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第百二十八話 魔王再び

今週一週間、ずっと風邪引きずっちゃって大変でしたけど、ようやく完治しましたよ……


魔王軍襲来の報を聞きつけ、難民キャンプの人たちが逃げ惑う。

 逃げる人たちの波をすり抜けて森の奥へと向かう影山の後ろを俺は追いかけている。


「坊主、お前は来るな!避難誘導をしろ!」

「避難先を知りませんよ俺!それに人手が必要でしょう!?」


 魔王軍が来たのなら、今逃げ惑っている人たちが逃げ切るだけの時間稼ぎをしなきゃならない。

 ジェイクならばそうするだろうし、片腕が無くとも勝負を挑もうとするはず。

 そんな無茶をした時に助けに入らないと!


「う、うわぁぁぁぁ!」「ひぃぃぃぃ!」


 突如頭上から悲鳴が聞こえ、走りながら空を見上げる。

 俺の眼に映ったのは、黒い霧のような物がまるで生き物のように蠢きながら兵士二人を捕らえ空高く振り回す光景であった。


「な、なんですかアレ!?」

「……ッ!」


 空を乱舞する黒い霧を見て影山が走る速度を速める。

 俺は置いて行かれないように追いかけるが、その間にも次々と黒い霧が兵士たちを空へと抱きかかえ振り回す。

 まるで玩具を乱暴に扱う赤子のように……

 俺たちが黒い霧が発生している現場へと着いた時には、既に何十人もの兵士たちが地面に横たわっていた。

 しかし誰も一滴の血も流してはいない。


「遅かったか……!」


 横たわる兵士たちに影山から悲観的な声が出る。

 でも俺は外傷がないのならまだ生きていると思い、近くの兵士に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?しっかり!」


 うつ伏せに倒れる兵士に呼びかけ仰向けに寝かせ直そうとし、


「うわっ!?」


 兵士の顔を見て驚き手を離す。

 彼は大量の涙を流しながら虚ろな目をし、半分開かれた口元から泡が溢れていたのだ。

 周りを見ると、倒れている他の兵士たちも同じように虚ろな目に涙を流し、口から泡を吹いていたのだ。

 異常な光景に怖れを感じた俺は、慌てて兵士の側を離れる。


「か、影山さん……なんなんですかこれ!?」

「そいつは、本人にでも聞いてみろ」


 影山が見据える先、深い闇が広がる森の中から足音と小さな悲鳴が聞こえてくる。

 何が来るのかと警戒し、いつでも抜けるように腰の剣に手をかける。

 森の闇から姿を現したのは、黄色の眼に黒い肌に毒々しい紫の髪、黒い鎧を纏い血のように赤いマントを翻しながら男が現れた。

 奴の姿を見るのは二度目……間違いない、魔王ベルゼネウスだ!

 闇の中から現れたベルゼネウスの側には、あの黒い霧が漂っており、鳥人族の男が捕まっている。


「まだ生き残りがいたか」


 ベルゼネウスはこちらを確認すると、霧で捉えていた鳥人族を頭を掴み上げた。

 その手から黒い霧が溢れ、そして──


「あがっ、あがぁぁぁぁ!!」


 鳥人族の悲痛な叫び声が響くと、黒い霧が男の身柄を解放する。

 しかし男は地面に崩れ落ちるとピクリとも動かなくなってしまった。

 同じだ、周囲で倒れている人たちと。

 ルディヴァに見せられた、俺がベルゼネウスに襲われた時の状況と……

 おそらくベルゼネウスに捕まったらお終いだ。

 その時の記憶は俺にはないが、俺の中で警告音がひっきりなしに鳴っている。

 『魔王の黒い霧には捕まってはダメだ』と。

 こちらに歩み寄ってくる魔王から目を離さず、小声で影山に声をかける。


「影山さん……」

「わかっている。魔王相手に接近戦は悪手だ。奴には魔法しか有効な攻撃手段がない。坊主、お前魔法は使えるか?」

「一応は……でも、モンロープスと戦った時にマナを使ったから、そんなに残ってないです」


 モンロープスと戦った時に真っ二つにする為にかなり斬撃にマナを割いた。

 まだ全回復には至っていない。

 おそらく全力の斬撃一回を放ったらマナが尽きてしまうだろう。

 かと言って、威力を弱めた魔法と斬撃が魔王に通じるかどうか……


「ちなみに、影山さんはどのくらいマナを持ってますか?」

「悪いが、俺には魔法の才能が無い。使えないんだ」

「いぃっ!?じゃあどうするつもりですか!?」


 この世界で魔法が使えないって致命的じゃないか!

 今この場には俺と影山しか立っていない。

 もしかして二人だけで避難の時間を稼ぐのか!?


「ん?貴様……」


 近づいてきていたベルゼネウスが足を止め俺を凝視してくる。


「貴様は確か……数十日前に俺様の馬に石を当てた小僧」


 なんで覚えてるんだよ忘れてろよチクショウ!

 俺の姿を見て思い出さなくてもいいことをベルゼネウスは思い出してくれる。

 そのまま気づいてくれなくていいのに。


「貴様は俺が闇の瘴気を二度も当てたはずだ。なぜ生きている?」


 魔王の質問に俺は決して答えるつもりはない。

 闇の瘴気とやらに当てられた人は、周囲で倒れている兵士と同じ症状になるのだろう。

 俺もかつて同じ目に遭い、それを助けてくれたのはティアーヌだった。

 つまり魔王の手で闇の瘴気にやられた兵士たちを助けられるのもティアーヌだけ。

 ならば絶対にベルゼネウスにティアーヌの存在を知られてはならない。

 闇の瘴気を治療できる者、しかもそれが同じ悪魔族の淫魔(サキュバス)だと知れば必ずベルゼネウスはティアーヌを抹殺しようとする。

 それだけは避けなければ!


「黙りか……まぁいい。もう一度、闇に堕とせばいいことだ!!」


 言い終わると共に魔王の体から大量の黒い霧が溢れ出す!

 あれが闇の瘴気か……あれに捕まったら即アウトとか、オワタ式もいいとこだな!


「逃げ惑え愚民共!狩りの時間だ!」


 ベルゼネウスの威圧感がより一層強くなり全身にのしかかる!

 俺と影山だけじゃベルゼネウスを倒すことは多分不可能だ!

 こうなったらできるだけ時間を稼いで……


「全員撃てぇ!」


 背後から誰かの号令が聞こえる。

 同時に俺たちの真横を無数の魔法攻撃が魔王目掛けて飛来する。

 通り過ぎた多種多彩な魔法は、俺と影山を狩ろうと油断していたベルゼネウスに全て直撃するのだった。


次回からクロノス君にはズタズタになってもらいます


次回投稿は来週日曜日です!

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