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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第7章 保護する男

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紗奈の夏休み ①

久々のヒロイン登場です。

 サクがあの忌々しい世界へと旅立ち、一週間が過ぎました。

 気持ちよく送り出したはいいものの、サクに会えないのはやっぱり寂しいです。


「はぁ~~~」


 四人掛けのボックス席。

 木製のテーブルに両ヒジをつけ、咥えていたストローを離すと同時にアタシの口から魂が抜けるかのように深く、長い溜息が洩れます。


「どうしたの? 紗奈。そんな深い溜息なんかついて」


 気遣わしげにアタシの顔を覗き込むのはクラスメートであり、学校で一番仲が良い中野亜希子さんです。進学希望のアタシ達は、長い夏休みを活用して夏期講習を受けるために新宿駅近くの予備校に通っています。


 勉強は嫌いじゃありせん。

 むしろ知識が蓄積される事にやりがいを感じています。


 だだ、予備校のあの張り詰めた空気に馴れず、気疲れしてしまうのです。

 そんなアタシ達は、予備校終わりに近くのファミレスで息抜きをしてから、各々帰路につくという新たな習慣が根付きました。


「亜希子さんは、どうしてそんなに平然としてるんですか? 田宮君と会えなくて寂しくないんですか?」


 田宮君とは亜希子さんの思い人であり、現在サクとあのキザ男に()()しています。

 その田宮君も亜希子さんの事を好いており、未だにくっつかない二人にアタシのフラストレーションは……いや、止めておきましょう。アタシがヤキモキしたところで何も変わらないのだから。


「な、何を言ってるの! 私と田宮君は別に……」


 こういうところです……。


「はぁ~~」 

「私の事はいいから! 服部さんに会えなくて寂しいの?」

「寂しくて死にそうです!」


 タン! とテーブルを両手で叩き、立ち上がったアタシは前のめりになりながら、亜希子さんに顔を近づけます。


「ちょ、近い! 近いよ、紗奈」

「すみません、ついつい興奮してしまいました」

 

 ゴホンとわざとらしい咳払いをしながら腰を下ろします。


「そうやって自分の気持ちを率直に言える紗奈が羨ましいよ」

「だって、そう思える相手が近くにいるって幸せじゃないですか」

 

 もし、アタシがこの世界に戻って来れなかったら――

 もし、サクがこの世界に戻ってきていなかったら――

 もし、アタシとサクが再会していなかったら――


 今のアタシのこの感情は、サクと再びこの世界で巡り逢えた事で芽生えたポジティブな感情であって、万が一、サクと再会していなかったら、同じ“会いたい”でも大分意味あいの違うネガティブな感情になっていたと思います。


「そうだよね、私ももっとアピールしなくちゃね」

「やる気を出しているところも悪いですけど、亜希子さんのその言葉は耳タコです」

「今度こそは絶対! 田宮君が戻ってきたら頑張るから!」

「まぁ、期待せずに待っています」

「応援してよ~」

「亜希子さんの次第です」

「もう、紗奈の意地悪!」

「うふふ、ごめんなさい。お詫びに亜希子さんのドリンクを持ってきますので、許してくれますか?」

「分かった、同じものをお願い」


 

 アタシのグラスと亜希子さんのグラスを両手に持ちドリンクバーの前に立ちます。

 グラスの中身を流し、新たに氷をたっぷり入れ、コーヒーマシンのカフェラテボタンを押して待つ事数十秒でアイスカフェラテが完成します。


「次はアタシの分ですね」と、同じ動作を繰り返します。


 そんな時でした。


「聞いたか? 零夜さん、とうとう月間売上でトップ取ったらしいぜ?」

 

 興味のない話ですが、豆からコーヒーが抽出される数十秒という時間をそのまま過すよりはマシだと思ったのか、自然と耳が傾きます。

 声のする方へと目を向けると三人スーツ姿の若い男達が座っていました。

 ここが歌舞伎町に近い事と彼らの派手な見た目を見る限り、決してサラリーマンではないでしょう。彼らは恐らくホストだと思います。


「すごいよね~、あの人三ヶ月前までは指名全然取れなく万年ヘルプ君って言われていたんだよね~?」

「零夜さん、寮からも出ていくらしいぜ? どっかの女社長にマンション買ってもらったってよ」

「まじか、羨ましいぜ」

 

 やはり栄養価も何もない心底どうでも良い話ですね。

 カフェラテも出来上がった事ですし席に戻りましょう。


「そんな零夜さんからバイト話があるんだけどよ、お前ら今から暇か?」

「俺はこれから同伴だからり~む~」

「俺はいけるぜ? 何すればいいんだ?」

「零夜さんの客のケアだ。“つばさ”って客らしいんだけど、十八時までに店の掛け三百万持ってきたらそのまま店に、持ってこなかったら身体で払ってもらうってさ」

「零夜さんもえげつねぇな! 払えたら更に掛けをさせて、払えなかったら風俗なりAVなりにぶち込むってか?」

「そういうこと。どっちにしろ零夜さんに損はねぇって事よ、俺達は女が金を持ってるかどうか確認して、しかるべき場所に連れて行けば終了だ」

「その女も災難だよね~その掛けってさ~散々酔わせて勝手にボトルガンガン入れて出来たやつっしょ? 実際の額なんて数万もいかないよ~」


 ただ、ホストにハマって出来たお金だったら自業自得と知らんぷりをするつもりでしたが、酔わせて勝手にボトルを入れてたって言うのはいただけませんね。

 十八時にここに来るって言ってましたね。

 首を突っ込むか否かは、その女の人の様子を見てからにしましょう。


 アタシはそう心に決めて、亜希子さんの待つ席へと戻ります。


いつも読んでいただきありがとうございます。

次回は、5/6(水)21時頃に更新いたします。


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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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