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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第7章 保護する男

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盗賊団と酒樽

「止まれえぇっ!」


 熊の様な髭面の男が自身の得物である斧を俺達の馬車に向ける。

 髭面の男の背後には、道のど真ん中に横向きに停められた馬車の荷台が通せん坊をしており、その馬車の前には十は越すであろう荒くれ者達が道を塞いでいた。


 このまま行くとぶつかってしまうので、カッセルさんに馬車を停めてもらう。


「ひい、ふう、みい――十二かぁ……」

「いや、十五だね。両側の木の上に恐らく弓持ちが二人、あの馬車の荷台に一人ってとこかな? 馬車の荷台いる人からは敵意が感じられないから、何か訳ありかもね」

「そんな事まで分かるのかよ!」


 探知魔法を使ったのだろうが、敵の人数はともかく敵意が感じられないとか、そんな事まで分かるなんて凄すぎる。


 この世界の人間は大なり小なり、誰でも魔法が使える。

 言葉を返せば“使える”だけで、魔法で食っていける人間は一握りだ。

 ワタルが息を吸うように使っているこのレベルの探知魔法も、その魔法で食っていける人間の中で一握りの人間にしか扱う事は出来ない。

 やっぱり、凄いヤツだ! コイツの底が見えない。 


「じゃあ、後はよろしくね」

「お、おう!」


 俺はワタルに感心しつつ、馬脚が止まるのを確認してから馬車の外に出る。


「おっ! 出てきたぜ!」

「かしら~もうこれで最後にしようぜ? 早く町に行って旨い酒に、旨い飯が食いてんだ」

「お、お、女も! おで、女抱きたい!」


 ネズミ面の細身の男と達磨の様に丸々と肥えている男がこちらに斧を向けている髭面の男に懇願する。髭面の男がこの集団のリーダーらしい。


「うるせぇっ! 魔大陸くんだりまで出向いて手に入れた荷物の手渡しまで時間があるから小遣い稼ぎをしてるだけだ! 荷物の手渡しの約束は明日だ! コイツらから今日の飲み代を踏んだくろうじゃねぇかっ! ぐあっはははは!」


 頭の言葉で部下達の士気のボルテージは最高潮に昇る。


「盛り上がってるところ悪いんだけど、こっちも先を急いでいるんだ、ケガをしたくなければ降参してくれないか?」


 退屈凌ぎのイベントではあるが、俺としては穏便に事が済めば良いと思っているので、念のために降参するように促す。


 俺の言葉に盗賊団達は一瞬言葉を失うが、すぐに我に返る。


「いひひひひ、コイツ恐怖で頭が可笑しくなったんじゃねーのか?」

「がははは! 全くだ、洩らしてくれるなよ?」

「かしら~こんなナメた野郎は徹底的にシメないと下に示しがつきませんぜ?」

「ふん! そんな事はワシでもわかってちょるわい! 若僧がこのギュスターをナメやがってっ!」


 リーダーの名前はギュスターというらしい。

 怒りで顔を真っ赤にしているギュスターは、一度下ろした斧を今度は俺に向ける。


「交渉決裂……と言うわけか?」

「あったりめぇだろっ! てめぇ、頭沸いてんのか? この人数でワシらが負けるわけねぇだろうが! てめぇら! このナメた野郎にギュスター盗賊団を侮辱した報いを身体に刻んでやれっ!」

「「おうっ!」」


 ギュスターの命令と言うよりは、俺にナメられた事でヤル気満々の部下達が、各々の武器を掲げ俺に向かってくる。


 その勢いは凄まじく、こっちの世界に来る前のニート時代の俺だったら、ガタガタ震えながら土下座でも何でもして許して貰えるように働き掛けていただろう……が、


「遅い……」


 勢いとは正反対に、まるで亀の様に動きの遅い盗賊達を待ってやる義理もない。

 また、こいつら程度に剣は使う必要はない。


 俺が動き出した事で盗賊達は一瞬怯むが、すぐに持ち直す所を見ると中々場数を踏んでいるように思える。


 そんな事を思いながら感心していると「うぉら、しねええっ!」と両サイドから俺に向かって剣が振るわれる。


 右の男は上段から縦に一閃、左の男は中段から横に一閃。

 中々のコンビネーションだと思い、これまた感心するが、俺にとってはあまりにも遅く、弱い斬撃には変わらない。


「「えっ?」」


 奴らが驚くのも無理はないだろう。俺を仕止める為の渾身の一撃は俺の身体に触れる前に、誰でもない俺の手によって止められたのだから。

 

 手に少し力を込めると、俺に握られていた二本のショートソードの刃は粉々砕け散った。


「「えぇぇぇっ!?」」


 自分の手に剣の柄だけが残った盗賊達は、驚愕した表情で俺と剣を交互に見ながら後退りする。

 俺は構わず盗賊達に近付き拳を突き刺す。


「ぐぇっ!」「がはっ!」


 潰れた蛙の様な醜い声を出しながら、盗賊達はギュスターの方へと吹き飛ぶ。


 吹き飛ばされた仲間達を一瞥する他の盗賊達は、闇雲に突っ込んでくる事なくジリジリと俺との距離を詰める。


 先程までの下卑た表情とは真逆に、盗賊達の表情は険しいものへと変わっている。


「死ねえええッ!」


 槍持ちの一人が俺の顔面に向けて槍を突き刺す。

 俺は首を横に傾けてそれを避けると、そのすぐ後ろからもう一人の槍持ちが俺に向けて攻撃を仕掛けてくるので、槍の先端を右手で掴みそのまま槍ごと盗賊を投げ飛ばす。

 これで少しは怯むかと思いきや、盗賊達は次々と波状攻撃を俺に仕掛けてくる。盗賊達の剣が迫る度に避けては殴り飛ばし、避けては蹴り飛ばしを繰り返す内にその場に立っているのは俺と盗賊団のリーダーであるギュスターだけとなった。

 

「くっ……あれだけ数を……」

「さぁ、残るはあんただけだ。降参するか?」


 明らかに顔色が悪くなったギュスターに再度降参を促す。


「する……わけないだろっ! 今だ、やれっ!」


 ギュスターが左腕を横に振ると、上空から矢が飛んでくる。

 ワタルが言っていた木の上に隠れていた弓持ちだろう。

 飛んでくる矢の内、一本は俺の身体からハズレ、もう一本は俺の腕に直撃する。

 その様子にギュスターはご満悦になり「ぐははは! 当たったな? その矢には強力な麻痺毒が塗られておる。どんどん身体に周り後少しで動けなくなるということだ! ワシを舐めた報いだ、動けなくなったてめぇの身体をワシの相棒でバラバラに切り刻んでやる! おい、ドンドン奴に向けて矢を放てっ! 腕を休めるなっ!」と部下に追撃するよう命令すると、間髪いれず俺に矢が迫ってくる。


 次々と迫ってくる矢を俺は避ける事もせずひたすら身体に受けていた。

 直立不動のまま、ギュスターを睨み付けながら。

 その様子に流石におかしいと思ったのかギュスターは冷汗をかきながら、


「な、な、なんで立っていられる……その麻痺毒は大型の魔物用に改良された強力な物なんだぞ!」

「悪いなぁ、俺は状態異常に掛かりにくい身体なんだ。そもそも、矢自体刺さってないけどなっ!」


 そう言って、俺は転がっている矢を二本拾い、盗賊が潜伏しているであろう木の上へと矢を投げると、弓で射るよりも速いスピードで矢は飛んでいき、一拍置いた後に苦痛な悲鳴と同時に木から二つの影が落ちてくる。


「なっ……」


 俺は大袈裟に両腕を振り回しながら、ギュスターの方へと近づく。


「ま、待ってくれ! そうだ! か、金を渡す!」

「その金の出所は? 今更、汗水たらして稼いだ真っ当な金とは言わないよな?」


 こいつらは盗賊団だ、こいつらの金なんて真っ当な金とは思えない。

 案の定、俺の問い掛けにギュスターは無言になる。


「あんたらを殺しはしないよ、ちゃんと然る場所でその罪を裁かれな!」


 俺はそう言って、ギュスターの顎に拳を突き刺す。

 ぐっちゃっと顎がつぶれるいやな感覚が拳に伝わるが、手加減はした。死にはしないだろう。

 一通り事が終わるとワタルが馬車から降りてくる。


「お疲れ様」

「おう、ラジオ体操にもならなかったぜ」

「ふふふ、君にとってはそうかも知れないけど、一般人にとっては彼らでも脅威である事には違いないさ」

「こいつらはどうする? この人数を連れていく訳にはいかないし……」

「御者さんが、頑丈そうな縄を持っていてね。ここで身動きがとれないように縛りつけておこう。カンナルに着いたら衛兵に彼らの事を伝えれば後は勝手にやってくれるさ」

「オッケー、ちゃっちゃと済ませてしまおう」


 俺とワタルは横たわっている盗賊達を二人組で一組にして両手両足を縄で縛る。

 その際に抵抗する者達もいたのだが、そこは穏便に眠って貰った。

 

一通りの作業を終えた俺達は、道のど真ん中で通せん坊をしている、ギュスター達の馬車の荷台を脇道に移動させ、荷台の中を確認する。

 荷台の中には、金貨や宝石、豪華そうな装飾品や布等々、誰かから強奪したであろうギュスター達の戦利品が所狭しと置かれていた。


「すげぇな、これはどうする?」

「彼の話ではこれらはここ数日の戦利品のはずだから、元の持ち主が生きているなら、カンナルの町にいるかもしれない。困っているだろうし、持っていって衛兵に渡そう」

「賛成だ!」


 元よりネコババする気は更々ない、元の持主にこれらが戻るのならそれが一番いいことだろう。


「それよりも……」とワタルは何か含んだ表情で不自然に置かれている古びた酒樽に視線を移す。


「酒樽がどうかしたのか?」

「最初に言ったよね? 荷台から人の反応が感じられると」

「そんなこと言ってたな? 敵意がないとかなんとか……あの酒樽なのか?」


 頷くワタルを見て俺は自然と酒樽の前に立ち、力任せに蓋を抉じ開ける。

 元より古い酒樽のため、蓋は簡単に外れたが……。


「マジかよ……」

「まぁ、予想はしていたけどね」


 酒樽の中には泥まみれの少女が、小刻みに震えながらシクシクと涙を流していた。

 

いつも読んでいただき、誠にありがとうございます!

ブックマーク、評価等いただけますと凄く力になりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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