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第百七話 少女の夢

この前漫画で「透明人間の骨」って作品を購入したんですが、キャラデザ儚くて物語も儚くてお気に入り作品になりました


 朝日が昇るよりも少し早い時間に目を覚ました。

 毛布代わりに身を包んでいた透明マントを跳ね除け、目を開けた際に見えた見知らぬ天井に首を傾げる。


「あー……そっか。野宿じゃなくて村に泊まったんだっけ」


 頭が覚醒すると共に記憶も蘇る。

 トリアという少女を助けて、彼女の村に御礼として空き家を借りたんだ。

 久々に屋根のある場所に泊まれたし、見張りの交代で起きる必要もないからぐっすりと眠れた。

 そのせいかいつもよりも早い時間に起きてしまったようだ。

 背筋を伸ばして目を擦る。

 ボサボサの頭を掻きながら立ち上がり、両頬を手で叩き「よしっ」と呟くと完全に目を覚ました。

 やっぱり野宿するより、雨風凌げる場所で休んだ方が安心して眠れるな。

 外で寝るといつ魔物に襲われてもいいようにと警戒するからどうしても眠りが浅くなるし。


「ふぁ〜……弓の練習するか」


 欠伸を一つし、弓の練習をすることにする。

 俺の弓術はまだまだ素人、実戦では使えない。

 一日も早く弓を扱えるようになって、剣と魔法以外の攻撃手段を覚えなければ。

 荷物から剣と弓を持ち出し装備する。

 武器を隠すように透明マントを上から羽織る。

 虫喰いのせいで穴だらけだが、マナを使えば透明マントとしての機能はまだ使えるし暖かいので重宝している。

 修繕できる時に修繕したいものだ。


「んじゃ、行きますか」


 寝室を後にし廊下を歩く。

 玄関に向かう途中、別室で寝ているティアーヌのことを思い出したが起こさずに出ることにする。

 いや本当は起こしたいんだけど、昨日ティアーヌに


『私が寝ている間は絶対に寝室に入らないこと。私が自主的に起きるまで放っておいてください』


 なんて言われてしまったのだ。

 エルフの集落で寝泊まりした時は別々の家に泊まったのでこんなこと言われなかった。

 ティアーヌさんって男性恐怖症なのかねぇ?

 なぁんか一緒に歩いている時も微妙に距離とってるし、いっつもとんがり帽子もローブ着て肌隠してるし……でもその割には俺と話す時は普通に接してるんだよなぁ。

 まぁ気にしても仕方ない部分ではある。

 それでもティアーヌとは上手く接することはできていると思う。

 今の距離感でも旅には問題は無いし、何か秘密があるのならいつか話してくれるだろう。

 ティアーヌの部屋の前を通る時、微かに甘い匂いが鼻腔を刺激する。

 でも俺は、アロマでも炊いているんだろうと思ってあまり深くは考えずに家を出るのだった。


✳︎


 空き家を出た後井戸の水で顔を洗う。

 なるべく村から近過ぎず離れ過ぎない場所まで移動し、木の幹に石で傷を付けて的代わりにする。

 バツ印を刻んだ部分を中心とし、距離を離して矢筒から矢を取り出し弓を構える。


「えーと、指の関節で弦を引いて、限界まで引き絞って……撃つ!」


 ニールに教えを思い出しながら矢を射る。

 弓によって撃ち出された矢は風を切りながら、木の幹に当たり突き刺さった!

 印を付けたのとは別の木に……


「また外した!」


 おっかしいなぁ、やり方は間違ってないはずなのにまた的を外した。

 最初の頃は弦を引く力が弱く、射っても的の手前に落ちていた。

 でも今はちゃんと的の位置まで矢が届く程には上達している。

 もっとも、的以外の物に当る確率の方がまだ高いのだが……地面に落ちてた頃に比べればマシだ。


「よし、もっかいだ」


 矢を回収して再び的に設定した木を正面に立つ。

 集中しろ、魔法を使う時と同じだ。

 的は魔物、バツ印は心臓部、そう思い込む。

 矢筒から一本矢を取り、弓を構えしなるほどに弦を引き絞る。

 幹に刻んだ印の位置は人の心臓部の高さに近い。

 俺が今までに相手した人型の魔物に木の姿を置き換える。

 人の姿に、人の姿、人の姿……人の、姿……ディープ・ワンを


「ッ!!」


 脳裏に一瞬ディープ・ワンの姿が浮かび上がり、反射的に指が弦から離れてしまう。

 限界まで引き絞られていた弦に押し出され矢が的である木に飛来する。

 矢は見事木の幹に直撃し、バツ印の中心部に突き刺さる。


「……くそっ。最悪だ」


 矢は的に命中したが、俺の心は晴れやかではない。

 このタイミングであの時のことを思い出すのは胸糞悪くなる。

 俺はまだ王都でディープ・ワンと戦った時の記憶が薄れていない。

 あのテラテラと光る鱗に、蛙と魚わ合わせたような頭に、生気の無い大きな目を思い出してしまうことがある。

 そうなれば当然、教祖が死んだ時のことも芋づる式に思い出してしまうのだ。

 あれから一年経つが、まだ教祖の死顔が頭から消えることはない。

 嫌な記憶が掘り起こされ気分が下がってしまい、俺は深くため息を吐いた。


「はぁ……いや、でも矢はちゃんと当たったんだ。そこだけは喜ぼう」

 

 今まで狙った的に当たったことはないのに、今回はちゃんと当てられたんだ。

 そこだけは盛大に喜ぼう。

 無理矢理納得してディープ・ワンのことは考えないように頭から排除するのに努める。

 もしかしたら、的をただの的だと思わずに敵だと脳内変換した方が矢が当たるかもしれない。


「よし、もう一回……!」


 矢筒から矢を引き抜いてもう一度構え……


「わくわく!わくわく!」

「…………」


 後ろの茂みから小さな物体がこちらをガン見している。

 集中できねぇ……

 弓の構えを解いて茂みに振り返る。


「トリアちゃん、何してるの?」

「えぇ〜!なんでわかったの!?」


 茂みに隠れていたトリアが見つかった!と驚きながら飛び出てきた。

 そりゃわくわく!とか口に出されながら凝視されたら誰でも気づくよ。

 茂みから出てきたトリアは弓が物珍しいのか目を輝かせながら近づいてくる。


「これ、弓矢だよね!?お兄ちゃん剣だけじゃなくて、弓も使えるの!?」

「まぁ、ある程度は」

「すごーい!」


 いや、そんなスゴくないです。

 まだまともに矢を目標に当てるのもできないんです。

 だからそんなキラキラした目で見ないで下さいよ……苦しいです。


「お兄ちゃんも魔王を倒しに行く途中なの?」

「え?魔王を倒す?」

「私のお父さんはね。魔王を倒しに色んな人たちと戦争に行ったんだ」


 トリアの言葉に眉をひそめる。

 ひょっとして、この子がこの村にいるのって……


「私とお母さんはね、前は他の村にいたんだけど。村から魔王を倒すユーシ?を集めることになって、私のお父さんはユーシになったんだって」


 魔王を倒す有志……つまりトリアの父親は魔王軍との戦争に参加しに行ったのか。


「私ね。お父さんと約束したんだ」

「約束?どんな?」

「私ね、生まれてからお日様を見たことがないの。悪い魔王がね、お日様を雲に隠しちゃったんだってお父さん言ってた」


 そういえば、と俺はトリアと一緒に空を見上げる。

 この時代に来てから俺は一度も太陽を見ていない。

 ずっと曇り空で嫌な天気が続くなぁとは思っていたが、もうこの時代で二週間近く過ごしているのだ。

 それなのに空が晴れたところをまだ見ていないのはおかしい。


「なんで、太陽を……」

「悪い魔王たちは太陽が大嫌いなんだって。だから太陽を隠してるんだって。お父さんは、魔王からお日様を取り戻してトリアに見せてあげるって約束して魔王を倒しに行ったんだよ!」

「そっか……カッコいいお父さんだね」

 

 うん!とトリアは大きく頷く。

 しかし俺は、この少女の父親の安否を考えると複雑な気分になってしまう。

 その約束がどれ程前に交わされたものかは分からないが、今現在も空は暗雲に覆われたまま、魔王ベルゼネウスとの戦争も長く続いていることからして、この子の父親は……いや、死んだとは限らない。

 もしかしたら、今もまだ魔王軍と戦っているのかもしれない。


「私ね。お父さんともう一個約束してるんだ」

「へぇ、どんな約束?」

「悪い魔王をやっつけてお日様が顔を出したら、一緒に日向ぼっこしようって約束してるんだよ」

「そう、なんだ」

「その時はお兄ちゃんも一緒に日向ぼっこしようよ」

「それはいいね。是非ご一緒しようかな」

「じゃあ、はい!」


 トリアの提案を承諾すると右の小指を前に出してくる。


「指切りげんまんしよ!」

「……わかったよ」

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます!」」


 指切りげんまんをしてお互いに笑みを浮かべる。

 約束を守れるかどうかわからないが、この子の笑顔を裏切ってはならない。

 なんて、俺は心に強く思い留める。

 いつまでこの時代にいれるかは分からないが、もし太陽が見える頃までいれたらもう一度トリアに会いに来よう。


「さて、そろそろ戻ろうか。お腹も空いたし」

「うん!」


 矢を回収してトリアと一緒に家に戻ることにする。

 刹那──村から大勢の悲鳴が響くのだった。

あらすじ別に入れなくてもいいっぽかったんで、また筆者の日記みたいな扱いします


次回投稿は来週日曜日の22時になります!気が変わったら土曜日に投稿するかもです!そん時は活動報告とツイッターで呟きます!

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