永遠に枯れることのない想い①
タダでさえ下手くそなのに、最近上手く書けなくて更新が遅れました。
「おい――、ワタルっ!」
俺は珍しくボケーと物思いに更け、呼んでも返事のないワタルの身体を揺らす。こいつとの付き合いは長い方ではないが、こんなワタルを見るのは初めてた。
「あ、すまない……少し昔の事を思い出してしまってね」
昔の事、恐らく先ほどジルが話していた、領主の娘の事を思い出していたのだろう。
シエラ・アルパトス――。
彼女の元婚約者は話で聞く限り恐らく……いや、確実にワタルの事だろう。
「よかったら、後で話を聞かせてくれ」
今は話せる状況ではないと思った俺がそう言うと、ワタルは一瞬考え込んだ後に静かに頷いた。
「二人ともどうしたんですか?」
前方からジルの声が聞こえる、立ち止まっていたせいか彼らと結構な距離が開いていた。
「すまない、すぐ行くよ!」と俺とワタルは足早にジル達に追い付き、それからしばらく後ろを付いていく。
◇
ピタッとジル達の足が止まった先には趣がある黒塗りの建物が現れた。
木造校舎の様な横長な作りをしている建物は高さとしては三~四階程度だろう、丁度中心部分には両開きの入り口が設置してあり、入り口の真上には今にも天に向かって放たれようとしている弓矢のマークが浮き彫りになっていた。
「ここが、ハンター協会ルンベル支部です。さぁ、中に入りましょ!」
そう言ってカイテルがドアを開き、俺とワタルにどうぞと先に入るように促す。
俺達はその言葉にしたがって、カイテルとジルの前を通り過ぎるように建物内に足を踏み入れる。ダレンは先行していたため、俺達より先に着いている。
建物内には、結構な数のハンターと思わしき者達で溢れ返っている。
「賑わってるな」
「丁度この時間は、狩りや依頼から帰ってきたハンターが、各々戦利品を換金したり、依頼の報告をしたりする時間なので、一日の中で一番人の出入りが激しい時間帯なんです」
ジルの説明になるほどと頷き建物内を見渡してみる、横長な造りであるが中に入ってみると中々奥行きがあり、一階から二階にかけて吹き抜けになっているせいか、天井が高く感じられる。
フロアの左奥には三つのカウンターに列が出来ており、三人の女性が各々のカウンターで応対をしており、その後ろでは二人の若い男性がハンター達から渡された戦利品を、魔石、皮、牙や角などに忙しく仕分けしていた。
「お二人とも時間に余裕はありますか?」とカイテルがキョロキョロしている俺に近づいてくる。
「あぁ、今日はこの後宿をとって休むだけだし。なぁ? ワタル」
念のためにワタルにも聞いてみると、「そうだね」と返ってくる。
「今から並んでも時間が掛かりそうですし、人が捌けるまで上で一杯やりませんか?」
そう言って、カイテルは二階を指さす。
二階には仕事上がりに酒や食事を楽しめるように食堂が常備されているらしく、こっちに来てから何も口にしていない俺とワタルはカイテルの誘いに素直に乗ることにした。
階段を上り二階へ上がるといくつものテーブルが乱雑に並べられており、老舗のビアホールの様に、いくつものテーブルには仕事終わりの一杯を楽しむ者達でほぼ埋まっていた。
「カイテル、こっちだ!」とカイテルを呼ぶ声に反応すると、ダレンが大袈裟に手を振っている。
「ここは安くて味もいいんです。そのせいか直ぐに席が埋まるから先行していたダレンに席を取って貰っていたんですよ」
「用意がいいな、丁度腹が減ってたから助かるよ!」
俺がそう言うと、カイテルは少し照れ臭そうにしながら、「さぁ、行きましょう」とダレンの元へと移動する。
六人掛けのテーブルに腰を下ろした俺達に「ここのおすすめとか知らないと思うから勝手に頼んでおいたぞ」と言い放ちダレンはジョッキを傾ける。
「ここのお勧めは、鳥の丸焼きなんです。毎日食べても飽きない位美味しくて」
ジルは、そう言いながら隣の席を指さすと、こんがり焼けた七面鳥程の大きさの鳥がドーンと豪快に皿に載せられておりモクモクと湯気が立っていた。
辺りを見渡すとジルの話を裏付けるかの様に、殆どのテーブルに鳥の丸焼きが載っているのが目に入る。
「すげぇ、旨そうだな!」
皆の旨そうに鳥を頬張る姿と強化された俺の嗅覚に入り込むスパイスの匂いが、俺の空っぽの胃を刺激するのだ。
「はーい、エール四つに、ジルちゃんはいつもの蜂蜜酒ね! あと~」
鳥は焼き上がるまでに時間が掛かるらしく、その前にすぐに摘まめる様な冷菜と木製のジョッキに入っている酒が俺達の前に並べられた。
「何か好きか分からなかったから、俺と同じエールにしといたぜ? 酒も色々とあるから、後は自分で好きな物を選ぶといいさ」
そう言ってダレンはジョッキを眼前に掲げ、「ほら、リーダー、乾杯の音頭だ」と、カイテルに顎先を向ける。どうやら、このパーティーのリーダーはカイテルらしい。
カイテルは立ち上がり、ジョッキを掲げる。
「えーっと、命の恩人であるサクタさんに感謝を。お二人との出会いに感謝を。そして、一日の終わりに旨い酒と旨い飯を食えるという事に感謝を! かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
俺達は互いにジョッキを勢いよくぶつけ合う。
俺は早速ジョッキの中のエールをグビグビッと喉に流し込む。
日本で飲むビールに比べたら味は落ちるが、想像以上に旨くて、キンキンに冷えていて渇いていた俺の喉に確かな潤いを与えてくれる。
「クハ~旨いな!」と気づくと俺のジョッキは空になっていた。一気飲みは危険行為ではあるが、俺は鍛え方が違うから大丈夫だろう……たぶん。
「良い飲みっプリですね、おかわりは同じ物でいいですか?」
「凄く喉が渇いていてな、気付いたら飲み干してしまったよ。同じやつで頼む」
と俺はカイテルにおかわりをねだる。
それにしても……。
「何でこんなに冷えてるのか……って顔をしてるね?」横からワタルが丁度俺が疑問に思っていた事を代弁してくれた。
「あぁ、以前オルフェンで飲んだエールは温くて不味かったんだ……」
あの国にいた頃、戦が終ると俺達にも酒が振る舞われていて、その時に飲んだエールはこんなものじゃなかった……それは、俺達が奴隷と言う立場だからなのか?
「ふふふ、この国のエールはかの英雄カケル様によって改良されたのです。改良前は確かに温くて、今と比べれば味も雲泥の差と言われています。私達が飲める年になった頃には既にこの冷え冷えのエールに変わっていたので……以前のエールは飲んだ事がないんですけどね」
オルフェン王国は敵対国であったため、このエールに関する情報が行き渡ってなかったのでは? という意見だ。
ジルの言葉に相槌をうち、ワタルのじいさんは凄いなと素直に思いながらワタルを見ると、尊敬している祖父の事を言われてなのか、嬉しそうな顔をしながらジョッキを傾けていた。
「それにしても、見たところ俺達と年もそんなに変わらないのに、二人ともべらぼうに強いな」
まぁ、俺は大陸全土から恐れらていた『殺戮者』だし、ワタルはこの国の最年少宮廷魔導士師団長になった天才だからな……だが、それを言えるはずもなく、
「まぁ、普通よりちょっと腕が立つだけだよ」とダレンに返す。ワタルも「そうだね」と俺に合わせてくれるが、「おいおい、謙遜もそこまでいったら嫌味だぜ? 俺達もこう見えてこの街じゃそこそこ名の知れているルーキーなんだぜ? そんな俺達と比べてもお前達との力の差は歴然としてる」
なんでも、カイテルとダレンは、この街では最速でCランクハンターになった期待のホープらしい。
「ダレン、あんまり詮索するなよ。お二人が、何だろうが俺達の命の恩人には変わりないだろ? そんな恩人に失礼だぞ?」
「いや、でもよぉ…………「ダレン!」くっ、二人ともすまねぇ。ついつい悪い癖が出ちまった。気を悪くしたのなら謝る、許してくれっ」
カイテルの言葉で、ダレンは俺達に頭を下げて謝罪してきた。
いつもニコニコしていて、穏やかなカイテルだが、こういう締めるところは締めるところは流石リーダーだなと思う。
落ち着いていて周りも良く見えているし、礼儀も備わっている。ハンターのランキングはよく分からないが、最速でCランクというのは実力も備わっているのだろう。
「やめてくれ、そんな頭を下げてまで謝ってくれなくてもいいさ。俺達は気にしてないから。そんな事より、ほら、飲むぞ!」
と俺がジョッキをダレンに向けると、ダレンは「おう!」と俺のジョッキに自分のジョッキをぶつける。
それから、二杯ほどおかわりをしたところで、それはやってきた。
テーブルの1/4を占領するほどの大皿に乗った鳥の丸焼き。実際に目の当たりにすると、強化された嗅覚だけではなく、俺の視覚も刺激する。
今にもかぶりつきたい気持ちと身体を抑えていると、カイテルが立ち上がり、包丁大のナイフで鳥を取り分ける。
「折角なので、お二人には一番美味しいモモの部位を」と言い、俺とワタルに丸々と太った食べごたえのありそうな肉の塊を分けてくれた。
「お言葉に甘えて!」と手掴みで豪快に頬張る。
一瞬言葉を失った……何これ?? 旨すぎる! 皮はパリッと身はホロホロ。噛む度に溢れでる肉汁がスパイスと絡まって……だめだ、これ以上は言葉では語れないっ!
「旨いっ! 旨いよっ!」と俺がガツガツと肉を頬張っていると、「ちょっと、だらしないよ咲太!」と行儀良くナイフとフォークで肉を口に運んでいるワタルに咎められる。
「旨いんだからしょーがないじゃん!」
「はぁ、まったく……でも、確かにこれは美味しいね」
そんな俺達の様子を見て、カイテル達はしてやったりな顔をしながら声を上げて笑っていた。
◇◇
「そろそろカウンターが空いてきましたね」
大皿に載っていた鳥が消えた頃、ジルが一階を見渡しながら呟く。
「取り敢えず、魔石を換金しにいきましょう」
「そうだな、ついでに登録もしてしまおう」
「俺がついていきますので、ジルとダレンはゆっくりしていてくれ」
そう言って立ち上がったカイテルについて、俺達はカウンターのある一階へとに向かう。
一階に降り、カイテルが向かったカウンターには目がクリっとした短めの緑色の髪を持つ少女が立っていた。前髪を一つ束ねている幼げの残る可愛らしい少女だ。
「やぁ、ミア」
「お疲れ様っす、カイテルさん。換金っすか?」
「いや、こちらの二人の登録をお願いしたいんだ。サクタさん、ワタルさん、この子はミアと言いまして、俺達の専属パートナーです。専属パートナーと言うのは……」
ハンター協会には専属パートナー制度というものがあり、ある程度功績のあるメンバーには、専属の担当がついてハンターとしてのサポートをしてくれるらしい。
「そんなのがあるんだな」
「ミア、この二人との専属契約をお薦めするよ」
「えっ? これから登録するんすよね?」
「うん。ただ、この二人の実力は俺の見立てては軽くAランクはあるからね、君の夢であるマイホームの野望に近づけると思うよ?」
「まーたまた、流石にAランクは言い過ぎっすよー」
「ははは、お二人とも魔石をカウンターに載せて下さい」
俺達はカイテルに言われるがままに、カウンターにドンっと魔石がギッシリ詰まった布袋を載せる。
「な、な、なんすか! この量は! どれだけ溜め込んでるんすか! しかも、ほとんどCランク以上…げっ、Aランクまで……」
ワタルめ……Aランクまで狩ってたのか!
「信じられない事に二人はこれをたった数時間で集めたんだ。それに、俺達も絶対絶命な所をここにいるサクタさんに助けてもらったんだよ! 信じられるかい? デビルモンキーロードでさえ瞬殺だったんだよ! 年甲斐もなく、わくわくしてしまったよ!」
カイテルが鼻息を荒くして俺達の事をミアにアピールする。
「デビルモンキーロードを瞬殺って……ぜ、ぜひ、オラと専属契約を結んでくださいっす!」
ミアはカウンターに頭を擦り付けて懇願する。
俺は一度ワタルを見る、するとワタルは俺の言いたい事を察したのか「それでいいと思うよ」と笑みを浮かべて返してくれた。
「専属になる事は構わないんだけど、俺達は目的があって。だから、この街にそんなに長く滞在できないんだ。それでもいいなら、専属契約を結んでもいい」
「ずっとこの街にいないのは残念すけど問題なっす、もし、二人が他の街で活躍したとしても、オラの実績になるんす」
ハンター協会のシステムについては良く分からんが、良いと言うならいいだろう。
「じゃあ、お願いするよ」
「あざっす! では、こちらに記入をお願いするっす」
「ワタル、任せていいか? ほら、俺こっちの字書けないし」
「いいよ、僕が二人分書くとしよう」
そう言ってワタルは、ミアから手渡された二枚の用紙の必要項目にペンを走らせる。
「その間にオラは魔石の買取見積りを出すっす」
ミアは、袋から魔石を取り出してトレイに載せて仕分けを始めた。
「あれ? カイテルは換金しないのか?」
「俺達は明日にでもやります。そんなに急ぐ必要もないので」
カイテルと話し込んでいると、「書き終わったよ」と、ワタルが二枚の用紙をミアに渡す。
「ありがとうっす、もう少しで見積りが出るので少しだけ待ってほしいっす」
ミアは、目線をトレイに落としたまま答える。
それから、数分後……。
「終わったっす! 一日でこれだけの量はここに勤めて三年っすけど初めてっす」
「それで? いくらになるんだ?」
「Cランクの魔石百二十五個 Bランクの魔石十二個 Aランクの魔石二個で、金貨三十四枚と銀貨五枚っす
魔石の買取価格は以下の通りらしい。
Cランクの魔石1個 銀貨一枚
Bランクの魔石1個 金貨一枚
Aランクの魔石1個 金貨五枚
そして、銀貨十枚で金貨一枚になるらしい。
「結構いったな?」
「普通、Bランクでもなけりゃ、こんな量一日で集められないですよ?」
「本当っす! 気持ちとしてはお二人にはこの街にずっといてほしいっす!」
「ははは、ありがとう。それで、登録は終わった?」
「はいっす、ハンター証です。」
ミアは良く分からない素材で出来ているカードを俺達に手渡す。
「Cランクになるには試験が必要なので、お二人には試験が必要ないDランクとして初期登録させてもらうっす」
「いいの? 一番下の……Fランク? から始めなくて」
いきなり2ランクアップかよ。
「気持ちとしては、最低でもCランクにしたいのですか、オラにはDランクまでしか権限がないっす」
残念そうにミアは肩を落とす。
「まぁまぁ、俺達はそんなにランクに拘らないから」
「拘ってほしいっす! オラのマイホームのためにも!」
凄く欲に素直な子なんだな。まぁ、人間欲を見せてくれた方が信用出来るけどね。
「あはは、善処するよ」
登録後、俺達は二階に戻り飲み会を再開した。
仕事上がりのミアを混ぜて。
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