはない。
「何をしている貴様ら……さっさと行けッ!!」
「は、ハッ!」
「白い髪に互い違いの色の瞳を持つ男を探せ!その男の周りにいる者は全員殺すのだッ!!」
ベルゼネウスの号令に悪魔たちは大慌てで玉座を出て、ベルゼネウスが狩場としていた難民キャンプへと向かう。
高揚気分で狩りをしていたのを邪魔され、分身の人形まで壊されたことに対し湧き上がる怒り。
その全てをベルゼネウスは玉座の間の柱にぶつけへし折った。
✳︎
一方難民キャンプでは、突然魔王の分身の上半身が吹き飛ぶ光景にティアーヌとフロウは目を丸くしていた。
クロノスを殺そうとしていた魔王の肉体が何の前触れも無く消し飛んだのだ。
ティアーヌはもちろんフロウも何もしていない。
何か仕掛けたのであればそれは……
『「あは、あはははははは!!」』
上半身の吹き飛んだ魔王を前に不気味な笑い声を上げるクロノスだ。
クロノスは右腕と左脚を失い、右眼を潰され全身から血を垂れ流しながらも笑いながら立っている。
それを目にするティアーヌとフロウの耳には、クロノスの高笑いが二重に響いているかのように聞こえていた。
まるでクロノスともう一人別の人物が一緒に笑っているかのような錯覚。
「ク、クロ……くん?」
幼馴染の異常な光景にフロウは恐る恐る名前を呼ぶ。
それに反応したのか、クロノスは高笑いを止め、無表情になると二人に振り向く。
するとクロノスが負傷している箇所に黒いミミズのような物がゾロゾロと集まり始めた。
無くなった右腕と左脚の傷口にも集まり、欠損した肉体の代わりになろうとしている。
黒いミミズたちが失った腕と足と同じ長さまで集まった時、無表情だったクロノスがニタリと笑った……幼少時代から一緒だったフロウが、見たことのない悍ましい笑みで。
「伏せろ!!」
勧告と同時にフロウとティアーヌは身体に衝撃を受け地面に倒れる。
影山が二人に突進したのだ。
三人が地面に倒れると頭上を黒い何かが通り過ぎる。
それはクロノスの黒いミミズが集まってできた右腕だ。
黒い右腕は鞭のように伸縮し振り抜かれ、三人の背後に立ち並ぶ樹々をいとも簡単にへし折ったのだ。
幹を折られた樹々が軋む悲鳴を響かせ、大地を揺らしながら転がる。
その様子を見たクロノスは自らが破壊した樹々を目に愉快に笑っている。
地面に伏せやり過ごした三人は、倒れた樹々の陰に隠れた。
「カ、カゲヤマのおやっさん!」
「ニケロ村長、あの坊主はお前さんの知り合いなんだろ?なら知ってるんじゃないのか、あれはなんだ?坊主はどうなっているんだ?」
「わ、わかりません……!あんなクロくん、一度も見たことない……。ティアーヌさんは!?あなたはクロくんと一緒に旅をしていたのだから、あなたなら知ってるんじゃ?」
「私だって知らないわ!でも今のバルメルド君は、明らかに普通じゃないのは確かよ」
倒れた木の陰でクロノスの様子を伺う。
不気味に笑い続けているクロノスの右眼にも黒いミミズは群がり始めている。
魔王によって負傷し塞がれた目の傷が塞がると、その眼が妖しく光を帯びているのがわかる。
しかし光を帯びた二色の眼は黒く濁っており、白髪の頭部も徐々に黒みを帯び錆びたかのような鉛色をしている。
ティアーヌはその状態のクロノスに見覚えがあった。
名も無き村でワイバーンと戦っていた際に見せたのと同じだ。
だがあの時と違うのは、クロノスの表情が憎悪に満ちたものではなく、悦楽に浸る表情のそれであることだ。
木の陰から三人はクロノスの様子を伺っていると、その眼が三人を捉え笑みを浮かべる。
「見つかったか!逃げろ!!」
影山の言葉に弾かれたように走り出す三人。
クロノスが黒い右腕を振り上げると、斧のような形に形状を変化させ長さが伸び、三人が隠れていた木に向かって振り下ろす。
先ほどまでフロウたちが隠れていた木は一瞬にして真っ二つにされ、地面は抉れたように衝撃の爪痕を残す。
樹木ごと地面を抉る一撃を目にした影山は口元を歪ませた。
「どう見ても人間業じゃない。まるで魔物だな」
『「アはハはハはハ!!ッらァ!」』
再びクロノスの黒の右腕が伸び鞭のように周囲の樹々を巻き込みながら振舞われる。
姿勢を低くしながらその攻撃を避けながら影山はティアーヌたちに提案した。
「二人とも、坊主とは知り合いなんだろ!?ならすぐに決めろ!坊主を殺すかどうかだ!!」
「クロくんを……」「殺す!?」
衝撃的な発言にフロウもティアーヌも目を見開く。
倒れてくる樹々と黒い腕を避けながら影山に反論する。
「ま、待ってくださいカゲヤマのおやっさん!クロくんはワタシの大事な友達なんです!その彼を殺すなんて
「あいつには敵と味方の区別もついていない!このままだとあの男は、周囲の何もかも全てを破壊し続ける!自然も人も何もかもだ!」
黒い腕を振るい続け地面も森も破壊し続けるクロノス。
足元で転がる魔王の犠牲者には目もくれず、ただ破壊を楽しみ続けている。
犠牲者たちが巻き添えになるのも構わずにだ。
享楽のままに暴れるその姿は、もはやフロウの知る親友の面影はどこにもない。
影山の言う通り、クロノスはこのままあらゆる物を破壊し続けるだろう。
そうなれば難民キャンプの人たちやイトナ村の人たちにも被害が及ぶかもしれない。
ならばここでクロノスを──
「ニケロ村長!」
最悪の事態を想定して判断を下そうとするフロウをティアーヌが肩を掴む。
『チャーム』発動の可能性も考えずにフロウと接触するが、ティアーヌはそんなことを微塵も考えていない。
「バルメルド君は貴方の親友でしょ!?だったら、貴方が彼の為に何をしてあげられるかを考えなさい!!」
ティアーヌの言葉にフロウの瞳が大きく揺れる。
淫魔であるティアーヌの『チャーム』にかかったからではない。
遠い昔に置いてきた記憶──かつてフロウが体験した出来事と同じ場面を繰り返しているかのような錯覚に襲われ、体が震えているのだ。
フロウの体が震えているのにティアーヌが気づくとほぼ同時に、暴れていたクロノスが無差別に攻撃するのを止め、二人の姿を黒く濁りを増す眼に映す。
興味の対象を見つけ、クロノスは人間としての足と黒ミミズの足を交互に動かし歩き出す。
仲間を眼にした表情は歪んだ喜びが貼り付けられている。
自分たちに近づくクロノスの姿をした何か。
身体が震え動けなくなったフロウを連れ出そうとするティアーヌだが、力が抜けているのかフロウはその場から動けず、クロノスは二人に近づき──
「坊主!!」
黒い腕による攻撃が止み、地面に転がる樹々を飛び越えながら影山が飛び出した。
右手を握り締め、走る速度そのままの勢いでクロノスの頬を拳で殴りつけた。
全力の拳で殴りつけられクロノスの身体が宙に舞い地面を転がるが、不気味な笑い声が途切れることはない。
影山はティアーヌとフロウを庇うようにクロノスとの間に割って入り立ち塞がった。
『「アは、はハハハはハ!!アハはハは!!」』
「二人ともここから逃げろ!あれは俺が食い止めておく!」
狂気の増していくクロノスを引き受けようと、影山は身構え次のクロノスの攻撃を──
『「アハ、は……は……ア?」』
クロノスの動きが突然止まる。
再び襲いかかろうと立ち上がり影山たちを視界に捉えた瞬間ピタリと制止する。
動きが止まったのを見て影山とティアーヌが警戒すると、そのままクロノスは膝から崩れ落ち、
『「ア、あ、あア、ああああアアアア、ゔああああああ!!」』
苦悶の絶叫と共に地面でのたうち回り始めた。
影山たちは何が起きているのか分からずただその光景を見ているだけだったが、しばらくしてクロノスはのたうち回るのを止め、苦しみながら顔を上げた。
黒く濁り輝いていた右眼だけが、光を取り戻しいつものクロノスの濃褐色の眼になっている。
「バルメルド君!」
『「ぐルなァァァァァ!!」』
元に戻ったのかと駆け寄ろうとしたティアーヌをクロノスが苦しげに拒否する。
人間の手である左手で頭を抱えながら、クロノスは何度も頭を左右に振りかぶる。
『「コロセェ……やめろぉ!コロセェ……やめろぉ!オマエハァ……違う!チガウゥ……俺だぁ!オレハァ……俺じゃない!オマエハァ!!俺だァァァァァァァァ!!」』
またしても狂い始めたクロノスが黒い右腕を振りかぶり地面を叩きつける。
衝撃波と共に土煙が舞い上がり影山たちの視界を遮る。
腕で顔を覆い隠す影山の耳に足音が遠のいていくのが聞こえる。
土煙が収まり始めクロノスの姿を探し始めた時には、既にそこには誰もいなかった。
もうすぐ今期アニメも終わってしまいますが、ゆるキャン△が尊いのでBD買おうかと思ってます
春アニメも楽しみだなぁ!
次回は来週日曜日の22時です!




