第百二十七話 束の間の休息
ようやく難民キャンプの話まで来ました!
もうすぐ第四章の内容も半分終わりを迎えます!
前回までのあらすじ!
久しぶりに再会した父親に剣を向けられた!以上!
「でやぁぁぁぁ!!」
「ちょっと待ってェェェェ!!」
繰り出された突きを咄嗟に避ける。
しかしジェイクはそれだけでは終わらず、続け様に俺の首を斬ろうと襲いかかってくる!
流石にそれを避けられないのでこちらも剣を引き抜き、首元を守るように受け止める。
利き腕の右腕を無くしているはずなのに、左腕の攻撃も変わらず強力だ。
「ちょっ、ちょっと待って下さい父さん!」
「黙れ!私の息子は死んだ!魔物が化けているのだろう!?私の知る息子はもっと幼い頃に死んだのだ!貴様は私の知る息子ではない!!」
「微妙に正解してるけど一応本物だから!!」
屈んで剣を受け流し距離を離そうと試みるが、ジェイクは俺を逃すつもりはないらしく再び斬りかかってくる。
もう一度剣で受け止めて呼びかける。
「待って待って!本当に本物だから!あなたの息子のクロノス・バルメルドだから!!ほら見て、この剣!」
「……っ!まさか、その剣は」
「そうそう!これは父さんが俺にプレゼントしてくれた……」
「息子の形見まで持ち出して……そんなに命を貶めるのが楽しいのか貴様はぁぁぁぁ!!」
「もぅマヂ無理ィィィィ!!」
ダメだ何言っても聞いてもらえねぇ!!
「坂田さんヘルプ!ヘェェェェルプ!!」
斬撃や蹴りといった攻撃を防ぎながら坂田に助けを求める。
要請を受けてすぐさま坂田が仲裁に入ってくれた。
「ジェイクさんストップ!落ち着いて!」
「大臣!ここにいるのは私の息子ではありません!息子に化けた魔物です!すぐに兵に知らせて討伐を……」
「彼は正真正銘あなたの息子さんです!魔物ではありません!」
「……魔物じゃ、ない?」
坂田の制止でよくやくジェイクの動きが止まる。
しかし、それでもまだ信じられないらしく、疑いの眼差しで俺を見つめてはいる。
「本当に……クロノスなのか?」
「初めて会った時は大蛇の巣でしたね。あの時父さんが間に合わなかったら、確実に丸呑みされてました。
禁断の森に勝手にフロウを助けに行った時は思いっきり殴られましたね。いやーあれは痛かったです。
王都に初めて行った時は災難でしたよね。誘拐事件に巻き込まれて、しかもそこで見た化物のせいで、しばらく魚が食べられなくなりましたし。
そうそう、ジルミールにも」
過去の思い出を口にしているとジェイクの手から剣が零れ落ちる。
「母さんには、最初はよく抱きつかれました。でも俺が嫌がるからって途中からは自重してくれるようにしてくれましたよね。
初めて魔法を教えてもらった時はレイリスと一緒にでした。雷属性の魔法は危ないから使うなと言われたのに、俺は約束破って勝手に使ったら、近くの森に落ちて軽いボヤ騒ぎになりましたよね。
誕生日の時にはケーキも作ってくれて」
ユリーネとの思い出も語りだすと、青かった顔色が徐々に良くなり涙が溢れ始める。
そして言葉を交わすよりも早く、二人は俺に駆け寄ると力強く俺を抱きしていた。
✳︎
「はい、クロちゃん。ご飯のお代わり」
「いやいいですよ。量が少ないんだから母さんが食べてください」
誤解も解け、久しぶりに家族と一緒に食卓を囲む。
囲むと言ってもテーブルは空の木箱だし、座る場所も椅子じゃなくて地べただし、食器は木で作られた物だし、献立も芋とパンとかなり質素だ。
住まいもテント、メイドさんもいないし、十年前とは生活レベルに天と地ほどの差があるが文句はない。
ティアーヌは「家族との時間を邪魔はしたくない」と遠慮されてしまった。
ユリーネはずっと上機嫌で世話を焼こうとしている。
利き腕であった右腕を無くし、左手で食事を摂るジェイクをじっと見ていると視線に気付かれる。
「……ん?ああ、この腕か?随分前に魔物にやられてな」
「父さん程の人が?そんなに強い魔物だったんですか?」
「いや、能力が厄介だったんだ。人の心を読み、会いたいと願った人物に化ける魔物だったのだ。その時に不意を突かれて……な」
その話でようやくジェイクが俺に襲いかかってきた理由がわかった。
魔物が化けたのが俺の姿だったんだ。
だから俺を「化け物め!」と罵り否定し続けてたのだ。
また同じ魔物が目の前に現れたと思って……
「そのせいでお前には酷いことをした。許してくれ」
「いえ、そんなことがあったのなら警戒して当たり前です。幸い怪我もないですし」
でも本気で殺しにかかってきたから結構危なかった。
利き腕で来られたら本当に首飛んでたかも。
ちなみに、例の如くここに来るまでの経緯はかいつまんで説明はしてある。
「今日はもうゆっくりするといい。長旅で疲れるだろうからな」
「そうだ!クロちゃん一緒に寝ましょうよ!子供の頃よく添い寝してたじゃない?」
「したこと一回もないし、するつもりもありません」
勝手に過去を捏造しないでもらいたい。
「あぁ、この対応……やっぱりクロちゃんだわ〜。昔と全然変わらないわね」
「母さんは変わりましたよね。皺が増え
そこまで言って両肩を掴まれる。
ユリーネは額に青筋を浮かべながら笑顔を浮かべ、
「ごめんなさい、歳のせいか最近耳が遠いのよ〜。もう一回言ってくれる〜?」
「だだだだだすいません!何でもないです!」
強い力で掴まれギリギリと肩が悲鳴を上げる。
背筋も凍るほどの威圧感に圧倒され首を振ると解放された。
やっぱ昔と変わらずこえーよこのお母さん……
食事を済ませると焚き火をする為の準備を他のテントの住人と行う。
夕刻に近くなる頃には作業が終わり、少し自由な時間ができると俺はティアーヌを探しながらキャンプを見て回ることにする。
フロウの言っていた通り、ここには子供もお年寄りもいない。
いるのは二十代から四十代の男女のみだ。
種族もバラバラだが、決して険悪な雰囲気もなくお互いに協力をしながら生活をしている。
歩きながらティアーヌを探しているたが違う人物を発見する。
ゲイルと戦ってる時に助けてくれた帽子の男、影山真一だ。
「それじゃあ、今日はここの警備を頼む」
「わかりました、おやっさん」
影山は「おやっさん」と呼ばれており、指示を聞いた青年たちは武器を持って四方に散らばる。
その様子を見ていると影山がこちらに気づいた。
目が合ったのでなんとなく会釈する。
「どうも……」
「クロノス、バルメルドだったか?」
「何をしているんですか?」
「キャンプ地周辺の警備分担を決めていた。いつ魔物が現れても連絡が取れるようにな」
「ついてこい」と影山に誘われ後ろを歩く。
彼はキャンプ周辺の警邏をしながら質問をしてくる。
「坂田から聞いたぞ。お前も異世界人なんだってな」
「じゃあ、やっぱり影山さんも?」
「スーツ姿している奴、この世界で他にいるか?」
肩をすくめるような素振りで自分の身なりについて尋ねる影山に苦笑いを浮かべる。
まぁいないよな……全身白づくめのスーツ着た人なんて。
「影山さんはどうしてこの世界に?坂田さんみたいに突然連れてこられたんですか?」
「俺は元の世界では探偵をしていたんだが、行方不明者を探す依頼の調査中に迷い込んだ。少し特殊なケースらしい」
迷い込んだんだ……神隠しみたいなもんか?
「だから、俺はお前たちの言うギルニウスとやらには一度も会ったことがない。こっちに来てからは世界中を回って、探偵事務所を営んでいた。……魔王が現れるまではな」
「それで、今は難民キャンプで用心棒みたいなことをしてるんですか?」
「そんなとこだ。探偵業は半分趣味みたいなものだ。実際には、ほぼ便利屋として見られているから護衛や運び屋みたいなことをしているがな」
なんだか変わった異世界ライフを送っている人だな。
でも異世界から来た人なら、真っ先に神様が勧誘しに来そうなものだけど。
「もしかして、別の国の宗教とか信仰してます?」
「元々無宗教だ。神の存在も信じていないしアテにしてない」
なるほど、それじゃあギルニウスは勧誘には来ないだろうな。
影山を信者に取り入れようとしても素気無く断られそうだ。
「坊主、お前がこの世界でどんなことをしているかは大体坂田から聞いている。騎士を目指しているらしいな?」
「ええ、養子に迎えてくれた家が騎士の家系なんです。腕はまだまだですけど」
最後に剣の訓練をジェイクから受けたのは九歳の時代なので、現在俺には年相応の実力はないかもしれない。
見た目二十歳前後でも指導は四年しか受けてないから当たり前っちゃ、当たり前かもしれないけど。
「……そうか。じゃあ、どうして坊主は騎士を目指しているんだ?」
「え、どうしてって」
「前の戦闘で見た限り、お前さんは確かに剣の腕は普通だった。まだこれから伸びはするが、目指す場所が上であるほど茨の道だろう。何か騎士であるこだわりがあるのか?」
騎士を目指す理由を聞かれて首を傾げる。
そんなことを尋ねられても、答えは単純だ。
「親が騎士だからです。元々騎士になる為に養子として迎えられたのですから、それ以外に理由なんかありませんよ?」
むしろそれ以外の理由がない。
俺にとっては、騎士を目指す理由なんてそれだけで十分なものだ。
答えを聞いて影山は目を閉じて何かに納得している。
すると影山はほんのわずかな声量で呟く。
「ならお前は、騎士にはなれない」
しかしその言葉は俺の耳には届いていた。
俺は、騎士にはなれない?
なんで会ったばかりの人にそんなこと言われなきゃならないんだ?と遺憾と共に、なぜ俺は騎士になれないんだ?と疑問が浮かび上がる。
「それは──一体どういう……」
少し苛立ちをながらも意味を聞き出そうとする。
しかし、それは突然鳴り響く鐘の音によって遮られた。
痛いほど耳に響く鐘に誰もが驚き、音の鳴る方角へと注目する。
「魔王軍だ!魔王軍が来たぞぉぉぉぉ!!」
鐘が鳴る方角から誰のとも知れぬ危険を知らせる叫び声が聞こえる。
その声を聞いた瞬間、周囲がパニックに陥る。
人々は悲鳴を上げながら走り出し、持っていた荷物を放り投げる。
俺と影山はその場から動けずに未だ鳴る鐘の方角を見つめる。
「魔王軍が……現れただとッ!?」
影山の表情に焦りが見える。
額には僅かに冷や汗が流れていた。
一方、俺の心の中では二つの感情がせめぎ合っている。
魔王軍が現れたことに対する困惑と、名前のわからない騒めきのようなものが渦巻いていた。
またインフルが猛威を振るっているらしいので皆さん気をつけてくださいね
僕は風邪引きました
次回投稿は来週日曜日の22時間となります!




