休日(下)
新年明けましておめでとうございます!
今年も何卒よろしくお願いいたします!
更新遅くなってすみません!
「さて、次は……恐怖エリアなんてどうだ?」
「いいですね!」
「賛成!」
「…………」
三時のオヤツを食べ終わった俺は、園内マップを眺めながら次の行き場所に恐怖エリアを提案してみる。すると、田宮と亜希子ちゃんはノリノリだったが、紗奈は沈黙を貫いていた。
「紗奈?」
「はひっ!」
俺の呼びかけに明らかに動揺している紗奈。さては……。
「もしかして、怖いのか?」
「そ、そんな事ないです! 殺戮者と呼ばれ恐れられたアタシが、作り物のお、お化けなんかを怖がる訳ないじゃないですか!」
「い、いやそんなにムキにならなくても……大丈夫ならいいけどさ」
「本当に大丈夫? 無理だったら癒しエリアにでも行く?」
「ご心配なく! ほら行きますよ、恐怖エリアに!」
心配する亜希子ちゃんをよそに紗奈は俺の手を引っ張り恐怖エリアへと足を進めた。
恐怖エリアは、エリア全体が鬱蒼とした薄暗い森の様な作りになっており、絶えず聞こえる人々の悲鳴が、その不気味さをより一層際立たせていた。
「うっ……」
恐怖エリアに一歩足を踏み入れた紗奈は次の一歩が踏み出せずにいた。
「さ、紗奈?」
「いきますっ!」
俺を引っ張る紗奈の力が更に強くなり更に奥に進むと、俺達の目の前にはいかにもって感じの廃病院が現れたら。
「これは……なかなか」
「このエリアで一番恐くて人気の高い『呪いの廃病院』ですね」
田宮がマップを見ながらそう呟く。って、名前もっとひねろよ……。
紗奈は「一番恐い……一番恐い……」と放心状態でブツブツ呟いている。
「紗奈、他の所にしようか? 流石にハードル高いよな?」
「そ、そうだよ紗奈。結構沢山並んでるし、他にも色々あるよ?」
俺と亜希子ちゃんは、明らかに怯えている紗奈にそう提案するが、「大丈夫ですっ! アタシは敵に背を向けたりしません!」とよっぽど混乱しているのか、訳の分からない事を口走っていた。
てか、敵って……。
「じゃあ、並ぶぞ?」と俺達は最後尾に向かった。待ち時間の看板を見ると九十分と表示されていた。今日は休日に比べて混んでいないとはいえ一時間を越える待ち時間、さすがここ一帯で一番人気のあるアトラクションと言えるだろう。
俺の手を握っている紗奈の手が汗ばんでくる。
それに気づいたのか、紗奈はハッとした表情で繋いだ手を放し「すみません、手に汗が……」と呟き、バッグからハンカチを取り出して入念に手を拭いていた。俺は「気にしないのに」と言ったが、「そんな訳にはいきません」とその後は手を繋ごうとはしなかった。
以前、俺の手が汗だくになっても放してくれなかったのに……と紗奈と再会した時の事を思い出すが、それを口にする事はしなかった。
俺達は暇潰しのため、そして紗奈の緊張をほぐすため雑談を交えながら進んでいった。当初九十分の待ち時間とされていたが、そこまで時間を要する事なく俺達の出番になった。
俺達四人は待合室の様な所に案内されると、そこには薄汚れた看護師の格好をした顔色の悪い女性が現れた。
「ようこそ、首吊り病院へ……」
「首吊り……って」
「はい、この病院は……」
女性の話では、この廃病院に所属していた医療関係者、そして入院した患者達が次々と首を吊って命を落としていった呪われた病院らしい。
「さぁ、こちらからお入りください四名様ご一緒でよろしいでしょうか?」
「別々でもいけるんですか?」
「はい」
ふむ。今日は紗奈と約束もあるけど、田宮と亜希子ちゃんの仲を近づけるという目的もある……。
「なぁ、二人とも。悪いんだけど、先に行ってもらっていいか? 紗奈が落ち着いたらすぐに追いかけるからさ」
「サク、アタシは大丈夫です!」
「いいから、いいから」
俺が田宮にアイコンタクトを送ると、田宮は俺の意図に察したようで「わ、分かりました! さぁ、中野さんいきましょ!」と言って亜希子ちゃんの腕を引っ張って中に入っていった。
「サク……」
「違う違う、ほら、今日はあの二人の仲を近づけるって言ってただろう? それなら、この場所なんて打ってつけだと思ったんだよ」
「そうですか、それならいいです」
「お客様そろそろ出発をお願いします」
「はい、行こうか? 紗奈」
「はい……」
ドアを開けた先には、いかにも病院らしい薄暗い廊下が現れた。一定の間隔で設置されている緑色の非常口の標識が不気味さを際立たせていた。
ごくっと喉を鳴らす紗奈は、手を繋ぐと汗でびっしょりになるのが嫌なのか俺の右腕に絡みついてきた。
紗奈の女性らしい膨らみが腕に当たりドキドキが止まらない! 俺も男だ、この感触を楽しむ事にしよう!
「ひぃっ!」「うおっ!」
そんな事を考えると、目の前に首をつった看護師の人形が落ちてきた。
「あはは、最初から飛ばしてくるな」
「わ、笑い事ではありません!」
紗奈は少々涙目になりながら訴えてくる。
「ごめん、ごめん。先に進もうか」
「もぅっ」
そこからが大変だった。
後から聞いたがここの幽霊役のスタッフさん達は役者の卵らしく、その演技力は抜群だった。
そのせいで俺達の前や背後等に現れるスタッフさん達の迫真の演技に、彼らが迫り来る度に紗奈の人間離れしたスピードの拳やキックがスタッフさん達に向かって飛んでいくのだから……俺は、四苦八苦しながら紗奈を犯罪者にしないよう頑張って防ぐ事に俺が持つ全集中力を注いだ。
そしてゴール……。
先にゴールしていた田宮達が俺達に気付いて近づいてくる。
「あ、紗奈~! 大丈夫だった?」
「お、思ったより恐くなかったです」
「大丈夫ですか? 凄く疲弊しているようですが……」
「こっちの世界に戻ってきて一番しんどかったよ……ははは」
「幽霊であろうとなんだろうと、この拳でぶっ飛ばせばいいんですっ!」
紗奈はそう言って天に向けて拳を突き上げる。
「ダメだからねっ!」
俺は、突っ込まずにはいられなかった。
一番恐いと言われた『呪いの廃病院』をクリアしたからなのか、他のアトラクションでは紗奈は何一つ恐がる事もなく、スタッフさんに向けて拳を飛ばす事もなかった。
「少し進展はあったのか?」
「えっ? あ、はい。少し……」
俺と田宮は、二人でベンチに座っていた。女性陣はお花を摘みに行っている。
テレながら俺の問いに答える田宮を見ているとなぜかこっちが恥ずかしくなる。
「あ、そうだ。田宮、すまないが少しワタルと話をさせてもらえないか?」
「え? ワタルとですか? 聞いてみます」
田宮は目を瞑り、そして再び開く。
「やぁ、咲太。デートは楽しんでいるかい?」
「まぁな、久しぶりだな」
姿形、声は変わってないのに、彼は間違いなくワタルだ。
「ふふふ。久しぶり。さぁ、どうしたんだい? 僕は君達のデートを邪魔したくはないから、女性陣が戻ってくる前に手短に頼むよ」
「アーノルド・ルートリンゲン」
俺の言葉にワタルは「へぇ」と関心した声をあげる。
「彼に辿り着いたんだね? 流石だよ咲太」
「お前は『憑依者』がらみの黒幕が魔王だと知っていたのか? 何で教えてくれなかったんだ?」
「僕も彼らと同じ様に制約をかけられているのさ、実は僕もあっちに居た頃に偶然魔王と遭遇してね、誘われたのさこの世界に転移してみないかってね。彼の目的は趣味に合わなくて断ったけどね」
制約と言うのは、あの渦から現れた巨大な剣の事だろう。
「そうだったのか……」
「咲太、君はどうしたいんだい?」
「止めたい! これ以上やつらにこの世界を荒らされたくない!」
「君ならそう言うと思ったよ。あ、彼女達が帰ってきたね。この続きは、帰ったら電話でする事にしよう」
「分かった。また、後で」
ワタルは笑顔で頷きながらその意識を田宮に戻した。
◇◇
「あぁ~楽しかったです!」
「俺も楽しかった! また行こうな?」
「はいっ! 次は二人っきりで行きましょう」
俺達は遊園地を堪能して後、それぞれ家路についた。
少し歩きたいと言う紗奈のリクエストに応えて、今日待ち合わせしていた駅より一つ隣の駅に向けて俺達は歩いていた。
「あの二人進展あったのかなぁ」
「なかったら怒ります! 折角お膳立てしたのですから」
「あはは、そうだな。そういえば、もう少しで夏休みだよな?」
「はい、来週からです」
「そっか、いいなぁ学生は」
もう学生ではない俺にとって長期休みなんて、仕事をやめてニートになるしかないからな。
「毎日、サクと一緒にいたいです」
「毎日いるとあきるぞ? たまに会えるからいいんだよ」
「そんな事ないです。結婚したら毎日一緒です」
「まぁ、それはそうだけど……」
「ふふふ。まぁ、いいとしましょう。あ、駅に着いちゃいました」
ここからは、俺と紗奈は反対方向だ。
「そうだな、あっと言う間だな」
「サクもそう感じてくれた様で嬉しいです」
◇◇◇
家についた俺は、風呂に入った後、母ちゃんと夕食をとり自分の部屋に戻った。明美さんはまだ仕事から戻ってきてない。
ベッドに腰を掛け、スマホを手にする。ワタルに電話をするのだ。
田宮の番号を探して、電話をかける。ぷるるる~と数回なった後、「やぁ、咲太」と声がする
。
「よっ! ワタル。既に変わっていたんだな」
「文人は色々と疲れていたらしく、風呂も入らず寝てしまったよ。だから、代わりに僕が風呂に入っているところさ」
「すげぇ、便利だなお前ら」
「ふふふ。まぁ二十四時間動けるのはいい事だよね。それで、さっきの続きって事でいいかな?」
「あぁ、お前の知恵を借りたい。どうすれば魔王を止められる?」
俺の質問に一拍おいて、ワタルは答える。
「直接会いに行って説得する?」
次から新章突入です!




