プロローグ
初投稿・初作品となります。
拙いですがゆっくりやっていきますので、よろしくどうぞー
プロローグ
事故があった。大きな……とても大きな事故が。
俺はその事故に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになってしまったのだ。
周りから悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえる。
続けて消防車や救急車のサイレンの音がけたたましく響き渡る。
あぁこれはそれだけの大事故なのだと、俺はどこか他人事のように思っていた。
瓦礫の下敷きにされたせいか、身体を動かせない。助けを求める為に声を出すこともままならない。
それになにより、眼を開けても何も見えないのだ。
こんなに暗闇に恐怖するのは生まれて初めてだった。
痛みのせいか身体の感覚も麻痺してる気がする。
駄目だ……このままじゃ死んでしまう。
まだ死にたくない。彼女いないし、童貞のままだし、やり残したことだって、まだ一杯あるのに。
「そうだよね〜。まだ死にたくないよね〜」
何もない暗闇の中から声が聞こえてくる。
先程まで聞こえていた悲鳴やサイレンの音が遠ざかり、謎の声だけが耳に届く。
誰だ?
誰かそこにいるのか?
「童貞のまま死ぬってかなり悲しいし、悔しいだろう」
何でそんなこと知ってるんだよ!?
「まぁまぁ。ほら、ここじゃなんだし、ちょっとおいで」
すぅっと身体の感覚が消え、浮遊感に襲われる。
まるで引っ張られるかの様に宙に浮き、暗闇の中に光が射し込む。
その光に吸い込まれるかの様な感覚を覚えながら、俺は暗闇の中から光溢れる草原の地に降り立った。
そこは見渡す限りの草原。
地平線の彼方まで続く草花。大地と空の境目まで広がる青空と雲。
美しい──この場所を表現するのにこれ以上ピッタリする言葉はないだろう。
あまりの美しさに辺りを見回すと、俺以外にも一人の男が立っているのに気づいた。
男は白い布一枚を身体に纏っており、その清廉な出で立ちも相まって神聖なオーラが見える。
「やぁやぁ、不運にも若くして死んでしまった哀れな童貞男子よ。よく来たね」
ど、どどど、童貞ちゃうわ!!
爽やかな顔して開口一番になんてこと言い出すんだこの男は!
「おや、でもさっき言ってたじゃないか。童貞のまま死にたくないって」
いや言ったけども!
それは心の声であって、口に出して言った訳では……あれ?
何で会話が成立してるんだ?
さっきから俺は口を動かしてない。
心の中で思っているだけだ。
もしかして──
「うん。筒抜け」
目の前の爽やか男はとても可愛らしい笑みで答えてきやがる。
マジかよ……人の心の読めるとかプライバシーの侵害だぞ。
「仕方ないじゃないか、今の君は魂だけの存在なんだから」
魂だけ?
そう言えば、俺今どうなってるんだ?
さっき瓦礫の下敷きになった時にあちこち打った記憶があるんだけど……
「いやぁ〜それに関しては知らない方がいいよ。とても聞いて気持ちのいい状態じゃなかったしね」
てことは俺は、
「うん。死んだね。瓦礫の下敷きになって」
マジかよ……クソ。
薄々そんな気はしてた。
だってこの草原はあまりに神秘的過ぎて、天国とか言われても納得しちまうじゃねーか。
「まぁそんなに気を落とさないで。人は死ぬ時は死ぬんだよ」
慰めになってねーぞそれ。
つか、あんたなんなんだよ。
「僕かい?僕は君たち人間で言うところの神様さ。偉いんだぞ」
あぁ、やっぱりそうか。そうだよな。
こんな所に連れてくるんだから神様だよな、やっぱり。
「驚いたろう?」
イメージしていた神様とだいぶ違って驚いた。
こんな軽そうなのが神様とか天も末だな?
「ちょっとちょっと〜。その言い方は酷くない?せっかく呼んで上げたのに」
それはどうもすいませんでした。
で、神様がどうして俺をこんな所に連れてきたんだ?
さっきみたいに慰める為か?
「あ〜そうだったね。ゴホン。おめでもう!哀れにも童貞なまま死んだ男の子よ!」
うるせぇ!童貞言うんじゃねぇ!
「君には新たな世界に転生する権利を与えましょう!転生すれば童貞も捨てられるし、家族も増えるよ!やったね♪」
やったね♪じゃねぇ!
だから童貞は──今何て言った?
「だ〜か〜ら〜君を新たな世界に転生させてあげるって言ったんだよ」
ほ、本当に!?
生き返れるのか俺!?
「ほんとほんと!僕これでも神様だからね。流石にあんな可哀想な死に方と悲しい心の叫び聞いちゃったし……なんか、このまま死なすのは可哀想だなって思って」
止めろ!
憐れみを向けるな!
「その代わり、今の君にとって大事な物を一つ頂くよ」
今の俺にとって大事な物?
なんだそれ?
俺今なにも持ち合わせていないんだけど。
「それが何なのかはいつかわかるよ。後それじゃあ、これから君を転生させてあげましょう」
神様と名乗った男の周りに小さな光が浮かび上がる。光は次第に俺を包み込み、目の前が白く染められていく。
「それじゃあ、新しき良い人生を」
祝福の言葉を最後に神様の姿は光によって遮られ見えなくなった。
✳︎
次第に光が弱まり目の前がはっきりしてくる。
ずっと明るい場所にいたせいか、視界がまだ白くぼやけて見える。
不意に足元がぐらつく。
同時に強烈な空腹感を覚える。
無性に腹が減った。
気づけば喉もカラカラだ。
水が欲しい。
「うっ……」
まだ目がチカチカする。
右手で目を擦ると、ようやくボヤけていた視界がクリアになると同時に、ジャラっと金属が擦れる音が聞こえた。
「ジャラ?」
なんの音だろう?と思うが、それはすぐにわかった。
手だ、俺の眼前に小さな手がある!
あの神の言う通り俺は生き返ったのだ!
両手首に鎖をつけた状態で!
「……はあっ!?」
鎖を見て思わず声を上げる。
よく見ると両手首だけではない。
両足も鎖に繋がれており、身につけているのはボロ切れで出来た服一枚だけだ。
俺の隣には同じ様に鎖で縛られ、ボロ切れの服を着た五歳ぐらいの子供が大勢いる。
しかも俺たちは鉄格子の檻の中に閉じ込められていたのだ。
鉄格子の檻に乗せられ、馬車で運ばれている子供たち。
これはどう考えても、
「人攫いじゃねぇかあのクソ神ィィィィ!!」
鉄格子を力の限りに掴み、俺は雲に覆われた天に向かって爽やかな自称神様に叫んだ。




