第百二十一話 占われる
この先の展開を君だけに教えるz
教えねーよ!(リセマラ)
イトナ村に到着してから三日が過ぎた。
村は平和そのもので、ワイバーンが空から落ちてきたり、魔物の群れが襲ってきたりはしなかった。
滞在中はなるべく村の畑仕事や警備の仕事を手伝うようにし、フロウに迷惑はかけないようにしている。
そうして三日目の今日、いよいよ俺たちは物資を届ける為に難民キャンプに向かう……のだが、
「よし、じゃあクロノス君。乗ってごらん」
「はい。よっと」
俺は今、村の馬小屋で飼育されている馬に乗馬させてもらっていた。
平原を移動する時は基本徒歩だけど、馬で移動できたら楽かと思い、イトナ村に滞在している間に空いた時間を使い指導を受けている。
鞍に腰掛け、鞍の両脇にぶら下がっている鎧に足をかけ、なるべく楽な姿勢で乗馬する。
「じゃあ、今日も頼むよ。ヨハナ」
ヨハナとは馬の名前だ。
茶色い毛並みの馬の雌で、飼育されている馬の中では一番大人しいそうだ。
動き出す前に首を軽く撫でると、機嫌を快くしたのか軽やかな足取りで敷地を歩き出す。
馬に乗っていると言っても、まだ俺はたかだか二日しか訓練していないので、いきなり馬に乗りこなせるはずもない。
だから移動はヨハナに任せて、俺は手綱を握っているだけだ。
俺が馬を操るのではなく、馬にお願いして乗せてもらってるって感じだ。
いや、思ったより乗馬って結構難しかったんだよ……。
兎にも角にも、まずは馬に乗ることに慣れないといけないので、ヨハナに自由に動いてもらって俺は乗馬の感覚を覚えるというのが今の目的だ。
馬小屋の周囲をヨハナが歩き回っていると、柵の向こう側にティアーヌの姿を見つける。
「おはようございます、ティアーヌさん」
「おはよう。今日も乗馬の訓練をしているのね」
「移動する時は馬に乗れた方が便利かと思って。ティアーヌさんも馬に乗る練習すればいいのに」
「私はいいわよ。馬に乗ろうとすると……発情した馬に襲われそうになるから……」
「あぁ……」
そういえば、ティアーヌはサキュバスだから、馬にさえも『チャーム』を発動させてしまうのだろう。
馬に跨がろうとしたら馬に跨がられるのか、それじゃあ乗馬の訓練をしようとは思えないな。
死んだ目をして答えるティアーヌに何とも言えない気持ちになり会話を止める。
ヨハナも自由に歩き回っているのに、決してティアーヌには近寄ろうとはしない。
「ほら、彼女も私に近寄ろうとしないでしょ?本能的に私が危険だとわかっているのよ」
「……でも、俺はティアーヌさんを危険とは思ってないですから」
「それはどうも」
フォローのつもりで言ったんだけど、小さく笑われてしまう。
だけど、ティアーヌがサキュバスだと知っていても、彼女自身が危険ではないことも知っているのでその言葉は本心だ。
それからしばらくヨハナに任せて敷地の中を歩き回ってもらい、キリのいいところで訓練を終了する。
相変わらず空には暗雲が広がっているが、乗馬した俺の心は幾分晴れやかである。
「ありがとうヨハナ。この後もよろしくな」
乗せてくれたヨハナに礼を言いながら首を撫でると、ちょっとだけ嬉しそうにしている……ような気がした。
飼育担当の人にもお礼を言って馬小屋を後にすると、ティアーヌと共に今日の段取りを確認する為、村長であるフロウの家に出向くことにする。
「初日に比べて、随分と馬の扱いに慣れたみたいね」
「まだまだですよ。腰とか痛くなるし、操るのも全然……飼育している人の話じゃ、馬のヨハナが俺に気を遣って乗馬させてくれているそうです」
「あら、ヨハナちゃんに気に入られたんじゃないの?」
「それはそれで嬉しいんですけどね」
乗馬の話しをしながら馬小屋を離れる。
馬に乗って歩くのは楽しいんだけど、いずれは自分で操り馬を走らせたいものだ。
「ホッホッホッ、先の長い話しじゃの」
二人で歩いているとどこからかしがれた声が聞こえる。
足を止めて周囲を見渡すと、木の根元に腰を下ろしてこちらを見ている人族の老婆の姿があった。
皺だらけの顔をした老婆はうっすらとした細い目で俺たちをマジマジと見つめている。
「そっちのお前さん、馬を乗りこなすには後三年はかかるの。それまで何度も馬から転げ落ちる……そう占いに出ておる」
なんだこの婆さん?
いきなり失礼なこと言ってくるな。
「お前さん、今『なんだこの婆さん?いきなり失礼なこと言ってくるな』と思ったじゃろ?」
「はいっ!?」
老婆の指摘に驚き変な声が出る。
なんで俺の心の中がわかったんだ!?
しかも一字一句違わずに!!
「別に心を読んだワケではないわ。顔を見れば分かる。ぽーかーふぇいすが下手じゃな小僧」
え、俺そんなに分かり易い顔してたかな?
確かにムッとした表情はした気がするけど。
「分かり易いわ。ほれ、今もしておるぞ」
「嘘?俺、そんなに分かり易い表情してます?」
「ええ、してるわよ」
ティアーヌにまでも言われてしまった。
マジかよ、ポーカーフェイスには自信あったのに。
分かり易い顔と指摘され自分の顔を触り確認する。
そんなに表情に出易いのかな俺。
「そっちのお嬢さんは……難しい顔をしておるの。自分の体質を気にしておるのか。まぁ、淫魔に産まれたのは星の定めじゃ。そう悲観することもない。いつかその悩みにも折り合いがつくだろうさ」
老婆の言葉に俺たちはバッと振り向く。
どうしてこの老婆、ティアーヌの正体を知っているんだ!?
この村に来てからサキュバスであることはフロウにさえ隠しているのに!
ティアーヌも自らの正体を見抜いた老婆に驚き目を丸くしており、ポツリと呟く。
「どうして私の正体を……」
「お前さんたちがこの村に来るのは星が教えてくれていたからの。ワシの占いは当たるのでの。心配せんでも、お嬢さんの正体を言いふらしたりはせん」
何者なんだこのお婆さん……。
唐突に俺たちに声をかけてきた老婆。
俺たちは足を止め、木もたれ座る老婆に近づく。
「お婆さん、一体何者なんですか?」
「なぁに、そんな大した者じゃないわい。日がなジャガイモ剥きをしておる老婆じゃよ。趣味は占いじゃ」
ティアーヌの質問に答えながら老婆は懐ろから水晶を取り出す。
傷一つ無く、普段から丁寧に手入れしているのか、水晶は綺麗に透き通っている。
「良かったら、お前さんたちの今後を占ってみるかい?」
「いや、俺たちはこの後ニケロ村長に会いに
「では占ってしんぜよう」
「いや聞けよ」
俺の言葉を無視して老婆は勝手に占いを始めてしまう。
水晶に両手をかざして「むむむむ!」と何かやっているが、俺には何をしているのかさっぱり分からないし、その工程ははたしているのだろうか。
「見える……見えるぞい。二人はそれぞれ探し人がいるな?」
「だったら何だと……」
「最後まで聞きなさい。白髪の小僧、お前さんが一番気にしているのは、エルフとアラウネの女子じゃな?」
「……なんで分かった?」
「星が教えてくれるのじゃよ」
星が教えてくれる……ねぇ?
でも俺がレイとベルを探しているのを分かるのなら、居場所も星が教えてくれるのでは!?
「なぁ、おばあちゃん!もしかして、その女の子の居場所は占いでわかるのか!?」
「ふぉふぉふぉ、もちろん──わからん」
「わかんないんかい!ならなんでちょっと溜めたの!?」
「まぁそう声を荒げるな。居場所はわからんが、生きているのは確かじゃ。それが分かるだけでも十分じゃろう」
老婆の言葉に喉元まで出かかっていた文句を引っ込める。
確かに生きているのが分かるだけでも嬉しい。
レイとベルが無事ならば、後安否が分かっていないのは坂田とセシールの二人だけになる。
あの二人は……まぁ根拠はないけど大丈夫そうだ。
俺と同じ異世界人だからギルニウスが守ってそう。
「そいで、そっちのお嬢さん。あんたの探し人は勇者だね?」
「……そうです」
「勇者なんて存在するかどうか曖昧なものを、よく探そうだなんて思うねえ」
「私たちにはもう、それぐらいしか縋るものがないですから」
「ふぉふぉ、違いない。して、その勇者じゃがの……存在はしている」
「本当ですか!?」
勇者は存在する。
その言葉に前のめりに詰め寄るティアーヌに老婆は小さく笑う。
「まぁ慌てるな。存在していると言っても、本人はまだ自分が勇者だとは自覚しておらぬし、勇者として覚醒もしておらぬ」
「でも勇者ではあるのですよね!?」
「左様、覚醒するのがいつかは分からぬが勇者となることには間違いない」
老婆の話しにティアーヌはホッと胸を撫で下ろしていた。
いるかいないかも分からない存在を追いかけていたティアーヌにとって、占いであろうとこの事実は吉報だろう。
しかし安堵するティアーヌに「ただし……」と老婆が言葉を続ける。
「お前さんが勇者を探そうとしても見つけることはできん」
「見つけられない……?それは、今はと言うことですか?」
「そうではない。勇者として覚醒していない本人をいくら探したところで、見つけられないと言うことじゃ」
「なら、私はどうすれば……」
「待つことじゃ。勇者が勇者として目醒めるのを──さすれば、向こう自らお前さんの前に現れる。そしてその鍵となるのは……この小僧じゃ」
老婆はシワだらけの人差し指で俺を指差す。
えっと、俺が鍵?
ティアーヌと勇者が出会う為のキーマンってことか?
「そうそうそうじゃよ、間抜け面のお前さんじゃ。他に誰がおる」
なんだよ、間抜け面とは失礼な。
「お嬢さん、この小僧と共に行け。ならば勇者は必ずお前さんの前に現れるだろうて。ワシの占いは当たるでの」
「……わかりました。ありがとうございます、おばあちゃん」
少しだけ晴れやかな表情でティアーヌは老婆にお礼を言う。
すると、タイミングを見計らったように村人の一人がこちらに大声で呼びかけてきた。
「おーい!ティアーヌさん、バルメルド君!ニケロ村長がお呼びだ!すぐに来てくれ!」
「わかりました!」と答え、ティアーヌと頷き合う。
別れ際に老婆にもう一度俺がを言うことする。
「ありがとうおばあちゃん、占いしてくれて。気休めでも、友達が生きてるって言われて嬉しかったです」
「気休めではないぞ。ワシの占いは当たる」
「はいはい。じゃあね」
適当に受け答えしながら老婆の元を去る。
距離が開いてからチラッと振り返ると、老婆はいつまでも俺たちのことを見送ってくれていた。
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クロノスとティアーヌが去っていくを見送り、木の幹に寄りかかっていた老婆は一人小さく笑う。
その笑いは少し不気味で、手に置かれた水晶を覗きながら笑っていた。
「さて……これからどうなるか、じっくり楽しませてもらうとするかの」
不気味な笑みを浮かべる老婆の目には、水晶の中に映るクロノスの姿が。
透き通るほどに透明であったはずの水晶だが、次第に黒ずんだかのように透明を失っていく。
見る見るうちに水晶は黒く染まり、その中に──黒い髪のクロノスがニタニタと笑みを浮かべている姿が映し出されているのだった。
ようやく「ゆゆゆ」を1から見始めたんですけど、友奈ちゃんめっちゃ可愛い
そのっちはめっちゃ愉快で性格が一番好きなキャラです
次回投稿は来週日曜の22時です
あと、いい加減行感覚修正やります




