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第百一話 クロノス、芸を増やす

遂に100話を超えて101話ですよ。早いものでもうすぐなろう活動始めて一年経つんですよね。

PVも8万、ユニークも1万超えてていつも読んでくれている読者には感謝感激です。


 昨夜魔物に襲われエルフの集落に逃げ延び、一夜を過ごさせてもらえることになった。

 空は雲に覆われているので見えないが、朝日が昇り始めたであろう頃に日課の素振りをしようと表に出ると、既に外では多くのエルフが射的場に集まり訓練をしている。

 もちろんその中にはニールの姿も。


「ニール兄さん。おはようございます」

「クロノス君か、おはよう。早起きだね」

「日課の素振りがあるんで。兄さんたちは射的の訓練ですか?」

「ああ。その後今日の見張りの持ち場と狩りの人員を決める予定なんだ」


 横目で弓具の手入れと射的訓練をするエルフたちを見る。

 皆真剣な眼差しで訓練に励んでおり、十年前を知る俺からしたらあんなに緩い雰囲気だった集落とは思えない。


「弓矢が気になるのかい?」

「ええ。弓って、初めて見るので。父さんも騎士団の人たちも基本扱ってるのは剣ですから」

「なんなら、ちょっと体験してみるかい?」

「え"?」


 と言う訳で、ニールの発案で俺も弓矢の練習をすることになった。

 初心者が練習で使う小さな弓と矢を渡されニールが指導してくれる。

 初めて持つ弓に若干の興奮を覚えつつ射的を前にする。


「クロノス君、弓についてはどれくらい知ってる?」

「構え方と撃ち方の知識だけは知ってますけど、やってみるのはこれが初めてです」

「じゃあ、まずは構えるのだけ見せてくれる?」


 はい、と答えてさっきエルフの人たちがやっていた姿勢を見よう見真似でしてみる。

 左手で弓を縦に構え、右手で弦を引く……するとニールが指摘をしてきた。


「あぁ違う違う。右手全体で弦を引くんじゃなくて、指で引くんだよ」

 「指?こうですか?」

「指の腹で引いたら力入らないだろ?関節を引っ掛けて弦を引くんだ」


 指摘される度に何度も構えを修正する。

 自分が持っている知識と熟練者の教えでは、自分が誤った認識をしていたと判明することが多い。

 何回か修正をした後、ようやく先生から矢を持つお許しを貰えるた。


「それじゃあ、実際に射ってみようか」

「ハイ、先生!」


 「先生」と言われてニールが苦笑いしていた。

 教えられた通りに左腕を伸ばし弓を縦に構え、右手の人差し指と中指の間で矢を挟み、矢の尾部を弦に合わせて……指の第一関節で思いきり弦を引く!

 そして弦を引っ張って──離す!

 引かれていた弦を離すと瞬間的に弦が反発を起こして振動し矢を押し出す。

 弦に押し出される形で放たれた矢が俺の元を離れ、的に向かって飛来する……そして、


「……あれ?」


 ぽてん、と地面に落ちた。

 的の手前じゃなくて、俺のすぐ目の前に。


「……あれれ〜?おかしいぞぉ〜?」


 小学生探偵の真似をして首を傾げてみせた。

 いや本当におかしいぞ?

 俺のイメージでは弦を離した瞬間に矢が的まで飛んでどこかに当たるはずだったんだけど?

 当たらなくても最悪、的の近くに落ちると思ってたのに、実際に落ちたのは俺の足元から少し離れた場所だ。


「先生!矢が思ったよりも飛びません!」

「弦を引く力が弱すぎたんだよ。もっと強く引いてごらん」


 ウス!と答えて今度は先程よりも力を込めて弦を引き矢を放つ。

 しかし放った矢は的には届かず地面に落ちてしまう。

 だがさっきより飛距離は出ていた。

 その証拠に一度目よりも二本目の矢は的に近い場所に落ちている。


「う〜ん?的に届かない」


 その後も何度か矢を放つけど、まるで的に届かない。

 一本目に比べれば飛距離も伸びたし、的の近くに飛びはするけども的に擦りもしなかった。


「ちょっと兄さァん!?矢が擦りもしないんですけどォ!?」

「それは君の弦を引く力がまだ下手だからだよ。そればっかりは練習して覚えるしかないさ」

「えぇ、でもこれじゃあ実戦で使えませんよ」

「そんな簡単に覚えられる程甘くはないよ。俺だって弓の扱いを一人前だと認められたのに時間がかかったからね。でも君だって練習すれば……」


 ニールは自分の弓矢を構えると的を狙って弦を引き絞る。

 指を離すと、俺が放つよりも鋭く速く矢が飛来し的の中央に突き刺さった。


「これぐらいできるようになるよ」

「それ、何ヶ月かかるんですかね……」


 得意げな表情のニールに苦笑いし答える。

 でも魔法以外に遠距離攻撃の手段が増えるのはいいことだ。

 世界樹ユグドラシルを失った今の世界で、魔法は乱用できないのだから。


✳︎


昨夜、就寝前にティアーヌとの話しをした時のことだ。


「バルメルド君、私が話した世界樹のことを覚えてるかしら?」

「覚えてますよ。悪魔族に焼かれてしまったって」


 とある国が世界樹の生み出すマナを独占しようとユグドラシルを捕獲し、その国を利用していた悪魔族によって焼かれてしまった。

 それ以来、マナを生み出すユグドラシルを失ったと言う話だ。


 「ユグドラシルは焼け落ちてしまったけど、世界からマナが消えた訳じゃないわ。微量だけどまだマナは存在してる。でも無尽蔵にあるわけではないの。空気中に漂うマナは年々薄くなっていて、すぐに私たちの体内に吸収されないわ」

「じゃあ、俺が今日使った分のマナって……」

「完全にマナが回復するのは時間がかかるでしょうね。でも今日のは仕方ないわ。非常事態だったからね。だからこれを渡しとくわ」


 懐から取り出した小瓶を三つ手渡された。

 何の変哲もない普通の品だが、瓶の底には魔法陣が黒で描かれている。


「なんですかこれ?」

「それは中にマナを閉じ込めておく為の小瓶。寝る前や暇な時に、少しずつでいいから自分のマナを小瓶に抽出しとくといいわ」


 「こんな風にね」とティアーヌはまた懐から小瓶を取り出す。

 しかしその小瓶の半分程に小さな光の粒子が溜まっており淡く光を放っていた。

 なんかホタルを捕まえた時みたいな感じに見える。


「有事の際にこの小瓶に集めたマナを飲み込めばマナを回復できるし、割ればその場に魔法を発動させることもできる」

「わかりました。やっておきます」


✳︎


 ポケット越しに小瓶に触れながら昨夜のやり取りを思い出す。

 寝る前と朝起きてすぐに小瓶にマナを抽出してはおいたが、小瓶に流れたのは10分の一にも満たなかった。

 体内マナが全部無くなると活動できなくるので抽出したのはほんの少しだけとは言え、小瓶三つ分を満たし終えるのはいつになることやら……。

 そう考えると、俺が弓矢を扱えるようになっておくのは悪いことではない。


「ニール兄さん。もう少し、俺に弓を教えて下さい」

「いいよ。じゃあ、もう一度やってみようか」


────────────────


 ティアーヌ視点


 目を覚ました私は戸締りを確認すると服を着替える。

 私にとって肌を見られると言うのは致命的なことなので、着替えている間も誰か来ないかと細心の注意を払う。

 汚れた服を新しいのに変えると、いつものヨレたとんがり帽子とローブを纏えばおしまいだ。


「やっぱりこの格好だと少し暑いわね……でも我慢しないと」


 肌の露出を最低限にするこの服装は絶対にしなければならない。

 まだ早朝だと言うのに外ではエルフたちが弓の訓練をしている声が聞こえる。

 窓から覗くとエルフたちが訓練をしている様子が見えた。

 この集落は外に比べるととても平和だ。

 人里でこれほどまでに落ち着いて過ごすことができたのはとても久しぶりなので気分がいい。

 視線を移すとバルメルド君の姿が見える。

 彼は知り合いのニールと呼んでいたエルフの青年に手ほどきを受けていた。

 バルメルド、彼は不思議な青年だ。

 人族なのに両眼は光るし、ここ数年で起きた事件を全く知らない。

 まるで彼だけが時間が止まっていたかのようだ。

 彼を私の旅に同行するのに一抹の不安はあるが、あの青年が私の旅の目的を果たしてくれるかもしれない。

 根拠はないが、何故かそう思える。


「さて、そろそろ行かないと」


 私は荷物を纏めると、布団の脇に置かれたエルフの長老から借りた『魔封じの芳香』を持つ。

 『魔封じの芳香』は嗅いだ者のマナを抑制して魔法を発動させない為の物だ。

 これでおかげで私は夢を見ずに済んだ。

 寝床の周囲に保険として描いておいた魔法陣を杖でなぞって消すと、私は寝室を出た。

アズールレーン始めました。

鯖は安心と信頼のルルイエです。


次回投稿は日曜日の22時です!

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