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第九十九話 集落へ逃げろ!

最近アニメの「氷菓」を見始めたんですけど、みんなが「えるたそ〜」って可愛い可愛い言ってた理由がよくわかりました。えるたそ可愛い!

まぁ僕は摩耶花派なんですけど


 クロノスたちがニケーロス領村でバッドアイと蜘蛛に襲われている同時刻。

 村から離れたエルフの集落にて──


「おーい、交代の時間だぞ」


 青年のエルフが見張り台の設置された巨木に登りながら先客に声をかける。

 先客は夜の寒さに震えぬように全身を覆うようにマントを着込んでいる。

 見張りの交代が来たのに気づくと、彼は登ってきた青年エルフに手を貸す。


「お疲れ、こっちはさみぃなぁ」

「そんな薄着で登って来るからだろ」

「どうだい、今日の森の様子は?」

「いつもと同じ。静かなもんさ。でもちゃんと見張るんだぞ?」


 「はいよ」と青年エルフが答えると、彼はマントを脱いで集落へと降りようと準備し……


「お、おい!あれ見ろあれ!!」


 巨木から降りようとした矢先、交代した青年が慌てた声で陽が落ちて闇に支配された森を示す。

 しかし彼の目には夜の闇が広がっているだけで特に何も見つからない。


「なんだ?オバケでも見たか?」

「そうじゃなくてあれだよ!南!元村があった場所!」


 降りるのを止めて彼は双眼鏡を取り出す。

 双眼鏡で元ニケロース領村があった場所を凝視すると、森の中からおびただしい数の赤い光が空に向かって上昇して行くのが見えた。


「なんだあれは!?バッドアイの群れか!?」

「バッドアイ!?誰か集落から出て村に行ってるのか!?」

「いや、そんな話しは聞いてない……けど……」


 双眼鏡を覗いていた彼は空に上昇しているバッドアイの群れを見て、群れが何かを追いかけているのに気づく。

 もしかしたら魔物同士の争いかもしれない。

 もしそうなら集落へ来るかもしれないし皆に知らせなくてはと思い、彼はバッドアイが追いかけている何かを確認しようとする。


「え……?」


 バッドアイが追いかけている先に双眼鏡を向け、彼は声を漏らし動きを止めた。

 彼の目に見えたのは、闇の中を空高く跳んでいる人の姿だったのだ。

 だがそれだけで驚いたのではない。

 人の姿をした者が濃褐色と青色の光を放つ瞳をしていたからであった。

 そしてその瞳は確実にこちらに目を向けている。

 即ち彼の目には、空を跳んでいる者の顔が僅かだが伺い知ることができたのだ。


「そんな……まさか……!」


 だがその者の顔は、彼が知る故人と同じ顔と瞳の色をしていたのだ。


────────────────


 「見つけたァァァァ!!」


 あった!

 エルフの集落がまだあった!

 エルフ族の姿も両眼で確認できたから、間違いなくまだエルフはいる!

 てことはニールとレイの兄妹も、エルフの長老もまだきっといるはずだ!


「ティアーヌさん!エルフの集落を見つけました!エルフ族も確認しましたよ!」

「ここから見えるの!?両眼光ってるし、貴方どんな眼してるのよ!?本当に人族!?」

「それは後でいいから、降りたらすぐにエルフの集落に向かいます!心の準備しといてください!」

「心の準備って……ひやぁぁぁぁ落ちてるわよちょっとぉぉぉぉ!!」


 重力に従って身体が落ち始めティアーヌの悲鳴が響く。

 追ってきたバッドアイたちも急降下してこちらを追いかけてくる。

 落下地点の地面との距離を考えながらマナを練って風魔法の準備をする。

 落ち着け、こういう時の為にレイやフロウと遊ぶ時に魔法による上昇と着地の練習はしてたんだ。

 できるぞ、俺はできる……俺はやればできる!


「風よ!奔流せよ!」


 魔法で激しい風を真下に巻き起こす。

 風の奔流に飛び込み、強い風圧にも揉まれながら地面へと降りていく。

 強烈な風にバッドアイも蜘蛛もこちらに近寄ることができず、地面に近づいた頃に奔流から吐き出される形で俺たちは地面に降り立った。


「走って!」


 着地すると同時にティアーヌを腕から離し走り出す。

 風の守りが無くなったのを見て魔物たちは一斉に追いかけてきた!

 集落まではまだ距離がある!

 このまま走って逃げてるだけだと追いつかれる!


「ティアーヌさん!魔法はまだ使えますか!?」

「大丈夫……でも、貴方こそ大丈夫なの!?さっき三度も大きな魔法を使って」

「大丈夫ですよ!まだ行けます!蜘蛛の方は俺がやるんで、ティアーヌさんはバッドアイの方をお願いします!」

 「わかったわ!」


 お互いの役割を決めると体内のマナを足から地面に流し込む。

 蜘蛛の魔物とは一度戦ってるんだ。

 やりようなら幾らでも考えられる!


「土よ!崩壊しろ!」


 走る足が地面に接地した瞬間にマナを送り出す。

 俺が踏み越した地面が脆くなり、蜘蛛の群れが乗った瞬間地面が崩れて簡易落とし穴となって先頭集団が落ちた!

 してやった!と思うのも束の間、後続が落とし穴を避けてまだ追いかけてくる。


「ええい、しつこい!」

 「次は私が!」


 蜘蛛の群れの多さに苛立つとティアーヌが懐から杖を出す。

 器用なことにティアーヌは目を瞑り、走りながら呪文を唱え始めた!


「《氷の精よ。我が声に応え、仇なす者に身も凍える猛る息吹を!フリージング・ストーム!!》」


 杖だけを空のバッドアイに向けて魔法を放つティアーヌ。

 その杖の先端から猛吹雪が発生しバッドアイの群れを襲う。

 猛吹雪の中に飲み込まれた群れは一瞬で凍りつき、ボウリング球程の大きさの氷塊なる。

 当然バッドアイは空を飛んでいたので空中で凍りついたのだが、氷塊となり飛ぶ力が無くなると蜘蛛たちの頭上に雨のように降り注ぐ。

 上手い!

 氷塊はボウリング球程の大きさだ。

 直撃すれば人間だろうと魔物だろうと容赦なく圧し潰す!

 空から降ってくる氷塊に驚く間もなく直撃した蜘蛛たちは次々と潰れていった。


「やった!ティアーヌさんやりますねぇ!」

「これぐらいできないと、この時代じゃ生きていけないのよ!」


 その後も走りながら魔法を放つ続け両魔物を攻撃し続けるが、まるで数が減る気配がない。

 まさかこいつら無限に湧き続けたりなんてしてないよな!?


「はぁ……はぁ……!バル、メルド君、集落はまだ、ですか!?」

「後もうちょっと!この坂を抜けた先です!」


 ティアーヌは体力の限界がきているのが見てとれる。

 俺は青年に成長したからか、まだ体力には余裕がある。

 しかし魔法を連発していると精神が削られてしまい、集中力が衰え始めているのを感じている。

 どっちにしろ二人とも長くは持たない。

 ティアーヌの体力が無くなるのが先か、俺の集中力が無くなるのが先か……


「でも、この坂を登り切れば……!」

 

 見慣れた並木道を走り続ける。

 レイやフロウ、ニールと一緒に集落に行く時に何度も通った場所だ。

 目の端に禁断の森への入り口が見える。

 見張りはいないが侵入者を拒む門は健在だ。

 つまりもう集落まで半分近くまで来ているということだ!


「もうすぐですよティアーヌさん!このままなら、坂を抜けて集落に……」


 息切れの激しいティアーヌを励まそうとした矢先、発動させたままの両眼に見えた光景に目を疑う。

 坂の上、エルフの集落の入り口よりかなり手前に大量の松明の灯りと人影が見えたのだ。

 一人や二人ではない。

 数十人という大勢が坂の上でこちらを見下ろして待っているのだ。

 だが彼らは皆顔を布を巻いて隠しており、見えるのは長い耳と眼だけ。

 エルフ族なのは間違いないが、どう見ても歓迎してくれると言った雰囲気ではない。

 だが、その光景にビビって引き返す訳にも行かず、俺は対話を試みることにした。


「すみません!魔物に追われているんです!集落に匿ってください!」


 集落に入れてもらえるよう許可を求めるが返答はない。

 もしかし俺たちを集落へは入れないのか?

 でも引き返せば魔物の餌食。

 俺たちは更に近づき声を上げる。


「お願いです、助けてください!集落に知り合いがいるんです!その人と話しを

「動くな!!」


 エルフたちが一斉に弓を構えこちらに向ける。

 まさか本当に俺たちを集落には入れないつもりなのか!?


「待ってください!俺たちはただ──!」


 もう一度話しをしようと口を開いた瞬間、エルフの一人が矢を放つ。

 放たれた矢は空を切り俺とティアーヌの間を通り抜けた。

 ドシュッと矢が何かを突き刺す音が耳元で聞こえる。

 二人して振り向くと、すぐ背後に俺たちに飛びかかろうとしてい蜘蛛がいた。

 目の前に立ち塞がるエルフたちに気を取られ、背後まで迫っていたのに気づけなかった。

 だが襲いかかる前に、エルフの一人が矢を放って蜘蛛の脳天を射抜いた。

 つまり、誰かが俺たちを助けてくれたんだ。

 しかし一匹殺したところで迫ってくる魔物たちは怯まない。

 獲物を捕まえようと坂を駆け、宙を羽ばたき追いかけてくる!


「そこの二人、頭を下げていろ!」


 またエルフの声が聞こえ俺とティアーヌはその場で身を屈め言われた通りにする。


「射てぇぇぇぇ!」


 号令と共にエルフたちが矢の雨が降らせる。

 俺たち頭上を矢が飛び越える音が聞こえ、背後でバタバタと魔物が崩れ落ちる音も。

 しばらくの間矢が飛び交う音とエルフたちの怒号が聞こえたが、地面が小さく揺れると共に何も聞こえなくなる。


「もう顔を上げて大丈夫だよ」


 優しい声音が聞こえ、目の能力を解除してから恐る恐る顔を上げると一人のエルフが傍に立っていた。

 このエルフも他と同じように顔を布で隠している。

 彼の手を借りて立ち上がり振り返ると、矢に射られ倒れた魔物たちの屍が転がっていた。

 どれだけの矢を射ったのか、魔物の体には何本も矢が突き刺さっており、地面や周囲の木の幹にも矢が突き立てられている。


「ゴホッ!ケホッ!何とか無事ね……バルメルド君、大丈夫?」

「俺は何とも。ティアーヌさんの方こそ大丈夫ですか?走ってる最中かなり苦しそうでしたけど」

「昔から体力が無くてね。激しい運動をするといつもこうなのよ。気にしないで」


 そんなんでよく今まで無事だったなって思ったけど、ティアーヌさんは魔物から身を隠すのが上手い。

 体力が無い分、そうやって上手く魔物の目を誤魔化しながらやってきたのだろう。

 それにさっきの魔法。

 初めてティアーヌの魔法を見たが、俺が今まで見てきた中でもかなり凄い魔法だった。

 さすがに魔女と自称していただけはある。


「バルメルド……君はもしかして、クロノス・バルメルドかい?」


 俺たちに声をかけたエルフが尋ねる。

 否定する必要もないので俺は素直に頷いた。


「はい。それよりも、助けていただいてありがとうございました。実は、この集落にいる知り合いを探していまして……ニールとレイリスと言う兄妹がこの集落にいるはずなんですが、ご存知ありませんか?」

「知ってるよ……というか、目の前にいるじゃないか」


 「目の前?」と聞き返すと、エルフが顔に巻いていた布に手を掛け結びを解く。

 布が取り除かれ露わになった顔は、俺がよく知る人物の顔だった。


「やっぱり君だったんだね……久しぶりだね。クロノス君」

「ニール、兄さん!?」


 ニール、ニールだ!

 十年前と同じ容姿のニール兄さんだ!

 そうか、空飛んだ時に双眼鏡でこっちを覗いていたのはニールだったのか!

 それで俺たちを助ける為にここまで来てくれたのか!

 どうりで坂の上で集団率いて待ち受けていたり、魔物への対応が早いと思ったよ!


「でも、よく俺だってわかりましたね?」

「少なくとも、俺の知り合いに白髪でオッドアイな上に眼が光る……なんて特異体質な人族なんて、君以外いないからね」

「ははは、そりゃ違いない……」


 苦笑いを浮かべながら答えておく。

 俺だって眼が光る人間なんて知り合いにいないわ。


「ここで立ち話もあれだ。二人とも集落へは案内する。そこで話しを聞かせて欲しい。俺たちは、君たち二人の来訪を歓迎するよ」

ついに次回で第100話になります!

しかももうすぐなろうを初めて一年なんですよね。いやー時間経つのはっや……

評価も400P超えてとっても嬉しいしやる気になってます!

欲を言えばもっと欲しいけど……


次回投稿は日曜日22時の予定です。

ストック次第では土曜日に上げるかも

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