和解
「はぁ~弱音を吐くつもりはなかったんだけどなぁ」
頭を冷やして来ると宿から一人出た俺は、すっかり日が沈みかけている海辺の防波堤に座り込み、先程片瀬達とのやり取りを思い出す。
無意識に出るため息。
片瀬達に愚痴った事で芽生えた惨めで、やるせない思いが混ざりあった複雑な感情が俺の胸の中に広がり、俺は乱暴に頭を掻き毟る。
「はぁ~」
「さ、咲太さん!」
何度目かのため息が吐く俺の背後から、俺の名を呼ぶ声がする。それに反応して振り返ると片瀬が緊張した面持ちで立っていた。
「よっ、どうした? 作戦は決まったか?」
「はい。まぁ、大した事は決めてないですけど。それより、隣いいですか?」
遠慮混じりな片瀬の申し出を断る理由もないので、「あぁ」と笑みを向ける。
片瀬はホッとした表情を見せ、俺の隣に腰かける。
座ったはいいが、互いに何か話しかける事もなく、ただ、寄せては繰り返す波を眺めていた。
うん、大分気まずい……ここは年上の俺から何か話掛けないと――
「す、すみませんでした!」と片瀬は頭が地につくかの如く俺に謝罪する。
「うお!」と一瞬驚くが、俺はいかんいかんと気持ちを持ち直し「どうして謝罪なんかするんだ。お前達がこっちに召喚されたのは、俺達の所為なのに……謝らなくちゃいけないのはこっちの方だよ。謝って許して貰えるとは思ってない、けど……すまなかった!」
「い、いえ! 確かに俺達は貴方達を恨んでいました。だけど、それは俺達が貴方達の境遇を知らなかったから……ワタルさんに聞きました。オルフェン王国で貴方達の事や、ワタルさんのお爺さんのカケルさんの話も……」
「そっか……」
俺の脳裏に「僕がちゃんとフォローしといたから」と笑顔を浮かべているワタルの顔が過る。
「咲太さん達に比べたら俺達は恵まれていました。娯楽は少ないですが、日本にいた頃よりもいい生活をしていたと思います」
「ははは、それは勇者様だからな」
「それに比べたら……。俺は、咲太さん達が処刑される日あの場所にいました。俺達がこの世界に来る原因となった貴方達がどんなものなのか、そして、この目で処刑される貴方達をこの目で見て少しでも溜飲を下げるため。だけど、あの時の咲太さん達は……何というか想像とはかけ離れていていました。何て言うか……」
言いたい事は良く分かる。もっと悪人悪人した厳つい輩を想像していたんだろう。俺達はどちらかの言うと正反対だからな。
「あんなモンだよ奴隷なんて。正直あの時はほっとしていたんだ。やっと解放される、もう、奴隷紋に縛られて人を殺さなくても済む……ってな。ただ、現れていしまったんだアレが」
「はい、それも見ていました」
「もう、全て諦めてた俺だったけど、やっぱり帰りたかったんだ。日本に、家族の元に……だから俺は一筋の希望抱いて手を伸ばした。あの渦に!」
片瀬は黙って俺の言葉に耳を傾ける。
「お前達には悪いと思うが、結果、俺は無事に家族の元へ帰れた。まぁ、帰っても色々あったけどな」
俺の口元が無意識に綻ぶ。
「俺達がこの世界に戻って来た理由は聞いたか?」
「はい、聞きました」
「話し合いで済めばいいけど、事と次第では魔王と一戦交えるかも知れない」
「勝てるんですか?」
「分からない、俺とワタル二人掛かりでも厳しいと思う」
「……そんなに」
片瀬は俺達との力の差が分かっているのだろう。そんな俺が厳しいと断言している事実は、片瀬の表情を曇らせる。
「そんな顔すんなよ!」
パン! と俺は片瀬の背中を叩く。
「いてっ」
「俺もワタルも待っている人が居るからな、ちゃんと生きて戻ってくる。そんで、必ずお前ら全員を家族の元に帰す! だから、少しだけ待っていてくれ」
「はいっ! 期待して待っています!」
太陽が真っ赤に海辺を染める中、俺達は互いに握手を交わす。
それから、俺は片瀬と宿に戻った。
戻って早々、菊池がめっちゃ謝って来たけど、元々の非はこっちにあるんだからと彼女を宥めた。
丸山だけは、不満一杯の顔をしていたが、横やりを入れてくる事はなかった。
一応彼らとは和解出来たみたいだ。
◇
「作戦は頭に入っているかな?」
ワタルの言葉に俺は苦笑いを浮かべる
「これのどこが作戦だよ! お前はそれでも魔導士師団長だった男だろ? もっとスマートなやり方もあったんじゃないのか?」
「馬鹿を言わないでくれ、一番手っ取り早く簡潔に終わる作戦ではないか! だったら、君がこれよりももっといい作戦をだせばいい」
ふん! と鼻息を荒くしているワタルに俺はぐうの音も出ない。いち戦闘奴隷だった俺に作戦を考える頭はないのだ。
くそっ! そんな事分かってますみたいなドヤ顔しやがって!
「本当にいいんですか、お二人をこんな……」
現在進行形で屈強な鉄の檻に入れられドナドナされている俺達に向けて、片瀬は申し訳なさそうな表情を思い浮かべる。
今回の作戦は、これだ!
片瀬達が俺達を捕まえたとして、ガレイスにレウィと俺達の身柄を差し出す。
これはあくまでワタルの予想だが、ギムレットの話だとガレイスは変な性癖を持っている変態らしい。
その変態さんの事だ、後々始末する俺達の前でなら、これ見よがしに自分の変態さを披露するはず! となぜか強い確信を持っていたのだ。
まぁ、簡単にまとめると捕まった振りをして、やっつけよう! という単純な作戦なのだ。
そんなの正面から殴り込めばいい話じゃないか……と言ったら、
「君はそこまで馬鹿なのか? 咲太、僕達は現状オルフェン王国二大将軍の客人という立場だよ? そんな僕達が他国の貴族に殴り込む……それは、さっきそこのツンツン頭君の愚行と何も変わらないじゃないか!」
あ~国際問題ね。ワタルにディスられた丸山は、「ちっ!」と舌打ちを打つ。
「いや、だけど……それだったら、先に仕掛けてきたあっちが悪いだろ? 十分国際問題じゃん」
「レウィの話を聞く限りガイレスは、頻繁にギムレットと人身売買を行っていると思う。だから、この事が露見した際のあらゆる準備はしていると思うんだよね。原則この国では人身売買は重罪だからね。彼は無理やりにでも僕達の事を人攫いとして仕立てられる準備をしていると思った方が良い。それなら、正面突破より、彼の悪事を暴いた後に始末した方が良いと思わないか?」
たらればの話ではあるけど、念には念にをってか……まぁ、あんまりミラさん達に迷惑かけたくないしな。
「ごめんなさい、サクタさん、ワタルさん……私の所為で」
ドナドナされている俺達とは別の檻に入れられているレウィは、申し訳なさそうに俺達に謝罪する。
「大丈夫だ、お前が気にする事はないよ。俺達は売られた喧嘩を買うだけだからな!」
待ってろよガレイス! 俺達に喧嘩を売った事を死ぬほど後悔させてやる!
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次の話は、4.21(火)23時に更新します。
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