第百三話 口裂け狼
ミニスーファミを無事手に入れたんですけど、やるゲームがことごとく懐かしくて泣きそうです
ゼヌス平原、ライゼヌス国の大陸で海と山と深い森に囲まれている自然豊かな平原。
長く人が通ってないせいか砂利道は草で覆われてしまい、人里への正確な道のりも分からない平原では魔王軍の魔物が我が物顔で闊歩している。
魔物は狼の姿をしており、見つかればたちまち喰い殺されてしまうだろう。
そんな平原の一角にある森の側を魔物の群れをなして駆けている。
地鳴りがする程の数の狼が森に獲物がいないか探しながら走り去っていった。
「……もう大丈夫ですかね?」
「そうね。そろそろ出ましょう」
狼の群れが通り過ぎるのを見届け、透明マントを被って隠れていた俺とティアーヌさんはマントを跳ね除け、隠れていた木の陰から姿を見せる。
平原を歩いていたら魔物の群れが見えたので大慌てで森に隠れたのだ。
その際に屋敷から持ってきた透明マントを使って隠れていたと言うわけだ。
貴重なマナを使ってしまうが、魔物の群れと戦闘するよりかは消費が抑えられるのでマシだ。
「でも驚いたわ。まさかそのマント、魔導具だったなんて。そんなのどこで手に入れたの?」
「親切な神様から貰いました」
何一つとして嘘は言ってないぞ。
神様であるギルニウスから貰ったのだから間違いはない。
ただこの透明マント、六年近く放置されていたので虫喰いが激しく、ところどころに穴が空いているのが欠点だ。
穴が空いている部分は透明にならずに中が見えてしまうのだ。
「これで穴が空いてない状態なら、わざわざ森に隠れなくても使えるんですけどね」
「魔導具を修理するのなら特別な道具と素材が必要よ。それにそのマント、透明化の効力を発動させるのにマナが必要になるのよね?ならあまり使うべきじゃないわ」
「わかってます。今の時代、マナは無尽蔵じゃないですからね」
ティアーヌの話では、マナを生み出す世界樹ユグドラシルは悪魔族の手によって既に焼き朽ちてしまっている。
今俺たちが魔法を使えるのは、まだ僅かに空気中に残ったマナがあるからだ。
しかしそのマナもいつまで持つか分からない。
温存できる時は温存しておくべきだと言うのがティアーヌの方針だ。
俺もそれには賛成だし、何より透明マントを使い続けるのは控えておきたい。
いや……透明マントを使った時にティアーヌと二人でマントの中に隠れたんだけど……その、ティアーヌの匂いが──あぁそうだよ童貞だよ!
あんまり透明マントを使ってティアーヌと密着してると、マナよりも俺の理性がどうにかなりそうだよ!
「とにもかくにも、早くここから離れませんか?またあの狼みたいなのが戻ってきたら森から出られませんし」
「そうね。エルフの集落で貰った食料も心許ないわ。目的地の『イトナ村』を目指しましょう」
エルフの集落を離れて早一週間。
目的地はまだまだ遠い。
歩いて移動する分時間がかかるのは覚悟はしていたが、途中で魔物から隠れたり、雨をしのぐ為に雨宿りしたりとすれば更に進みが遅くなる。
この調子で歩き続けて、一体いつになったら『イトナ村』とやらに着くのだろうか?
「そう言えば、俺まだティアーヌさんの旅の目的を聞いてないんですけど……なんでティアーヌさんは旅をしてるんですか?それも一人で」
今更過ぎる質問をティアーヌにする。
最近は故郷が無くなってたり、自分がいた時代から十年後の世界に飛ばされたりって色々なことが多すぎて自分のことで手一杯だったのだ。
そのせいで聞きそびれていたが、俺はティアーヌ自身のことを知らなすぎる。
一緒に旅をする以上、少しでも相手のことを知っておきたいのだ。
「それ、は……」
俺の質問に一瞬ティアーヌは面喰らったかのようにたじろぐ。
ローブの隙間から彼女の手が小さく震えているのが見えたが、すぐにその手を握ると意を決したかのように真っ直ぐな目で俺に向き直る。
「バルメルド君、私は……!」
「きゃあああああああああああ!!」
突如平原に少女の悲鳴が響き渡る。
俺もティアーヌもその悲鳴に驚き周囲を見渡すが周囲には人の姿はない。
「バルメルド君、今の悲鳴!」
「ええ!でも、一体どこに……」
悲鳴が聞こえはしたが、ティアーヌさんとの話しに耳を傾けていたので、どこから声がしたのか判断できない!
「バルメルド君、貴方、前に眼の視力が良くなる能力を持っているとか言っていなかった!?ここは草原の背も高くないし、それだけで探せるんじゃないの!?」
あぁそっか、その手があった!
「やってみます!」と頷いて左眼にマナを集中させる。
目を閉じ意識を集中させると眼球が熱を帯び、再び瞼を開けると青い瞳が光りを放つ。
これで視力が良くなった!
どこだ、悲鳴の主はどこにいる!?
「……いた!あそこだ!ティアーヌさんこっちです!」
悲鳴の主を見つけ走り出す。
森の更に奥、悲鳴を上げた少女の姿はあった。
だが最悪なことに少女は先程目の前を通り過ぎた狼の魔物に囲まれている!
先導しティアーヌと共に森を突き進み、少女を囲む狼たちの背後に出た。
少女は恐怖でうずくまっており、五匹の狼に囲まれていた。
「バルメルド君、あれは口裂け狼よ!魔法は使ってこないわ」
「口裂け狼?どっかで見たことあるような……」
なんだっけ、口裂け狼の単語にすごく聞き覚えがあるんだけど……
泣きじゃくる少女に少しずつ口裂け狼たちがにじりよる。
狼の頭部が突如ブルブルと震え始めると、その頭部が四つに割れて巨大な口となる!
あ、思い出した!
口裂け狼って昔ジェイクに魔物討伐の見学に連れてってもらった時に見た魔物だ!
なら、今の俺でもジェイクと同じ立ち回り方をすれば倒せるはず!
「ティアーヌさん、俺がやつらの注意を引きます!魔法で援護してください!」
「わかったわ!」
背中の弓……はまだ扱い慣れてないから使えない。
腰に携えた鞘から剣を引き抜き、背負ってた荷物を投げ捨てると右眼を発動させたまま口裂け狼たちに駆け寄る。
「こっち見ろワンコロ!」
注意を引こうと叫び、続けて口笛を吹く。
口笛に反応したのか口裂け狼たちがこちらを振り返り、頭部が裂けて大きな口を開いて威嚇してくる。
「グルゥガァァァァ!!」
「いや、グロいな!」
五匹の口裂け狼の頭部が裂けて口となり内部を剥き出しにする光景は見ていてとても気色悪い。
だって頭部の内側全部歯なんだもの!
しかも喉元から舌みたいな触手がウネウネ動いてて気持ち悪さ倍増だ。
なんかよくよく観察してみると、口裂け狼ってショゴスっぽいな。
「……しゃっ、来いやァァァァ!!」
気合を入れると口裂け狼の群れを挑発する。
こちらの言葉を理解しているかは知らないが、口裂け狼は一斉に俺目掛けて駆け出した。
まず一番近くにいた一匹目が飛びかかってくる。
「土よ!突き出せ!」
足元に流していたマナを使い、一匹目に対して土属性の魔法を発動させる。
地面から鋭利に尖った土が飛び出し飛びかかってきた口裂け狼の腹部を貫く。
後残り四匹だ!
仲間の死を見て、他の狼たちは俺の正面ではなく側面に進路を変えた。
二手に分かれて左右から俺を挟み撃ちにするつもりだ。
「《氷の精よ。刃となりて敵を斬り裂け!アイスカッター!!》」
左右に分かれた口裂け狼にティアーヌが氷の刃を放つ。
氷の刃は残った四匹の内三匹の首か胴体を切り裂く。
しかし残りの一匹は氷の刃を避け、飛びかかれば俺に届く範囲まで迫る!
落ち着けぇ……ジェイクと同じように動けばやられることはないはず。
口裂け狼は飛びかかるか噛み付くのどちらかの行動しかして来ない。
口裂け狼を正面にしたら、飛びかかってくるのと同時に!
「ギジャガァァァ!!」
「避けて、斬る!」
正面から大口を開けて飛び込んでくる口裂け狼を右に避けながら剣を振り抜く。
大きく開いた口から胴体の腰の辺りまでが剣によって斬り裂かれた。
胴体を腰まで斬られた口裂け狼は地面に勢いよく倒れて、血を流しながらも微かに立ち上がろうと動く。
俺は止めを刺そうと近寄る。
口裂け狼は斬られた痛みからか、小さく呻いている。
そして俺が近づいて止めを刺そうと剣を持ち直すと、
「ガァァァァ!!」
突然起き上がり襲いかかってくる!
その頭部に俺は、踵落としをお見舞いした。
「おすわり!」
踵落としが口裂け狼の頭の付け根に直撃すると、もう口裂け狼はピクリとも動かなくなった。
これで五匹全ての口裂け狼の駆除完了となる。
「バルメルド君、大丈夫だった?ごめんなさい、一匹仕留め損ねて」
「いえ。援護ありがとうございました」
逃したとは言えちゃんと三匹は仕留めてくれたはティアーヌだ。
俺は二匹しか仕留められてないし、ティアーヌの援護が無ければ一人で立ち向かおうとは思わなかったろう。
剣に付着した血を振り払うと鞘に収め、うずくまっている人族の女の子に歩み寄る。
「お嬢ちゃん、大丈夫?もう怖い狼はいないよ」
「ほ、本当?」
俺の声に女の子は震えた声で聞き返す。
そんな彼女を安心させようと肩を軽く叩いた。
「本当だよ。狼は俺とこのお姉さんでやっつけたから」
笑顔を浮かべ力拳を見せながら答える。
ティアーヌも女の子を安心させようと小さく笑みを浮かべ……
「あの、ティアーヌさん。なんでそんなに離れてるんですか?」
心なしかティアーヌが離れた場所に立っていた。
近くもなければ遠くもない、そんな微妙な距離。
「そんなことないわよ?」
「いや、そんなことある距離だと思いま
「ところで貴女はどこから来たの?どうしてこんな場所に一人で?」
露骨に話題変えやがった!
ティアーヌの問いに女の子は大事そうに両手で抱えた青白い花束を見せてくれる。
見たことのない花だけど、何の花だこれ?
「これを、お母さんに」
「……そうなの。偉いわね」
どうやらティアーヌには青白い花が何なのか分かっているようだ。
この女の子が危険を冒してまで母親に花を持って行こうとしたってことは、きっと何か重要な意味があるのだろう。
「でも一人で取りに行くのは危ないわ。次からは誰か大人の人と一緒に行くように。いいわね?」
相変わらず距離は離れたままだが、中腰になりやんわりと少女を注意するティアーヌ。
少女は叱られた時の様子で「うん」と小さく頷く。
「さ、いつまでもここに居たら危ないわ。貴女のお母さんはどこにいるの?」
「この森の向こうだよ」
「そう。じゃあ、お姉さんたちが魔物から守ってあげるから案内してくれる?」
「うん!いいよ!」
少女は屈託のない笑みを浮かべ案内を了承する。
ティアーヌさんがチラリとこちらを横目で見てくるので、俺は小さく笑って頷く。
どのみちこの子を助けると決めた時に最後まで面倒を見るつもりだったので、この子を母親の元まで送るのに異論はない。
投げた荷物を拾い直すと、俺もティアーヌは助けた少女の案内で森の中を歩き出した。
やろうと思ってやってなかったクロノスの現在の装備
武器:魔石付き剣(熟練度50)、弓(熟練度10)
装備品:楔鎧、矢筒、透明マント(虫食い状態)、ティンカーベルから貰ったペンダント
使える技:六属性魔法、動物魔法シリーズ(大蛇、蜘蛛)、マナによる斬撃
その内またちゃんとしたのを活動報告にあげよっかな!
次回投稿は来週日曜の22時です!
そろそろ鬱るから……(執筆)止まるんじゃねぇぞ




