かつて友と呼んだ男(上)
もう1話書けたので投稿します。
王立フェリミオン学園
ここは、魔法大国ユーヘミア王国の管理の下、十二—十五歳で魔法に長けている少年少女が通う、唯一無二の魔法士育成学校である。
元々優秀な魔法士は、貴族の中でしか現れないと思われていたため、この学園で学べるのは貴族だけだったが、二十年程前に英雄カケル・タマキがその在り方に異を唱えた。
「優秀な魔法士は、別に貴族じゃなくても現れる! 彼らは自分達がどれ程の可能性秘めているか調べる術がないんだ! 俺は魔力調査を無償で実施する事をここに進言いたします! 貴族じゃないからって、金がないからって、みすみす優秀な人材を溝に捨てる様な行為はこの国の為にならないっ!」
魔力調査は、魔法士協会に多額な寄付金を払う事で行われる。
そして、学費も当然平民では手が出せないほど高額なのだ。
そんな高額な学費を準備できるのは、貴族くらいだったため、自ずと貴族専用の学園というのが現実だった。
英雄の言葉は、ユーヘミア王国全土に激震を走らせた。
今まで、農民の子は農民、職人の子は職人、商人の子は商人と、子が親の仕事を継ぐ事が当たり前だった民の人生……。
――親の仕事を継ぐ以外に他の道がある。
――魔法士は貴族しか成れない職業。
ユーヘミア王国の殆どの民は、英雄の進言が通る事を切実に祈った。
だが、ここで英雄の進言に反発する者達もいた。貴族や魔法士協会の面々だ。
貴族達は、万が一にも自分達以外の者達が学園に入ってきて、優秀な者が出てしまったら自分達のポストが減ると危惧し、貴族以外には絶対優秀な魔法士は現れないと言い張り反対し、そして、魔法士協会は今まで入ってきた多額の寄付金がなくなる事を恐れて断固反対をした。
だが、当時の王であるローランド王が、魔法士協会には今までと同等の寄付金を国が出すと言って黙らせ、貴族達は一度だけ調査をし、貴族達が言う様に優秀な者が現れなかったら、今まで通り貴族のみが学園に通える様にすると提案した。
魔法士協会は寄付金を貰えるならと首を縦に振り、貴族達は自らの口で優秀な者が絶対出ないと言った手前、王の提案を呑むしかなかった。
結果、貴族以外にも優秀な魔法士になれる才能を持った者達が多数現れたのだ。
以降、王立フェリミオン学園は、才能があれば身分に分け隔てなく通える事となり、農民でも平民でも優秀であれば魔法士として国に召し仕える様になった。
「卑しい商人の子がっ!」
「その汚い面を私達に見せるなといっただろう!」
人気のない校舎裏、蹲っている少年を五人の少年達が足蹴にしていた。
「うっ……うっ!」
蹲っている生徒の名前はカルロス・マングース。中規模商会の長男である。
丸々と太った身体は亀の様に丸くなっており、彼が纏っている制服は五人の少年達の足跡で汚されていた。
そんな中、二つの影が集団に近づく
。
「やぁ、楽しそうだね? 僕も混ぜてくれないか?」
その言葉に、カルロスを足蹴にしていた少年達は一瞬焦るが、混ぜて欲しいと言う言葉を聞いて醜い笑みをこぼす。
「も、もちろんだとも! 君なら大歓迎さ! 一緒にこの卑しい商人の子をいたぶろう!」
その言葉にカルロスは絶望する。
近づいてきた二人の内一人は、ワタル・タマキ。
英雄カケル・タマキの実の孫であり、魔法や剣術において百年に一人と言われる程の天才。
こ、殺される……とカルロスは思った。ワタルの次の言葉を聞くまでは――。
「そうだね、君達はひぃ、ふぅ、みぃ……五人で、彼は一人。僕は彼の方につくとするよ。そっちの方がフェアだとは思わないかい?」
「ワタル様、程々に……」
そして、ワタルの後ろに隠れて心配そうにしているのは、シエラ・アルパトス。アルパトス伯爵家の次女である。人見知りで小動物の様に大人しい彼女がワタルと一緒にいるのは、彼女がワタルの婚約者だからだろう。
「分かっているよ、シエラ。君は彼を治して上げてくれるかな?」
「……はい」
ワタルの言葉にシエラは、カルロスに近づき治癒魔法を唱える。
その様子にワタルは笑みを向ける。
「何を勝手にっ!?」
五人の少年の中でリーダー格である、ブロンクス子爵家嫡男のゼスト・ブロンクスが声を荒げる。
「ねぇ、ゼスト君。この学園での絶対的なルールはなんだっけ?」
ワタルは、笑顔を崩していないが、その言葉には明らかに怒気が含まれていた。
「くっ……が、学園に通う生徒の間に身分の差はない……」
ワタルは、パチパチパチと拍手をする。
「その通り! 分かってるじゃないか!」
「ど、どうも……」
「で? 君は何をしているんだい?」
ワタルの顔から笑みが消える。
「ひぃっ……」
「そのルールを決めたのは、王様って事は分かっているよね?」
「はい……」
「そう、分かっていたんだね。君は王様に背いた、謂わば反逆者だ!」
「そ、そんな! 違いますっ! そんな反逆者だなんて!」
五人の少年の顔は真っ青になり、泣き出す者までいた。
そんな彼らにワタルは溜息を漏らす。
「今回だけは見なかった事にしてあげる……もし、また、君達がこんなくだらない事を続けるなら……」
ワタルは、一瞬で剣を生成しゼストの首元にその鋭い刃を当てる!
「ひぃっ!」
「分かってるよね?」とニッコリ笑うワタルに、ゼストは、泣きながら股間を濡らしていた。
そんな彼の様子に興味が無くなったワタルは、シエラの治癒魔法ですっかり回復してこっちをボケーと見ている、カルロスの下へと近づいた。
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