人生の選択
ネット小説大賞8 1次選考通過致しました。
どこまでいけるか分かりませんが、これからも頑張って更新しますので、よろしくお願いいたします。
レウィシアはこれまでの経緯を俺達に話してくれた。
話を聞いているだけでも、レウィシアがこれまでどれだけ辛い思いをしていたのかが伝わるほどだ、当事者であるレウィシア自身は、どんなに辛かっただろうか……考えただけではらわたが煮えくり返る。
「ちょっと、咲太。殺気が駄々洩れだよ、レウィシアちゃんが怯えてる」
ワタルの言葉に俺はハッとして、レウィリアの顔を見ると青ざめた顔をしていた。
「すまん。レウィシアの話を聞いていたら、その、怒りが込み上げて」
「それは僕も同感だね。それで、レウィシアちゃんはこれからどうしたいんだい?」
「……どうしたい? とは?」
ワタルの質問の意図が掴めないのか、レウィシアはその言葉の意図を聞き返す。
「そうだね、君には二つの選択がある」
「選択……?」
「そう。この選択はこれからの君の人生を大きく左右するものだから、慎重に決めて欲しい」
戸惑い混じりではあるが、レウィシアはワタルの言葉に頷く。
「まず、一つ目はトーレス家とは一切関係を切って、この地で第二の人生を送る。その場合は僕が信頼をおいている家に君を紹介する。何不自由ない生活を保証しよう」
「この地で生きるなんて……私は魔族なのですよ?」
レウィシアの言いたい事は分かる。
人族の地で暮らしている魔族なんて殆どいない。
住めない理由はないのだが、互いに干渉しないというのが暗黙のルールみたいになっているのだ。
「少なくとも僕の知り合いに君を魔族だからって距離を置く者はいないよ。そして、君を外部から守れるくらいの力も持っている」
ワタルの言っている知り合いというのは、ミラさんやグレンさん……もしくは、ワタルの実家の事を言っているのだろう。それなら、魔族を引き取ったからって誰も文句は言えない。特に、ワタルのじいさんは魔王のマブダチだしな。
「……はい」
「そして、二つ目。……僕達と一緒に魔大陸に行く事」
ワタルの言葉に、レウィシアは目を開く
「お二人は魔大陸に行かれるんですか?」
「あぁ、俺達は魔大陸に行く。魔王に会うためにな」と俺が答えると「ま、魔王様に?」とレウィシアの目は更に開かれる
「そう、咲太のいう通り僕達は魔王アーノルド・ルートリンゲンに直談判する事があってね。どうだろう? 二つ目の選択は、僕達と一緒に魔大陸に行き君の名誉を取り戻す事」
「そんな事が可能なんですか?」
「うん、君にギムレットとランディスに復讐する機会を与えると誓うよ」
「復讐……」
「そうだ、彼らをこの世から消し去ってあげてもいいと思っている」
「――ッ!?」
「君がそう望むのならね。さぁ、どうする?」
レウィシアは黙り込んでしまう。
「ワタル、そんなすぐに決められないだろ? しかも、俺達なんて今日会ったばかりの他人だぞ?」
いくら盗賊団から助けてくれたからって俺達は彼女にとっては会って間もない他人、おいそれと自分の人生を掛けるのは難しいだろう。
「それもそうだね……。じゃぁ、ハーヴェストに到着するまでに決めてもらっていいかな?」
「俺もそれがいいと思う。レウィシア、俺達はこれから魔大陸に行く船に乗る為にハーヴェストという港町に向かう。それまでに答えを出して欲しい。俺達と一緒に魔大陸に行くなら、そのまま船に乗ればいい。もし、この地で暮らすことを選ぶのなら、馬車から降りずそのまま引き返せばいい」
「あの……、なんでそんなに良くしてくれるのですか?」
レウィシアは恐る恐る聞いてくる。
その言葉に俺とワタルは自然と笑みがこぼれる。
「そんなの、レウィシアが困っているからだよ。困っているレウィシアと俺達が出会ってしまった以上、何もしない訳にはいかないからな!」
「そういう事だよ、何か下心がある訳ではないから安心して」
「はい! 正直今は色々混乱していて……ハーヴェストに到着するまでには必ず答えを出します!」
◇
豪華な服に身を包んだ細身の初老の男が、頑丈そうな鉄製のドアを開けて室内に入る。
部屋の中は真っ暗ではあるが、男はそんな暗闇を勝手を知るかの様に進むと、ドカッとソファーに座り込み、手に持った酒瓶のコルクを開け勢いよくぶどう酒を口に流し込む。
「ふぅ、仕事上がりの一杯は格別なものであるな。それにしても、あの小娘……いや、やめておこう我輩はここに癒されにきているのだからな」
そう言って、男はテーブルの上に手を置き魔力を流す。
すると魔力は毛細血管の様に部屋中を駆け巡ると、暗かった部屋が青々として光に包まれる。
「うむ、いつ見ても素晴らしい。心が洗われる様だ」
部屋の至る所には透明なガラスで出来た大きな管の様な物が設置してあり、その管が魔力に反応して青く発光しているのだ。
そして、その光によってこの部屋の全貌が明らかになる。
管の中には、裸体の少女達が目を閉じぷかぷかと浮いていた――。
少女達は、獣の様な耳をしていたり、鋭く伸びた爪や牙を持っていたり、鳥や蝙蝠のような翼を持っていたり、普通の人族とは見えないその見目は少女達が魔族である証拠だ。
この部屋は、男が魔大陸から仕入れたコレクション部屋なのだ。
今日も男はコレクションを眺めながら、酒を楽しんでいた。
自分の言葉に耳を傾けない女上司への鬱憤晴らすかのように。
「いひひ、もうすぐ新しいコレクションが届く」
男は、いつもコレクションを提供してくれる魔大陸の友人からの贈り物に胸を膨らませていたのである。
「ガレイス様、ご報告が!」と男の部下が部屋の外から呼びかける。
「うむ、到着したのだな? いひひひ」
ガレイスと呼ばれた男は、その報告を聞くために部屋の方へと近づき「話せ」と部下に命令する。
「はッ! 贈り物の運び役のギュスター盗賊団が全員捕縛されました」
「な、なんだと!? そ、それで我輩の荷物はどうした!」
ガレイスは部下の報告に、ドアを勢い良く開く。
「そ、それが……」
「なんだ! ハッキリ言え!」
「ギュスター盗賊団を実際に討伐した冒険者が保護したとの事です……」
「なんだとおお!」
ガレイスは怒りのあまり手に持っていた酒瓶を壁に投げつける!
割れた酒瓶からはじける様に飛び散ったぶどう酒の匂いが部屋に充満する。
「ふぅふぅ、冒険者ごときさっさと始末して、取り戻してこい!」
「それが……、聞くところによりますと、その冒険者はお忍び用ではありますが、ユーヘミア王国のアルパトス家の馬車に乗ってハーヴェストに移動していると……」
「ちッ! 面倒な……」
ガレイスは苦虫を嚙み潰した様な表情をしていた。
ただの冒険者なら、殺してでも荷物を奪い返す事が出来るのだが、相手が他国の貴族、しかも将軍と何らかの繋がりがあるとなると、国家の問題に発展する。
「マズイ、マズイぞ……我輩のコレクションが明るみになってしまったら……」
ガレイスは、頭をフル回転させる。
「ん? ハーヴェストに向かっていると言ったな?」
「はッ!」
ガレイスの中に現在ハーヴェストにいる五人の少年少女の顔が思い浮かぶ。
「いひひひ、勇者様達に頑張ってもらう事にしよう! おい、勇者様の宿まで案内しろ!」
ガレイスは、歪んだ顔を浮かべ部屋を後にした。
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