第百二十五話 カゲヤマ
今日から三日間連続投稿です!
いつもスマホのメモ帳で執筆しているんですが、アプデしたら使い難くなってしまった……
俺を助けてくれたのは白いスーツを着て白い帽子を被った四十代近くの男だった。
身なりでその人が異世界人だとすぐにわかる。
この世界にスーツを着て帽子を被っている人なんて今までに一度も見たことないし、この世界の文化にはまだスーツなんて物はないからだ。
でも敵じゃないなら、共闘してくれるのは心強い。
「えと、あの……」
なんと声をかけたらいいのかと口籠ってしまう。
すると帽子の男は鞘に収められた剣を投げ渡してくる。
ってこれ、俺の剣だぞ!?
「預かり物だ。白い髪に色違いの眼、お前がクロノスだな?」
「もしかして、フロ……ニケロ村長から?」
「そうだ。要請を受けて救援に来た。他は仲間が向かってる」
じゃあこの人は、難民キャンプの人なのか。
救援が来たことに安堵していると、火属性の魔法の爆発でモンロープスから転げ落ちていたゲイルが立ち上がる。
「な、なにしやがんだこの……げぇ!カ、カゲヤマ・シンイチ!?」
「ゲイル、お前まだ盗賊なんてやってたのか」
帽子の男を見てゲイルが狼狽する。
どうやらゲイルとカゲヤマ・シンイチと呼ばれたスーツの男は顔見知りらしい。
「テ、テメェしつけぇーぞ!俺らが仕事すると毎度毎度邪魔しに来やがって!」
「それが仕事だからな。しかし、今回は変わったペットを連れてるな」
「へっ、驚いたか。こいつはモンロープス、山に棲んでる魔物だ。気性が荒くて有名だが、今やこいつは俺の右腕なのさ!」
「ほお、それは初耳だな。お前の右腕がそんな毛むくじゃらだったとは」
「言葉通りに解釈するんじゃねぇ!比喩に決まってんだろ!」
ゲイルがカゲヤマ・シンイチに言葉で転がされている。
が、ゲイルはカゲヤマ・シンイチのペースに飲まれかかってるのに気付いて首を振った。
「その減らず口を聞くのも今日で最後だ。おい、いつまで寝てるんだこの猿!」
ゲイルの罵倒に脇腹に爆発を受けもがいていたモンロープスが起き上がる。
視線を離さないまま、カゲヤマ・シンイチに話しかけられる。
「坊主、まだ戦えるか?」
「は、はい。俺、弓より剣の方が扱い得意なんで」
弓をしまい代わりに剣を鞘から引き抜き構える。
「えーっと、あなたのことはなんと呼べば?」
「カゲヤマシンイチだ。好きに呼べ」
さっきから一切こちらを向かないまま会話を続ける。
だったのだが──
「ちなみに……カゲヤマって、影に山って漢字で合ってます?」
「っ!?坊主、お前まさか……?」
その質問でようやく影山はこちらに視線を合わせた。
やっぱりこの人転移者だ。
「おら、さっさと行けこの猿!」
『キュヴ!キュルキュルキュル!!』
「来るぞ坊主!」
ゲイルに蹴り上げられてモンロープスがこちらへ突進。
姿勢を屈めると跳躍の構えに入る!
またあれか、もうヨハナに乗ってはいないから空中で撃ち落とすしか方法は
「はあッ!」
『ギュ!?』
モンロープスが跳躍するのと同時に影山も跳躍し、頬に蹴りを叩き込んでいた!
その速さはモンロープスを上回り、蹴りを決められたモンロープスは空中で体勢を崩して地面に落下する。
というか、今何が起きたんだ!?
速すぎて両者の動きが全く目で追えなかったぞ!?
「何をボサッとしてる!追撃しろ!」
「え……あっ!はい!」
事態に理解が追いつかず反応が遅れてしまう。
影山に急かされ、俺はようやく地面に落下したモンロープスへと接近し、
『ギュルゥ!』
「うわっ!?」
起き上がったモンロープスに反撃に転じられ、体を起こす勢いのまま鉤爪が振り下ろされる。
その動作に咄嗟に後ろに跳び下がる。
攻撃を避ける俺をモンロープスは距離を詰め、何度も爪による斬撃が繰り出される!
『キュル!キュル!キュル!』
「ちょ、まっ、何で俺ばっかり!?」
繰り出される連続攻撃を剣で弾くか避けてやり過ごすが、攻めの手を緩めず鉤爪を振り続けてくる。
その隙に影山がモンロープスの脇腹に再び蹴りを叩き込んだ。
疾風の様に早く鋭い一撃にモンロープスは吹き飛ぶがすぐに体制を直す。
助けてくれた影山は俺の肩を叩く。
「坊主、相手の動きをよく見ろ。そこまで速い魔物じゃない」
「十分早いですよ!?目で捉えるのだって、相手が一瞬止まった時じゃないと……」
「それはお前が散漫だからだ。もっと神経を研ぎ澄ませ」
影山に叱咤される間にモンロープスが再度突進を仕掛けてきた。
刹那、影山の姿がまた視界から消え、次の瞬間にはモンロープスの振りかぶった腕に対して蹴りで対抗し弾き飛ばす。
神経を研ぎ澄ませって言われても、どうやったらあんなに速く動く魔物を視界に捉えて、なおかつ渡り合えって言うんだ……
「あっ、でももしかしたら……」
「坊主、そっちに行ったぞ!」
モンロープスを見失わない可能性を思いつくと、またこっちに襲いかかってくる。
突き出された鉤爪を剣で受け止める。
そのまま力で押し込もうとしてくるモンロープスに耐えながら、俺は左眼に意識を集中させる。
青色の左眼にマナを流し込む。
眼が熱くなり、今までよりも視界がより鮮明に、より遠くまで見えるよう視力が向上させた。
押し込まれていた鉤爪を上へと弾き返す。
すると今度は、左手の鉤爪で切りかかって来るのがはっきりと見えた!
「やっと見えた!」
相手の動きを完全に目視できるようになったことに歓喜の声を上げ、迫り来る鉤爪を剣で難なく受け流すことができるようになった。
横薙ぎの攻撃を屈んで避け、脇をすり抜けるのと同時に左足を斬りつける。
剣で斬られた箇所から血が流れモンロープスが片膝を着いて動きが止まった。
「やればできるじゃないか」
「なんとか!」
感心する影山に答える。
動きが止まっている間に止めを……と思ったが、モンロープスがまたあの跳躍のモーションを見せる。
「腕をやれ!」
「わかりました!」
モンロープスが跳躍すると同時に俺も影山も飛び上がる。
またしても一番動きが速いのは影山。
跳躍したモンロープスに一瞬で距離を詰めて胸部に飛び蹴りを喰らわせる。
蹴りを喰らい仰け反ったところに、続けざまに俺は右腕を狙い剣を掲げる。
「うおおおおおお!!」
刀身にマナを流し込み腕めがけ剣を振り抜く。
切断するまでには至らなかったが、深く切り込まれたモンロープスの右腕から血が溢れる。
着地しすぐに落下してるモンロープスから距離を置く。
剣を振るって刀身に付着した血を振り払うと影山が隣に立つ。
「決めるぞ坊主」
「はいッ!」
剣の柄を強く握りしめ、装着されていた魔石に溜め込んでいたマナを解放する。
さっきの一撃はマナが弱すぎて威力が低くなってしまった。
だから今度は出し惜しみはしない。
モンロープスを真っ二つにできるだけのマナを刀身に込め続ける。
影山は腰ベルトに付けていた革製のツールケースから薄い長方形の赤い石を取り出す。
それを右ブーツ側面の凹凸に差し込む。
するとブーツと地面の接地面から赤い光が漏れ出すのがわかる。
「行くぞ!はああああッ!」
「ぜりゃァァァァ!!」
影山が飛び蹴りと同時に剣を力の限り振り下ろす。
胸部に飛び蹴りを喰らい後方に吹き飛んだモンロープスに、俺のマナの斬撃が放たれ追撃となる。
斬撃を浴びたモンロープスの体は真っ二つに裂け、続けざまに影山による蹴りを受けた胸部が赤い光を放ち、次の瞬間には大規模爆発を起こした。
爆発によりモンロープスが塵一つ残さず消し飛んだ。
モンロープスを倒して小さくガッツポーズをし喜ぶ。
そんな俺とは対照的に、影山は静かに帽子を被り直すだけである。
「そういえば、ゲイルは!?」
まだゲイルが残っていた、とモンロープスを操っていたゲイルを探すが、どこにも姿が見えない。
「大方逃げたんだろう。引き際を心得ているのは、あいつら盗賊の得意分野だからな」
「追わなくていいんですか?」
「無理に深追いして奴らの罠に嵌められてしまえば余計に被害が出る。目的は馬車の護衛と救出だ。欲を出せば死ぬぞ」
影山に戒められ、俺は「わかりました……」と答える。
左眼にマナを流すのを止め解除すると、遠くから馬車に乗るフロウたちの姿が見えたのだった。
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クロノスがフロウと再び合流していた頃、ゲイルは部下を引き連れ森の中を歩いていた。
皆難民キャンプから来た援軍から逃げる為走り回り息も絶え絶え。
ほぼ気力だけでゲイルの後を追いかけている。
「くそっ!あのキザ野郎めぇ!」
ゲイルは邪魔をした影山に対し怒りを募らせ、身近の木を殴り叩く。
今回の作戦は失敗に終わってしまった。
本来の手順ならば、中央の馬車を足止めし、先頭が足を止めるか離脱し孤立した所で襲い積荷を全て奪うつもりであった。
だが実際に奪えた積荷はほんの僅か、馬車を破壊し落としたが、奪えた物資は二割しかない。
護衛の死体から武器や防具を剥ぎ取っては来たが、それでもこちらの被害を考えれば割りに合うはずもなく、加えてせっかく調教したモンロープスを二体も失った。
完全に大損である。
もっとも、ゲイルがクロノスに固執したのも原因の一つではあるが。
「あのガキもだ。あいつと関わるとロクな目に遭わねぇ!あの厄病神め!」
怒りで地面を踏み付けるが、今の状況が変わる訳ではない。
当初の目的では最低でも一週間分の食糧さえ奪えれば良かったのだが、奪った量からして三日も持ちはしない。
これでは部下全員に食事を与えるのも無理だと考えが頭をよぎると、ゲイルは頭を振るう。
めぼしい集落はほとんど襲った。
生き残る為に同じ盗賊同士で奪い合いもした。
しかしもう、奪うだけの生き方ではこの時代を生きていくのは不可能かもしれない……そんな不安がゲイルの胸の内に募り始めた時、それは現れた。
「何か困り事みたいだな?」
森を進むゲイルたちの前に、これ見よがしに金品を身に付け、下卑た笑いを浮かべる小綺麗な身なりをした小太りの男が立っていた。
「またボクが魔物を売ってやろうか?今度はその猿なんかよりも、もっともっと……強い魔物を」
気色の悪い笑みを浮かべる小太りの男を前に、ゲイルは無表情のまま、小太りの男に歩みよるのだった。
次回投稿は明日の22時です!




