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第百四話 少女と魔女と目的

「オッドアイズ・リ:ライフ」これまでの三つの出来事!


一つ、転生者クロノスは10年後の世界に飛ばされ、未来の自分が死んだことを知る!


二つ、復活した魔王ベルゼネウスに襲われたクロノスは魔女ティアーヌに命を救われる!


そして三つ、散り散りとなった家族と友を探す為に旅をするクロノスとティアーヌは道中で魔物に襲われていた少女を救うのだった!


 『イトナ村』を目指す途中、口裂け狼に襲われていた少女を助けた俺とティアーヌさんは、助けた少女を母親の元まで送り届けることにした。

  少女を助ける際に倒した口裂け狼の死骸を一匹だけロープで手足を縛って背に背負っている。

 魔物の肉や皮は経済が崩壊した今の時代では通貨の代わりになるとティアーヌに教えられたのだ。

 かなり重いけど、この口裂け狼の肉や皮が使い物になるのなら頑張るしかない。

 ちなみに、倒した狼は五匹だったのだが、重量の関係で持ってきたのは一匹だけだ。

 残りの四匹は死体を放置すると他の魔物が食べて活動範囲を広げる原因になるとのことで、地面に穴を掘った後投げ捨て燃やしておいた。

 勿体無いが、一度に五匹も背負えないので仕方がない。


「ねぇお嬢ちゃん。君のお母さん以外にも一緒に暮らしてる人がいるのかい?」

「うん。みんな、戦争が怖くて遠くまで来たって言ってた」


 少女は両手に抱えた青白い花を落とさないようにしながら答えてくれる。

 どうやら少女と母親の二人以外にも人がいる。

 その人たちは戦争に巻き込まれない為に森の奥に住んでいるようだ。

 戦争難民だろうけど、こんな森の奥地に居たら魔物に襲われたりしないのだろうか?


「ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃんはどこから来たの?何をしてるの?」

「ん〜?俺とお姉さんはね。ずぅーっと遠くから来たんだよ。お兄ちゃんは人を探しているんだ」

「そうなんだ。お兄ちゃんは誰を探してるの?」

「探してるのは……俺の、お父さんとお母さんだ」

「どこかに、行っちゃったの?」

「うん。知らない間にどこか遠くにね。友達も居なくなってて、どこにいるかわからないから探してるんだ」


 少女に説明しながらジェイクやユリーネたちに想いを馳せる。

 みんな今はどこにいるんだろう。

 無事だといいんだけど。


「……寂しい?」

「そう、だね。ちょっと寂しいよ」


 努めて笑顔を浮かべるが、上手く笑えている自信はない。

 俺の話を聞き終わると今度はティアーヌさんの方を向いた。


「お姉ちゃんは?お姉ちゃんも人探し?」

「ええ。このお兄ちゃんとは別の人を探してるの」

「え?ティアーヌさんも人探しなんですか?」

「さっきはそれを言おうとしたのよ。タイミングが悪かったけどね」


 そっか、その話しをしてたらこの女の子の悲鳴が聞こえてきて中断になったんだった。

 でもティアーヌさんも人探し、しかも女一人でってなると……


「離れ離れになった恋人を探しているんですか?」

「なっ!?違うわよ!」

 

 なんだ違うのか。

 てっきりこんな生きづらい世の中でラブロマンスでもしてるのかと。


「言ったら笑われるかもしれないから、あまり言いたくなかったのよ」

「笑いませんから教えて下さい。誰を探してるんですか?家族、じゃないですよね?」

「…………者」


 小さな声でティアーヌが何かボソッと呟く。

 聞き取れなかったので「何ですって?」もう一度聞き返すと、少し怒った表情を見せながら、


「勇者よ!私は魔王ベルゼネウスを倒せる勇者を探してるの!!」


 とヤケクソ気味に答えてきた。

 ティアーヌの返事に俺は唖然とする。

 ティアーヌさんなんて言った?

 ゆうしゃ、ユウシャ、勇者?

 勇者を探してるって言ったのか今?


「ブフッ!」

「ちょっと何笑ってるのよ!?言っておくけどこっちは真剣なのよ!?」

「あぁ、すいません。別に勇者を探してるってことに笑ったんじゃなくて、そんな恥ずかしそうにしながら言ってるのが可笑しかったんです」


 でも勇者、勇者かぁ。

 まさかティアーヌさんの口から勇者なんて言葉が出るとは。

 てっきり意中の男を探しているもんだとばかり思ってたからちょっと可笑しかっただけだ。

 ティアーヌさん、普段は帽子とマントで素肌とか徹底して隠してるけど、顔だけで判断すると美人だから。


「お姉ちゃんは勇者様を探してるの?」

「え、ええ。魔王を倒して、世界を救ってくれる人をね」

「でも勇者を探すって言っても、本当にいるんですか?魔王を倒せる勇者なんて?」


 むしろ魔王を倒す勇者なんて、魔王が復活したら真っ先に出てくるのがファンタジーのお約束だと思うけど……

 魔王出現から十年経った今でもティアーヌが勇者を探しているのなら、とっくに現れていても不思議じゃないだろう。


「バルメルド君、『異界の戦士』と悪魔族の戦いの話は?」

「知ってますよ。絵本にもなってる有名な話じゃないですか」


 かつてこの世界に悪魔族がまだいた頃、慈愛の神ギルニウスが異界より一人の人間を召喚した。

 『異界の戦士』は精霊族のエルフや、他の種族の者たちと協力して魔王を倒した後地獄に封印するという伝説は何度も目にしたことがある。

 なんせ初等部の歴史の授業で教科書にすら必修内容として載っているのだ。

 この世界に住んでて知らない者なんていないだろう。


「魔王は実在したわ。現に今こうして、この大陸を支配しようとしている。なら『異界の戦士』だって実在したはずよ」

「でもそれって、ずっと昔の話ですよね?いくらなんでも、もう生きていないでしょう?」

「私だって、そんな昔の人が今も生きているのとは思っていないわ。でも当時の記録に気になる文章があったのよ。《異界の戦士、その力を封じ込めし剣彼の地に眠らん》──このゼヌス大陸のどこかに、当時『異界の戦士』が悪魔族との戦いで使用していた剣が眠っているはずなの」

「じゃあ、それを探す為に旅に?」

「ええ、その剣を持つ者はきっと魔王と互角に戦うことのできる人よ。もう何年も魔王との戦いが続いていて私たちは疲弊しているわ。例えその伝承が偽りだったとしても、今も悪魔族と戦う人たちには勇者という存在が必要なのよ。剣と、剣を扱える人物を探すこと、それが私の旅の目的よ」


 ティアーヌの旅の目的をようやく知ることができた。

 しかし、『異界の戦士』が使っていた剣……ねぇ。

 持っただけで最強になれるとか、そんな感じの武器なんだろうか?

 話を聞いていた少女には難しかったのか、彼女は終始首を傾げているだけだった。


「えーと、お姉ちゃんは魔王を倒してくれる勇者を探してるの?」

「そうよ。もし勇者みたいな人を見かけたら教えてね」

「なら、私知ってるよ!勇者みたいな人!」

「本当?どんな人なのかな?」

「このお兄ちゃん!」


 少女は屈託のない笑顔で俺を見つめる。

 俺が、勇者みたいな人?


「だってお兄ちゃんはわたしのこと助けてくれたもん!わたしの勇者様だよ!」

「ふふふ、そっか。もし本当に勇者だったら凄いわよね」


 少女に笑顔で答えながらティアーヌは悪戯っぽい顔で俺を見てくる。

 その表情に少しドキッとしたが、すぐに首を振って否定した。


「俺が勇者?ありえないでしょ」

「あら、どうして?」

「言っときますけど、俺は勇者になれるほど出来た人間じゃないし、人より秀でた才能がある訳でもないんですよ?」

「あら、案外そういう人の方が勇者としての素質を持っているかもしれないわよ?」

 

 「まさか」と呆れながら背の狼を背負い直す。

 先頭を歩いていた少女が「見えてきたよ!」と指を指す。

 森を抜けた先に小さな村が見え、村人たちがワラワラと出迎えてくれるのだった。

最近プロローグとかに挿絵を入れてみました!

感想、評価など色々飢えてます!よろしければお願いします!


次回投稿は来週日曜22時です!

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