地下室へと
ハーヴェストを治めるガレイス・レッドタイド子爵の屋敷についた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
屋敷の門番に片瀬達が話を通すと、さほど時を費やさず屋敷の主であるガレイスが俺達の前に姿を現す。
「おぉ! 勇者様方! よくぞ、この不届き者共を!」
「その様子を見ると、貴方からの依頼は達成という事でいいですか?」
檻に入っている俺達を目の当たりにし歓喜に沸くガレイスとは打って変わって片瀬は落ち着いた様子だ。
「はい! こんなに早く捕まえて下さるとは、流石は勇者様方ですな! 謝礼は金貨五百枚でいかがでしょう?」
「へぇ~金貨五百枚とは光栄だな」
金貨一枚大体十万円位の価値があるので、俺達の首は五千万円と言う事か……国民的海賊漫画の麦わら帽子を被った主人公に比べれば遥かに劣るが、Dランク冒険者で考えると大したものだろうと感心する。
「黙れっ! この薄汚い犯罪者共め! 貴様らには死んだ方がマシと思える程の罰を与えてやる!」
片瀬達に向けた顔とは別人の様な鬼の形相で俺達を罵る。
キタねっ! 唾飛ばしすぎだろ。
「あの、ガレイスさん」
「何でしょう? 勇者様」
ガレイスは片瀬に呼ばれた事で、表情を元に戻す。
実に器用だと、感心してみる。
「その二人ですが、本当に人攫いなのですか?」
「な、何を急に……」
平然を装おうと必死なガレイスの額から汗が滲むのが見える。
「この二人から話を聞いたところ、貴方の話と大分食い違っていて」
「食い違っているとは?」
「この二人は、盗賊団から彼女、レウィシアさんを保護したと言っています。また、レウィシアさんも同じ事を言っています」
「何を仰いますか! そんな悪党共の話を信じるのですか!? 我輩はこのベルガンディ聖国に忠誠を誓った貴族なのです! そんな我輩が勇者様方を欺す理由がどこにあるのですか! その小娘の話もそこの悪党共が何かしたに違いません、何と不憫な……」
ガレイスは、大袈裟に両手を広げまるで演説をするかのように様々な感情を混ぜ込んで片瀬達に訴える。
聞くに堪えないため、ここら辺で、俺は片瀬に「もう行け」と合図を出すと、片瀬は自分に酔いしれているガレイスに悟られないように頷くと「分かりました、貴方を信じましょう。それでは、俺達は宿に戻りますので」と未だに何かぶつぶつ言っているガレイスに向けて言い放つ。
「これはこれは、申し訳ございせん。我輩の屋敷はこの通り拙宅なもので勇者様方に泊まって頂ける部屋があればこのまま部屋にご案内するのですが……」
「その話は、この町に来る前に聞いています。宿には満足していますし、貴族の屋敷に泊まるのは正直肩が凝るので」
「そうですか、そうですか。では、謝礼は明日にでも届けさせます」
「いえ、大した労力も使わなかったので、謝礼は要りません」
「なんと! 流石は勇者様! 目からがウロコが落ちる思いでございます! それでは、道中お気をつけ下さい。出航の日はこのガレイス必ずご挨拶にお伺いいたします!」
要らないって言っても普通は貴族メンツとかなんとかで払うものじゃないのか?
変態で守銭奴でもあるのか、最悪だ。
片瀬達が屋敷から出ていく。
そして、重厚な屋敷の扉が閉まると、近くにいる数名の兵士に向かいガレイスは「おい! こいつらをあの部屋に連れて行け!」と命令をする。
現状、俺達の両手両足には金属製の強固な枷がつけられている。
そんな俺達を兵士達が檻から出し、二人一組で俺達を担いで地下へと降りる。
もちろん、レウィも一緒だ。
薄暗い地下をドナドナされる。
「あの~俺、暗いところ苦手なんですけど……」と兵士に冗談を言ってみたら頬にパンチを喰らった。
まぁ、全然痛くないし。反対に、俺の顔を殴った兵士が拳を抑えて悶絶し、バランスを崩して落とされそうになるのだが、何とか踏み留まる。
「おい、何をしている!」
「すまん、こいつの顔が岩みたいに硬くて」
「何を馬鹿な事を、とにかく早く終わらせるぞ」
「お、おう」
俺の顔が硬いのはなぜか馬鹿な事とされて流された。
地下を降りきった俺達の目には、これまた重厚そうな鉄製の扉が現れる。
扉を開くと、そこには六畳程の狭い部屋が現れる。地下なのでもっと広い部屋を想像していたので拍子抜けしてしまう。
そして、部屋の中心にある鉄の板に立たされると、まず首と腰を鉄の板にホッチキスの芯の巨大バージョンの様なものでしっかり固定され、それから両手両足の枷を外され、それぞれ同じ様なホッチキスの芯で大の字に固定される。
しっかり固定された事を確認した兵士たちは、瞬く間に地下室から出て行き、現状地下室に残っているのは立ったまま大の字で固定されている俺とワタルと、無機質なベッドに仰向けで固定されているレウィの三人のみとなった。
「傍から見たらすっげぇシュールな絵面なんだろうな……」
「そうだね、中々こんな体験はできないよね。レウィ、大丈夫かい?」
俺達は余裕として、小動物的なレウィが心配だ。
「はい、こんな格好したの初めてなので恥ずかしいです」
うん、大丈夫なようだ。
「拍子抜けだな、地下だからもっと広々として拷問具だらけの部屋を想像していたのに」
「咲太、今見えている物が全てではないよ。この部屋の壁の向こうから微かだけど魔力を感じるんだ。おそらく、この部屋は――」
ワタルの言葉を遮るように、正面と両脇の三方の壁がゴゴゴォォ――と音を立て地面に埋まっていく。
「なんだよ……これ」
「中々畜生な趣味をしているね」
「あぁ……っ」
取り払われた壁の向こうには、想像通りの広い部屋があり、その部屋の所々には筒状な水槽が設置されていた。
それだけでは、俺達も驚きはしないだろう。
ただ、水槽の中身、それが俺達を驚かせるには十分なインパクトがあったのだ。
人間と何も変わらないが背中に蝙蝠の様な翼を持つ少女、獣の耳や尻尾を生やしている少女達、魚の様なウロコを持つ少女など、人間離れした姿形をしたレウィと同年代位の少女達が眠るように水槽に浮かんでいるのだ。
「うひゃひゃひゃ、どうだ! 我輩のコレクションは!」
パンツ一丁に白衣を纏った変態が、悪魔の様に歪んだ笑みを浮かべながら俺達の前に現れた。
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次の話は、4.21(木)21時に更新します。
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