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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第7章 保護する男

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衛兵と噂

「あれがカンナルの街か!」

「日が暮れる前に着いて良かったね」


 御者のカッセルさんが急いで馬を走らせてくれた事が功を奏し、俺達はまだ明るい内にカンナルに到着する事が出来た。


「全然起きないな」


 俺の視線の先には、レウィシアがスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立ている。レウィシアは、馬車に乗り込むや否や夢の世界へと飛び立ったのだ。


「ふふふ、あんな状態だったんだ。精神的にも身体的にも疲れていたんだろうね。宿に着くまで寝かしてあげよう」というワタルの提案に「そうだな」と俺は頷いた。


 街に到着した俺達は入門手続きを終え、そのまま街門側にある衛兵の詰所に向かう。


 入門手続きの際に身分を証明する物がないレウィシアについて詰めてきたが、そこはカッセルさんが俺達がグレンさんの客人だと証明してくれた事で、問題なくすんなりと通る事ができた。

 

 衛兵の詰所である三階建の石造りの建物に入ると、建物内は何か時間に追われているかの様にバタバタしていた。


「あっ、どうしました?」


 そんな中、若い衛兵の一人が俺達に気付く。


「何か慌ただしいですね?」

「あぁ~ここ最近街道を荒らしている盗賊団がいて、その対応に追われているんです」


 盗賊団? あっ、もしかして!


「盗賊団って、ギュスター盗賊団ですか?」

「は、はい! どうしてそれを?」


 あぁ~やっぱりね。


「実はこの街に来る途中—―」


 俺はここに来た理由である、ギュスターの件について若い衛兵に説明する。


「それは、本当ですかっ!?」


 若い衛兵は、テーブル越しに身体を乗り出す。


「えぇ、それと奴らが強奪したと思われる金品も持ってきています」

「なんと! あっ、少しお待ちください! ゲルマン中隊長!」

「レビン、騒がしいぞ! 今、手が離せねぇのは分かってるよな!?」


 俺達を対応してくれたレビンと呼ばれた男の声で、奥から白髪交じりで無精髭が目立つ痩せ細った男が眉間に皺を寄せながら現れる。


「中隊長、此方の方々が――」


 レビンさんは、中隊長に俺から聞いた話を簡略に報告する。


「なんだとっ!? おいあんたら、コイツの言っている事は本当か!?」

「ちょ、痛いです!」


 中隊長のゲルマンさんは、レビンさんの顔を押し退けるかの様にして、俺達に顔を近づける。


「はい、嘘はついていません。その証拠に我々の馬車にギュスター盗賊団が強奪したと思われる金品が積んであります」

「レビン、被害届を持ってこい、この人達の馬車に行くぞ! 済まないが、同行してもらえるか?」

「えぇ、もちろんです」

 

 馬車に積んである金品類と被害届を見比べるレビンさん。


「どうだ? レビン」

「食糧品など足りないものはありますが、それ以外は被害届と一致しています!」


 食糧品などは、奴らの腹の中なのだろう。


「これで、信じてもらえましたか?」

「まだ、完全ではないがな。今、奴らが捕縛されているという場所に俺の隊を向かわせた。それではっきりするだろう」

「分かりました。それでは俺達はこれでお暇します」


 もう用はないだろうと思い、馬車に乗り込もうとすると、「ちょっと待ってくれ」とゲルマンさんが俺達を呼び止める。


「なんですか?」

「なんでそのまま行こうとしてるんだ?」

「腹も減ったので……宿に行こうかと」


 早くちゃんとしたご飯を食べたいのだ。


「おいおい、ギュスター達の賞金はどうするつもりだ? それにこの金品も金額を算出して何割かはもらえるんだぞ?」


 あぁ、なるほどね。


「それってすぐに貰えるんですか?」

「いや、数日はかかるだろう」


 その言葉に俺の視線はワタルに向く。何事もなく頷くのを見ると俺と同じ考えなのだろう。


「俺達は先を急いでいて、明日にはこの街を出発しなくてはいけないので……」

「結構な額だぞ?」


 うーん、そんなに金に困ってないしなぁ……あっ、そうだ!


「この街には孤児院はありますか?」

「あぁ、ある……あんた、まさか?」

「じゃあ、全額孤児院に寄付します」


 俺の言葉にゲルマンさんは、やっぱりかという表情をした後、「ぐははははは」と大声で笑いだす。


「中隊長、お二人に失礼ですよ!」

「だってよ、これが笑えずにいられるか! ここ最近の悩みの種まで片付けてくれただけじゃなくて、孤児院に寄付までしてくれんだぜ? こんな気持ちの良い奴らがいるか!」

「それはそうですけど……」

「本当にいいんだな?」


 ゲルマンさんが真顔で再度問い掛ける。


「はい、男に二言はありません」

「ようし! 決まりだ! 急いでる所悪いが調書を取る必要があるから、もう少しだけ付き合ってくれ。それから、俺に夕飯を奢らせてくれ。この街で一番旨い飯屋を紹介しよう」

「分かりました! ぜひ、お願いいたします!」

「ようし、レビン! 調書を取る準備を!」

「はいっ! お二人ともこちらへ」 


 それから俺達はレビンさんに連れられ、少しのあいだ調書を取りレビンさんお薦めの宿へと向かった。



 宿に着いた俺達は、カッセルさんと俺達と言う感じで二つの部屋に別れた。


 最初は、各自一人部屋という事を考えていたのだが、流石に今の状態のレウィシアを一人には出来ず。俺とワタルと一緒に四人部屋に泊まらせる事にした。

 

 ゲルマンさんのお薦めの飯屋というのはこの宿の事だったらしく、しばらく待っているとゲルマンさんが俺達を呼びに来て、俺とワタルは食堂へと移動した。


 カッセルさんは、明日も早いので先に食事をとって休むと言っていたので、今頃夢の中にいるだろう。そして、絶賛夢の中にいるレウィシアは、いくら起こしても起きなかったため、食堂にいるというメモを残してきた。


 食堂がある一階につくと、席は殆ど埋まっていて賑やかな雰囲気を醸し出している。キョロキョロとゲルマンさんを探してみると、「こっちだ!」と手を振って、俺ここだアピールをしていた。


「うおー!」

「これは、スゴいね」


 ゲルマンさんが陣取っていたテーブルには、そこからはみ出る位の料理の数々が並べられ、俺の自己主張の激しい腹の虫を更に暴れさせる。


「かあちゃん! エール三つなっ!」

「はいよ!」


 ゲルマンさんがドリンクを注文すると、恰幅のいいおばさんが元気良く返事を返す。それにしても……。


「かあちゃん?」

「おう、俺のかあちゃんだ! ここは、俺の実家なんだ。おっと、この街で一番飯が旨いってのは嘘じゃねーぜ? がはははは!」


 ゲルマンさんは、豪快に笑う。


「はいよ、エール三つお待ち! 兄ちゃん達、このバカ息子の奢りなんた! 遠慮せず、ガンガン食べな! がはははは!」


 女将さんは、豪快に笑いながらジョッキを置いて他のテーブルへ注文を取りに行くのだか、やっぱり親子なのか笑い方がスゴく似ている。


「では、新たな出会いに! 乾杯!」

「「かんぱーい!」」


 乾杯をした後、ゲルマンさんは一気にエールを飲み干す。


「くぅ~っ! これだよこれ! ギュスター盗賊団のせいでここ最近酒も飲めない位忙しかったんだ」

「そうだったんですね」

「先程部下が戻ってきてな、無事ギュスター盗賊団を全員捕まえる事が出来た。あんたらのお陰でこれから奴らによる被害も無くなるし、孤児院も今年の冬は心配しなくても良さそうだ。本当に感謝している!」


 そう言って、ゲルマンさんは深々と頭を下げる。


「ちょ、頭を上げて下さい! 全部偶然が重なった結果に過ぎないんですから」

「それでも、あんたが言うその偶然が重なった結果で、実際に俺達が救われたのは間違いないんだ。どうあれ、あんたらに感謝するのは当然だろ?」


 そう言って、ゲルマンさんは少し悪戯っぽい、だけど人懐っこそうな笑みを浮かべる。


「ふふふ。咲太、ここは素直に感謝を受入れるとしよう。そうでないと折角の料理が冷めてしまう」


 ワタルの言葉でテーブルに目を落とすと、テーブルに置かれている料理の湯気が先程よりも収まっている様に思える。


「これはいかん! ゲルマンさん、感謝を受け入れます!」

「ぐははははは! すまねぇ、腹がへってたんだよな? さぁ、遠慮せずにどんどん食ってくれ! かあちゃん、エールおかわり!」

「はいよー!」

「じゃあ、遠慮なくいただきます!」


 それからしばらく他愛もない会話を交えながら、俺達は料理を口に運ぶ。

 用意されていた料理はどれも美味しく、ついつい食べ過ぎてしまう結果になってしまった。



 ある程度料理がテーブルから消えた頃—―。


「それにしても、サクタの食いっぷりはスゴいな!」


 同じ時間を過ごしている内に俺達は大分打ち解けあって、ゲルマンさんは俺達の事を呼び捨てで呼ぶようになった。


「すみません、どれも美味しくてついつい……」

「がはははは! いやいや、見ていて気持ちが良かったぜ! もっとこの街にいれば良いのに、明日この街を出るんだよな? どこに向かうんだ?」

「ハーヴェストに向かいます」

「ハーヴェスト? 何でそんな所に?」

「魔大陸に用があって」


 別に隠す事でもないので正直に話すと、ゲルマンさんはやや難しそうな顔をする。


「サクタ達は知らないんだな? 隣の国、ベルガンディ聖国の事」


 ベルガンディ聖国。

 ワタルの祖国であるユーヘミア王国に隣接している国であり、これと言って突出した物がない国と言われており、俺の初陣の相手国でもある。


 当時、俺達戦闘奴隷二十五人だけで千倍以上はあるベルガンディ聖国軍を全滅させた。まぁ、それから他国には色々と対策を打たれて徐々に俺達は数を減らしたんだが。

 因みに俺達の目的地であるハーヴェストの街はベルガンディ聖国の領地になる。


「ベルガンディ聖国がどうかしたんですか?」

「召喚してしまったんだ、五人の人間を異世界から」

いつも読んでいただき、誠にありがとうございます!

ブックマーク、評価等いただけますと凄く力になりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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