永遠に枯れることのない想い⑤
更新が遅くてすみません……
全然話がすすまない……
後、1、2話位で終わらせます。
「ソイツに会ってどうする気だ?」
「色々と確かめたい」
「確かめるとは?」
「呪いの件と彼の気持ち……かな」
自分が施した呪いはどうなっているのか?
それとは別に、本当にシエラを愛しているのか、幸せに出来るのか?
ワタルは確かめたかった。かつて自分が友と呼んでいた、あの頃のカルロスなのかどうかを。
「そんなこと確かめてどうする!」
「シエラが幸せになるなら、別に何だっていい。僕は彼女を幸せにする事は出来ないからね」
「だったら……」
その身体を自分のモノにして、この世界に残ればいい! という言葉をミラはワタルに向けて吐き出す事ができなかった。
自分のために他人の幸せを奪う事をワタルは良しとしない。自分の良く知っている弟分はそんなやつなんだ。
「どうだろう? ミラねぇにお願いする最後のわがままだと思って協力してくれないかな」
やっと収まったミラの瞳にじわじわと涙が出てくる。
「ズルいぞ! そんな言い方……」
「相変わらず泣き虫なんだから、ミラねぇは」
ワタルは、こぼれ落ちそうなミラの涙を手拭いで優しく拭き取る。
昔からそうだった。本当は心が弱く泣き虫なのに、いつも強がっていた。
おねぇちゃんだから、弟達を守らないといけないから。それは、今の地位になった事で更に強固たるものになった。
だけど、ワタルは知っている。泣き虫で優しいミラの本質を。
「ふぅ――お前は私の友人の弟として、私がこの街にいる間行動を共にしているという事にしよう」
ミラは、一度深く息を吐き出し、ワタルに提案する。
「僕の立場はなんだっていいさ、そこはミラねえに任せるよ」
「全く……カルロスとは明日、夕食を一緒にする事になっている。その時にお前も同席出来るようにグレン殿に話をつける」
「ありがとう、助かるよ」
「そういえば、お前と一緒に来たという友人はどうするんだ?」
咲太の事は、身の上の話をした際に既に伝え済みだ。
「そうだね、彼に了承はとる必要はあるけど、僕の護衛という立場になってもらおうと思っているよ」
「分かった。それで、その男はどこにいるんだ?」
「そろそろ着くはずだよ、僕が出発して一時間後にこっちに来るように言ってあるから……うん、噂をすればなんとやら、もう近くまで来てるね。彼一人だとここに入ってこれないから、迎えに行って来るから待っててもらってもいいかな?」
そういってワタルは、すぐ側まで来ている咲太を迎えに外に出た。
◇
「ここら辺だよな?」
俺はワタルに言われたとおり、ワタルが出発した一時間後に街を出た。
ワタルは、ミラ・マギウェル将軍と会うとの事……。今のワタルの姿は田宮の姿なのに、あってどうするんだと言ってはみたが、何か策があるらしく「心配しないでよ」と言われた。
「まぁ、ワタルの事だから、俺の知らない何かがあるんだろう」
そう思いながら歩いていると、前の方から嬉しそうな顔で手を振っているワタルの姿が見え、俺も右手を軽く上げ、それに応える。
「時間通りだね、迷ったりしなかったのかい?」
「おう、一度来た事あるし、こんな分かりやすい地図があればそうそう迷わないだろ」
そういって、俺はワタルお手製の地図を取り出す。
A4の半分くらいのサイズのメモ用紙いっぱいにぎっしりと描かれている地図は、ワタルの性格が滲み出ており、無駄なくこと細やかに分かり易く書かれていた。初めてのお使いに行く子供でもない限り、この地図で迷う事はないだろう。
「それで? 会えたのか?」
「うん、小屋の中で待っているよ。君にも紹介するから、さぁ行こう」
◇◇
「ミラねぇ、戻ったよ」
俺は、ワタルの後ろについて小屋の中に入っていった。ワタルが目線の先には、赤いローブを着た女性が、テーブルにつきお茶を飲んでいた。年は……二十代にも見えるが、ワタルの話だと三十代前半らしい。
ミラ・マギウェル侯爵。 魔法王国である、ユーフェミア王国の魔を統べる『魔の将軍』。ワタルの話だと、魔法だけだとワタルはまだ彼女に勝てないという。
それにしても恐ろしく美人だな……。メガネが凄く似合う、知的美人。
ただ、性格はきつそうだ……。
「咲太、こっちに座りなよ」
「おう!」
俺が座ったことを確認したワタルは、「ミラねぇ、こっちは咲太。僕の友人であり、ライバルだよ」
「初めまして、服部咲太です」
「うむ、私はミラ・マギウェルだ。一応侯爵だとか、将軍だとか肩書きは色々あるが、そうだな……貴殿にはワタルの姉という立場でいいだろう」
「そんな、恐れ多い! 俺なんて、ただの平民みたいなものですよ?」
相手は、貴族の中でも頂点に君臨している貴族 of 貴族なのだ。
「咲太、いいんだよ。ミラねぇがそう言っているんだから」
ワタルはそう言うけど……気まずいものは気まずい。
「ワタル、ミラさんには俺の正体は?」
「一応この世界の人間ではない事は伝えた……けど、もしかして話すのかい?」
「お前の身内を騙したくないからな」
「だけど……」
「なんだ? 正体?」
さて、ワタルの死因は、俺達との戦闘。謂わば俺はワタルの仇みたいなもの、彼女はどういう反応をみせるのだろうか……。
「俺はこの世界の人間ではありません」
「それは、ワタルから聞いている」
「では、以前この世界に来たという事は?」
「うん? その話は聞いていないが?」
「まぁ、来たと言うよりは無理矢理連れて来られたんですけどね」
「まさか……」と呟き、ミラは鋭い視線をワタルに向ける。
賢い彼女であれば、既にある程度分かるだろう。ワタルも彼女の想像を肯定するかのように、無言で頷く。
「オルフェン王国第四部隊所属戦闘奴隷十一号、それが以前俺がこの世界にいた時に名乗っていた名前です」
ミラさんもある程度予想はしていただろうが、俺が自分のコードネームを口にしたとたんミラさんの魔力が膨れ上がり、まるで地震が起きたかのように辺りが震える。
「貴様がっ!」
「ミラねぇ、咲太が悪い訳じゃないから!」
ワタルが慌てて、ミラさんを止めようと身体を乗り出す。ワタルはこうなる事が分かっていたのだろう初動がかなり早かった。
「弁明はしません、ワタルがあの戦場で命を落とした大本は俺である事は間違いないですから」
「ちょっと、咲太それ以上煽らないでよ! ミラねぇは、泣き虫で弱虫だけど、凄く短気――いてっ!」
ワタルの頭にミラさんの拳骨が落ちる。
「誰が、泣き虫で弱虫で短気だっ!」
「そういう所だよ……、やめてよね文人の身体なんだからさ」
ワタルは頭を擦りながら唇を尖らせる。
「ふぅ、すまない。感情を抑え切れなかった」
ミラさんから先ほどの怒りオーラは消えている。
「いいえ、ワタルの実際の死因は俺にありますから。その怒りは当然です」
「いや、部下からの報告で聞いている。ワタルはお前との戦いを楽しんでいた。水を差したのは愚かなオルフェン王国の者で、そいつはお前に殴り殺されたとな。しかも、憎み合う者同士ならこうやって行動を共にはしないだろう」
「俺の事を許してくれるんですか?」
「許すも何も、私にそんな権利はないよ。私に言える事は、これからもワタルと仲良くしてくれという事だ」
俺はミラさんの言葉に力強く首を縦に振った。
その後少しの間、俺達は明日の作戦を話し合い森を後にした。




