休日(上)
今日から更新再開します。
また、よろしくお願いします。
三上との戦いから数日が過ぎた。
あの日、重傷を負った桂木達は一命を取り留めたが、ケガの影響とあの日の出来事がトラウマとなり、今後の現場復帰は困難とのこと。
今回の件で責任を感じた御堂筋課長は、退職願いを出そうとしたのだが、美也子さんの必死の説得により思いとどまったらしい。
あの日以降、『憑依者』関連の事件などはなく、慌ただしかったのが嘘の様に静かな日々を送っていた。
だからなのか、最近は色々と考える時間が出来た。
正直、紗奈との再会で、元仲間達がこの世界に戻ってきていると考えて無かった訳ではなかった。ただ、俺や紗奈以外の元仲間達が悪事に手を染める事については考えていなかった。楽観視しすぎたのだろう……人は力を持ったら変わってしまうのだろうか……。
元仲間達の中では、あの殺伐とした環境で変わってしまった者がいたかもしれないし、召喚される前から悪事に手を染めていた者がいたのかもしれない。
紗奈が掛けてくれた言葉で幾分か気は軽くなったのだが、他のメンバーと三上の時の様に戦う事になったらと思うと……いや、今は考えないようにしよう。
そんな事を考えていると、「な~にをそんなに難しい顔をしているのですか?」と紗奈が俺の顔を覗き込んできた。
「おはよう、紗奈」
「おはようございます! ふふふ。時間前に来て待ってるなんて、サクは中々紳士ですね」
「たまたま、早くついただけだよ」
「ふふふ、そういう事にしておきます」
「田宮達は?」
「ゲート前で待ち合わせしています、行きましょう!」
俺はいつぞやと同じ様に紗奈に手を引かれて、遊園地のゲートへと向かった。
今日は、紗奈達の学校が創立記念日で休みだったため、俺も休みを取ってかねてから約束していた遊園地へと来る事にしたのだ。
いつの間にか田宮達と一緒に行く事になったのだが、まぁ、二人とも良い子達だし、何よりも紗奈が言い出した事だから何も問題はないだろう。
紗奈と待ち合わせをした駅から紗奈に手を引かれる事数分で俺達は、待ち合わせをしている遊園地のゲートに辿りついた。
「あ、いました。亜希子さーん!」
田宮達を見つけた紗奈は、大きく手を振りながら亜希子ちゃんの名を呼ぶと、亜希子ちゃんも俺達に気付き、元気良く手を振り返してきた。そして、彼女の隣に立っている田宮は照れくさそうにぺこっと頭を下げていた。
「よっ! 二人とも、元気してたか?」
もう顔見知りの二人に軽く挨拶の言葉をかける。
「はいっ! お久しぶりです、服部さん」
「こ無沙汰しています」
俺の挨拶に二人は笑顔で返してくれた。
「今日はせっかくだし、楽しもう!」
「「はいっ!」」
「ワタルも元気してるのか?」
俺は田宮の中にいるライバルについて聞いてみた。
「はい、元気しています。ただ、最近やる事があるからって忙しそうにしています。今日も呼んでもなかなか返事をしてくれなくて……」
「今日は亜希子ちゃんと一緒だからアイツなりに気をつかってるんだろ」
俺がそう言うと田宮は顔を真っ赤にして俯いた。
「二人とも挨拶はそこら辺にして、中に入りましょ! 時間は有限なのですよ!」
と紗奈が俺を引っ張りスタッフさんにパスを見せながらゲートをくぐると、田宮と亜希子ちゃんも俺達に続いた。
この遊園地は主に四つのエリアに分かれている。
多種多様な絶叫マシーンが並ぶ絶叫エリア、最先端技術を惜しみ無く費やしているVRエリア、ほのぼのとした癒しエリア、そして、常に入園者の悲鳴が響き渡っている恐怖エリアだ。
「さて、どこから行く?」
「アタシは、絶叫エリアから行きたいです。今日は絶叫マシン系を全部制覇するのですっ!」
「私も!」
女性陣はノリノリだ。まぁ、絶叫マシーンそんなに得意ではないが……今の俺ならジェットコースターから落ちても無事だろうと思うと気が楽になる。
「俺も大丈夫だぞ。うん?」
返事のない田宮を見ると、真っ青な顔をしている。
「大丈夫か? もしかして絶叫系だめなのか?」
「田宮君、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「い、いえ……少し苦手……いや、大丈夫です!」
苦手と言いかけてていたが、亜希子ちゃんの顔をチラッと見た後、何かを覚悟した表情でそう答えた。
「無理だったらちゃんと言えよな?」
「はい! すみません気を使わせてしまって」
「あはは、じゃあ、行こうか?」
俺達は定番のジェットコースターをはじめ、フリーフォールやバイキングなどの乗り物に乗った。時間が経つにつれて段々と悪くなっていく田宮の顔色に心を痛めつつ、楽しいひと時を過ごしていた。
「平日だからか、そこまで並ばずに乗り物に乗れていいですね」
そういう亜希子ちゃんは、ハンバーガーをひと齧りする。
ひと通りの絶叫マシーンを満喫した俺達は、フードコートで昼食をとっていた。
「人がゴミゴミしてなくていいです」
「俺もあんまり好きじゃないな、ゴミゴミした所って。戦場を思い出すよ」
「確かに……あの人口密度は二度と味わいたくないです」
見渡す限りぎゅうぎゅうと何千何万の人や死体で密集していたあの殺伐と場所はもうごめんだ。
「話には聞いていたけど、本当に二人とも異世界にいたんですよね」
「そうだよ、あんな体験も二度とごめんだけどね」
「同感です」
「あわわわわ、そ、そうだ! 次はどこにいきましょうか? VRエリアなんてどうですか?」
あの日々を思い出して暗い表情の俺達を見て亜希子ちゃんは慌てて次の行き先を提案してくる。
「そうだな、田宮も限界みたいだし……」
三人の視線が、田宮に集まる。
「す、すみません……そうしていただけると助かります……うぷっ」
「あはは……決定だな」
「じゃあ、早く食べていきましょう!」
紗奈は、早く次に行きたいのか急いでハンバーガーを口につめる。
俺達の休日はまだまだ続く。




