表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/253

第百十八話 イトナ村の村長

連続投稿4日目です!

皆さん三が日はいかがお過ごしですか?


僕は仕事です(血涙)


 盗賊に襲われた俺とティアーヌ。

 何とか盗賊はティアーヌが撃退するが、俺は敵の毒矢を受けて麻痺を起こして倒れてしまう。

 盗賊が撤退するのも束の間、馬に跨り軽鎧に身を包んだ三人組が現れ、俺たちはまたもや窮地に追い込まれていた。


「貴方たちは……何者?」


 麻痺して地面に倒れた俺を庇うようにティアーヌは前に立ち、杖を構えて問う。

 三人組は問いに答えず、俺とティアーヌを交互に見比べている。


「くたびれた身なりの魔女に……白髪の青年……」


 ボソリと先頭の人物が呟く。

 すると馬を降り、こちらに近づいてくる。

 警戒しティアーヌが杖を向け、魔法の詠唱を唱え始めようとすると、


「おっと、待ってくれ。こちらに戦う意思はない」


 両手を上げて武器を持っていないことをアピールする。

 しかしティアーヌは警戒を解かず、杖を向けたまま再度問いかける。


「もう一度訊きます。貴方たちは何者?盗賊と言うならば容赦は……」

「違う違う。オレたちは盗賊じゃない」


 ティアーヌに凄まれ軽鎧の男は慌てて手を振り、兜を脱ぐと顔を晒す。

 人の良さそうな犬の顔をした四十代程の男で、頭の上で犬のような耳が垂れていた。

 この人、人族じゃなくて獣人族だ。

 獣人族の男は両手を上げたまま柔らかい表情で話しかけてくる。


「オレたちは、この崖の上にあるイトナ村の人間だ。村の周辺の警備をしている途中で、奇妙な叫び声が聞こえたから様子を見に来たんだ」


 奇妙な叫び声と言うと、さっき盗賊がティアーヌの目を見つめ返した時のことだろうか?

 そう言えばあの後、盗賊以外の声が聞こえた気はしたけど、あの声はこの人たちだったのか。


「ところで、そちらの彼は先程から寝たきりだけど、どうかしたのかい?」

「……盗賊の毒を受けたの。それで、身体が痺れて動けないらしくて」


 ずっと地面に倒れたままの俺を不思議に思い獣人族の男は歩み寄る。

 イトナ村の住人と聞いてもティアーヌは警戒を解かないが、毒で痺れたままの俺の状態を代わりに説明してくれた。

 話を聞いた獣人族の男は「何だって!?」と、垂れていた耳をピクピクと跳ねさせながら驚く。


「村に運ぼう。薬剤師がいるから解毒剤を調合してくれる。おい、村に戻って先生に連絡を!」

「はっ!」


 獣人族の男の命令で、馬に乗って待機していた一人が馬を走らせ、一足先に村に向かうのか森に消える。

 獣人族の男は倒れていた俺を抱き起こすと背中に背負いながら、待機していたもう一人に声をかける。


「すまない、ロープをくれ」


 ロープを受け取り、背負った俺をロープで縛り固定しずり落ちないようにした。


「よし、これでいいだろう。これから彼を村に連れて行く。あなたもご一緒に」

「……わかりました。でも私は歩いて行くわ。馬は苦手なの」


 馬に同乗するのをティアーヌは拒む。

 その手にはまだ杖が握られており、完全に獣人族の男たちを信用している訳ではないらしい。

 もっとも俺は毒で動けないので、この人たちに頼るしかないのだけれども。

 獣人族の男は、ロープで縛り背負った俺に「村まで我慢してくれよ」と一声かけると馬に跨る。

 人一人背負っているのに凄い力だ。


「それじゃあ、村まで案内する。少し急ぐから、魔女のあなたはもう一人と後ろから追いかけて来てください」


 獣人の男は「じゃあ行くよ!」と馬を走らせる。

 ロープで縛られたまま、俺は獣人の男の操る馬に揺られイトナ村目指す。

 雨が降る森を抜け迂回し、丘を登ると山が見始めた。


「あの山が見えるかい?山の麓に村があるんだ」


 獣人の男は馬を走らせながら教えてくれるが、体がまだ痺れているから顔も上げることができない。

 視線だけを上にすると、確かに山のような物が見えた。

 幾つも見える山々、その中でもひときわ高く聳え立つ山の姿。

 何故かその山だけが、他の山とは違い頂上付近に黒い煙が渦巻いていた。

 煙の中に何かいるのか、時々赤い光が煙の隙間から見え隠れしている。


「さぁ、村が見えてきたよ。あれが『イトナ村』だ」


 獣人の男が示す先、山の麓に小さな村が見えてきた。

 山に近い平地で柵で囲まれたその村は、決して大きくはないが小さくもない規模の村である。

 俺とティアーヌが目指していた、目的地の一つだ。

 イトナ村に近づくにつれ、雨足が徐々に弱まり始めるのだった。


✳︎


「はい、じゃあお大事にね」

「先生、ありがとうございました」


 イトナ村で運営されている診療所に連れてこられた俺は、ようやく毒の解毒が終わり診察室を後にする。

 俺が受けた毒は単なる痺れ毒で、致死性はなかった。

 それでも解毒してから完全に体の痺れが取れるまで、二時間近くもかかってしまった。

 ついでに他にも感染症にかかっていないかと全身を調べられ、結局解放されたのは夕方になってからだ。

 受付部屋ではティアーヌが椅子に座って俺を待っていた。


「ティアーヌさん、お待たせしました」

「もう毒は大丈夫なの?」

「はい。もう痺れはありません。他の病気にもかかってない、至って健康体だそうです」

 「そう……なら良かったわ」


 俺の容態に安堵した表情を見せる。

 どうやりかなり心配をかけてしまったらしい。


「でも、ようやくイトナ村に着きましたね」

「当初予定していた入り方とは違うけどね」


 少し呆れながらティアーヌは答える。

 そう、俺たちはようやく目的地であるイトナ村に到着したのだ。

 途中トラブルは何度かあったけど、長く歩き続けた甲斐があった。

 診療代を払い後にする。

 村に出ると、夕方で薄暗いのにも関わらず、松明を持った老人と、魚や野菜を籠一杯に納めて運ぶ子供たちの姿があった。

 人族の子供以外にも、獣人族や鳥人族、エルフやドワーフもいる。

 村の各所に設置された松明に火を灯しながら、泥だらけの格好で歩いて行く。

 他の場所でも、同じように老人と子供のグループが荷物を運んで松明に火を灯しており、暗闇に包まれ始めている村を明るく照らしている。

 その様子に俺は一つ違和感を感じる。


「若い人がいませんね……」


 村のどこを見ても老人子供、老人子供……若い人物は一人も見当たらない。

 よく見れば一軒家も少ない。

 片手で数えられる程度しか家はなく、後は倉庫なのか見張りが立っている。


「この村に住んでいる人は、難民キャンプから来た子供や老人が多いらしいわ。私たちを村まで連れてきてくれた彼らは、戦争中に怪我をして戦線を離れた人たちだそうよ」


 俺の疑問にティアーヌが答えてくれる。

 なるほど、だから老人と子供の姿しか見かけないのか。


「貴方が診察をしている間に、この村の村長に会ってきたのだけれど、この村では戦えない難民を受け入れて、 作物を耕したり、壊れた武器や防具の修理をしているそうよ。それを定期的に難民キャンプへ運んでいるらしいわ」

「戦争から離れる代わりに、戦争に必要な物資をここで揃えるって訳ですか」


 難民を受け入れ、彼らに戦争で戦う者たちの為に食事と装備を提供する。

 ギブアンドテイクって奴か……


「村長が、バルメルド君の容態が安定したら一度挨拶に来て欲しいと言ってたわ。会いに行きましょう」

「……この村の村長さん、普通の人でしたか?」

「警戒しなくても、いい人族だったわよ。亜人種に対しても友好的みたいだし」


 村長がいい人族と聞いて少し安堵するも、すぐに油断はできないと心の中で呟く。

 前の村の村長だって、人族として接する分にはいい人間だったのだ。

 もしティアーヌが悪魔族のサキュバスだと分かれば、また同じことが繰り返されてしまうんじゃないかと心配になる。

 もしまた村ぐるみで差別を受けるような結果になったら、その時は……


「バルメルド君、怖い顔してるわよ」

「え?」

「今回はきっと大丈夫よ。前みたいなことにはならないし、私も頭の角には気をつけるわ」


 どうやら考えていたことが顔に出てしまっていたらしい。

 ティアーヌに窘められ、名も無き村であった出来事を一度頭の片隅に追いやる。

 そうだ、きっとこの村は大丈夫なはずだ。

 これだけ亜人種が多い村なんだから──と自分に言い聞かせる。


「よし、じゃあ早くイトナ村の村長に会いに行きましょう!」


 気持ちを切り替え歩き出す。

 俺もティアーヌが悪魔族だとボロが出ないように気をつけよう。


「……ありがと」


 先を歩くと、小さな声でティアーヌがお礼を呟くのが聞こえる。

 それに対して俺は何も応えない。

 ただその呟きは、独り言だと気づかずに心の中に刻んでおくことにした。


「で、村長の家ってどこですか?」

 「青い屋根の屋敷よ。行きましょ」


 照れ隠しに目的の場所を聞き、ティアーヌと共にイトナ村の村長宅へと向かう。

 屋敷と言っても、村長宅はそこまで大きな家ではなかった。

 他の家と違いテラスがあったり、玄関前に噴水があったりと豪華ではあるが、外装はどこにでもある二軒屋だった。

屋敷の使用人に「村長に挨拶に来た」と伝えるとすんなりと通してもらえる。

 絵画や花が飾られた客間に通された。

 「お呼びしますので、少々お待ちください」とソファー座るよう促され、大人しく待つことにする。


「ティアーヌさん、一度ここの村長に会ったんですよね?どんな人だったんですか?」

「そうね、かなり話しは分かる人だと思うわ。見ず知らずの旅人を受け入れてくれるぐらいだもの」


 「ただ……」と何か言い淀む。

 ティアーヌにしては珍しく言葉に迷っている、といった印象を受ける。


「あれは何と言えばいいのかしら……うーん──とにかく、初対面でも失礼のないように、としか言えないわね」

「要領を得ないんですがそれは」


 何を言いたいのか分からないが、態度には気をつけろ、ということだろうか?

 どんな人物なんだろうか、と頭の中でイメージしていると、客間の扉が開く。


「お待たせいたしましたわ。ごめんなさい、村の者と話し合いをしていたもので」


 ソファーから立ち上がり、村長と対面する。

 まず目にしたのは灰色の短髪。

 次に下から高いヒールの靴、ヒラヒラのついた裾の長い黄色のドレス、ドレスの上からでもはっきりと体のラインは、誰もが羨むであろう筋骨隆々の肉体……要するに、ドレスを着た筋肉モリモリマッチョマンの変態がそこには立っていたのだ。

 こいつ──男……しかもオカマだ。


「改めましてご挨拶を。ワタクシ、このイトナ村の村長をしております、ニケロと申しま


 ニケロと名乗った変態が頭を下げ自己紹介し、顔を上げた途端作り笑顔が崩れた。

 俺とティアーヌを見ると、その表情が見る見る驚愕へと変貌していく。

 まるで、死人でも見るような眼で俺たちを見つめていた。

 いや、ティアーヌは目に映ってはいない。

 どうやら俺を見て驚いているみたいだ。


「えっと、どうかしましたか?」

「ッ!そ、そんな……もしかして……」


 突然両手で口元を抑えて目に涙を溜めている。

 え、なに……俺何かしたかな?

 ニケロの頬を涙が伝い、震えながら近づいてくる。


「まさか……クロ、くん?」

「え?クロ……え!?」


 久しぶりに聞くあだ名に俺も驚き困惑する。

 俺を「クロくん」と愛称で呼ぶ人間は多くない。

 それにこの人、ニケロと名乗っていたけど、もしかして……!


「お前、ひょっとして……フロウ?フロウ・ニケロースか!?」


 俺の言葉を聞いた途端、ニケロが堪えていた涙が洪水のように流れ始める。

 顔の上に施されていた化粧が涙で落ちて、酷い面に変わり始めた。

 やっぱりそうだ、こいつはフロウ・ニケロースだ!

 生きていたんだ!


「嘘っ……!クロ、くん……生きて……!」

「そうだよ!俺だ、クロノス・バルメルド!」

「ッ!クロくん!」

「フロウ!」


 お互いに生きていたことに喜び、両手を広げ熱い抱擁を交わそうと飛び込み、


「フロ「クロくんんんん!!」

「ぎゃああああ!!」


 筋肉モリモリのフロウの方が筋力も体格も俺より大きいせいで、抱き合うと言うより、俺がフロウに抱き締め上げられる形となった。

 これでは熱い抱擁ではなく、俺がベアハッグされているようにしか見えない!

 しかも抱き締める力がとても強く、俺の体が悲鳴を上げている!


「フロウ!痛い、痛い!折れる!折れちゃうゥゥゥゥ!!」

「ク゛ロ゛く゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

「藤原竜也かお前は……あがァァァァ!!」


 ボキボキと嫌な音が俺の身体中から響き渡る。

 フロウが落ち着くのそれから三十分後。

 俺はそれまで、ずっとフロウのベアハッグを喰らい続けるのだった。

ついにイトナ村に到着しました!

10年後のフロウも無事見つかり、間も無く第三章も中盤に入ります!


次回投稿は明日22時です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ