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【本編完結済】帰ってきた元奴隷の男  作者: いろじすた
第6章 戻ってきた男 

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出会い

 ワタルとの勝負のため、森を抜けながら魔物を狩っていた俺は、同じ場所で狩りをするにはワタルの魔法による気配察知に遅れをとる事になるため獲物の大半をワタルに取られてしまっていたので、このままでは何もしない内に敗北が決まるため、俺はあえてワタルの進行方向から外れた。


 それからというものの、ワタルがそばいるわけではないので、一応順調に狩りができているのだが、恐らく現時点では俺が負けている可能性が高い。路銀稼ぎも兼ねた遊びではあるが、ヤツに負けるのは御免だ。


 そんな時だった。俺の耳に戦闘音の様なものが入ってきて、気になった俺は音のする方へ向かう。

 するとそこには無数の黒い猿共が三人の人間を囲んでいた。

 黒い猿共の額に黄、緑と様々な魔石が埋め込まれている事からして、この黒い猿共は動物ではなく魔物だと自然に理解すると同時に俺の口元が緩む。


「おっ? ラッキー! これは一気に数が稼げるぞ! 俺の勝ちだワタル!」

「ウッキキ―― (また獲物が現れたな! 運悪きモノよ! この俺と出会ってしまった事をあの世で後悔するがよい!)」


 猿の中でも一際大きい猿が木の枝に立っている俺に向かって吼えている。

 何を言っているのか全然分からんが……何かドヤ顔で見下されている様な感じがしてムカついてくる。


 だが、そいつの額の魔石の色は赤、Bランクの魔物だ。こんだけ魔物がいて、しかもBランクまでいるなんてラッキーすぎる!


 それにしても……と、俺は倒れこんでいる剣士と魔法士だろうか、そして彼らにポーションを飲ませているバンダナの男に目が行く。


「おーい! 大丈夫か? すぐにこいつらやっつけるから、待っていてくれ」


 俺がそう言い放つと、バンダナの男は「おい、あんた! 死にたくないならすぐに逃げるんだ! 見たところ俺達とあまり年も変わらないんだ! あんた一人じゃ無理だ!」と俺に逃げるよう促して来る。


 へぇ、自分達が絶体絶命な状況なのに、助けを求めるのではなく見ず知らずの俺を心配してくれるのか……いい奴だな!


「あんたいい人だなっ! これはますます見捨てる訳にはいかないな!」

「なっ、何を言ってるんだ! 冗談言ってる場合じゃないんだぞ! 死にてぇのか!」

「大丈夫だ! さっきも言ったがすぐに終わらせる」


 バンダナの男はそれでも俺に向かって何か叫んでいるが、俺はそれを無視して乗っていた木の枝から飛び降りる。

 そして、地面に足が着いた瞬間に一つに固まっている猿共に向かう。


 俺が瞬間移動でもしてきたと思っているだろう「キキッ!?」と目の前に現れた俺に猿共は驚きを隠せないといった様子だ。


「オルァ! ウオリャッ!」


 俺が横に剣を振ると、一度に四~五体の猿の身体が千切れる様に上下に分かれ、手を緩めず何度も攻撃を繰り返すと、猿共の数は目に見える程に減っていく。


「ギュギッ!」という耳障りな断末魔を残して息絶えていく猿共を見て、他の猿共は何が起きているのか分からない様子で固まっていた。ただ一体を除いて。


「ウホウホ――(この糞人間がっ! よくも俺の同胞を!)」


 Bランクの猿が俺の方に向かってくる。

 その表情は先ほどの余裕のある表情から鬼気迫るモノに変わっていた。


「ウキッ! (死ねっ!)」と猿が吼えながら俺に向けて長い腕を鞭の様に撓らせて攻撃してくる。


「あぶねぇ! そいつのソレは剣すら粉々に砕いてしまうんだ!」とバンダナの男が叫んでいるが、


「鞭みたいだな? だけど剣を持っている相手に腕を差し出すなんて……お前、アホだろ?」


 俺は、迫り来るBランクの猿の腕の肘辺りに向けて剣を振るうと、腕が胴体から離される。


「ギッ?…………グギェッ! (えっ?…………腕がッ!)」

「ありがとうな! お前の魔石は有意義に使わせてもらうぜッ」


 俺はそう言って、腕を失ってパニックになっている猿の首に横一線剣を振ると、赤い魔石が埋め込まれた猿の頭が、ドッと鈍い音を出して地面に転がる。


 折角のBランクの魔石なので、念のために先に取り出す事にした俺は、その場で屈んで猿の額に刃を突きつけ、てこの原理で魔石を取り出す。


 取り出した魔石を布袋に入れた俺が「よいっしょ」と立ち上がると、その場を支配していた沈黙が一気に打ち破られる。


「――ギギギギギーッ!」


 辺りの猿共の魔石の色から察すると、この赤い奴がこの群れのリーダーだったのだろう、自分達のリーダーが一瞬にしてやられた事に改めて気付いた猿共は、我先にその場から散り散りに逃げていく。


「あっ……魔石!」


 一瞬追いかけようと思ったが、倒れている二人の容態が心配なので俺は後ろ髪を引かれる思いで彼らに近づいた。


「大丈夫か?」

「あ、あんた何者だ? デビルモンキーを一瞬であんなに……しかも、ロードまで瞬殺かよ」 

「それなりに腕に覚えがあるんだ。そっちの二人は?」


 俺は、倒れている二人に視線を移す。息をしているのを見ると命に別状はないように見えるのだが……。


「あぁ、結構上位の治癒薬を飲ませたから大丈夫だ。骨折も元通りになっているしな」

「そうか、それは良かった。自己紹介がまだだったな。俺は、咲太だ」

「俺はシーフのダレン、こっちの剣士がカイテル、魔法士がジルだ。サクタ、本当に助かった。正直数年前に亡くなったばあちゃんに逢えると思っていたよ」

「あはは、それは感動の再会の邪魔をして悪かったな。」

「ははは、今ばあちゃんと再会したら怒られちまう。ばあちゃんはこえーんだ。だから、本当にありがとう! このお礼は必ず!」

「別にお礼なんていらないよ。魔石が必要な時にたまたまこの場所に居合わせただけだからな」

「おいおい、それはねーぜ? たまたまだろうが何だろうが、俺達は命を救ってもらったんだ! 命の恩人には変わらない!」


 ダレンは凄く義理堅い男なのかも知れない。

 人間謙遜する事は悪い事ではないが、し過ぎたら逆に嫌味になってしまうからね。


「分かった。じゃあその命の恩人の頼みを二つほど聞いてくれ」

「あぁ! 何でも言ってくれ!」

「あの猿共の魔石を取り出すのを手伝ってほしい。それと森の入り口まで案内してもらえるか? ムンベルに行く予定だったんだけど一緒にいたツレと逸れてしまった」


 早くワタルと合流しないとな。


「おいおい、そんな事でいいのか? 人間三人の命を救った恩にしては簡単すぎるような……」

「まぁそう言うなって、今の俺に必要な事なんだ! どうだ? 手伝ってくれるか?」


 ダレンは、はぁ~と溜息を吐き「もちろんだ」と言って、デビルモンキーに近づいて行き手馴れた手付きで額から魔石を抜き取っていた。


「早いな?」


 俺はダレンにそう言いながら同じく魔石を抜き取るが、ダレンは俺の倍の早さで魔石を抜き取っている。


「こう言うのは、シーフの俺の仕事だからな。魔石以外はどうするんだ? デビルモンキーだったら角と牙と皮がまぁまぁいい値段で売れるぞ? 特にあんたが倒したロードの皮は綺麗に残っているからな、中々いい値段になると思うんだが」


 ダレンはそう言って、首のないロードの身体を指さす。


「荷物になるから、魔石以外は必要ないかな……見たところあんたらの装備、ボロボロだな? 良かったら、魔石以外は装備を新調するための足しにしてくれ」


 俺の提案にダレンは信じられないものを見る様な顔になる。


「いいのか? 俺達としてはすげぇ助かるけど……命を救ってもらってもお釣りが出るのに、素材まで……」


 そして、その顔は徐々に申し訳なさそうな表情に変わる。

 もう、埒が明かないな……そうだ、こういう時は、定番のあれだッ。


「分かった! じゃぁ、貸しにしてくれ」

「貸し?」

「あぁ、俺が何か困った事ができたら助けてくれ」

「あんた程の男が困る事なんて俺達に何か出来るかわからないが……分かった、命を掛けて助ける事にするぜ!」

「おう!」


 俺達が、会話を交えながら魔石を抜き取っている間に、剣士のカイテル、魔法士のジルが目を覚ました。死んであの世にいると思っている二人にダレンが状況を説明すると、二人はダレンと同じ様に俺に感謝を述べたのち、黙々とデビルモンキーから魔石や素材を剥ぎ取っていた。


 先ほどまで気絶していた二人の体調を心配したのだが、治癒薬のお陰でスッカリ体調は万全らしく、心配ないと言われたので、それ以上何も言わず任せる事にした。


「素材も一通り採れたし、そろそろ出発しよう」


 魔石でパンパンになった布袋を擦りながらホクホク顔になっている俺に、ダレンが話しかけてくる。


「おう! これ位あれば十分だろう。森の入り口まで頼む」

「本当にいいんですか? この素材を私達の物にして……」

「そうですよ、俺達はありがたいですが……」


 魔法士のジルと剣士のカイテルが申し訳なさそうな顔をしている。


「問題ないよ、どうせ魔石以外は捨てるつもりだったからな。気にしないで貰ってくれ」

「「ありがとうございます!」」


 ジルとカイテルは地面に顔が着くんじゃないかと言わんばかりに頭を下げる。


「そういうのはもうやめて! ほら、出発しよう! ダレン、もうあんな所まで!」


 ダレンは、俺達をおいてさっさと出発していた。斥候の役割をしているから、メンバーの誰よりも先に進むのが普通らしい。


 会話を交えながらしばらく歩くと、森の入り口に辿りついた。


 入り口の方では、ワタルが木に寄り掛かって読書をしていた。

 そんなワタルが俺に気付き、読んでいた本に栞を挟んだ後、俺に向けて笑顔で手を振ってくる。

 

 俺もそれに応えようとして手を上げるが、ワタルの足元においてあるパンパンに膨らんだ二つの布袋を見て上げた手を下ろした。

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【余命幾ばくかの最強傭兵が送る平凡な生活は決して平凡ではない】 https://book1.adouzi.eu.org/n8675hq 新作です! よろしくお願いします!
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