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第百二十四話 矢と帽子

今期のダークホース「ゆるキャン▲」は尊さの境地


 ゼヌス平原では未だ盗賊と馬車に隠れていた兵士たちとの交戦が続いている。

 ゲイル以外にもモンロープスを操る盗賊四人に対し、馬に乗馬した兵士たちが応戦するも一人、また一人とモンロープスの手によって倒れていく。

 俺もまたゲイルが操るモンロープス相手に苦戦を強いられていた。

 モンロープスの一撃が振り下ろされ、俺は飛び退くと地面を転がる。

 すぐさま起き上がると走って距離を稼ぎ、矢筒から矢を取り出し、振り返りモンロープスに乗るゲイル目掛けて射る。

 しかし放たれた矢はまたしても左に逸れてしまい、ゲイルにもモンロープスにも擦りもしなかった。


「くそ!また外した!」


 どうしてこんなに矢が左に逸れるんだ!?

 木を的に練習を続けて、最近は矢が真っ直ぐ飛んで命中するようになってきたのに!!

 矢が外れたのを見てすぐさま走り出す。

 その後ろからまたモンロープスが鳴きながら追いかけてくる!


『キュルキュルキュルキュル!』

「どうした白髪ぁ!?早く逃げないと死ぬぞ!?ほらほらほらぁ!!」


 背後から迫るモンロープスとゲイルの声に焦りと苛立ちが募る。

 今俺の武器はこの弓矢だけだ。

 剣は載っていた馬車に置かれたままで手元には無い。

 つまり俺は接近戦を挑むことができずにいる。

 一応魔法も使えるが、先程ティアーヌが放った魔法をモンロープスは軽々と避けてみせた。

 それを考えると無闇に魔法を使えば、いたずらにマナを消費するだけになってしまう。

 ワイバーン戦の時にやった、矢にマナを込めて至近距離で発動させるという手もあるが、あれは初見でしか効果がない。

 もし射った矢から魔法が発動できると知れば、ゲイルもモンロープスも的外れな矢を警戒して避けるようになってしまうだろう。

 つまり俺は今、


「手詰まりってことかよ!」


 次々と繰り出させる鉤爪による斬撃を避けながら、状況打破できない歯痒さに唇を噛み締める。

 そもそも俺とモンロープスでは移動する時の歩幅が違いすぎる!

 俺が十歩で逃げても、モンロープスはたったの三〜四歩で距離を詰めて来る。

 いくら距離を取って矢を射ろうとしても全く隙が無い!

 せめてモンロープスより早く動ければ!


『キュルキュル!』


 逃げてもまたすぐにモンロープスに距離を詰められる。

 しかも今度は片腕だけの攻撃じゃない!?

 両手を広げ、俺を押し潰そうと倒れこんできた!

 逃げても間に合わない!

 そう悟った時、馬が鳴き声を上げて駆け寄ってきた。

 茶色毛を風に靡かせながら俺とモンロープスの間にも割って入り、後ろ足だけで立ち上がると前足でモンロープスの顔面を踏み付け押し返した。

 顔面を足で踏みつけられたモンロープスは混乱して飛び下がり暴れまわっている。


『キュル!?キュル!?』

「おい、落ち着けこのバカ猿!目には当たってねぇだろ!」


暴れるモンロープスを落ち着けようとゲイルが必死に宥めている。

 俺はただ一連の光景を眺め唖然としているだけだった。

 俺を助けたのは誰かと馬を見上げると、そこに居たのは誰も乗馬していないヨハナの姿が。


「ヨハナ!?俺を、助けてくれたのか?」


 「その通りだ」と言いたげにヨハナは鼻を鳴らす。

 でも、元々ヨハナに乗馬していた人はどこに?

 だけど、もし落馬してヨハナがその人の傍にいないってことはもう……


『キュルゥゥゥゥ!!』


 痛みが続いているのかモンロープスは長い腕で何度も地面を叩き興奮している。

 それを見て悠長にはしていられないと、俺はヨハナに付けられたあぶみに足を乗せ鞍に跨り、ヨハナに声をかける。


「ヨハナ、あれを倒すのに力を貸してくれるか?」


 俺の問いかけにヨハナは小さく鼻を鳴らし足踏みして応える。

 どうやら付き合ってくれるみたいだ。

 よし、これで移動しながらでも弓が射ることができる。

 後はヨハナを上手く操れるかどうかだが……


「ヨハナ、俺はまだ満足にお前を乗りこなせない。だから──全部お前に任せる!」


 首を軽く撫でてヨハナに走りを任せると伝える。

 了承したと言わんわばかりにヨハナは鳴きながら地面を踏み鳴らす。

 手綱を左手に絡め、弓矢を準備すると鐙を軽くヨハナに当てて合図とする。


「よし、行くぞ!」


 合図と共に駆け出すヨハナ。

 常歩、速歩と徐々に速度を上げて行き、駈歩となってモンロープスに迫り、俺は激しい上下運動に耐えながら弓を構える!


「ハッ!射ってみろよガキ!当てられるもんならなぁ!?」


 ゲイルの奴め、馬鹿にしやがって!

 見てろよ……下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってことを教えてやる!


「そんなに受けたきゃ……受けてみ、ろう!?」


 矢を放そうとした瞬間に突然ヨハナが右に大きく逸れながら走り出した。

 突然身体が右に引っ張られるような感覚に襲われ、思わず変な声と共に右手から矢を放してしまう。

 そんな俺の姿を見てゲイルが大きく笑い、


「ハッハッハッ!なんだよその格こ


 一瞬で笑みが消えた。


「「え?」」


  俺とゲイルも同時に声を上げ、矢が命中した箇所を見る。

 俺が意図せず放った矢が、ゲイルの右二の腕に突き刺さっていたのだ。


「……は? 痛っ、いてぇぇぇぇ!!あのクソガキぃぃぃぃ!!」


 二の腕を矢で射抜かれた痛みにゲイルが吠える。

 一方矢を当てた俺は命中したことに困惑している。


「え、当たったの? え、嘘、どうして何で!?」


 今まで一発もまともに飛ばなかったのに、何で今の一発はちゃんとゲイルに当たったんだ!?

 考えられるのは、ヨハナが急に右に走り出して、意図せずに矢を射ったからだけど、偶然そうなったのかヨハナが意図してそうしたのかは分からない。

 と言うか、もしかして俺……狙って射たない方が矢を当てられるのか?


「あんのガキぃぃぃぃ!追いかけろ、この猿!」

『キュルキュル!!』


 止まっていたモンロープスがまたこちら目掛けて走り出し背後から追いかけて来る。

 ゲイルもモンロープスも物凄い剣幕で迫って来るが、馬のヨハナの方が移動が早いのか距離はあまり縮まない。


「いいぞヨハナ。この距離を保ったまま、もう一度矢を当ててやれば」


 すると、俺の呟きを聞いていたのか、真っ直ぐ走っていたヨハナがまた進路を変え、今度は左へと曲がり始めた。

 背後から追って来る形だったゲイルとモンロープスの姿が、左側面から見える形となり矢を射るにはちょうど良い角度となる。

 もう一度当ててやる、と意気込みながら矢を構え、今度はモンロープスを狙って矢を射る!

 矢は狙い通りに真っ直ぐ飛来し、モンロープスの右腕に、


『キュル』


 ……一声鳴いて叩き落とされた。

 やっぱり、モンロープスには魔法や弓矢の遠距離攻撃は効果がないのか?

 ティアーヌの魔法も軽々避けていたし、動体視力が高いんだ。

 ならやはり狙うべきは搭乗者のゲイルだ。

 歩速ではこちらと相手の距離はあまり縮まることはないみたいだし、このままの距離でちまちまとゲイルを矢で狙い続ければいつかは──


「跳べ、猿!」

『キュルゥゥゥゥ!』

「……はい?」


 ゲイルの命令にモンロープスが突然地面を蹴り飛び上がる。

 視界から消えたかと思うと、いつの間にか俺たちの頭上には落ちてくるモンロープスの姿が……


「うおぉぉぉぉ!?」


 俺が動くよりも早くヨハナが回避行動を取る。

 しかし逃げるよりもモンロープスの落下攻撃の方が早く、衝撃に煽られ俺はヨハナから転げ落ちてしまう!

 落馬すると悟り受け身を取り転げ落ちる。

 だがその隙をゲイルが見逃す訳ない。


「あの男を殺れ!」

『キュルキュル!!』


 モンロープスが俺目掛け鉤爪を振るい飛びかかってくる!

 落馬したばかりで起き上がることができず逃げられない!

 そう悟った時、


「頭を下げろ!」


 誰かの声が聞こえ思わず頭を下げる。

 突然炎が飛んできてモンロープスの脇腹で爆発した!

 爆発により跳躍していたモンロープスは吹き飛び、乗っていたゲイルも地面を落ちていた。


「な、なんだ!?」


 第三者の声が聞こえたかと思うといきなり爆発が起き、俺は周囲を見渡す。

 一体誰が俺を助けたんだ!?

 今のは火属性の魔法だけど、男の声だったからティアーヌじゃない……じゃあ誰が?


「お楽しみのところ邪魔して悪いな」


 先程聞こえたか男の声が背後から聞こえてくる。

 振り返り姿を確認すると、俺は自分の目を疑った。

 その男の姿があまりにも見慣れているはずなのに、この世界ではあまりにも似つかわしくない服装だったからだ。

 白い革のブーツに白い上下のスーツ、首元には白いネクタイを着け、白い帽子を被り白一色に染まっている。


「俺も、混ぜてもらおうか」


 白一色の男は表情を全く変えずに俺の側に立つ。

 どうやら味方らしいが、男の身なりを見て俺はその人物が何者かわかっていた。

 この帽子の男──異世界の転移者だ。

今日は帰ったらプリキュア新作も見るぞい!

あと中指アニメもやっべみなきゃ!


次回投稿は来週土曜日の10日から三日間の連続投稿になります!

なんてったって三連休ですから!

まぁ、僕は三連休じゃないんですけどね

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