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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第7章 保護する男

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衝突

「おい! どうした?」

「あぁ、咲太。彼らが僕を人攫い呼ばわりしてレウィを返せと言っているんだ」


 ワタルが人攫い? なんだそりゃ? 


「なんの根拠があって、お前が人攫いになるんだ?」


 納得のいかない俺はワタルに突っかかってきた金髪ツンツン頭の少年を睨むと、「これです」と、金髪ツンツン頭の隣に立っていた、ビン底メガネの小柄な少年がA3サイズ大の紙を俺達に手渡してきた。


 俺達は手渡された紙を確認する。


「なんだこりゃ? 誘拐犯 Dランク冒険者 サクタ&ワタルだと……?」


 紙にはご丁寧に、俺達の似顔絵までしっかりと書かれていた。

 てか、俺もかよ!


「これが動かねぇ証拠なんだよッ! 観念しやがれ、犯罪者!」

「これは誰から手渡された物なんだい?」


 ワタルは阿保らしいと言った表情で金髪ツンツン君を一瞥し、ビン底眼鏡君に質問する。


「これは、この町の領主でありますガレイス・レッドタイド子爵からです。元々その少女はガレイス子爵が預かる予定だったとか」

「なるほど、ギムレットのお友達というのは、そのガレイスと言うやつなんだな?」


 まさか、あっちから接触してくるとはな。


「てめぇ、な~にDランク冒険者風情が貴族を呼び捨てにしてんだよッ!? この場でその首落とすぞ!」


 嗚呼、金髪ツンツンがうるさい。


「おい! やめろっ!」


 そんな金髪ツンツン達に向かって、イケメン君が走ってくる。

 イケメン君のすぐ後ろには、かなり発育の良い背の小さい少女と、すらっとしたモデル体型でクールビューティーという言葉が似合う少女が追いかけてくる。

 

 い、いかん。男の性のせいか、発育の良い少女のたわわな二つの物体に目が行ってしまう……。


「んだよ、片瀬! 邪魔すんなよ!」

「邪魔すんなよじゃない! 丸山、何でお前は一人で突っ走るんだ!」


 うん? かたせ? まるやま? もしかして、こいつらがベルガンディ聖国の召喚勇者とか? 

 ハーヴェストに来てるって言ってたな、ちょうど五人いるし……。

 ゲルマンさんの言葉が脳裏を過る。


「すみません! こいつが何か失礼な事をしませんでしたか?」


 片瀬と呼ばれたイケメン君が、俺達に頭を下げて謝罪する。


「てめぇ、勇者のくせに、こんな底辺冒険者に頭下げてんじゃねぇッ! 俺達まで格が下がるだろうがッ!」


 やっぱり、ベルガンディ聖国の召喚勇者か……面倒だな。


「黙れ、丸山! これ以上口を開いたら……」


 片瀬の怒気に当てられた丸山と呼ばれた金髪ツンツン君は、「……ちっ!」と舌打ちをして後ろを向く。


「すみませんでした。それで……」

「彼は僕達の事を人攫いだとか、犯罪者とか好き放題言ってくれてね」


 事の発端を片瀬に説明するワタルの声は、少し苛ついた様子だ。


「へぇ~実物も美少年じゃん」というワタルに向けたモデル体型の少女の賛辞を無視して「それは、すみませんでした!」と片瀬は深々と頭を下げるものの、すぐに鋭い目を俺達に向け話を続ける。


「ただ、俺達が追っている人攫いとあまりにも人相が似ており、名前や冒険者のランクまで一緒だ……これは、疑われても仕方ないという事にはなりませんか?」


 こいつも接近の仕方は違うけど、丸山と目的は変わらないのか。


「君達が噂に聞くベルガンディ聖国に召喚された勇者で間違いないかな?」

「そうですが? それが何か?」

「じゃあ、今、君達が僕達に行っている行為をカタルシア様はご存じなのかな?」

 

 ワタルの口からベルガンディ聖国の女王カタルシアの名が出た事で、片瀬をはじめとする勇者達が若干怯む。


「いいえ、カタルシア様は知りません……」

「そうだろうね。もし、彼女が知っていたらこんな愚かな事は絶対させないからね」

「てめぇ! 底辺冒険者のくせに、何さっきからうちの女王様の事を気軽に呼んでんだよ! ぶっ殺すぞ!」


 片瀬の登場で大人しくなった、丸山がまたもやワタルに噛みつく!


「へぇ~君は僕達が誰の客人か知らない様だね」

「はぁ? 誰もくそもねぇだろ! このド平民が!」

「やめろ、丸山! 何か様子がおかしい!」


 粋がる丸山とは正反対に片瀬は何かに気付いたようだ。ちらちらと俺達の馬車を見ている。


「連れが度々失礼いたしました。貴方達が乗って来た馬車……シンプルな造りではありますが随分高価そうな馬車だ」

 

 おぉ~そこに気付くか! 馬車何て日本(あっち)じゃそうそう見ないのに、やるなぁこいつ。


「それはそうだよ。僕達は、ユーヘミア王国武の将軍グレン・アルパトス伯爵と魔の将軍ミラマギウェル侯爵から任を受けてここに居るからね。君達はそんな僕達を犯罪者呼ばわりしたんだ……この意味分かるよね?」


 おぉ~! 妙に迫力があるワタルに少年達の顔が面白い様に真っ青に変わっていく。

 二人から任は受けてないけど、それ以上の関係だし……問題はないだろう。


「そ、そ、そんなわけ……」と一番俺達に突っかかって来た丸山の顔に尋常じゃない程の汗が流れる。


 丁度そのタイミングで俺達の様子を見ていたカッセルさんが、アルパトス家の家紋が入った短刀を彼らに披露する。

 まぁ、披露してもそれがどこの家紋か分からないだろうけど……黄門様的な効果はあるのだろうか、彼らは明らかに怯んでいる。


「さぁ、君達の行為はこの場で収まるものではない。なぜなら君達は、我がユーヘミア王国の二大将軍の客人である僕達を犯罪者扱いし、あまつさえ僕達の首を落とすなんて、僕達を殺すと仄めかしていた。これは、君達の世界でいう国際問題に発展する重大な事案だ!」


 ワタルは大袈裟に両手を広げる。

 こいつ、ちょっと楽しんでるなぁ。


「ま、待ってください。俺達はそんなつもりじゃ……」


 片瀬は、言葉を絞り出して何とかこの場を収めようとするのだが、


「ちょっと、丸山! なんで剣なんか抜いてるの!?」


 モデル体型の少女の叫び声の様なものが聞こえ、その声のする方へ視線を向ける丸山が息を荒くしてこっちを睨んでおり、剣先を俺達の方へと向けていた。


「ひひひ! そんな本当かどうかわからねぇ戯言なんて関係ねぇ! そんなのここで片付けちゃえば全て丸く収まるだろおおッ!」

「止めろ! 丸山!」


 丸山の乱心に、片瀬が慌てて俺達を庇う様に前に立つが、その横を黒い影が通り過ぎる!


 ドッゴーン! 

 地響きと共に砂埃が周囲に舞う。

 


 そして、砂埃が晴れた先には――


「なんだ、こんなもんか? それで良くあいつに喧嘩を売ったな」

 

 呆れる俺の手元には、地面にめり込んでいる丸山の首がある。 


「……えっ?」と丸山を除く四人の勇者達はその光景に自分達の目を疑う。


 この地に来て一年と少し。ベルガンディ聖国内では最強だと自負してきた。

 それは、ベルガンディ聖国の外でも同じだと。

 それを一瞬で……誰一人としてその動きを目で追う事が出来なかった。

 

「おーい、死んでないよな? 俺だからこんなんで済んでるんだぞ? あいつが相手だったら、お前、今頃消し屑になってるからな?」


 俺は、丸山の頭を地面から取り出し、頬っぺたをペチペチと叩く。


「それは、少し言い過ぎじゃないかな?」


 あ、なんか不機嫌だぞコイツ! 眉毛が凄い勢いでぴくぴくしてるし!


「冗談だよ、そんなに怒るなって!」

「あ、貴方達は何なんですか?」

「うん? Dランク冒険者だよ。コイツもそう言っていただろ? ほらっ!」


 丸めたティッシュをゴミ箱に投げるかのように、丸山を片瀬に向けて投げる。


「Dランク冒険者が、そんな強いわけないでしょ! 僕達は勇者なんですよ?」と、先程まで余裕ぶっていたビン底眼鏡君がパニック状態になっていた。


「君達が勇者とかそんなの関係ないよ。まさか、自分達が勇者だからって絶対的な強さを持っていると勘違いしているなら、その考えを改めた方が長生き出来ると思うよ? さて、それで君達はどうするんだい? これ以上続けるかい? 僕は犯罪者呼ばわりされて久しぶりに頭にきていてね……続けるなら今度は僕が相手になろう」


「くっ……」

 

 片瀬は、発育の良い女の子を背に俺達に最大の警戒を向ける。


「ふふふ。君達が僕達に敵対しないと言うなら、僕達はこれ以上事を荒立てる気はないよ」


「あなた達は本当に人攫いなんですか?」と片瀬は恐る恐る俺達に聞いてくる。

「そうだね、まずその誤解を解……いや、場所を移そう」


 気づけば、俺達はかなりの数の野次馬に囲まれいた。


 このままここに留まっても落ち着いて話も出来ないと思った俺達は、落ち着いて話をするため場所を移す事にした。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!

次の話は、4.17(金)20時に更新します。


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