第百十九話 旧知、オカマ
今日で連続投稿最終日!
ストックあるけどまた溜めないと!と焦る今日この頃です!
フロウのベアハッグを喰らってから三十分後──ようやく落ち着いたフロウは化粧をし直すと、客間を出て行ってしまう。
一方、ベアハッグによるダメージで俺はソファーにぐったりと横たわっていた。
「あー……まだ腰が痛い」
「ちょっと、大丈夫?」
フロウの力が思った以上に強く、締め上げられた時にあちこち痛めてしまったのだ。
痛めた腰をさすっていると、化粧直しを済ませたフロウが戻ってくる。
相変わらず筋骨隆々なのに黄色のフリル付きドレスを着ており、子供時代の友人だとしてもちょっと引いてしまう。
ソファーに座り俺たちと対面すると、コホンと咳を一つ挟みフロウは柔らかな笑みを浮かべる。
「改めてまして、ワタシはイトナ村の村長を任されている、フロウ・ニケロースです。今は訳あって、ニケロと名乗っています」
「雑な偽名だな」
「別にいいでしょ、ワタシがフロウだってバレなければ何でも良かったのよ」
久々に話す幼馴染に懐かしさを感じる。
これで女物のドレス着てなければ、もうちょっと感動の再会に涙を流せるのだが。
「私はティアーヌ。バルメルド君とは旅の途中で知り合いに……ですが驚きました。まさかバルメルド君とニケロさんが同年齢の、しかも知り合いだったなんて」
「あら、もしかしてティアーヌさんには私が老けて見えたかしら?」
「いえ、そのような意味では……」
「フフフ、構いませんわ。こんな時代ですもの。相手に甘く見られないよう、見た目には気を使ってますから」
その見た目では甘く見られるよりドン引きされるのでは?と二人の会話に思うが、決して口には出さない。
だって言った後が怖いもの……言った後何されるか分からない。
正直今もビクビクしていて仕方がない。
フロウが足を組み替える度、盛り上がった太腿からチラリと、見えてしまいそうなのだ……スカートの中が……別の意味でハラハラドキドキする。
見ようと思って見てる訳じゃなくて、フロウの身体が大きいから、動く度に視界の端に映ってしまうのだ。
気にはしないように努めてはいるのだが、いつか見えてはいけないものが見えてしまいそうで怖い。
意識をスカートから逸らすために話題を振ることにする。
「ところでフロウ、お前は一体何がどうなってそんな格好をしているんだ?十年の間に何があったんだ?」
「……これは趣味よ。クロくんだって、ワタシが子供の頃から女性物の服しか着てないの知ってるじゃない」
「いやまぁ、そうだけどさぁ……そんなバッチリ化粧までしてると、まるでオカマ
「そうよ、オカマよ?文゛句゛あ゛る゛?」
笑顔から一転して顔を近づけフロウに凄まれ、勢いよく首を横に振る。
めっちゃ怖ェ……!
「と言うか、ワタシのことなんてどうでもいいわよ!クロくんこそ、六年間どこで何してたのよ!?ワタシてっきり、クロくんは死んだものとばっかり……」
「あぁ、それな?結構複雑な事情があるんだけど」
フロウに一から俺の状況を説明する。
一ヶ月前に棺桶から目覚めたことやティアーヌと旅をしている経緯など、話せる範囲で説明しておく。
流石に十年前から時の女神にこの時代へ飛ばされた、なんて言っても信じてもらえないだろうから、そこだけは伏せておく。
話しを聞き終えると、フロウは紅茶を一口啜り遠い目をする。
「そう……だから、ジェイクおじ様が探しに行った時、クロくんの姿はなかったのね」
ジェイクおじ様ってなんだ、お前俺の父親のことそんな風に呼んだことないだろ、と思ったがもう気にしないでおく。
ここは未来なのだ、フロウが誰をどんな風に呼び換えていても、俺がそれを知らなくてもおかしくはない。
「でも、クロくんが生きているって知れば、ジェイクおじ様もユリーネおば様もきっとお喜びになるわ」
「父さんと母さんがどこにいるのか知ってるのか!?」
「ええ、今は難民キャンプにいるわ。お二人ともご健在よ」
ジェイクもユリーネも健在と聞き、ホッと胸を撫で下ろす。
そうか……両親はこの時代でもまだ生きてるのか!
それに居場所も分かっているのならより安心だ。
となると、未だ行方知れずなのは──
「なぁフロウ。レイリスの行方を知らないか?ニール兄さんに聞いたら、ずっと前に突然、エルフの集落を出て行ったって聞いたんだけど」
「……分からないわ。実を言うとワタシ、ニケロース領が襲われていた時、あの村には住んでいなかったの。だからレイリスちゃんとも、もう何年も会ってないわ」
そう言えば、エルフの集落の長老もそんなこと言っていたな。
レイが行方不明に集落を出て行く前に、フロウは行方不明になったって。
「クロくん、ワタシの両親が離婚していたのは知ってたわよね?」
「まぁ、チラッと聞いたことは」
フロウの両親は、彼が三歳の頃に離婚したのは以前聞いたことがある。
理由は父親の不倫が原因だったはずだ。
そのせいでフロウは自分の父親とは疎遠で、顔も覚えていないらしい。
「村が魔物に襲われる少し前、突然ワタシのところに父様が現れたの。十年以上もワタシたち家族を放っておいたあの人が」
「もしかして、フロウが行方不明になったのって?」
「そう。突然現れた父様に無理矢理連れられて、国外に逃げていたの。父様はそのことを母様にも知らせてなかった。その後に村が襲われたのを知ったわ。でもワタシは国外に連れ出されていたせいで、母様の最期にも立ち会えなかった……」
「なら、いつライゼヌスに戻ったんだ?」
「三年ぐらい前かしら。連れて行かれた国でも戦争が激化して、その時に父様は死んだわ。ワタシもそれに巻き込まれて、全てが終わってからこの国に帰ってきたの。その頃には、もう何もかもが手遅れだったけど」
飲み干したティーカップの底を見つめがらフロウは遠い過去を振り返っているのか、その瞳が僅かに揺れていた。
もしかしたら、連れて行かれた先の国で、俺の想像を絶するような出来事に巻き込まれたのかもしれない。
「母様のことを聞いたのは、こっちに帰ってきて難民キャンプにいた、ジェイクおじ様とユリーネおば様から聞いたの。その後、元領主の息子と言う経歴もあって、このイトナ村の運営を預かることになったのよ。ワタシは戦闘は得意じゃないからね」
「その見た目で言うのはちと無理があると思う」
今のフロウは筋肉モリモリのマッチョマン。
それで戦闘向きじゃないって言うのは納得はできない。
「まぁ、適材適所ってものよ。ワタシは体を動かすことより、頭を働かせる方が向いてたってだけ」
確かにフロウは昔から体育より実技の授業は成績が良かった。
仲良し三人組だと、俺とレイが肉体派で、フロウが頭脳派ってところはある。
「今はこの村で、前線で魔王軍と戦っている人たちに武器と食料を提供しているの。その代わり、この村に子供やお年寄りを集めて、負傷して前線から離れた兵士さんに村を守ってもらっているのよ。クロくんたちを連れてきた人も、元兵士なの」
この村に子供や老人しかいないのはそういうことだったのか。
元兵士に安全を確保してもらう代わりに、戦争を続ける為の援助をする。
両者は協力関係を結んでいるのだ。
フロウの話しを聞いている最中、どこからか鐘を鳴らす音が聞こえる。
音は大きくないが、何事かとティアーヌが席を立った。
「なに!?襲撃!?」
「あぁ違いますよ。あれは夕御飯の準備ができたことを知らせる合図です」
「ゆ、夕御飯?」
フロウの予想外の返答にティアーヌが取り出した杖を落としそうになる。
「そうだ!」とフロウは手を打つと名案だとばかりの表情で立ち上がった。
「せっかくだし、クロくんとティアーヌさんもご一緒に夕飯を食べましょう!」
「いいのですか?私とバルメルド君は、村の者ではないのに……」
「構いませんよ!それにご飯は、みんなで食べた方が美味しいもの!」
「さ、ほら早く!」とフロウに急かされ、俺とティアーヌは客間を後にするのだった。
五日間に及ぶ連続投稿にお付き合いいただきありがとうございました!
次回からまた投稿が日曜日の22時間に戻ります!




