不可抗力だとしても
俺達は、片瀬達と一緒に片瀬達が泊っているという宿へと向かった。
ここハーヴェストは、港町ならではというか、沢山の人々が行き来している。その分沢山の宿があるのだ、それは、高級な宿から安価な宿まで……もちろん、片瀬達の宿はこの街でも最高級の宿だった。
見るからに高そうな宿の最上階、フロア一つが丸ごと部屋になっているため、外からでも中の広さが大体想像できたのだが……実際に入ってみると想像以上の広さだった。
百五十平米は優に越すであろう室内には、広々としたリビングに三つの寝室がついており、部屋を彩る家具や置物等も見るからに値打ちがしそうだ。
「中々の宿だね」
「おま、中々って宿でこんな……」
このお坊っちゃまめ! どうせ俺は庶民だよ……家族旅行でも八畳位の和室でしか泊まったことないよ!
「どうぞこちらへ」と俺達は広々としたソファーへと片瀬に案内され、言われた通りソファーに腰かける。
カッセルさんは先に宿に戻ったので、こっちのメンツは俺とワタルとレウィの三人だ。
そして、対面上に片瀬と眼鏡君が座る。
因みに未だに目を覚まさない丸山は寝室のベッドに寝かせており、モデル体型の少女が嫌々介抱している。
「あのぉ~よろしければぁ」と発育の良い少女は、俺達に冷たいお茶を配り一人掛けのソファーに腰を下ろす。
「じゃあ、早速……」と話を切り出そうとしている片瀬をワタルが手を挙げて制す。
「話をする前にまずは自己紹介と行こう。僕はワタル、そしてこっちが咲太。で、この子はレウィシアだ。」
「そうですね、ではこちらも。僕は片瀬右京、このメガネの彼が亀山太一、先程お茶を持ってきたのが柚木奈々。で、あっちで未だに目を覚まさない奴が丸山豪で、その隣で嫌々介抱しているのが菊池加恋です。一応、ベルガンディ聖国の勇者と呼ばれています」
そう言って、片瀬はお茶を口に流し込む。
「うん。じゃあ、本題に移ろう。ここまでの経緯を君達に説明しよう、このレウィシアは――」
ワタルがこれまでの経緯を語り出すと、片瀬達の顔は次第に険しいモノへと変わっていく。
「その話が本当なら、真に捕まえるべき人物は……」
「そのガレイスってやつだな」
「そんな……」
「ここに当の本人がいるんだから、本人に聞いてみろ」
俺が片瀬にそう言うと、片瀬はレウィシアに向けて「レウィシアさん、今の話は本当ですか?」と真偽を確かめる。
「はい、私はワタルさんとサクタさんがいらっしゃらなかったら、今頃そのガレイスという者の慰みモノにされていたでしょう。確かに、ヴァンパイア族のギムレットは彼の事を友人と言い、そして、私の事を贈り物と言っていましたから……」
直接レウィの口から真実を聞いた事で、やっとこ片瀬は俺達の話を信じる事ができたようだ。
「俺達はどうすれば……」
「“どうすれば”じゃなくて、“どうしたいか”じゃないのか?」
「そうだね、僕としても魔大陸に行く前にそのガレイスという輩にお仕置きをしないと気が済まないよ」
ワタルは誘拐犯の冤罪を着せられた事を根に持っている様だ。
「じゃあ、二日以内にカタをつけないとな」
「皆さんも魔大陸に?」と眼鏡君が宿について初めて口を開く。
「あぁ、ちょっと野暮用でな。お前達も行くんだよな? 魔大陸に」
「はい、魔王に会いに……」
「そう言えば噂で聞いたよ。魔王を討伐するって、本気かい? いくら異世界人だからと言っても、今の君達では全く歯が立たないと思うけどね」
全くその通りだ、丸山は俺相手でも秒殺だったからな
「俺達も本気で魔王とやり合うつもりはありません。ただ、元の世界に戻る方法を聞きたいんです。魔王なら何か知っているかもしれないので……」
「そうか……」
俺達は、素直に納得してしまった。
「あのぉ~話は変わるんですけどぉ、ワタルさんとサクタさんってもしかして日本人ですかぁ?」
おぉ~やっと突っ込んできたか。だけど、聞いてきたのが柚木なのは予想外だ。
あぁ、みんな熱烈な視線を俺達に向けてる――よっぽど気になっていたのだろう。
「まぁ、お前らなら隠す必要はないな。いつか、あっちで会うかもしれないし……」
「じゃあ、やっぱり?」
「あぁ、俺は服部咲太。察しの通り日本人だよ」
「じゃあ、ワタルさんも?」
「僕の場合は少しややこしくてね……まぁ、日本から来たのは間違いないよ」
「お二人はユーヘミア王国に召喚されたのですか?」
まぁ、ユーヘミア王国から来たって言ったらそう思うよね。
「いや、今回は自分の意志で来たんだ」
「えっ?」俺の言葉に戸惑いを隠せない片瀬達。
「言葉の通り、俺達の意志で日本からこの世界に戻って来たんだ」
「意志で? 戻って来た?」
「俺は、元々この世界に召喚された事があるんだ。—―【殺戮者】って聞いた事ないか?」
「「「—―――――!?」」」
そりゃあ驚くよね、こいつらは俺達のせいでこの世界に来た様な物だし……
「もしかして、処刑台で渦に飲み込まれた……」
「察しがいいな。そうだ、俺はあの時渦に飲み込まれて日本に戻ったんだ。あそこにいたんだな」
「じゃあ、あんたの所為で私達は!」と菊池は鬼の形相を俺に向ける。
「あぁ、そうだな。不可抗力だとしても、俺の所為なのは間違いない」
俺が素直に認めた事で、今にでも俺に飛び掛かって来そうな菊池の腕をいつの間にか目を覚ました丸山が掴んでいた。
「やめろ菊池、死ぬぞ?」と丸山は俺に向けて俺を睨み付ける。
俺に一瞬でやられたのが堪えたのか……てか、殺さねぇよ! ったく人を何だと思ってるんだ……はぁ~
「俺達も生きるために仕方がなかった。俺達はお前らと違ってこの世界に来た瞬間奴隷に落とされた。クソ痛い奴隷紋を肩に押し付けられたと思ったら、寝床はトイレもない牢屋、飯は腐ったパンに泥水……訓練の時なんて死ぬ程のケガじゃなければ治癒魔法も薬も使ってもらえなかった」
俺の言葉を片瀬達は固唾を飲んで聞いている。
「死にたかったさ……だけど、俺達に刻まれた奴隷紋がそれを許さなかった。俺達は自ら命を絶つ事さえ、互いに殺し合うことさえ許されなかった。だから、戦争に行くことが決まった時は戦わずしてそのまま殺されようと思っていた……だけど、あのクソ王が、この大陸を制覇したら俺達を元の世界に返してくれるって言いやがった! お前らだったら分かるよな? 俺達は帰る為に必死に生き延びたんだ……」
「咲太……」
「すまん、それでもお前達にとってはいい迷惑だよな……少し頭を冷やしてくる。その、ガレ……何とかをやっつける話は先にやってくれ、俺はお前達の決定に従うからよ」
そう言い放って俺は、宿の外へと出て行った。
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次の話は、4.19(日)23時に更新します。
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