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第百十一話 惑う眼

ついに評価ポイントが480までいきました!

もうすぐ500ポイント、いつも読んでくださっている皆さんのおかげです!

ありがとうございます!


 暗雲に覆われた空が真っ赤に染まり、灼熱の炎が大地に降り注ぐ。

 頭上から降り注ぐその炎が俺の眼に映る。

 今から走っても間に合わない!


「風……よっ!」


 咄嗟に風魔法を発動させ目の前に突風を発生させる。

 炎を防ぐことが目的じゃない。

 発生した突風に身を晒し、体が浮き上がり始める。

 そのまま風に身を任せると突風により、ティアーヌの立つ位置とは反対側に吹き飛ばされた。

 先ほどまで俺がいた場所に空から降った爆発し燃え広がる。

 爆風に耐えティアーヌの姿を確認すると、またあの光の防壁で爆風を防いでいた。


「バルメルド君、大丈夫!?」

「こっちは何とか!でも……」


 俺とティアーヌを分け隔てる炎は徐々に地面を侵食するように広がり続けている。

 これを魔法で消すには時間がかかりすぎる。

 ワイバーンの相手だってしなければならないのに……

 空を見上げるとまたあの炎が今度は複数降り注いできた。

 炎は村のあちこちに降り爆発を起こしては村を炎で包んでいく。

 その犯人は、あの親のワイバーンだ。

 村の上空を旋回しながら炎を吐き出し続けている。

 俺たちの逃げ場を塞いで根絶やしにするつもりなのか?


「ティアーヌさん、このままじゃみんな焼け死ぬ!早く村から逃げましょう!」

「わかってる!でも村の人たちを放って逃げる訳にはいかないわ!二手に別れて村の人を一人でも多く外に逃がしましょう!」

「わかりました!村の外で落ち合いましょう!」


 頷くとすぐに踵を返す。

 まだマナは六割ちょっと残ってる。

 緊急時用に少し残しておけば、残りは村の人たちを助けるのに使っても大丈夫なはずだ!

 炎で燃え盛る村の中を走り回り、まだ生き残っている人がいないかと探す。

 するとすぐ近くで人の声とワイバーンの鳴き声が聞こえてきた。

 声のする方向へと駆けつけると、三匹のワイバーンの幼体に囲まれた村人たちを見つける。

 何人かは鍬や鎌を振り回して近づけないようにしているがあれじゃ体力が無くなった瞬間に襲われてしまう。

 助けに入ろうと走りながら横目で剣の柄を見る。

 俺の剣の柄には魔石が埋め込まれている。

 所有者のマナを吸収して蓄積させることができる。

 今の魔石には十分にマナが溜まっているから、アレが使えるはず!

 

「おいトカゲ共!」


 ワイバーンの背後を取る形で駆けつけ、声の後に左手で輪を作り口に咥えると指笛を二回鳴らす。

 指笛に反応したワイバーンはこちらを視認すると新たな獲物、それも孤立している俺という餌を見つけて身体を反転させ狙いを定めてくる。

 大丈夫、落ち着け……と自分に言い聞かせながら左手を握ったり離したりを繰り返す。

 ワイバーンたちは身を屈めたかと思うと一斉に俺へと飛びかかってきた!


『グルゥゥゥゥガァッ!!』

「全員伏せてろ!!」


 飛びかかってきたワイバーンたちを見て左足を一歩引きながら叫ぶ。

 中腰になりつつ剣先を左脇に近づけ構える。


「そォらァァァァ!!」


 左から右へ剣を薙ぎ一閃、振り抜かれた剣からマナの斬撃を放つ。

 放たれた斬撃が三匹のワイバーンを、地面に伏せた村人たちの頭上を通り抜け家屋や木々を通過した。

 マナの斬撃が触れた物全てが二つに斬り裂かれ、地面に崩れ落ちた。

 ワイバーンの幼体は悲鳴をあげる間も無く地面を転がるのだった。

 それを見た何人かの村人から、目先の恐怖が去り安堵の声が漏れる。


「この村はもう長く持ちません!すぐに村から避難してください!」

「わ、わかった!ありがとう!」


  村人たちは口々にお礼を言うとその場を走り去っていく。

 それを見届ける事無く俺はまた逃げ遅れている人がいないか探し始める。

 この場所は昨日も立ち寄ったことがある。

 思違いでなければここには、トリアの家があるはず!!


「見つけた!」

 

 火の手に包まれた家、あそこは間違いなくトリアの家だ!

 今にも焼け落ちそうな家の中に飛び込むと、床に倒れた母親と母の名を必死に呼ぶトリアがいた!


「お母さん!お母さん!」

「トリアちゃん、無事か!?」

「お、お兄ちゃん!!お母さんが!」


 半泣きになったトリアに駆け寄る。

 トリアの母親は意識がないのか、ぐったりとした状態で床に倒れていた。

 このままここに居たら焼け死ぬ、早く連れ出さないと!


「トリアちゃんは先に外に出て!お母さんは俺が連れてくから!」


 剣を鞘に戻すと倒れたトリアの母を背負う。

 思いの外体重が軽く、外に運び出すのに苦労はしない。

 しかし──


『グギュァァァァ!!』

「なんだ!?」


 雄叫びが聞こえ周囲を見回す。

 風を切る音が聞こえ空を見上げると、親のワイバーンが遥か頭上を旋回していた。

 ワイバーンがこちらを見下ろし、俺たちの姿を見つけると近づいてくる!


「トリアちゃん走って!」


 接近するワイバーンから逃げる為、意識の無い母親を背負ったまま走り出す。

 空から接近していたワイバーンが地面に降りずに空中で静止し、歯をカチカチと鳴らし始めた!


「あれってまさか……また炎のブレスか!?」


 見覚えのある行動に危機感が募る。

 ワイバーンが大きく息を吸い込んだかと思うと、俺たち目掛け口を大きく開き、その巨大な口から灼熱の炎が吐き出された!

 炎は走り逃げる俺たちに真っ直ぐ降り注いでくる!


「駄目だ、間に合わない!」


 俺たちを焼き殺そうとする炎から逃れるには時間が足りない!

 こうなったら、残りのマナ全部絞り出してでも……!

 走りながら体内のマナを全て魔法に変換する。

 例えここで倒れても、マナを閉じ込めた小瓶があるから回復はできる!

 頭の中で大量の水が炎を消す光景を強くイメージする。


「水よ!大蛇となれ!」


 マナを限界まで引き出し全てを水魔法に変換。

 空中に生成された水は大蛇の姿となり、空から落ちてくる灼熱の炎へ突撃する。

 これで、ワイバーンのブレスは消せる──と、思っていた。


「なっ!?」


 俺の水魔法とワイバーンのブレスが衝突した瞬間、俺の生成した水の大蛇が一瞬で蒸発してしまった。

 しかも炎は勢いが止まることも小さくなることもなく、放たれた水魔法を蒸発させながら俺たちの上に落ちてくる!

 

「そん、なっ……!」

 

 愕然とする間も無く炎が地面へ降り立ち爆発する。

 俺たち三人は悲鳴をあげる間も無く爆風に吹き飛ばされた。

 視界が暗転する。

 自分が今上を向いているのか下を向いているのかさえ分からない。

 耳が遠くなり音が聞こえない。

 全身の感覚が途絶えたかのような気分。

 気がついた時、俺は一人地面にうつ伏せに倒れていた。

 指先の感覚が弱く思うように力が入らない。

 視界がぼやけて見え、今自分がどうなっているかも分からない。

 焼け焦げた臭いが鼻腔を刺激し息苦しさを覚える。


「うっ、ぐっ……かはっ!」


 トリアは……あの子と母親はどこに……?

 満足に動かすことのできない体を少しずつ動かすと、視界の端にトリアと母親が倒れているのが見える。

 二人とも火に囲まれており逃げ場が無くなりつつあった。


「トリ……ちゃ……!」


 呼びかけようとするが喉からは掠れた声しか発せない。

 そのままそこにいたら危ない。

 早く逃げなきゃ駄目だ。

 そう伝えたいのに言葉が出ない。

 遠くなっていた耳に周囲の音が少しずつ届き始める。

 炎の弾ける音と一緒に誰かが啜り泣く声が聞こえる。

 泣いているのはトリアなのか、それとも母親なのかは分からない。

 次第に羽ばたく音が聞こえ始める。

 まだワイバーンが近くにいるのかもしれない。

 早くトリアたちを逃がさないと危険だ。

 そのことを知らせようと手を伸ばすと激痛を右腕全体に感じる。

 よく見ると右手は赤黒く焼け爛れていた。

 それでも手を伸ばし続け、声を出そうと必死に喉を震わせるが途切れ途切れの言葉しか発せない。


「ト……ア……にげ……!」


 啜り泣く声だけが何故か澄んで聞こえ頭の中に反響する。

 何とか炎を消して逃げ道を作ろうとするが、さっきの水魔法を発動した時にマナを使い切ってしまったのか、水一滴も絞り出すことができない。

 頭上が赤く染まり始める。

 駄目だトリア、お母さんと一緒に早くそこから逃げなきゃ駄目だ!


「あがっ……ごふっ……ああアアアア!」


 喉元から赤い何かを吹き出した瞬間、ようやく声が出始める。

 トリアに危険を知らせようと叫ぼうとした瞬間、空と大地が真っ赤に染まり


      ──全てが炎に包まれた。


「あああああ"あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」


 眼に見えていたトリアと母親の姿が炎に包まれ橙色へと溶けて消えしまう。

 耳に届く音が遠ざかり無音となる。

 眼に映る世界が色を失い灰色となる。

 音と光を失い、俺の世界は全てが黒の一色に染まり始めた。

ようやくクロノス君の抱えてる問題まで踏み込みました。

どんどん苦しんでいい男になってもらいたいです。


次回投稿は来週日曜日22時です!

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