かつて友と呼んだ男(中)
この話で終わらせるつもりだったのですが、終わりませんでした;;
もう1話続きます。
「おはよう、ワタル君! シエラさん!」
「やぁ、カルロス。今日も元気そうで何よりだよ」
「……おはようございます」
ワタルがカルロスを助けた出したあの日から、三ヶ月の日々が過ぎた。
あの日以来、ワタルを筆頭にカルロスと二人で学園内で身分を振りかざす貴族達を是正してきた。
それによって王立フェリミオン内では、徐々に貴族とそれ以外の者達の間にあった壁が取り払われていった。
二人……いや、ワタルにベッタリなシエラを加えると三人で行動する内に、三人の間には確かな友情が育まれていった。
「君達に見せたいものがあるんだ」
そう言うとカルロスは、手に持っていた学園指定の革の鞄から布に包まれた杯の様な物を取り出す。
布を取り払うと、中からは予想通り杯が姿を現すがこれといって変わった所はないように見える。
「なんだい? 杯の様だけど」
「ふむ……」
「この杯に魔力を流すと――」と、カルロスが杯に魔力を流すと空っぽだった杯の底から紫色の液体が徐々に溢れてきて瞬く間に杯を満たした。
「ほら」とカルロスは、ワタル達に杯を手渡す。
ワタルは杯の中身を一瞥し、くんくんと中に入っている液体の匂いを嗅いだ後に、「へぇ~」と興味津々な表情をカルロスに向ける。
「中身はぶどう酒だね? しかも、なかなか上等な」
「ご名答! 父上が飲んでみてかなり旨いと言っていたよ。僕は飲ましてもらえなかったけどね」
シエラはワタルが手にしている杯に顔を近づけて、ワタルと同じように匂いを嗅ぐがワインのアルコール臭がキツかったらしく、「うっ……」と洩らし、すぐに鼻を逸らす。
「これは『遺物』かな?」
『遺物』とは、遺跡やダンジョンなどで稀に手に入る古代文明の産物であり、今ワタルが手にしている杯の様に不思議な効果を持つアイテムだ。過去には一振りで山を吹き飛ばした杖や、いくらでも物を入れられる所謂アイテムボックスの様な物もあったらしい。
ただ、効果が無限に続くわけではなく山を吹き飛ばした杖は、一振りした後粉々に砕けたと言う。
「そうなんだ! 僕の家が所有している山に遺跡が見つかって、そこから『遺物』が数多く見つかっているんだよ! これで我がマングース商会は、この国で名を轟かす大商会となるに違いないよ!」
鼻息を荒くしてカルロスは嬉しそうにワタル達に語る。
そんなカルロスの様子にシエラは引き気味で、ワタルの背中に隠れる。
そんな彼女を見てワタルは苦笑いをし、カルロスにそれとは違う笑みを向ける。
「良かったじゃないか、カルロス。マングース商会をこの国一番の商会にするという、君の夢がすぐそこまで来ているんだね」
「うん! このチャンスは必ず掴むよ!」
カルロスは力強く拳を握り締める。
「頑張ってくれたまえ、応援してるよ。シエラもね?」
ワタルの背中から、ひょいっと顔を出すシエラは「……うん」と短く返す。
「ありがとう! シエラさん! ぼ、僕頑張るから!」
「――!?」
カルロスの勢いに、シエラは堪らず再びワタルの背中に姿を隠す。
「あはは。そろそろ授業が始まる。話はまた後にしよう」
「そ、そうだね。ワタル君、シエラさんまた後で」
カルロスは、その場を後にするワタルとシエラの姿を目にしながら、ぐっと歯を食いしばった。
◇
カルロスが杯をワタル達に見せにきたあの日から一年が過ぎた。
マングース商会の遺跡からは、想像以上に多数の『遺物』が見つかり、商会は急成長を遂げた。
『遺物』欲しさに幾多の貴族達は、懇意にしていた商会からマングース商会に乗り換えるといった動きを見せた事で、マングース商会はユーヘミア王国で有数の大商会に成長したのだ。
「カルロス君! ぜひ、我がダンメル男爵家に遺物購入権を融通してくれ」
「ダンメル、抜け駆けするな! 我がコーネル男爵家が先だ!」
「いや、我が家――」
学園内でのカルロスの立ち位置も変わってきた。
カルロスはマングース商会の次期商会長、殆どの貴族の子弟は家からカルロスを取り込む様に指示されているため、各々がカルロスを口説き落とそうと必死になっていた。
その環境は、小心者で夢見がちだったカルロスを変えるには十分だったのだ。
「君達、しつこいよ? たかだか僻地の貧乏男爵家風情が僕に頼み事なんてさ?」
「貴様っ! 商人風情が!」
「そうだっ! 何様なんだ貴様は!」
「商人風情? ふ~ん、分かったよ。君達の家とは今後一切取引をしないように父上に言っておくよ」
貴族の子弟達は先程まで怒りで真っ赤になっていた顔が、一瞬の内に真っ青に変わっていく。
「いや、待ってくれ! これは、その、言葉のあやで!」
「待ってくれ! すまなかった!」
カルロスは必死になって縋り付く貴族の子弟達を無視し、踵を返す。
「ふん、くだらない奴らばかりだ。うん? あれは……」
自分の教室に向かおうとし際に、楽しいそうに会話をしているワタルとシエラが目に入る。なんとも絵になる美男美女のカップルに、カルロスは苦虫を噛み潰した様な表情をワタルに向ける。
「相も変わらず朝から仲がいいな二人とも」
カルロスの声に、ワタルがカルロスの方へと振り向くと同時に、シエラは、さっとワタルの背中に隠れる。
「やあ、カルロス。君も朝から人気者じゃないか」
「なんだ、見ていたのか。そうなんだ、あいつらしつこくて困ってんだよ」
「それなら、少し融通して上げればいいじゃないか? 『遺物』はまだ沢山あるんだろう?」
「ふん! あんな爵位の低い奴らには、我が商会の命運を左右する程の力がない。それよりお前の所はどうなんだ? 欲しいだろう?『遺物』。お前が頼むのであらば融通してやらんでもいいぞ、ワタル」
カルロスは歪んだ笑みをワタルに向ける。
「興味ないね。そんな、いつ効果が無くなるか分からない玩具。そんなものに頼っていたら人間駄目になってしまうからね」
「なっ!? それは、タマキ家の総意として受け取っていいんだなっ!?」
カルロスは、自分が求めていた答えが返ってこなかった事に激高する。
「もちろんさ、お爺様もお婆様も僕の両親も『遺物』なんて下らない玩具としか思っていないよ」
「くっ! そ、そうだ! シエラ、君の家はどうだ? 『遺物』欲しいだろ?」
今度は、ワタルの背中に隠れているシエラをターゲットに定める。
「………………」
だが、カルロスの問い掛けにシエラが答える事は無かった。
それよりも、カルロスが変わり始めた頃からシエラがカルロスに向けて言葉を発する事はなかった。
人見知りであるシエラだからこそ、人の変化に敏感なのだろう。
「まぁ、そういう訳さ。君もマングース商会を本当の意味で大商会にするなら……いや、止めておこう。今の君には何を言っても無駄そうだからね。さぁ、行こうかシエラ」
拳を握り締めてプルプルと震えている俯いているカルロスを放置し、ワタルとシエラはその場を離れる。
「覚えていろよワタルっ! 絶対に、絶対にお前をひれ伏させてやるっ! そしてシエラを……」
顔を上げたカルロスは、憎悪に満ちた形相で二人の背中を見つめた。
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