第九十七話 最悪な眼
連続投稿三日目ラストです!
四章は三章みたいに前半が長くなりすぎないようにしたいんで、展開は気持ち巻きでいくつもりです
あんまり長すぎて飽きられちゃうのも嫌なんでね!
ティアーヌさんから俺の知らない十年前に起きた出来事を聞かされる。
魔王が復活したとか、世界大戦があったとか、どれも突拍子が無く信じられない話ではあるが、俺の住んでいたこの村の惨状と魔物の棲家となっていることからその全てを否定することはできない。
「このニケロース領は、六年前に魔王軍が各地に大量に出現した時、侵略に巻き込まれて滅んだと聞いたわ」
「……この領の統治者だった、ニケロース家は?」
「わからないわ。この侵略で死んだとは聞いてないけど、その後の消息は不明よ」
消息不明……フロウは、無事でいるんだろうか。
六年も前じゃ、バルメルド家の皆も今はどこにいるのかわからないだろう。
そうなると、レイリスとニールたちもきっと──
「待ってくださいよ?ライゼヌスが戦争に負けてグレイズ国王が討ち死にしたのなら王女は?ティンカーベル王女はどうなったんですか!?」
「あら、あなた知り合いなの?」
「ベルは友達なんです!この首飾りもベルがくれたものなんです」
あの日ベルから受け取ってた桃色の花弁を閉じ込めた水晶の首飾は肌身離さず持っている。
服の下から取り出しティアーヌに見せた。
「……あなたが本当にティンカーベル王女の知り合いかはわからないけど、彼女は生きてるわ」
「本当ですか!?今はどこに?」
「それは私にもわからないわ。彼女は今、魔王ベルゼネウスに命を狙われていて、大陸を移動し続けているとは聞いてる」
ベルが魔王を命に狙われている?
どうしてなのかとティアーヌに聞いても、「そこまでは知らないわ」と返されてしまう。
でもベルが生きていると聞いたたけでも希望が持てる。
きっと他の皆もベルのようにどこかで生きているかもしれない……そう思えるのだ。
「それで、バルメルド君はこれからどうするのかしら?」
「え、どうするって……?」
「私が貴方を故郷まで連れて来たのは、目的地がたまたま近かったのと、この世界の現状を理解できていない貴方に現実を教える為よ。目的が成された今、貴方と行動を共にする理由が無くなった。後は貴方が今後どうするのか」
「それって、ここで別れるってことですか?」
「ここからかなり離れた場所に難民を受け入れてくれる村があるわ。でも私はまだ旅の目的を成し得ていないから、今は貴方をそこに送り届けることはできない」
つまり、難民避難所となっている村に一人で行くか、遠回りになるがティアーヌと行動を共にするかと言うことだろう。
しかし、その質問に対する答えなんて一つしかない。
「つまり、無事に難民キャンプに行くのならティアーヌさんと一緒に行動するしかないから、付き合えってことですよね」
「まぁ、そうなるわね……どうしても難民キャンプにの先に行きたいのなら」
「いえ、ティアーヌさんに付き合います。もしかしたら、ティアーヌさんの目的地で知り合いに会えるかもしれませんし」
「わかりました……では少しの間、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
改めて同行の意思をお互いに確認しバルメルド家を出る。
俺のベッドに置かれていた剣は持って行くことにした。
屋敷を出ると木々によって陽の光が遮られている村の中が暗闇に覆われ始めていた。
空が木々の葉によって隠れているせいで気づかなかったが、どうやら日が沈み始めているらしい。
「もう夜になっちゃいますね」
「長居しすぎたわね。魔物の動きが活発化する前にここを出ましょう」
足早に去ろうとするティアーヌの後に続く。
こんな魔物の巣となったど真ん中で野宿なんてしたくはない。
警戒した方がいいだろうと考え、俺は周囲の木々に見回し魔物がいないか確認する。
「……なんだあれ?」
立っている場所から離れた木々の隙間、そこに何かがいる。
距離があるせいで肉眼では視認できないが、赤い点が宙をゆらゆらと漂っているというのは確認できた。
まだ明るいし左眼の方がいいかと判断し、俺は眼の能力を発動させる。
左眼は明るい場所でも遠方が見えるようになる能力だ。
どれどれ、と左眼を細め赤い点を凝視するとその姿が見え始めた。
胴体の殆どが一つ目の赤い眼球をして、小さな羽が生えた蝙蝠のような生き物だった。
体の大きさに不釣り合いな羽で必死に飛んでいる。
でもあれ、どう見ても魔物だよな……ティアーヌさんに教えた方がいいよな。
「ティアーヌさん」
「なに?すぐにこの村から離れましょ……バルメルド君、その左眼どうしたの?光ってるわよ?」
「いや、これは後で説明します。でも、あそこ……あの木の向こう側、赤い一つ目の蝙蝠みたいなのが飛んでるんですけど」
「赤い……一つ目!?」
赤い一つ目の単語にティアーヌが驚く表情を始めてみる。
なんだろう、相当ヤバい魔物なんだろうか?
「まだこっちには気づいてないみたいだけど、このままやり過ごして
「バルメルド君走って!逃げるわよ!」
「えっ、にげ……えっ!?」
突然走り出すティアーヌを数秒遅れて追いかける。
あの一つ目の蝙蝠はこちらには気づかず、どんどん距離が離れる。
「ど、どうしたんですかティアーヌさん!?あの蝙蝠みたいなの一匹ぐらいなら別に……」
「貴方が見たのは、赤い一つ目で小さな羽が生えた蝙蝠に似たものだったのよね!?」
「え、ええ……そうですけど」
「酷い偶然だわ!アレがここに棲息してるなんて!」
アレ、とは一つ目蝙蝠のことだろう。
ティアーヌの焦りようからかなり厄介な魔物のようだ。
最初に見た一匹とかなり距離が離れ始めた頃、頭上の木の枝に同じ一つ目蝙蝠を見つける。
枝で羽休めをしているのか蝙蝠の視線は別の方向を向いていた。
だがその下を走り抜けようとしていた俺たちの存在に気づくとこちらに赤い目を向け、俺と眼が合った気がした。
蝙蝠はただじっと、その身体に不釣り合いな大きな赤い一つ目でじっとこちらを見つめてはいるが、特に何もしてこない。
そのまま一つ目蝙蝠の真下を通り抜け、なんだ何もしてこないじゃないかいかと拍子抜けした瞬間、
『ギュィ!ギュィ!ギュィ!』
一つ目が赤く光り出し、羽を広げて不快な音階で鳴き始めた!
蝙蝠が鳴き始めると他方向から同じ鳴き声が複数聞こえ始める。
それはまるで共鳴し会話をしているかのように聞き取れる気もするが、鳴きが耳障りで聞くに耐えられない!
他方向から聞こえる鳴き声にティアーヌが苛立ちを見せる。
「あぁんもう、見つかった!最悪だわ!」
「なんですかあの蝙蝠の鳴き声!?耳が痛くなるんですけど!」
「貴方が見た一つ目蝙蝠の名前は『バッドアイ』!小型の魔物の中でも最悪な種類よ!」
「最悪って、あんな小さな蝙蝠なら魔法を使えば簡単に
「『バッドアイ』はね、一匹いたら……仲間が百匹以上は出てくるわよ!」
ティアーヌの言葉を証明するかのように、空を覆っていた木々から一斉に赤い一目蝙蝠が羽ばたき追いかけてきた!
しかも十匹や二十匹ではない!
周囲の木々全てから数え切れない程の数のバッドアイが姿を現したのだ!
頭上は一面中バッドアイの群れに覆われて夕日の明かりも木々も見えなくなってしまう。
「い"い"い"い"い"い"!?なんですかあの数ゥゥゥゥ!?」
「バッドアイは群れで行動するのよ!夜行性で日が沈み始めると目を覚ますけど、まさかこんなに早く活動を始めるなんて!」
バッドアイから逃げる為に背の高い草むらの中を進む。
だが赤い一つ目はしっかりとこちらを捉えており、見失うどころか更に数を増やして頭上から追いかけてくる!
しかも徐々に日が落ち始めて、周囲が闇に包まれ始めてきた。
視界が悪くなるのを懸念し、俺は右眼の能力も発動させ、両眼を光らせ視界を良好にしておく。
これでもし暗闇に支配されても、出口までの道のりはしっかりと見え……
「あの、ティアーヌさん?」
「喋らないで足を動かして!止まったら囲まれるわ!」
前を走るティアーヌさんに声をかけるが怒られてしまう。
でもティアーヌさんが走ってる方向って、
「ティアーヌさん、村の出口どこかわかって走ってます?」
「…………………………」
「ちょっとォォォォ!!ティアーヌさんどこに向かって走ってるんですか!?」
「しょうがないでしょ!?私はこの村始めて来たんだから!そういうなら貴方が先導して!」
失念してた!
ティアーヌさんはこの村の人間じゃないから村全体を把握してなかったんだった!
ええと、今俺たちどこを走ってるんだ!?
「じゃあ……右に走って下さい!その先に蜘蛛の魔物はいません!」
両眼の能力を駆使すれば視界の悪い草むらの中でも先を見通せる。
右へと向かって草むらを抜けると丁度村の中央広場に出る。
だけどそこに蜘蛛の魔物は今はいないから、広場を突っ切れば村の出口まで一直線だ!
俺は指示すると同時に右へ進路を変え草むらを抜け出すと、前方に蜘蛛がいないのに安堵しそのまま
「バルメルド君、危ない!」
草むらを飛び出すと同時にティアーヌの声が背後から聞こえる。
何のことか一瞬理解出来ずそのまま中央広場へと飛び出すと、頭上から無数の蜘蛛の糸が噴出され俺に降り注ぐのだった。
ティアーヌさんはバルメルド君に敬語を使わないキャラなんですけど、初期の設定だと誰に対しても敬語を使うキャラだったんですよ
だから書いてる途中でたまにバルメルド君に対しても敬語使っちゃって苦労します
もし敬語使ってたらそれは誤字です
次回投稿は今週末の日曜日22時です!




